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試乗・解説

電子制御で磨きをかけた ハイスピードツーリングバイク SUZUKI V-STROM 1050/1050XT
スズキ・アドベンチャーのヒットモデル、V-STROM1000が
ネーミングも1050とあらため、フルモデルチェンジ! 
ボディデザインを全面刷新、電子制御をアップデートして
さらにVストロームらしく使い勝手をアップした。
アドベンチャークラス、アフリカツインのひとり勝ち許さじ!っていうより
アフリカツインとはまったく別の魅力にあふれているのだ。
■試乗・文:中村浩史 ■撮影:松川 忍 ■協力:SUZUKI https://www1.suzuki.co.jp/motor/

 
 国産アドベンチャークラスにあって、スズキVストロームの歴史は意外と長い。初代モデルは2001年のパリショーで発表されたDL1000、ペットネームとしてVストローム1000の愛称が添えられていたから、これを初代モデルと考えると、シリーズ歴史はもう20年にもなるんですね。でもこの初期モデルを日本で見かける機会は多くありません。
 2014年に発表されたのが、国内に正式登場したV-STROM1000。前年にはV-STROM650も発表されていて、これで650/1000のラインアップが、そして2017年には250も発売され、この3兄弟は今やスズキのヒットシリーズになっています。14年の1000発売のころから、上手く国内のアドベンチャー熱というか、このタイプのオフロードルックス・ツーリングバイクへの注目が高まったため、650/1000/250はスマッシュヒットとなったのです。
 今回のV-STOROM1050は、1000のフルモデルチェンジ車。スタイリングを一新し、新たに電子制御スロットル化、さらに出力面に電子制御を追加し、より一層完成度を増した印象。
 なにより、スタイリングが一新されて、先代モデルの「スズキのパリダカマシンDR-Zの匂い」がさらに色濃くなったのが最大のトピックでしょう。クチバシ系フロントカウルに異形丸ヘッドライトが、新たに角目デザインになって、ちょっとカタナっぽくなりました。ヘッドライトはこれ、KATANAと同じパーツじゃない? 2019年のミラノショーで発表され、国内ではV-STROMミーティングで参加者にお披露目されていました。DR-Zを知っていても知らなくても、これはスタイリッシュ! 誰に聞いてもカッコいい!
 

 

ライダーの身長は178cm。※写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

 
 けれど、New V-STROM1050のキモは、やはりエンジンパワー特性の変更でしょう。もともと先代の1000も、低回転からよくトルクが出ていて、さらに高回転がよく回るエンジンでしたが、New V-STROM1050はさらにエンジン反応がリニアになりました。リニアっていうのは、スロットルをジワッと開けたらジワッとパワーが出る、ガンと開けたらガンとパワーが出る──そんなイメージ。リニアリティとか、ドライバビリティって言いますよね。これがすごく使いやすくなりました。
 低いギアでは、先代モデルに少し残っていた「ドンツキ」も解消されました。ドンツキっていうのは言わばリニアリティの反意語で、ジワッとスロットルを開けてもドン、とトルクが出るような挙動ですね。実はこの症状、乗っていたらそう気づかない、言われてみればそうかな、くらいのレベルだったんですが、New 1050に乗るとハッキリわかります。先代がキツいんではなく、新型がすごくいい。
 

