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試乗・解説

Ducati Superleggera V4 『開発の原動力は「夢」という未来。』
世界限定500台。その希少性と邦貨で約1200万円という価格からリッチなマニア向けと思われがちなドゥカティ・スーパーレッジェーラV4。
その中身は同社のレース部門、ドゥカティコルセだけが許されてきた軽量素材の活用と、それをストリート用として耐久性を持たせる合わせ技を封入する高次元なドリーム・エンジニアリングだったのだ。
■解説:松井 勉 ■撮影:松川 忍 ■協力:Ducati Japan https://www.ducati.com/jp/ja/home

ドライウエイト159㎏
レース用フルエキゾースト装着でナント152.2㎏に!

 Superleggera=スーパーレッジェーラ。「超軽量」を意味する車名を冠したスペシャルモデルをドゥカティは販売してきた。その最新作、スーパーレッジェーラV4は、カーボンコンポジットを車体に多用している点など、一段上をゆくエンジニアリングを投じて作られたモデルだ。各部に注がれた「お品書き」を見れば、消費税込み1195万円という価格も大いなる説得力を持つ。世界で500名のユーザーだけが共有できる世界、ではあるが、ここでその世界を垣間見たいと思う。

 2014年に1199スーパーレッジェーラが登場した。特徴的なモノコックフレームやホイールにマグネシウム素材を採用し、サブフレームはCFRPで整形されたものを採用した。前後にオーリンズ製サスを採用するが、リアショックのコイルにチタンスプリングを使うTTX36となる。軽量化へのアプローチに余念はなく、ドライウエイトは155㎏。搭載されるLツインエンジンにはSBKで使用されるのと同等のピストンが装備され200PSを生み出した。当時、この特別な一台についていたプライスタグには税込み670万円とあった。
 






 

 
 そして2017年。1299スーパーレッジェーラが販売される。モノコックフレーム、リアサブフレーム、前後ホイール、フェアリングにカーボン、およびカーボンコンポジットを用いて造られた車体はさらにきらめきを増した。エンジンは215PSにまで出力を上げている。ドライウエイト比較では156㎏。国内での販売価格は税込み900万円だった。

 そして2020年。史上初、V4エンジン搭載モデルとして登場したのがスーパーレッジェーラV4だ。デスモセディッチ・ストラダーレR(ドゥカティが採用する特徴的なバルブ開閉システム、デスモドロミック・タイミングシステムのデスモと、吸排気バルブ数16を示すイタリア語、セディッチを足した造語に、道を意味するストラダーレを合わせた呼称。RはSBKホモロゲーションベースであるパニガーレR用と同じ呼び名となる)と呼ばれるエンジンを搭載。排気量は998㏄。そこから引き出される出力は224PS。フルチタン製のレーシングエキゾーストを装備すれば、エンジン出力は234PSにまで上昇する。軽量化のために新設計されたオイルポンプや、締結ボルトを鉄製からチタン製に置き換えている。もちろん、一度トルクを掛けたら交換を前提とするのではなく、ボルトへのコーティングなどで市販車として要求される耐久性も確保された。
 エンジン全体の42%に軽量化のための再設計が施されたエンジンは、その積み重ねによりパニガーレV4S比で2.8㎏の軽量化がなされている。

 その車体重量はドライ重量で159㎏。レーシングエキゾーストに換装した段階でそれは152.2㎏まで減じることになる。カーボンコンポジットを使ったメインフレーム、サブフレーム、延長されたスイングアーム、前後ホイールの合計は6.7㎏に過ぎない。これらのパーツに関して品質検査のためにサーモグラフィー、断層撮影、超音波検査など厳しいインスペクションが行われる。それは500台全てが均質な性能であることこそ、本意でのロードゴーイングレーサー的な意味合いでもある重要なポイントだ。
 リアショックユニットには、チタンスプリングを採用した軽量バージョンであり、MotoGPマシン由来の油圧バルブが採用されている。
 

 

夢こそが原動力。

 このプロジェクトを率いたエンジニア、ステファノ・ストラパッツォンは言う。夢が大切だと。夢がアイディアを生み、アイディアがプロジェクトを造る。プロジェクトからプロトタイプが生まれ、プロトタイプは感動を生み出す。つまり、現実化へのスタートは夢だということだ。またビジョンがないとユートピアでさえ進化を遂げることはできない、とも。

 つまりはスーパーレッジェーラV4のプロジェクトは、スーパーバイクレースをさらに高見へと導く直接的なものではない。製法、素材、造り方をレーシング部門並みの部材と技術を投入した上で生み出された「性能」を、公道マシンとしての耐久性を担保する崇高なるエンジニアリングの挑戦なのだ。
 

 
 スーパーレッジェーラV4は「ミラーとナンバープレート付きのMotoGPマシンなのだ」その言葉に偽りなし。塗料、デカールの重さにまで配慮して生み出された美しさと速さに注がれた情熱を知ると、その値段ですら破格に思えてくるのである。ちなみに、スーパーレッジェーラV4を購入したオーナーの特権として、ムジェロサーキットにおいてSBKワークスマシンへの試乗体験と、抽選で30名にデスモセディッチGP20(つまり今シーズンのワークスMotoGPマシンだ)に試乗するチャンスが与えられる。コロナ禍の影響でスケジュールは2021年となるようだが、これも含め、世界500台限定のスーパーレッジェーラV4にはプレミアムチケット付きの凄いバイクであることがお解りいただけるだろう。
 

