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最高峰MotoGP参戦を開始した小椋 藍(Trackhouse MotoGP Team / Aprilia)は、タイ・ブリラムのチャーンインターナショナルサーキットで開幕を迎えた。レースウィークで22万4634人が観戦に訪れたという。かつてのチームメイトであるタイ出身のソムキャット・チャントラの人気がすさまじいが、小椋人気も高く小椋の活躍は観客を熱狂させた。

■文:佐藤洋美 ■写真提供:トラックハウス

 昨年のMoto2クラスチャンピオンとなりMotoGPへ昇格した小椋はシーズン前に「MotoGPクラスではビリになる可能性だってある」と語っていた(小椋 藍「新たなる旅立ち」参照)。小椋が危惧するように最高峰クラスは別次元の戦いだ。

 小椋はプレテストでは11番手タイムで終えた。開幕戦の金曜午前の練習走行から6番手タイム。午後の公式プラクティスセッションでは9番手を記録して上位選手12名が争うQ2進出する。ルーキーが進出するだけで、かなりすごいのだが、Q2では5番手タイムを記録して注目度を上げた。
 そして、スプリントでは4位でゴールした。スプリントの最初から最後まで、2022年・2023年のMotoGPチャンピオンであるペコ・バニャイア(Ducati Lenovo Team)の後ろにつける快走だった。驚きと共に小椋への期待は大きくなる。だが、スプリントの周回数は短く、決勝では最後までもたないのではないだろうかという意地悪な見方もなくはなかった。

#小椋 藍
※すべての写真は、クリックすると違う写真を見ることが出来ます。

 決勝レースは今年からドゥカティのファクトリーチームに移籍したマルク・マルケス(Ducati Lenovo Team)が優勝。2位は弟のアレックス・マルケス(Gresini Racing MotoGP/Ducati)、3位はバニャイアでドゥカティ勢が表彰台を独占した。

 そして、小椋は4位のフランコ・モルビデリ選手(Pertamina Enduro VR46 Racing Team/Ducati)に次いで5位に入った。最後まで集中力を切らすことのない堂々としたレース結果に世界中のMotoGPファンが驚いた。小椋には悪いが、ここまでの好成績を誰も予想はしていなかったのではないだろうか。チームマネージャーのダビデ・ブリビオも「初年度はMotoGPの走り方について学んでほしい」と言っていた。熱烈な小椋ファンでも「無事に完走出来れば上出来だ。ポイント圏内の15位に入れば最高だ」と考えていた。
 シーズンオフのチャンピオン報告会で「MotoGPは走り出すまでの行程が多くて、それを覚えるのが大変だ」と苦笑していた小椋が開幕戦でここまでの走りをしたことは驚き以外の何ものでもなく、小椋のポテンシャルの高さを示すことになった。観客だけでなく、チームスタッフも、関係者も興奮を隠せなかった。

#小椋 藍
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 好成績を残した小椋に開幕戦のことを訊いた。
──みんなが驚く活躍で現地でのインタビュアーの興奮と、冷静な小椋選手の対比はとても興味深いものでした。レース後にチームスタッフが「小椋は魔法使いだ」と好成績を讃えたことをインタビュアーが「どんな魔法を使ったの?」と聞くシーンがありました。その答えが、とても素敵でした。なんと答えたのか教えてもらえますか?


「僕は魔法使いじゃない。特別なことは何もない。魔法があるとしたらチームワークだって…………」

──チームワークのために心がけたことはありますか?


「Moto3でもMoto2でも初めてのチームで走り始める時は、自分のポテンシャルを示して可能性を感じてもらうことが大事だと思っています。それを感じてもらえないとチームはうまく回らない。なるべく早くに示すことが必要で、テストの時からタイムアタックの取り組み方やタイヤマネージメントの課題などに向き合い真剣に頑張った。頑張っただけチームとの信頼が増す。なので、今回もそういった意味ではテストから良いチームワークが出来て行ったと思います」

──開幕前のテストで420周をクリアしてテスト参加ライダーの中でも多くの周回をこなして準備されたようですが、初めてのMotoGPなので、トライしたいことも多く時間が足りないと感じたことはありましたか?


「与えられた時間に限りがあるのは仕方がありません。その中でやることをやったと思うので時間が足りないとは思わなかったですね」

#小椋 藍

──レースウィークはMotoGPライダーとなったことで撮影やレース以外の忙しさもあったと思いますが。


「そんなに大変ではなかったですよ。ネガティブになる要素はなかった」

──開幕戦の目標は、どれくらいを想定していましたか?