 
 発進時からトルクが出ていて、中回転域がフラットトルクで使いやすく、高回転でギューンと伸びるようなパワー特性。特に6000rpmあたりからのフケのよさは、V-STROMならではの力強さですね。
 実はこれ、元になるべースエンジンの性格によるもので、V-STROM1050の水冷DOHC4バルブVツインは、1997年に登場したTL1000Sがベースなんです。TLはのちのTL1000Rを含め、当時のワールドスーパーバイク選手権(=WSB)に挑戦しようか、っていうスーパースポーツモデルで、全日本ロードレース、AMAスーパーバイクにも参戦しました。このエンジンを積んだbimotaが実際にWSBで優勝も飾っています。
 1万回転回って140psをマークするようなスーパースポーツ用エンジンがベースですから、この血統であるV-STROM1050も、高回転がよく回る! しかし反面、低回転のネバりは少し弱くて、高いギアで低回転で走ろうとすると、スムーズに回らないシーンが見られます。もちろん、これは私がテストでエンジンをいじめてるだけで(笑)、普段の走行でこんなシーンが見られることはありません。
 これは、ベースとなったTL1000Sエンジンのボア×ストロークが98×66mm/排気量995ccで、V-STROM1000/1050が排気量1036cc/ボア×ストローク100×66mmと、いずれもかなりのショートストローク=高回転高出力型なのが要因のひとつ。エンジン出力特性を決めるボア×ストローク比で言うと、V-STROM1050は0.66で、この数値はボア×ストロークが100×60.8mmのドゥカティ・パニガーレV2=0.608にかなり近いのです。
 さらにV-STROM1000/1050とも、スロットルレスポンスがかなり鋭く、これはクランクウェイトやフライホイールマスが軽いエンジンの特徴でもありますから、それも極低回転域がバラついて、高回転がよく回る要因かもしれません。
 それもTL1000S→TL1000R→SV1000→V-STROMと発展する中で、ずいぶんまろやかになってきました。どうしたってホンダ・アフリカツインと比べられちゃいますが、アフリカツインは今や排気量1100ccなこともあって、低回転のネバり感、ゴロゴロ感ではアフリカツインが強く、高回転の伸びの軽やかさはV-STROMがいい。一長一短、これは使うライダーの好みによると思います。
 

 
 NewV-STROM1050で追加された電子制御は、総称「スズキインテリジェントライドシステム」(=S.I.R.S.)。これは、各種制御の総称で、まずは旧モデルにも搭載されていたOFF/1/2切り替え式の「トラクションコントロール」がOFF/1/2/3の4段階に強化され、A/B/Cの3段階に切り替えられる「パワーモード」を新採用しました。
 さらに、ここからがスゴい。スポークホイールの上級モデル1050XTにはさらに、車速やバンク角まで検知して介入するかどうか判断してくれる「モーショントラックABS」が先代モデルの後期型に引き続き採用され、ブレーキレバー&ペダル入力を検知して前後連動ブレーキが制動力を補正する「ロードインディペンデントコントロール」、登り坂で停止しても、坂道発進でエンストしちゃわないように、ブレーキを離して30秒はリアブレーキを作動させておいてくれる「ヒルホールドコントロール」、下り坂でのブレーキング時に、勾配に応じてABSの作動をコントロールしてテールリフトしすぎないようにする「スロープディペンデントコントロール」、さらに4速50km/hから6速150km/hまで設定できる「クルーズコントロール」も採用しました。
 さらにスズキの良心こと、発進時や低回転走行時にエンジン回転数の落ち込みを検知すると、すこーし回転を上げてエンストを回避しやすくしてくれる「ローRPMアシスト」、セルボタンを一瞬プッシュすればエンジン始動まで自動的にセルが回ってくれる「イージースタートシステム」も採用されています。
 

 
 この電脳化が可能になったのも、電子制御スロットル(スロットルbyワイヤ=TbW)と6軸IMUを採用したおかげです。6軸IMUっていうのは、6方向にバイクの姿勢を検知できるIMU(=イナーシャル・メジャーメント・ユニット=慣性計測装置)で、いまV-STROM1050がどういう姿勢で走っているか、どんな道を走っているか、加速しているのか減速しているのか、曲がっているのかバンクしているのか、どういう状況なのかをリアルタイムで検知してくれるものです。ここで検知した状態をECUに送って、それをTbWで出力する、という今どきのスーパースポーツ式のドライブなんです。その意味では、先代V-STROM1000にトラクションコントロールが採用されてからGSX-R1000Rに受け継がれたように、V-STROMの電子制御がスズキのトップを行っている、というポジションは変わらないようですね。

 

 

 発進時にフワッとクラッチをつないで、フラットトルクの中回転域を使って高回転につながっていくのがV-STROM1050のパワー特性。1000ccクラス、100psオーバーの6000rpmくらいからの伸びは怖いくらいなんだけれど、スロットルのツキもいいし、エンジンブレーキのかかりも使いやすい。このエンジン、TL1000時代から20余年、かなり熟成されつくしていますね。高速道路でのクルージングでは、トップギア6速2800rpmくらいで80km/h、3500rpmくらいで100km/h、4200rpmくらいで120km/h。テストコースでも走ってみたんだけれど、5000rpmくらいで140km/hあたりでのクルージングがかなり快適でした。もちろん、クルーズコントロールを使ってね。
 トラクションコントロールの出来もわかりやすく、わざとダートに踏み入ってスロットルをガバ開けしてみたんですが、ブブブブ、って出力に制御がかかったのがわかりやすく、ホイールスピンなんか皆無。出力を制御されながら確実に前に進んで、ダートを走っていて不意にぬかるみにハマってもちゃんと脱出できる安心感がありますね。
 これは雨の日や、冬の路面温度が低い時なんかも有効で、交差点や発進時なんかに「キュッ」とリアタイヤがスピンする恐怖感をなくしてくれます。
 

