スーパーデュークのルーツといえば、それはパリ・ダカマシンということになるのだろうか?
LC8と呼ばれるVツインエンジンは2000年代、ダカール・ラリーに参戦していたKTMのファクトリーマシンに搭載されていたものがルーツであり、そのレプリカモデルである950アドベンチャーに搭載されたものがベースとなっていた。
オフロードメーカーとして名を馳せていたKTMがオンロードに浮気? をした最初のマシンはシングルエンジンを搭載したデュークであったが、それと同じ手法で登場したVツインロードスポーツモデルが990のスーパーデュークである。
当初のスーパーデュークのキャラクターは非常に個性的であった。どこかにオフロードのテイストを感じさせつつもモタードとは異なり、サスペンションはハードな高荷重設定。
ライディングポジションもオンとオフの中間のような印象であり、どこにもカテゴライズされないオリジナリティ溢れるマシンとなっていた。
反面、じつに荒っぽいマシンであったことも確かだ。
1000cc近いツインエンジンであることから、決してトルクがないわけではなかったのであるが、レーシングエンジン的な、いかにもクランク回りが軽いような、アクセルを開けていないと粘らないようなキャラクター。それでいて、開けるとパワーの出方はなかなかに唐突で、細かいオンオフ等でのコントロールが非常に難しいマシンとなっていた。
これは基本的に同じエンジンを搭載しつつ、キャブレターを装備していた950アドベンチャーやスーパーモトにはさほど感じられなかったことから、FIの過渡期であった影響もあるかもしれない。
車体周りも先述したようにハードなもので、かなり追い込んで走らせた際にはエキサイティングな快感を味わえたものの、ゆる~く走ろうと思っても、なかなか仲良くなることの出来ないキャラクターであった。
990時代にも細かいアップデートは行なわれ、それは徐々に扱い易さを身につけていったのであるが、根本的評価を変えるまでには至らなかったのだ。
そんな中、ビースト=野獣=のニックネームが付けられた1290Super Duke R(以下SDR)が発表される。2013年の10月にスペインで行なわれたテストに呼んでいただいた。
正直、更なるハイパワーエンジンを搭載したこのマシン。大丈夫か?
というのが偽りのないテスト前の私の気持ちであった。
しかし、これが予想を裏切るマシンとなっていたのだ。
乗り手を選ぶスパルタンさをもっていたそれまでのマシンが、じつにフレンドリーで扱い易く変貌。KTM変わったな~(もちろん良い意味で)と感じたものである。
セールス的にもSDRは成功を収め、2017年にはマイナーチェンジで熟成をはかる。
そして今年。2020年モデルにおいて大きく刷新することとなったのだ。
そんなに変わっていないじゃん!? と思われるルックス。キスカデザインの施したデザインは、390 DUKEや790 DUKEと一貫性があることはもちろん、従来型とも大きく異なっているようにはみえない。
個人的にはコロコロとイメージチェンジするよりも、ユーザーに対しても親切であると思えるこの姿勢は嫌いではない。
しかし派手そうにみえて着実なのがKTMのやり方でもある。
外装パーツも実は全て刷新されているだけでなく、プラスチックパーツひとつを取ってみても、より薄く仕上げることで軽量化を……といったような、まさに“Ready To Race”のポリシーにのっとって改良が加えられている。
ポルトガル、ポルティマオサーキットは2回目の訪問。約10年ぶりとなる走行だ。
KTM流のおもてなしか、午前中に6セッション……、20分の走行×6本。
しかもインターバルが10分……。これなら余裕を持って思い出せる……いや、体力が持つだろうか?
しっかり伏せていないとヘルメットごと頭が飛ばされていきそうだ。
最終コーナーでギアを4速から5速にシフト。ほどなくトップにかきあげ、1コーナー進入へのブレーキングポイントまで風圧に耐える。
従来モデルはここまで加速力が強かったかな?
