かつてはビッグバイクというとセンヒャク、つまり1100ccというのがお約束だった。
そんな中、カワサキNinja1000が1100ccとなって登場。
排気量アップは1043ccから1098cc、だから55cc──、
たった5%アップで、バイクの性格ってかなり変わるのだ。
- ■試乗・文:中村浩史 ■写真:赤松孝
- ■協力:カワサキモータースジャパン https://www.kawasaki-motors.com/ja-jp/
- ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、クシタニ https://www.kushitani.co.jp/
かつてはイレブン(=XS1100)、GSX1100SカタナにCB1100R、Z1100Rと、ビッグバイク、オーバーナナハンといえば1100cc=センヒャクがお決まりでした。
それがビッグバイクのレース、つまりTT-F1やスーパーバイクのべースモデルが1000ccと規定されたころから、1100ccって排気量のモデルがなくなり始めましたね。それまではTT-F1は750cc規定でしたから、1100ccと共通化するわけにはいかないから別モデルを仕立てるけれど、1000ccと1100ccならば、なにも別物を作るまでもない、という判断だったのでしょう。
ホンダはCBR1000FからCBR1000シリーズ、ヤマハはFZR1000からYZF-R1、スズキは水冷GSX-R1000、そしてカワサキはZX-10R。ホンダはCBR11000XXってセンヒャクがあって、それがキャブレターからインジェクションへの進化はあったものの、継続モデルにはなりませんでした。そしてビッグバイクといえば、カワサキZZ-R1400やZX14R、スズキはGSX1300Rハヤブサと、一気にセンヒャクを超えちゃいました。
これは、スーパースポーツである1000ccのエンジンをベースに、出力特性をスーパースポーツときちんと区別できるから。そうすれば、わざわざ1100ccの新エンジンを開発しなくて済みますからね。だからCB1000Rも水冷カタナもMT-10もNinjaも1000ccだというわけです。
けれど、2025年にデビューしたニューNinjaは1000ccエンジンをスープアップして1100ccでデビューしました。Ninja 1100SX、このカテゴリーのスポーツ&ツーリングモデルがセンヒャクとなったの、久しぶりです。
そのセンヒャクとなったNinja、パッと見はほとんどかわっていません。パッと見どころか、車体サイズも変わらず、車両重量すら同じ。排気量は1043ccから1098ccとなって、55ccしか変わっていません。
ですが、もちろん出力特性が変わっています。最高出力は141PSから136PSにダウン、最大トルクは11.3kg-mから11.5kg-mにアップ。どちらも発生回転数が下がって、つまり「回さなくても力強い」エンジンになっているわけです。141PSから136PSのパワーダウンが誰もが体感できるとは思えませんしね。使う回転数が下がると、当然のように燃費だってよくなりますしね。カタログデータにもそこは明記されています。
先代のNinja 1000SXは、重量級のツーリングバイク然としていながら、ガッチリ速いバイクでした。兄弟モデルZ1000と共通のエンジンで、その出力はZ1000もNinja 1000SXも、実に141ps/10000rpm。1万回転も回るし、回すと4000rpmあたりを境にギュイイイインと力を出してくる。もちろん、6速120km/hでのんびり走るなんてことも軽々とこなすんだけれど、とにかく速い! 力あるなぁ! って印象のモデルだったのです。
それがセンヒャクとなったNinja 1100SXは、ずいぶんと穏やかになった印象です。もちろん、穏やかになったとはいえ、そこは136PSを発揮する並列4気筒、回転を上げると速いんだけれど、そこに至るまでの力の出し具合が穏やかになった感じです。
アクセルの開け始めの回転域は力強く、力が盛り上がってくる回転域までが急激な盛り上がりなく、1000SXよりもフラットにトルクが立ち上がる感じで、神経質でなく車体を前に進める力があるような力の出方なのです。
たとえば250ccと400cc、400ccと600cc、600ccと750ccのような関係性。もちろん、車名が1000SXから1100SXとなったからといって、その排気量差は100ccあるわけではない55cc差でしかないのに、力の出方はずいぶん違うものになっているんです。
走行フィーリングは、今回の試乗モデルがリアサスにオーリンズを使用している1100SX SEだけに、やっぱり市販車レベルより段違いに乗り心地がいい。Ninja 1100SXのノーマルサスに試乗したわけではないけれど、オーリンズがついているのを知らずに乗ったって、この乗り心地はすぐに分かる。バネの圧側と伸び側、それを減衰するダンパーの出来が違うことは、なにもサーキットで速くなったり、調整範囲が広くなったりというだけではなく、乗り心地からして違いますからね。
さらにSEは、ブレンボ製キャリパーにステンメッシュブレーキホースも標準装備です。
Ninja 1100SXの得意なステージである高速道路をつないで伊豆のワインディングをぐるりと一周、500kmほど試乗してきました。高速道路では、シフトアップ&ダウンともOKのクイックシフトを使ってトップギア6速に入れて、クルーズコントロールをONにしてのーんびり。高速道路の一部に許されている120km/h区間が待ち遠しいね、このときのエンジン回転数は5000rpm弱。風圧なんかほとんど感じないけれど、スクリーンは4段階に角度可変。いちばん立てた状態にすると、小雨も上体にほとんど当たらない。
とにかくピシッとした直進安定性があるバイクで、すごく快適に距離を稼げる、という印象が一番大きい。けれど、いざワインディングに足を踏み入れると、ライダー込み300kgオーバーの決して軽やかではない車体は、安定感たっぷりに次々とコーナーをクリアするタイプです。もちろん、ワインディングをスパスパと走り抜けたいならば、Ninja ZX-10Rか、ちょっと手に負えないならばNinja ZX-6R、もっと身近にNinja ZX-4Rのほうが気持ちよく走れると思うけれど、ワインディングにたどり着くのが快適なことを考え合わせると、Ninja 1100SXはかなり最適解に近いのだと思います。
スタイリングは変わらなくとも、排気量が上がって力の出方が楽に、快適になったNinja 1100SX。もちろん、ツーリングモデルらしく、ETC車載器、グリップヒーター、GPS機能付きドライブレコーダーも標準装備。こういうモデルチェンジのことを正常進化と呼ぶのです。
(試乗・文:中村浩史、撮影:赤松 孝)
■エンジン種類:水冷4ストローク並列4気筒DOHC 4バルブ ■総排気量:1,098cm3 ■ボア×ストローク:77.0mm×59.0mm ■圧縮比:11.8 ■最高出力:100kW(136PS)/9,000rpm ■最大トルク:113N・m(11.5kgf・m)/7,600rpm ■全長×全幅×全高:2,100mm×805mm×1,190mm(1,225mm ※ハイポジション時) ■ホイールベース:1,440mm ■最低地上高:135mm ■シート高:820mm ■車両重量:235kg ■燃料タンク容量:19L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70ZR17M/C (58W)・190/50ZR17M/C (73W) ■ブレーキ(前・後):ダブルディスク・シングルディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:エメラルドブレイズドグリーン × メタリックディアブロブラック ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):1,980,000円
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