 
 そして、これは先代1000時代からでもありますが、V-STROM1050の美点のひとつは、車体剛性のガッシリ感。フロントフォークの接地感がキッチリあって、リアサスはダンピングがあって路面追従性が高く、高速道路の安定感がスゴい。
 試しにテストコースで、スピードを落とさないままコーナーに入って行っても、安定性がピシッと崩れませんでしたね。これは普通の使い方では、高速道路を走っていて轍に乗ってしまったり、スピードに乗ったままのレーンチェンジの安心につながっています。このあたりも、さすがにスーパースポーツ譲りの運動性を感じます。日本の高速道路を120km/hで走るより、アウトバーンで150km/h巡行することすら平気な、ハイスピードツーリングバイクなんだと思います。
 長時間走ると、体の疲れを感じないのもV-STROMらしさ。これは車体剛性、サスペンションの出来にもかかってきますが、なによりシートの出来がいい。クッション厚があるけれど柔らかすぎず、長時間乗っていてお尻が痛くなりませんでした。最近のスズキ車は出来のいいシートが多いです。

 私は、この手のアドベンチャーやロングツーリングバイクの評価基準に「今から1000km走る」ならどれ選ぶ?って考えることがあります。困ったことに、このテのロングツーリング、昔はハヤブサが定番だったんですが、今やアドベンチャーに取って代わられちゃいましたね。
 今まではBMW R1200GSとアフリカツインが2トップでしたが、ここにV-STROM1050が加わって3強となりました。特にオンロードの部分が多くなると、V-STROMのよさが光ります。あぁ、九州まで走っていきたい、北海道にキャンプしに行きたい――そういう旅ゴコロを猛烈に刺激してくれるバイクが、また1台増えちゃいました。
 ちなみにV-STROM1050は、先代からスタンダードがお値段変わらず、XTは4万円アップなだけ! この装備充実でこのお値段、スズキGJ!
(試乗・文:中村浩史)
 

 

新規国内排出ガス規制に対応した1036ccの水冷DOHC4バルブVツイン。車名は1000から1050と変わったが、総排気量は1036ccと変わらず。大きな変更は、電子スロットル(TbW=スロットル・バイ・ワイヤ)化され、特にスロットルの開けに対する反応が俊敏にリニアになったこと。発進時や低回転時にエンストしにくいよう、回転数やクラッチつながりをセンサーして自動で回転数を制御するローrpmアシストを採用している。クラッチもアシスト&スリッパー方式。

 

1050はキャストホイール、1050XTはワイヤースポーク。サイズは共通で、XTはワイヤースポークにチューブレスタイヤを履けるようT字断面リムを採用している。タイヤはブリヂストンアドベンチャーA41で、オフロードに強いというより、オフロードも踏み入れるオンロードタイヤ、って感じ。ワイヤースポークはかなりアドベンチャーっぽいイメージが強い。フロントフォークはφ43mmのKYB製倒立で、プリロード/無段階の伸び側&圧側減衰力調整機構付き。

 

リアサスペンションはプリロード/伸び側減衰力調整機構付き。ファイナルレシオは17/41で、先代の1000と共通。重量増は承知でセンタースタンドを装備したのは、オーナーにとってありがたい。フレームはアルミ製ダイヤモンド形状、スイングアームもアルミ製と、このあたりがロードスポーツ顔負けの装備だろう。

 

リアサスはリモートダイヤルでプリロードを調整するタイプ。タンデムや荷物満載の時に簡単に調整できるし、サスペンションを調整するクセもつくかも。スイングアームピボット部には樹脂製のフレームカバーがあり、特にブーツを履いた時のスタンディングなどでキズが付くのを防止する。これもオーナーはありがたい。
タンク本体、タンクトップカバー、フロントカウルにつながるシュラウドが一体式となり、シンプルかつスタイリッシュに変更。面構成が直線基調でシンプルなバイクは美しい! タンク容量は20L、今回の実走参考燃費は19.5km/L。

