FIREBLADE。初代のCBR900RRがリリースされたのが1992年。究極のスポーツバイクを造る、コントロールを楽しめる一台を造る、そんな開発者達の思いを凝縮する。それがこのバイクの原点だ。その頃、スーパースポーツの頂点は、レースカテゴリー参戦を前提にしたホモロゲーションモデル、VFR750R(RC30)が担っていた。市販車の性能がレース結果に直結するため、レースベースとして性能を突き詰める必要があった。それはレーサーレプリカとして羨望を集めるものの、ストリートに本拠を置く多くのライダーにとって必要以上だったり、高回転高出力志向に作られたエンジンは、時に峠で扱いにくさとして感じられる部分もあったにちがいない。
その後、RC30からその後継機RVF750R(RC45)へと煎じ詰められ、VTR1000R SP-1、SP-2へと続いたのはご存じのとおりだ。
1980年代、ホンダは競合他社が並列4気筒搭載モデルで迫ったことを受け、フラッグシップモデルへの並列4気筒エンジンの使用を封印、「V型4気筒こそ新時代のスポーツバイクエンジンだ」とばかりにモデルラインナップを改変していった。その後、並列4気筒モデルはCBR1000のように高速ツアラー的エアロボディーを纏ったキャラクターへとシフト。ピュアな走りの4気筒モデルが望まれていても、どこかそれを許さない風潮がホンダ内にあったようにも思える。
しかし、回転がスムーズで車体に並列4気筒ならではの安定感があり、V4やV2ではマネできない整った排気音を届ける・・・・。多くのライダーにとって並列4気筒の魅力は大きなものだった。ならばと、4気筒でスーパーバイククラスに参加できるポテンシャルを持たせたバイクを造ってはどうか。VFRに比肩するような並列4気筒のコンセプトモデルまでホンダの技術者は製作した。しかし、理詰めでいけばV4がまさり、海外ではツーリングメインのモデルが望まれるから、排気量は750よりも大きなほうがよい。販売側のリクエストはいかにもコンサバティブだったため、なかなか市販までの勢いにのらない。
しかし、重たく大きな排気量の並列4気筒ではなく、軽く、しかも750のハイチューンではなく、排気量がもたらすゆとりもあり、軽い分加速もスゴイ。そんな思いを具現化したらマーケットにない一台ができるはず。まさにその具現化がCBR900RR FIRE BLADEだった。
CBR600Fと同じ車重で排気量の大きなエンジンを搭載すれば、自ずと魅惑のスポーツバイクが出来上がる。軽さは命題だった。目方の重さだけではなく、走行時、バイクが切り裂く空気の壁すら計算された。それは、直立からコーナリングに向け車体を寝かす時にフェアリングが押す空気の壁も同様だった。そのロール方向の軽快さ。それを狙って初代のCBR900RRのフェアリングにはライト脇に複数の弧が抜かれ、フェアリングの外側、内側の圧力差をなくし、カウルそのもののサイズも、テストコースでライダーが実際に感じる重みをなくすため、デザイナーが形状を変えながら地道に作り込まれたという。
そればかりか、車体に使うデカールの重さにまでこだわったというから、思い入れの強さが解る。こうして仕上がった初代は185㎏の乾燥重量に、120馬力を生み出す893㏄並列4気筒エンジンを組み合わせた。ハンドリング性能を狙った前後のホイールサイズは、フロントが16インチ、そしてリアは17インチとなっている。
1994年にはカウルデザインを変更。ヘッドライトカバーも取り付けられたほか、スクリーン高もアップ。ワインディングへと向かうツーリングセクションでの快適性もアップした。また、1996年にはエンジンの排気量を893ccから919㏄へと拡大。これにより120馬力から128馬力へと向上。車重も183㎏とした。エンジンはこの後も磨かれ、1998年には130馬力へと向上。その翌年にはスイングアームなどの形状見直しも行われた。
2000年になるとFIRE BLADEは二代目へとモデルチェンジをした。エンジン排気量は929㏄へと拡大。パワーは152馬力へと拡大した。また、ホンダとしては市販車初となる倒立フロントフォークも採用した。また、ヘッドライトは、レンズパターンではなく、灯具の反射板そのもので配光を決めるマルチリフレクターを採用し、ロービーム2灯、ハイビーム1灯の3灯スタイルの特徴的な顔つきになった。また、前輪が16インチから、時代の潮流にあわせ、前後共に17インチとなったのも特徴。リアスイングアーム形状もグランプリシーンからフィードバックされた軽量なものが装着された。
2002年、FIRE BLADEはCBR954RRへと進化をした。エンジン排気量を929ccから954㏄へと拡大。これはボアを1mm拡大して得たものだ。また、燃料供給方式をキャブレーターからPGM-FIへと変更。環境性能と制御性能も向上させている。排気系の特徴としてチタン製サイレンサーを使うなど軽量化への意図はしっかりと受け継がれている。
足周りでは、φ43mmのインナーチューブを持つ倒立フォークはカートリッジタイプのダンパーを採用したフロント周りと、NSR500と同様の形状をしたリアスイングアームの採用など、こだわりが強いのは従来通り。テールランプにはLEDが採用された。また、このCBR954RRから国内仕様も用意された。その出力は91馬力、8.9kg-mと輸出仕様よりもおさえられたものだったが、そのハンドリングや軽量なスポーツマシンを一般の販売店で適正な価格で購入できる意味において大きなエポックとなった。
