Facebookページ
Twitter
Youtube

試乗・解説

HONDA CB650R ネオレトロを着こなし、 見事な走りのさじ加減。 今なお要注目度高し、 な才色兼備バイク。
一見、ネオレトロで幻惑する丸形のヘッドライト。しかしCB650Rは見事に練り込まれた世界観を持ち、そこから外れず、期待通りの走りの世界を持つスポーツネイキッドだった。走らせた時に感じる「ちょうどいい」という感触の空間が広く厚い。それってなに? え、なにソレ? を紹介していきたい。
■試乗・文:松井 勉 ■撮影:渕本智信 ■協力:ホンダモーターサイクルジャパンhttps://www.honda.co.jp/motor/




かっこイイ、が基本。

 マットベータシルバーメタリックのタンクが放つ造形美。深い艶を見せる塗色も魅力だが、あからさまに造形が伝わるマットカラーを纏った時点で、デザイン部門の自信というか、挑戦的に造ったことが解る。モーターサイクルらしさをシンプルに表現したCB650Rは秀作だと思う。

 2018年にミラノショーで発表された現行のCB-Rシリーズは、125、250、そして1000が先発投入され、昨年、このCB650Rが追加されている。ひらたくいえば、250と1000のギャップを埋める存在だ。しかしその真髄は、見てじっくり味わえるスタイルにあると思う。この点でCB-R系はどれも排気量というクラスを飛び越えた魅力がある。
 

 

しっかりとした作り込みも魅力。

 CB650Rをお復習いすると、先代にあたるCB650Fからそうとう微に入り細に入りチューニングの変更が行われているのが解る。まず跨がったときのライディングポジション。ステップの位置を少々高く、後方へ。合わせてハンドルバーもグリップ位置を低く仕立てている。スポーティーに仕立てている。
 さらにスペック上で見るシート高は先代同様810mm。最近の例に漏れず、シート前方の幅は絞られるのと同時に、地面に下ろした足が座面や車体まわりに干渉しないので足着き感はすこぶる良好。
 

 
 メインフレームやサブフレームも合わせてCB650R用に仕立て直した結果、スタイルと実用、そして後に解る走りにもそれは影響を及ぼしている。デザイナーは凝縮化したと表現するスタイルの骨格から作り替えていたのだ。

 楕円チューブを使ったスチールフレームは、ダウンドラフト吸気のエンジンの上に位置する吸気エアボックスを重ねても天地に厚みを出さないためのものでもあり、タンクデザインにも貢献している。そのエアボックスへと続く吸気ダクトを兼ねた燃料タンク脇のシュラウドは、CB-Rシリーズのスタイルアイコンにもなっているが、そのシュラウドそのものがエアインテークになっているのも特徴。また、エンジン内部もピストン形状の変更やイリジウムプラグの採用、カムプロファイルの変更でパワーアップし、その発生回転数も上がっている。
 

 
 足周りも、サスペンションのスープアップやホイールの軽量化とデザインの変化もあり、軽快さがある。試乗車はメッツラー製ロード01を履いていたが、スポーツツーリングラジアルの中でも秀逸なグリップ、ハンドリング、低温時の安心感、ウエットグリップを持つタイヤだけに、これを採用した開発者がCB650Rをどんな場面でも楽しんでもらいたいか、という思いが伝わってくる部分だ。
 

 

艶やかな4気筒。

 グッとコンパクトに感じる凝縮感。CB650Rはいかにも走りそうなルックスを持っていながらライダーに対して最初のコンタクトへのハードルを設けていない。70kW(95ps)、64N.m(6.5kg-m)というスペックもそうだし、程よさ感で迎えてくれた。

 始動したエンジンはスムーズ。4気筒固有のジーンとした振動は来るが嫌みではない。エンジン下のコレクターボックスから上向きに排出されるサウンドは正しく整った4気筒のそれ。4本並んだエキパイが見せるヨンフォア風味も手伝ってストリートに映える仕様だ。

