名門ベネリの名前をひっさげ、50年代スタイルのルックスを纏った「インペリアーレ」は、350~400cc近辺のシングルという激戦区に投入された。その魅力とは? 他社との違いは? 去年の外国車試乗会の場でスタッフさんと話し、「のんびりした良いバイクですよ」「排気量の少しの余裕が効いてますよ」と聞いていたため、1年越しで実現した試乗を楽しんだ。
- ■試乗・文:ノア セレン 撮影:渕本智信
- ■協力:プロト https://www.plotonline.com/benellimotorcycle/
- ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html カドヤ https://ekadoya.com/ アルパインスターズ https://www.instagram.com/alpinestarsjapan/
色んなシングルがあるんだな
このクラスは激戦区、と最初に書いたが、シングルという最もシンプルなエンジン形式ゆえトライアンフやKTM含めこのクラスにシングルは多い。ただ、そういったパフォーマンス系のシングルだけでなく、ホンダのGB350やロイヤルエンフィールドのハンター系のように低回転を楽しむ、ある種実用的なシングルも特にアジアやインド市場では大変に人気で、日本でも市民権を得ている。
そんなテイスティ系に分類されるちょっとしたレア車がこの「インペリアーレ」だ。こういったモデルは決して速くはないし、スポーツの観点で評価もしにくい。要は何が正解かわからず、シンプルに「フィーリング」で語られることが多い。そんな曖昧な部類のインペリアーレ、販売をしているプロトさんスタッフに聞くとのんびりした答えが返ってくるのが面白い。曰く「普通のバイクですよ」「燃費がイイですよ」「少し排気量が大きい分、荷物の積載やタンデムにちょっと余裕がありますかね」。……強いアピールをしてこないところが面白く、同時に何だか期待させてくれた。というのも、こういった性格のバイクでことさら強烈にアピールすることなど無いのだ。乗ってごらん、感じてごらん、の世界なのだから。
これは……エストレヤ400ではないか!!
車両を前に得る印象は「大きいね」だった。スチールの前後フェンダーの重厚感や直立した大きなエンジンが作り出している堂々としたルックスのおかげか、ドシッと大柄に見えてGB350やハンターよりもちょっとハードルも高そうな印象……だったのだが、跨ると逆にコンパクトに感じるから不思議だ。スペックを見比べてみるとGB350に対しむしろちょっと小さいぐらいで、かつシート高はこちらの方が20mm低いことが分かった。
クラシカルなメーター内には液晶で燃料計や時計、ギアポジなどもあってルックスのクラシカルさとは対照的にモダンな感覚で接することができる。全体的にヤマハのSRチックな雰囲気があるためなぜか自然とキックペダルを探していたが、始動はもちろんセルスターター式。苦も無くロングストロークシングルが目覚め、スットンスットンとのんびりしたアイドリングを打ってくれた。
クラッチを繋ぐと低い回転でも車体がスムーズにスットトと進んでいくのは排気量の余裕だけではなくクランクマスの大きさによるところも大きいと感じる。とても頼もしい力感で加速してくれ、その様はこのクラスが持つ実用車的な雰囲気も強い。次々とシフトアップしていくと50km/hほどでトップの5速に入り、そこからはオートマ感覚でどこまでもトコトコ走れる。
このロングストロークエンジンのフィーリングはカワサキのエストレヤを思い出させてくれた。エストレヤはモデル末期には各種規制の関係でフィーリングが薄れていた部分もあったが、特に初期の頃は本当にスットンスットンと気持ちの良いバイクだった。あの気持ち良さを400ccクラスで再現したかのようなのがこのインペリアーレ。排気量が大きいぶん更なる余裕をもち、かつ変な振動や雑味をライダーに伝えることなく、さらに全回転域で常に安定した出力特性を維持し、どこまでもスットンスットンと走るのだ。あぁなんて気持ちが良いのだろう!!
