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試乗・解説

「ブーム」を超えた「定着」へ アドベンチャーの新しい波は ダウンサイジング、ミドルアドベン! SUZUKI V-STROM650XT ABS
一時期よりも少し落ち着いたとはいえ、出掛けるたびによく見かけるアドベンチャー系。
ブームというより定着。
ひとカテゴリーが落ち着いてくるとそこから新しい発見があるわけで。
いま、ミドルクラスアドベンチャーがキテる!
■試乗・文:中村浩史 ■撮影:依田 麗 ■協力:SUZUKIhttps://www1.suzuki.co.jp/motor/ ■ウエア協力:アライヘルメットhttps://www.arai.co.jp/jpn/top.html、クシタニhttps://www.kushitani.co.jp/




アフリカツインが火をつけた

 2016年のホンダ・アフリカツイン発売以来、BMWのR1250GSは人気が加速し、ヤマハ・テネレ700が新登場、そしてスズキVストロームは新装なっての1050登場と、アドベンチャーカテゴリーもひとまわり。もちろん、正式にはアフリカツインが国産モデルのアドベンチャー1号機ではないんだけれど、アフリカツインがこのカテゴリーに改めて火をつけたのは事実。数あるバイクのカテゴリーの中で、この数年いちばん元気なカテゴリーだ。
 その中で、テネレはアドベンチャーカテゴリーとはいえ、MT-07をベースとしたほぼオフロードバイクなため、独自のファン層を集め始めている感じ。だから、いまの日本アドベンチャーの核になっているモデルといえば、GSにアフリカツイン、そしてVストローム1050。

 
 アドベンチャーって、意味通りの「冒険」なんて大げさなものじゃなくても、どこまでも走って行きたくなるような、雨でも雪でも降りたくなくなるような、そんなカテゴリー。アドベンチャー買って、改めて週末の度に出かけまくるようになった人、日本中にたくさんいるでしょうね。
 僕も、いま「北海道まで自走で行く」となったら、断然アドベンチャーじゃなきゃヤです。GS、アフリカ、Vストなら何でもいいや。ルートとか、なるべく早く到着するのか、休み休み行っていいのかって条件で、選ぶバイクは変わるだろうなぁと思う。
 けれど、いま「じゃあどれか1台買って」ってなると、どれもヤだ(笑)。ほとんど街乗り、往復200~300kmくらいのショートランに月イチ、行くとしたら年に一度の長距離ツーリングって僕の用途には、アドベンチャーはtoo muchなの。アドベンチャー欲しいけどなぁ、普段はそうそう乗らないし、マンションの駐輪場に入らないし──って人、多いと思う。
 

 
 Vストローム650 / 650XT ABSは、そんな意味でこの先もっともっと注目されていいモデルだ。テネレ700も同じく、VFR800XやNC750X、BMWのF800GSなんかもそんな範囲に入るのかも。GS、アフリカ、Vストの御三家をビッグアドベンとすると、テネレ、NC、F800やVスト650はミドルアドベン。このミドルアドベンが、次のアドベンチャーブームをけん引すると思うのだ。

 例えば、みんな気にするボディサイズ。GSは車両重量256kg/シート高850mm、アフリカツインは226kg/810mm、そしてVスト1050は236kg/855mm。身長180cm/80kgくらい体格があるライダーならば「おっとっと、デカいねぇ」なんて余裕はあるだろうけれど、それくらいの体格がないと持て余す、押し引きでふらつく、ふとしたきっかけでごろん、と倒しちゃうこともある。
 それがミドルアドベンならば、Vストローム650 ABSは車両重量212kg/シート高835mm(650XT ABSは車両重量215kg/シート高835mm)、NC750Xだと214kg/800mm、Tenere700は205kg/875mm。F800は236kg/815mm、テネレの軽量スリムさが抜きんでているけれど、やはりミドルアドベンはひと回り、ふた回り小さく、軽い印象。
 

 
 あ、やっぱりビッグアドベンって大きいんだな、ミドルアドベンのサイズいいなぁ、って実感したのがVストローム650 ABSだ。
 実はVストローム650 ABSは、2002年に初代Vストローム1000(=当時はDL1000って名前だった)が発売された翌年、2003年デビューだから、もう18年も継続発売されているロングセラーだ。650の国内発売は2013年と、2014年国内デビューの1000よりも1年早い。それだけ「1000ccよりも日本向け」と判断されたんだろうと思う。
 

 

派手じゃない地味じゃない、大きすぎない小さくない

 エンジンは、スズキミドルクラスの名機Vツインで、99年にヨーロッパデビューを果たしたSV650系の水冷Vツインをルーツとする。それをアルミフレーム&アルミスイングアームに搭載したスポーツツーリングモデルで、現行モデルではキャストホイールの650と、今回乗ったワイヤースポークホイールの650XTとの2本立て。直近のマイナーチェンジでは横デュアルヘッドライトが、旧Vスト1000に似たの縦デュアルに改められた。兄弟モデルのイメージを強調するなら、いま人気の現行Vスト1000的な角目ヘッドライトに統一してもいいね。