3馬力の出力向上というだけでなく、ラムエアーの積極的導入による吸入効率アップにより、伸びきり感がより高まっている印象だ。
そして、開ければパワフルだが……といった、過去のSDRらしさは微塵も感じさせない。例えばブラインドコーナーで開けるのを耐えて耐えて……そして少し開ける。といった微妙なコントロールも行ない易いのである。
これはライディングモードのチョイスと同時に(基本的にサーキットはトラックモードで走行)アクセルのレスポンスもライダーの好みによって、アジャストすることが出来る恩恵も大きい。
車体の剛性感が高まっているのは当然だろう。なにしろ新型のフレームは従来型の3倍もの剛性アップ。3倍というのはいくらなんでも強すぎだろう。今までのがそんなにフニャフニャだったのかい? といえば、そんなこともなかった。
鉄フレームのマシン。ちょっと旧めのマシンを思い起こさせる、しなりというか振れがなかったわけではない。もちろん、ラップタイム的にはそれはマイナスになるのかもしれないけれど、ライダーとしてはそのフィードバックを安心感としてとらえることができ、そして、操っている楽しさすら味わえたりもしたのである。
高剛性化された車体周りには、性能アップはあったとしても、そのファンな部分が低減していないか心配もあったのであるが、剛性バランスが最適化されているのだろう。決して硬い神経質さがあるわけではなく、しなやかさを備えたリニアなフィーリングとなっている。まさにこれがクロモリ製パイプフレームの良さでもあるのかもしれない。
ハイスピードでの切り返しでも挙動を乱すことがなく、狙ったラインに乗せていけるリニアさは前モデルにはなかったものだ。エンジンの搭載位置を上げることで、運動性を上げようとした狙いもしっかり実感出来るものであった。
ランチブレイクの後はマシンを乗り換え、今度は一般公道を走行する。
サスペンションは前後ともにプリロードを緩め、減衰力も弱く。ライディングモードも「ストリート」に変更されている。サーキットでもパワフルさは感じられたものの、そこに荒々しさなどなく、非常にスムーズなエンジン特性であったが、ストリートでもそのキャラクターのベースに大きな違いはない。これは1290になってからのこのマシンの特徴のひとつであったのだが、また1ステップスムーズさに磨きがかけられた。
低速域……例えばUターン等でもガクガクッと安定しないエンジンをなだめるように半クラを駆使して……といった気遣いが全く必要ないほど、アクセルワークへの反応も良く調教されている。
そのまま、ポンポンとシフトアップして、ほぼトップオートマ感覚でワインディングを走る。低速コーナーではグッと回転数が落ちていくものの、ノッキングを起こすような兆候もない。
車体だって3倍というのが嘘のように思えるほど現パッケージングの具合が良い。
柔軟さがより強い従来型も全く悪くないが、より一体感を感じやすく、さらにハイスピード域までカバーするオールラウンド性を身につけたのは正常進化と言えるだろう。
ビーストには、1290スーパーデュークGTという、ややツーリング方向に振った兄弟モデルが存在するのであるが、このマシンの登場時に「これじゃあビーストの影が薄くなっちゃうなぁ~」と思った記憶がある。それほどこのGTの出来がまた良かったということである。しかし新型のビーストに乗ってみると……。
全然関係のないところでプロジェクトは進んでいるのかもしれないけれど、MotoGPもひょっとして……と思わせてくれる素晴らしさがあったのだ。
(試乗・文:鈴木大五郎)
■エンジン:水冷4ストローク75度V型2気筒4バルブ ■排気量:1,301cc ■ボア×ストローク:108×71mm ■最高出力:132kW(180HP)/9,500rpm ■最大トルク:140N・m/8,000rpm ■ミッション:6速 ■乾燥重量:189kg ■シート高:835mm ■ホイールベース:1,497mm±15mm ■サスペンション:前WP APEX48、後WP APEX Monoshock ■ブレーキ:前2xBrembo Stylema Monobloc four piston、radially mounted caliper、brake disc φ320mm、後Brembo two piston、fixed caliper、brake disc φ240mm ■タイヤ:前120/70ZR17 後200/55ZR17 ■燃料タンク容量:16リットル
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