 

先代の前後一体式シートから前後分割式に変更。トップとサイドの表皮が分けられていて、お尻のグリップが最高に良かった! タンデムシート下には1050XTのみシガーソケットタイプの電源供給あり。ヘルメットホルダーはなし。

 

XTのみ、タンデムシート裏にシート高を20mm上げられるステーがビルトインされている(写真右)。これいいアイディア! XTにはパニアケースのアダプターが標準装備されていて、1050オーナーは純正オプションとして購入可能。標準装備のキャリアについている荷かけフックは短く、フックもしにくいため、パニア用アダプターを使うと使い勝手がよかった。

 

スクリーンの高さ調整は、XTが工具不要で11段階、1050は工具を使用して3段階、上下幅50mmほど変えられる。XTは写真に見えるスクリーン中央のシルバーのノブがロック機構となっている。ミラーもXT/1050で専用デザインだ。※写真の上でクリックするとスクリーンを下げた状態が見られます。
先代よりも直線的なデザインのクチバシカウルがNew1050シリーズ最大の特徴。ヘッドライトは上下分割式の角型LEDで、ロービームでは上部分、ハイビームでは上下が点灯する。ウィンカーはXTがLED、1050がバルブ式。

 

左スイッチはパワーモードをA/B/C、トラクションコントロールをOFF/1/2/3、ABSはXTのみ1/2に調整できる。右ハンドルスイッチにはキルスイッチ一体式ワンプッシュセルボタン、ハザード、クルーズコントロールスイッチを配置。

 

左ハンドル部には簡易的なヘルメットホルダーあり。写真のようにハンドルを左にフルロックさせての停車で、ホルダーに取りつけたヘルメットをタンク上に置くことができる。おそらく日本仕様にのみわざわざ装備してくれたもの。
先代にはメーターパネル正面、ディスプレイ下に装備されていた電源ソケットが、New1050/XTともメーター左サイドにUSB式で移設。メーター上に装備されているガジェットバーにスマホマウントを取り付けての電源供給がしやすかった。

 

センター部が太いテーパードハンドルを標準装備。ディスプレイ上に装備された横方向のバーがガジェットマウント用。スクリーンステーの強度アップにも役立っているだろう。ナックルカバーはXTのみ標準装備。
左にギアポジション表示付きのタコメーター、右にスピードメーターをデジタル表示。燃料計の下は瞬間燃費バー表示とオドメーター、その下にツイントリップと残ガス走行可能距離計、トリップごとの平均燃費も表示する。

 

★V-STROM 1050〈V-STROM 1050XT〉 主要諸元
■車名型式:8BL-EF11M ■全長×全幅×全高(m):2.265×0.870〈0.940〉×1.515〈1.465〉 ■軸距(m):1.555 ■最低地上高(m):0.165 ■シート高(m):0.855〈0.850〉 ■装備重量(kg):236〈247〉 ■燃費消費率(km/L):29.2(国交省届出値 定地燃費値 60km/h 2名乗車時) ■20.3(WMTCモード値 クラス3 サブクラス3-2 1名乗車時) ■最小回転半径(m):3.0 ■エンジン型式:水冷4ストローク90度V型2気筒DOHC4バルブ ■総排気量(cm3):1,036 ■内径×行程(mm):100.0×66.0 ■圧縮比:11.5 ■最高出力(kW[PS]/rpm):78[106]/8,500 ■最大トルク:(N・m[kgf・m]/rpm)99[10.1]/6,000 ■燃料供給装置形式:フューエルインジェクション ■始動方式:セルフ式 ■点火方式:フルトランジスタ式 ■潤滑油方式:ウエットサンプ式 ■潤滑油容量(L):3.5 ■燃料タンク容量(L):20 ■クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■キャスター(度):25°4′〈25°30’〉 ■トレール(mm):110〈109〉 ■タイヤサイズ:前 110/80R19M/C 59V
後 150/70R17M/C 69V ■ブレーキ形式:前 油圧式ダブルディスク(ABS) 後 油圧式シングルディスク(ABS)  ■懸架方式:前 テレスコピック式 後 スイングアーム式 ■フレーム形式 ダイヤモンドタイプ ■価格 V-STROM 1050 1,430,000円 V-STROM 1050XT 1,518,000円
※〈 〉内はV-STROM 1050XTの値

 



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2020/05/27掲載