 このVスト650、ひとことで言えば本当に万能ランナー。大きすぎないボディで街乗りもこなすし、ショートツーリング、ロングツーリングへの適正も高い!
 例えばクルマでいえば、軽自動車は小回りが効いて燃費がよくて、でも長距離を走るとなると大排気量車の方がラク。半面その大排気量はボディも大きくて持て余しちゃうし燃費も良くない、ちょっとした近場のお出かけにはクルマ出すのもおっくう、なんてことがある。
 

 
 Vスト650は、その両面を備えている感じなのだ。70psもある650ccといえば立派なビッグバイクだけれど、持て余さない、使いやすい、経済性も高い──すごくイマ風!
 スタートは、ワンプッシュセルスターター。ちょんとセルボタンを押せば、エンジンがかかるまでセルが回り続けるこの機構は、インジェクションでもともと始動性のいい現代のエンジンには要らないよなぁ、と思うけれど、使い始めるとヤミツキ! 試乗後にワンプッシュスターターがついていないバイクに乗ると、エンジンかかんないのにボタンから指を離してセルが回らなくなって「あ、そっか。Vストじゃないんだ」って気づくことになる。こうやって人間って堕落していくのかな(笑)。

 発進時にもVストにちょっと甘えちゃうことになる。アイドリングからクラッチレバーを握ってそろそろそろそろ、ってクラッチミートすると、自動でアイドリングが持ち上げられて、エンストの機会を少なくしてくれるローrpmアシスト機構が装着されているのだ。
 もともと極低回転のトルクもあるエンジンだから、毎クラッチミートで助けられるわけではないんだけれど、渋滞している時にギアをローに入れっぱなしでクラッチワークしたり、Uターンでエンジン回転数が落ち込むときにも発動してくれて、オッいま回転あがったな、なんて転ばぬ先の杖になってくれる。クラッチミートが上手くいかないビッグバイクビギナーなんかにはありがたい機構だろう。
 

 
 走り出すと、エンジンの滑らかな回転を味わうことになる。4気筒よりどの回転域でも力がダイレクトで、並列2気筒よりもドコドコいってるVツイン。トルクがどん、とブ厚いってタイプじゃないけれど、低回転でもちゃんと粘る。回転の吹け上がりとトルクのねばりを両立したエンジンの基本設定が、この名機Vツインがずっと生き残っている理由だろう。

 ちょっと意地悪して高いギア、低い回転で街を流してみても、6速2000rpmでうるうるうるうる……って息つき起こし寸前。うん、よく粘る。
 ただし、6速ミッションのギア比のうち、5~6速がオーバードライブ設定になっていて、6速の極低速回転はちょっと苦しい。5速2000rpmで40~50km/hですーっと、音もなく流すような走りが楽しい。この芸当ができるエンジンって、結構まれなのだ。
 そこからスロットルを開けていくと、このVスト650のキャラクターがよくわかる。バララララララ~ッと力感を味わいながら加速していく中、6000rpmくらいから力強さは増すんだけれど、グンと力強くなりすぎずに、フラットトルク。そのままの勢いで10000rpmまで軽々と回ろうとする、本当にどの回転域にも「穴」のないエンジンキャラクター。これがVストロームが初代からずっと受け継いできてるコンセプトなのだ。
 

 
 ハンドリングは前19/後17インチのホイールサイズ(1100カタナと同じだ!笑)がよくわかる、落ち着きと軽快さを両立させたキャラクター。軽快なハンドリングというより直進性が強く、もちろんタチが強すぎることもない。
 ワインディングを結構なペースで走るのだって可能だけれど、例えば寝かし込みに少し手応えがあったり、S字の切り返しで重量感があったり、ってことだ。もちろん、この手応えや重量感は、安定性や接地感ってこと。安心できるハンドリングだし、それが街中の交差点や曲がり角でネガに働くこともない。
 

 

飽きずに、ずっと乗れるロングライフアドベンチャー

 ビッグアドベンには劣ると思われがちなクルージングだって、まったく問題なし。トップギア6速で80km/hは3700rpm、100km/hで4600rpm、120km/hは5500rpmくらい。旧モデルをテストコースで乗る機会があったけれど、その時は150km/h巡航だってまるで平気だった。
 もちろん、東京から九州まで走っていくような超ロングランだと、Vスト1000やアフリカ、GSの方が体の疲労が少ないかもしれないけれど、軽量コンパクトで誰にでも乗りこなしのハードルが低いメリットを考えればおつりがくるくらい。ビッグアドベンは1日1000km走って初めてその良さがわかる、って感じかな。