 

「私達はデザイン・マニアなのです。ドゥカティのデザイン哲学は引き算からなり、本質的な形状の徹底した研究から生まれる最も純粋なスタイルが基本になる」と語るデザイン責任者・アンドレア・フェラレージ。 歴代スーパーレッジェーラ同様、デザイン開発時のワークスMotoGPマシンと同じ赤を纏う。本機はデスモセディッチGP19と同じ赤だという。塗料の重さ、ステッカー類の重さまで軽量化の妨げにならないよう細心の注意を払ったという。技術が持つ美しさを高めるプロジェクトだったという。

 

エンジン設計のマネージャーを務めたエンリコ・ポルッツィは「型破りなソリューションを自由に提案し、創造力を働かせることができた。通常レースマシンにのみ使用される素材、工程、技術を利用して設計できる自主性が与えられた」と語る。「不可能を可能にする。それがこのプロジェクトの使命」とも。各部の肉厚の見直し、軽量素材への置き換えなどはもちろん、オイルポンプを新設計するなど軽量化と性能、効率の維持への探求が詰まっている。エンジンの軽量化の恩恵は、ハンドリングへの貢献はもちろん、回転パーツの軽量化がレスポンス向上をもたらす。また、逆回転クランクの効能もより明瞭に感じ取りやすくなっているのではないだろうか。エンジンの軽量化はベースのレベルがすでに高いだけに「根気のいる大変な作業だった」という。
ドライクラッチを装備する。カーボン製フェアリングに施された塗装、デカール配置も見事。カウルを留めるスクリューも軽量化に貢献する。

 

6インチの幅を持つカーボンコンポジットのリアホイール。機能美と片付けるにはあまりに美しい。
インナーチューブの輝きと周囲を写す平滑性からも質感の高さがうかがえるオーリンズ製フロントフォーク。ブレーキ周りは定番のブレンボを採用する。

 

270km/h時点でパニガーレV4Rのウイングが発生するダウンフォースが30㎏。スーパーレッジェーラV4のそれはさらに20㎏多い50㎏のダウンフォースを生み出す。MotoGPマシンが自由にウイングデザインを施せた2016年シーズンの技術をフィードバック。バイプレイン(2枚羽根)の張り出し、形状は見るだけで感性をくすぐるもの。

 

軽量化のためチタンスプリングを採用するスーパーレッジェーラV4。通常のコイルより軽量なのは言うまでもない。
カーボンコンポジットを用いたスイングアーム。リアバンクのシリンダーヘッド部に見えるプレートには、本来バルブタイミングを時間を掛けて丁寧に調整した組み立て担当の名前が入る。今目の前にある1台はスーパーレッジェーラV4のプロモーションでワールドツアー中の個体で、本来、モーターサイクルショーなどで展示されるのを目的にした車両のようだ。製造シリアルナンバー、制作者の名前などは、ユーザーに納められる車両からカウントされる。

 

2本出しのサイレンサー。アクラポビッチ製を装着する。

 

シートカウルもカーボン製。ヒップストッパーもカーボン製。カウル中央にある四角いものは、GPSアンテナ。ヨーロッパの主要なサーキットのデータがプリインストールされていて、データロガーに反映ができる仕組みだ。シートも全体の質感に応じたものが装着されていた。テールエンドからの眺めはこの通り。トンネル状に抜けているのはパニガーレと同様。

 

アルミ製の燃料タンクにrizoma製給油キャップがついていた。

 

TFTカラーモニターが装着されるメーターパネル。展示モードで展開したメーター。6速299km/h。メーターがこのように赤くなる頃には現実的にはもっと速度が出ているはずだ。操作系スイッチ周りは最近のドゥカティでは見慣れたもの。スーパーレッジェーラV4にはフロントブレーキレバーアジャスターがクラッチ側から行えるレーシーな装備も持つ。

 

「デスモセディッチGPやSBK用レースマシンは驚くほど乗りやすい」そう語るのはドゥカティのオフィシャルテストライダー、アレッサンドロ・ヴァリア。スーパーレッジェーラV4は同じ印象だという。MotoGPで毎度、ストレートスピードが350km/hを超す超高速バトルが演じられるイタリア、ムジェロサーキット。テクニカルなコーナーがあることでもお馴染みの5.24㎞のこのトラックで、レーシングスリックとオプションのレース用エキゾーストを取り付けたスーパーレッジェーラV4は、イタリアスーパーバイク戦の勝者と2秒差で周回した。もちろん、ヘッドライトやテールランプ、ホーンも鳴る状態で。昨年のリザルトを見ても、ムジェロでの勝者の決勝ベストラップは多くが1分51秒台前半から50秒台後半。スーパーレッジェーラV4は同じコースで1分52秒45をマークしている。ちなみにこのタイム、予選でも中団から後方となるが、グリッドを確保するには十分なポテンシャルを市販車状に限りなく近い状態で示したことになる。

 

■DUCATI JAPAN http://www.ducati.co.jp/





2020/07/08掲載