マニアックな話をすれば、ラバーマウントされたエンジンやツインプラグによる良好な燃焼といった話になるのだろうけれど、もうそんなことはどうでもいい。ホンダともエンフィールドとも違った独自の気持ち良さがあるし、さらに良かったのは高回転域のナチュラルな頭打ち感だった。テイスティ系シングルは低回転域を重視するあまり高回転域はわりと唐突にレブリミットを迎え、それが時として気持ち良さに水を差したりすることもあるのだが、インペリアーレはレッドゾーン入り口の6000RPM辺りで自然な頭打ちを訴え始め、苦しくなってきたかな?とライダーが感じてから7000RPMでナチュラルにレブリミッターが効く設定。このおかげでちょっと元気に走りたい時に「そういうバイクではありませんから」と拒絶される感じがないし、頭打ちが自然だからこそバイクとの一体感がより高いとも感じられたのだった。
19インチの操舵性とバンク角
車体の方は200kgを超えているため決して軽いバイクではないのだが、重心が低く取り回しでは苦がないうえ、走っていると特にこういったバイクは軽ければ良いってものでもないな、とも感じさせてくれた。19インチのフロントタイヤに車体の重さを預け、グイーンとコーナリングするのはオンザレール感がありむしろ安心できる部分もあったし、意外やバンク角も少なくはないためワインディングでバイクを翻してコーナーを楽しむのも気持ちが良い。もっとも、基本性格としてスポーツバイクではないし、リアサスのストロークも少なめのため、限界が高いというわけではない。あくまでこういったクラシカルなモデルを楽しむ、という意味で良い塩梅である、という話だ。
リアブレーキが良く効く上にコントローラブルなのも安心感が高いが、対してフロントブレーキは強く効く部類ではないため、積極的に走りたい人はパッドを変えるなどしても良いかもしれない。しかしそんなバランスもまたインペリアーレの性格そのもののような気がする。
サスペンションについてはシンプルな構成となっていて特筆することはないのだが、それも含めて絶妙なバランスで成り立ってるんだな、と感じさせてくれた。必要にして十分、それでいて気持ちよくかつテイスティなのだ。
実用車としての魅力
GB350やハンター系が活躍する主要市場であるインドでは、バイクはまだまだ実用車的な使われ方も多いようで、こういったモデルは「使える性能」も求められているところ。インペリアーレもまたそういった面を持っている。ポジションは堂々としており、ワイドなハンドルは車体を扱うのに具合が良いし、シートは非常に快適で長距離も得意なことだろう。タンデムシートはちょっとスリムな気もするがグラブバーなどが充実しているためタンデムや荷物の積載も自由度が高いし、フェンダーを支えるステーが振り分けバッグの装着なども容易にしてくれるはず。
性能面でも付き合いやすさがあると感じる。先述した多機能メーターやラバーマウントエンジンもそうだが、加えてWMTCモードで32km/Lを超える燃費もまた魅力だし、GB350Cと全く同じ66万8800円という価格も見逃せない。あらゆる面で良きバランス感覚を持っていると感じるのだ。
他と違うものがいいけど、「良いモノ」が欲しい
このクラスはライバルも多いわけだが、ではこのインペリアーレを誰に薦めようか。やはり「他とは違うもの」を求めている人がメインだろう。ライバル車種も多い中なんとなくインペリアーレにしようかな? とはならず、やはり「敢えて」選ぶ車種のはず。ベネリというイタリアのブランドであったり、他にはない重厚感であったりと乗る前から特別感はあるわけだが、しかし乗っても非常に魅力的であることが確認できたのが嬉しい。
見た目は面白いが乗ったら期待外れ、ではいけない。その点、今回のインペリアーレ試乗は「乗ってみたら期待以上だった」という結果である。試乗する機会があればぜひ試してみて欲しいし、ベネリではミーティングなどユーザーイベントを開催しているのもまた魅力的だ。
スタッフさんの控えめなアピールに代わってここで声を大にして発信したい。「これは魅力的だぞ!」と。
オマケ私見
ベネリと言えばイタリアの名門。しかし今のベネリは他の多くのバイクがそうなっているように中国で生産されている。そしてよく見ると、その生産を担当しているのは先のモーターサイクルショーにおいて大きなブースで多種多様なモデルをアピールし日本上陸を果たしたQJモーターなのだ。あの勢いはなかなかのもので、様々な車種展開に今後の期待が高まる。そんなQJモーター、あのハーレーのX350及びX500を作っていることでも知られており、筆者はこれらモデルが本当に良くできていると思うし大好きなのはコチラでも読んでいただきたい。
今回のインペリアーレも、Xシリーズも、特別突き抜けた何かを持っているという類のバイクではないのだが、どちらも良いバランスで成り立っていて付き合いやすいうえに、注文をつけたくなるような部分がないというのが筆者の印象。よって日本上陸したてのQJに対してもとても良い印象を持っているのと同時に今後が楽しみなのである。
■エンジン種類:空冷4ストローク単気筒SOHC2バルブ ■総排気量:374cm3 ■ボア×ストローク:72.7×90.0mm ■圧縮比:8.5 ■最高出力:15.5kW/5,500rpm ■最大トルク:29N・m/4,500rpm ■全長×全幅×全高:2.170×820×1,120mm ■ホイールベース:1,440mm ■シート高:780mm ■車両重量:205kg ■燃料タンク容量:12L ■変速機形式:常時噛合式5段リターン ■タイヤ(前・後):100/90-19・130/80-118 ■ブレーキ(前・後):油圧式シングルディスク・油圧式シングルディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:シルバー、ブラック ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):668,800円