 今回の試乗で800kmほど走り回って思うのは、やっぱりミドルアドベンはこれからクルな、ってこと。これはNC750XやF800GSにも当てはまることで、NCはDCTのフリーさがいいし、F800GSは並列ツインの動力性能が目立つ感じ。Vストの「特別なところがない」感は、ずっと長く乗れる、飽きの来ない愛車、って感じがするのだ。
(試乗・文:中村浩史)
 

 

ライダーの身長は178cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

 

φ310mmダブルディスクと片押し2ピストンキャリパーの組み合わせ。Vストローム650ABSはキャスト、650XT ABSはワイヤースポークホイールで、リムにスポークを貫通させないことでチューブレスホイールの装着を可能にしている。フォークは正立で、サスペンションはスプリングレートがしっかりしてダンピングが柔らかい印象。

 

エンジンはヨーロッパでベストセラーにもなった、長い歴史を持つミドルクラスVツイン。国内仕様で言えばグラディウス/SV650系と共通のツインプラグ式DOHC4バルブVツインで、低回転からのトルクが高回転まで続く超フラットトルク型エンジンフィーリング。発進時にエンジン回転落ち込み=エンストを防ぐローrpmアシスト機能を搭載している。

 

スイングアームもアルミ製で押し出し材を使用した、全長約600mmとロングスイングアームなタイプ。タイヤはブリヂストン・アドベンチャーA40で、バイク本体のデュアルパーパス性能をより高めている。2次減速比は同系エンジンを使用するSV650と比較して、リアスプロケット1丁増しの加速型としている。

 

旧モデルのアップマフラーからダウンタイプとしたマフラー。リアサスは伸び側の減衰力調整機構付きのモノショックで、タンデムや荷物を満載にしたときに調整するプリロードアジャスターを装備。そのアジャスターはマフラー側サイドにセットされたダイヤルで簡単に調整でき、これを調整するときちんと体感できる。

 

フレームは兄貴分のVストローム1050 ABS同様のアルミツインスパータイプ。とはいえ、スーパースポーツモデル的な高剛性すぎではなく、軽量でシンプルな構造から選ばれた構造。
初めてXT仕様が追加された時には横2灯だったデュアルヘッドライトは、現行モデルで縦2灯に。ヘッドライト、ウィンカーはバルブタイプ、テールランプはLEDを採用している。
容量20Lを確保したフューエルタンク。タンクサイドのエッジやサイドカバー形状がスリムで、足着き性の良さに貢献している。今回の実走燃費は23~28km/Lでした。

 

前後一体式のシートはシート下にも少しだけ収納スぺースを確保。シートサイドのシェイプもスリムで、ここでも足着き性の良さに貢献。タンデム座面も広め。±20mmのローorハイシートがプションで発売されている。

 

ハンドル位置、スクリーン高さとも「ちょうどいい」Vストローム。スクリーンは取り付け位置を3段階に調整可能。メーターはギアポジション表示つきのアナログタコ+デジタルスピードメーター。多機能すぎないが見やすさとわかりやすさでは国内モデルトップクラス。メーター左にはシガーソケット式の12V電源供給がある。

 

ハンドルスイッチは右にキル/ハザード/セルボタン。セルはワンプッシュでエンジン始動まで自動でセルが回り続けるイージースタート。左スイッチのモードボタンは、上に押すとオド&ツイントリップ、下に押すと瞬間&平均燃費、残ガス走行可能距離計、電圧計を表示。トラクションコントロールはオフ/1/2の3段階調整式。

 

●V-STROM650 ABS / 650XT ABS 主要諸元
■型式:2BL-C733A ■エンジン種類:水冷4ストロークV型2気筒DOHC4バルブ ■総排気量:645cm3 ■ボア×ストローク:81.0×62.6mm ■圧縮比:11.2 ■最高出力:51kw(69PS)/8,800rpm ■最大トルク:61N・m(6.2kgf・m)/6,500rpm ■全長×全幅×全高:2,275×835×1,405mm [2,275×910×1,405mm] ■ホイールベース:1,560mm ■最低地上高:170mm ■シート高:835mm ■車両重量:212kg[215kg] ■燃料タンク容量:20L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤ(前・後):110/80R19 M/C59V・150/70R17 M/C69V ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク(ABS)/油圧式シングルディスク(ABS) ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■フレーム:ダイヤモンド ■車体色:オールトグレーメタリックNo.3、ブリリアントホワイト[チャンピオンイエローNo.2、ブリリアントホワイト、グラススパークルブラック×キャンディダーリングレッド、オールトグレーメタリック] ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み): 924,000円[968,000円] ※[ ] 内はV-STROM 650XT ABS

 



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2021/05/26掲載