 軽いクラッチレバーを操作し右手をシンクロさせて発進する。650の4気筒だ。低回転からトルクに不安はない。最初の角を曲がり始めようとしたとき、CB650Rは素直でスムーズに向きを変え始めた。エンジンの質量感はほどよく、安心感もある。それでいて重たさを感じさせない。シフトアップを続けるとスムーズに回る4気筒らしく市街地速度で6速を許容し、そこからの加減速にも自在感がある。ブレーキのタッチやその時のフロントフォークとの連携、車体の動き全体も掴みやすいし、想像通り。不安がないのではなく、気持ちがいい。この瞬間、車体があたかも一回り小柄になった印象だ。
 

 
 CB650Fとの違いで印象的なのは、徹底的に4気筒らしいスムーズで角のないパワー特性にこだわった先代に対し、CB650Rは、そこに艶やかさを加え、回すとやや車体に伝わってきた振動も気にならないレベルに減衰した正常進化版であり、スポーツ度がアップした感触が与えられている。

 ワインディングでも左右への向き変えでも一体感が嬉しい。アプローチで減速し、直立状態から次第に寝かせて行く。この動きがとてもスムーズ。速すぎず手応えがありすぎることも無い。ちょうどよい。少しペースアップしてみると、そこではCB650Rのスポーツ性がしっかり顔を出す。というか、いままでの延長線上にそれがある、という印象で、性格が変わるわけではない。

 車体とサスペンション、タイヤが引き出す路面への追従性はスポーツネイキッドらしいもの。安心感がある。旋回性にもっと振るなら僕の体重だとリアのイニシャルプリロードを少し掛け、フロント周りの仕事量を増やすだけで「味変」が出来るハズ。

 そこまでしなくても、650㏄のエンジンの4000回転あたりまで、あるいは6000回転あたりまで、と領域を変えるだけで走りの表情が変化し、それを楽しめるのも650という排気量の魅力だ。乗りたおすのは簡単ではないが、包容力があり、走りのリズムを変えるだけでまた違った楽しさを味わえる。
 

 

パッケージとして唯一の魅力。

 今、このクラスは2気筒モデルが主流だ。Vツイン、直列2気筒など、4気筒モデルは少ない。2014年にデビューしたCB650Fのお披露目の時も、開発者の一人が「このままでは4気筒が消えてしまうかもしれない。ファンバイクとして4気筒の楽しさをもう一度磨き直した」と話していたのが記憶に残っている。650の4気筒。それがもたらす日常やツーリング、ワインディングでの楽しさは、再考されてしかるべき、と熱く語っていた。

 その思いはこのCB650Rに引き継がれたのだ。

 もちろん、そこには、このCB650Rが持つかっこよさがあってこそ。パッケージベストで選べるバイクだといっていい。僕がチュー免で400に乗っていたはるか昔、CB650などは「違いの解るライダーが選ぶ……」とか「マニアならナナハンよりロッパン……」的にバイク誌に紹介されていた。今、バイク歴を重ねれば納得。そして、カッコいいライフスタイルにネイキッドバイクを、というこれからのライダーにも自信をもって薦められる。

 その起点になる大切なポジションに4気筒エンジンがもたらす包容力がある。しかもそれを感じさせるパッケージによくまとまっている。注目です、この一台。
(試乗・文:松井 勉)
 

 

ライダーの身長は183cm。

 
 

ショーワ製倒立フォークは、φ41mmのインナーチューブを持つ。ブレーキはニッシン製ラジアルマウントキャリパー。ディスクプレートはφ310mmとルックス、機能ともにほどよいパーツを使っている。後輪ホイール同様、フロントホイールも440g軽量化されている。

 