2004年。FIRE BLADEにとって大きな転換期が訪れた。それまでスーパーバイクベースとしてのマシンとは一線を画していたが、4気筒モデルのレギュレーションが変更になり1000㏄クラスとなったことを受け、FIRE BLADEに任を与えることになる。CBR1000RRがデビューしたのだ。
このCBR1000RRの大きな特徴は、ロードレースの最高峰モデルと同時に外観デザインをされたことだ。2002年。WGP500㏄クラスは、4ストロークエンジンを搭載したグランプリマシンによる選手権、Moto GPへとシフトをした。ホンダのグランプリマシン、RC211Vのカタチを受け継いだCBR600RRに続き、2004年にCBR1000RRが登場することになる。
RC211V同様、ユニットプロリンクを採用したほか、センターアップマフラーを採用するなど、最新のグランプリスタイルを取り入れたもので、まさに保安部品を取り付けたRC211Vといえるものに。それまでのCBR-RRとも異なるアプローチでデザインされたことが解る。また、電子制御ステアリングダンパー、HESDの採用や、ラジアルマウントフロントブレーキキャリパー、ラジアルポンプ式のフロントマスターシリンダーなど、操作感、性能面でも一気に向上したのが特徴だった。
このバイクの販促プロモーションビデオは、オーストラリア、フィリップアイランドのグランプリコースで撮影され、バレンティーノ・ロッシがレースの中で見せるようなブレーキングドリフトをしながらカーブにアプローチする姿は、CBR1000RRの車体剛性バランスを含め、新しい時代のスポーツマシンを一目で予感させるものだった。
オール・ザ・ベスト・イン・スーパースポーツ。この開発コンセプトのもと、CBR1000RRとして2世代目となるモデルが2008年にデビュー。エッジを効かせた先代より丸みを帯びたフェイスが一見しての特徴となった。このスタイリングは、空力特性を突き詰めたMoto GPマシン、RC212Vからフィードバックされた技術を用いてデザインされたという。三本スポークのホイールなど一見して軽快に見える足周りは、先代より5mm伸びたホイールベースにあって、スイングアーム長を12mm延長するという前輪荷重を重視したジオメトリーになった。それまでセンターアップ方式だったサイレンサーは、エンジン下部、コレクターボックスから四角く短いエンドが突き出るタイプとなり、マシン全体がマスの集中をされたことを印象付ける。また、アシストスリッパークラッチの採用もあり、ソフトなクラッチスプリングを用いてレバーの操作力は軽く、しかし、走行時は遠心力でクラッチの圧着力を向上させる仕組みだ。もちろん、減速時、シフトダウン時に後輪が不安定になる挙動を吸収する作用ももたらした。
翌2009年にはスーパースポーツモデルに搭載するため開発設計された電子制御ABSを搭載したバリエーションも登場。ブレーキ操作力で生まれた液圧を感知して最良のブレーキングバランスを作り出すABSであり、旋回中でも適宜最適な制御をすることで、走りの武器として機能した。
2011年末には足周りを中心としたマイナーチェンジが行われた。3本スポークのホイールから、12本スポークのキャストホイールへと変更。ホイールが見せる軽快感が際だった。また、サスペンションも改良され、走りを磨くことに。
2014年、さらに熟成を進めた進化が与えられた。エンジンは吸排気系をリファインしてパワーとトルクを向上。また、ステップ位置を10mm後方に移動し、よりスポーツライディングでコントロールしやすいように改良がされた。また、フロントにNIX30、リアにTTX36というフルアジャスタブルの高品質なオーリンズサスペンションの装備や、ブレンボ製ブレーキキャリパーを装着し、1人乗り仕様とした設定で、走りに振ったSPモデルも追加された。
2014年シーズン、Moto GPクラスでの、ライダー、コンストラクター、チームの三冠を獲得した記念スペシャルモデルとして、2015年には200台限定でSP仕様をベースとしたMoto GPチャンピオンスペシャルが1月23日に発売される。同年12月には、この型として最終モデルとなる仕様が発表された。トリコロールカラーのほか、SP仕様も同時に発表される。
2017年、CBR1000RRは大きな進化を遂げる。先代からキャリーオーバーされた部分もあるが、それまで搭載されていなかった電子制御装備が一気に最新仕様のものを搭載。もちろん、電子制御サスペンションを搭載するグレードも用意したことで、輸入車、国産ライバルと比肩する商品性を得て発売された。
車体姿勢や加速度を6軸加速度センサーでセンシングし、ECUがそれを元に演算。様々なデバイスで車体の安定性を極限まで維持する最新の電子制御技術は、まさにMoto GPマシンテクノロジーだ。HSTC、エンジンブレーキコントロール、パワーセレクターを駆使して1〜4速のパワーデリバリーをそれぞれ5段階に調整が可能にもなった。スロットルバイワイヤーを搭載し、ライディングモードの選択も可能に。デフォルト設定された設定も、ライダー自身が細分化して設定変更することも可能に。上級機種ではオーリンズのスマートECサスペンションをダッシュパネルから設定変更が可能になるなど、最先端装備となった。
外装は極めてコンパクトなデザインとなり、隣にタイで生産されるCBR250RRが並ぶと、まるでこちらが250クラスか、と言うぐらいのコンパクトさだ。クイックシフターの装備も合わせ、一気に最先端CBR1000RRとなった。いわば、このモデルがCBR1000RR-Rへと橋渡しするモデルとなっている。
CBR1000RR-Rの詳細はこちらで
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