「レースをやる以上、結果は残したかったですが具体的な数字はなく、チームも自分も高い数字を求めてはいなかった。チームからも何も言われていませんでした。だから、期待も不安もなくレースウィークのひとつひとつの走行で、Q1を走り、Q2を決めて、次の走行のために準備をして、その場その場のセッションで出来ることをやって進んで行っただけです」

──レースは37℃を超える酷暑となり、暑さに強い小椋選手に有利だったという声もありましたが?


「そうですね。暑さには他のライダーに比べて強いのかも知れないですね。アジアタレントカップからアジアのレース経験が多いので…………。スプリントは短い周回数ですが、決勝レースは倍の周回数で暑さにやられたとパドックで話しているライダーもいましたが自分は大丈夫でした。音を上げずに最後まで頑張って良かったです」

──多くのライダーがフロントをミディアムタイヤの中で、小椋選手がソフトを選択したのは冒険のようにも思いましたが、灼熱のコンデションでもタイヤマネージメント能力を発揮したことが快走の理由でしょうか?


「自分にとって、あの選択は正解だったと思います。好みの問題ではありますが、最後までマネージメント出来ると思って選び、走り切ることが出来ました」

#小椋 藍
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──レースは長く感じましたか?


「長かったですね。途中はバトルもなく、前とのギャップも変らずで、中盤がきつかったですがチェッカーを受けた時はレースウィークを通してやり切ったと思えました。排気量が上がり、周回数も多くマシンもタイヤも変わった緒戦でスプリントの13周、決勝の26周を良いポジションで走り切ったことは、とても良かったと思います。今後に生きて来る結果を残せたと思います」

──この結果にみんなが驚きましたが。


「自分も驚きました。チームも予想を上回る結果だと喜んでくれました」

──バニャイア選手から多くを学んだと聞きましたが。


「彼はタイムアタックでもレースでも正解が多いライダーだと感じます。ミスが少なく、問題を抱えていたとしてもリスクの少ない走りが出来る。とてもスムーズで、必要な力を必要なところで使う。それをとても高いレベルで行っている。それを後ろで見ることが出来たのは良い経験でした。もちろん、決勝ではモルビデリ選手からも多くを学ばせてもらいました」

──開幕戦の好成績で期待値が上がってしまいました。


「期待してもらえるのは嬉しいことですが、あまり気にせずにいたいと思います。今はルーキーでマシンもタイヤもわかって来たかなという段階で、わかっていないからこそのアドバンテージがあるのだと思います。ノリノリで行ってしまえというような……。でも、わかった上での難しさが、きっとある。突破しなければならないことがあると思います。ここから、シーズン中盤戦をどう乗り切れるのかが重要だと思っています」

#小椋 藍
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──ドゥカティに勝てますか?


「自分の前にも後ろにもドゥカティを駆るライダーがいました。ドゥカティということではなく、あの上位の3人のライダーがすごいのだと思います。どんな状況でも継続して、あの走りを毎戦出来ることは並大抵のことではない。ドゥカティに勝つということではなく、あのライダーたちに勝つことが出来るのかということだと思っています。それは、Aprilia Racingのホルヘ・マルティンやマルコ・ベッツェッキも同じで、そこにライダーとして取り組んで行くということだと思います」

──次戦のアルゼンチンは?


「Moto2で走ったのは2023年が最後です。MotoGPでは初めてです。これから、MotoGPで初めてのサーキットばかりですから走ってみないとなんとも言えない」

──アルゼンチンも暑いようですが。


「タイほどではないので暑さに強いことがアドバンテージになるかはわからないです。大きなことを言った方がいいのかも知れないけど、言おうと思えば言えるけど……。やっぱり事実しか言えないので頑張るとしか言えないです」

#小椋 藍

 小椋はマルク・マルケスに話しかけられて「嬉しかった」と言う。マルケスだけでなく、他のMotoGPライダーも声をかけてくれ「MotoGPライダーだと認められたようで嬉しかった」と言った。
 今回の開幕戦に「自分で点数をつけると何点?」と聞くと「100点でいいですよね」と答えた。皆は「100点以上だと思っているはず。120点、200点かも知れない」と伝えた。 
 最後の質問で「楽しかったですか?」と聞いたら「楽しかったです」と弾んだ声が返って来た。
 ネットの記事で「MotoGPなんて簡単だ」というコメントを見たと伝えると「怖いですね。そんなこと言っていないし簡単なんかじゃない。否定しておいて下さい」と頼まれた。

 最高峰クラスMotoGPで日本人ライダーが勝ったのは2004年の玉田 誠(Honda)が最後だ。重圧を与えるつもりはないが、それを期待させるだけのライディングを小椋は開幕戦で見せてくれた。
 第2戦アルゼンチンGPは、3月16日に開催される。
(■文:佐藤洋美 ■写真提供:トラックハウス)

#小椋 藍


[『小椋 藍 新たなる旅立ち』へ]

2025/03/12掲載