Y字型5本スポークとなったホイール。Y字部分より細いスポークがリムに届くことでの軽快なスタイルが魅力。ブロンズに塗られた配色もクール。CB650F比でホイールは530g軽量化されている。リアブレーキはφ240mmのディスクプレートとシングルポットキャリパーを組み合わせる。
標準装備されるタイヤはメッツラーロードテック01(ゼロワン)。スイングアームはアルミ製。メインフレームにサブフレームが溶接される位置も上方に移動。リア周りをシュっとみせている。

 

スイングアームとの締結部分にボールジョイントを採用することで作動性を向上させている。もちろん、それにより路面追従性もアップ。グリップ感をよりダイレクトにライダーは体感することになる。
スイングアームピボットの構造を変えることでフレームボディも軽量化された。マフラーエンドも角度を変えるなど音が耳へと届く経路をチューニングしたりスタイル的にもアグレッシブさを出したり細かな作り込みがされている。

 

ライダー目線から見るとシュラウドがエンジンの導風ダクトになっているのが解る。ハンドルバーはテーパータイプ。ハンドル位置も前方かつ下方に移動させた。メーターは軽量化された薄型液晶を採用。30代のエンジニアが中心になって開発を進めたというCB650Rは、程よさの中にこだわりが詰まる。
デジタル速度表示と丸形の回転計。必要な物だけを配置したシンプルさがある。

 

CB650Rの見所は、ホイールやエンジンカバーと同色系を使ったフォークのアウターチューブ。色調をあわせることで上質感ある整い方が特徴。ヘッドライトはLED光源を使っている。そのリング上の縁取りの光らせ方や大きな丸形ライトの造形がオーセンティックなモーターサイクルさを演出。シュラウドの先端、三角形のエアインテークが見える。ボックス形状である。
LED光源を使うテールランプ+ウインカー。シートを短く切り上げ、その先にフェンダーを伸ばす手法だ。これもCB650Rから凝縮感を受ける一つのトリックだろう。

 

ライディングで座るとき、足を着くときでライダーの動きをしっかり分解し一体化したシート形状。ステッチと表皮のマテリアル感にも上質感がある。

15リットル入りの燃料タンクはフレームとのつながりは勿論だが、ライダーのコンタクトエリアはとても滑らか。上部の造形も奇をてらわずだが、しっかりと印象的なものに。タンク前方にイグニッションスイッチがある。これもハンドル周りからこの場所に移植されている。

 

ケース、ケースカバーはもちろん、シリンダー、シリンダーヘッド、シリンダーヘッドカバーまでしっかりとデザインされた4気筒エンジン。エキパイが4本併走してコレクターボックスへと入っているのが解る。

ステップ周りはシンプルに。クイックシフターを装備し、走行中のクラッチ操作をしなくても変速ができる。アシスト+スリッパークラッチになったのでクイックシフト、クラッチ操作込みでもどちらでも楽しめる。

 

●CB650R 主要諸元
■型式:2BL-RH03 ■エンジン種類:水冷4ストローク直列4気筒DOHC4バルブ ■総排気量:648cm3 ■ボア×ストローク:67.0×46.0mm ■圧縮比:11.6■最高出力:70kw(96PS)/12,000rpm ■最大トルク:64N・m(6.5kgf・m)/8,500rpm ■燃料消費率:国土交通省届出値、定地燃費値31.5km/L〈2名乗車時〉WMTCモード値21.3km/L(クラス 3-2)〈1名乗車時〉■全長×全幅×全高:2,130×780×1,075mm ■ホイールベース:1,450mm ■最低地上高:150mm ■シート高:810mm ■車両重量:202kg ■燃料タンク容量:15L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70ZR17M/C 58W・180/55R17M/C 73W ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク/油圧式ディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):979,000円

 


| 3代目のCB650Rの試乗記事はコチラ→ (旧PCサイトへ移動します) |

| 新車プロファイル『CB650R』 |

| ホンダのWEBサイトへ |





2020/12/11掲載