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グランプリ出版から、『ホンダ ドリームCB400FOUR CB400Fを哲学する──魅力の根源を探る』が発売されました。この書籍は、ジャーナリストや作家ではなく、CB400FOURを愛する一ユーザーが執筆しました。しかも540ページというとてつもない情報量です。この本がどのような経緯で出版に至ることができたのかを、著者の入江一徳(いりえ かずのり)さんにお聞きしました。

■取材・文:高山正之

自費出版から始まった道のり

Q: 出版おめでとうございます。一車種でこの情報量はけた違いですね。一人でここまで取材するには、さまざまな困難があったと思います。その一端をお聞かせください。


「私は、22歳の時にヨンフォアと出会いました。その後仕事の都合などもあり手放していたのですが、縁あって再び購入することができました。とにかくヨンフォアの魅力にはまってしまいましたので、あれこれ調べているうちに一冊の本にまとめてみたいと。今から6年前の2018年から執筆を開始しました。構想期間を含めると10年ぐらいかかりました。執筆を開始したころは会社員として働いていました。2年半くらいかかり、2021年に自費出版という形で25冊作りました」

CB400F Interview
CB400FOURと27歳の入江さん(1984年)。

CB400F Interview
2024年10月、67歳の近影。
CB400F Interview
25冊作った自費出版『CB400F論』。この本が今回の原案となった。

Q:自費出版で、ある程度願いは叶ったのでしょうか。


「自分が惚れ込んだヨンフォアの成り立ちとか、開発者の方々の証言が形にできましたので、正直これが最初で最後かなと思いました。自費出版ですから、それなりに費用も掛かりました。協力いただいた方々に贈呈してお話を伺いますと、他に読みたい人もいるんじゃないのか、というアドバイスをいただきました。確かにヨンフォアの熱心なファンは沢山います」

Q:入江さんは出版業界とは縁のない人ですから、どのようにして出版という壁を突破したのでしょう。


「自費出版後に協力者の感想もお聞きして、なんとか商業出版ができないかなと思い立ちました。今の時代、紙離れと言われていますし、出版業界として大変な時代に突入していることは承知していましたし、相当ハードルは高いという認識はありました。ヨンフォアの知名度は高いので、二輪車の専門書を扱っている三樹書房社長の小林さんに直談判したのです。まあ、無鉄砲にもほどがあるんですけれども」

Q:小林さんの反応はどうだったのでしょう。


「とても真摯に受け取っていただいたと感じました。その後、3ヶ月か4ヶ月ぐらい経ってから、このままでは出せないと言われたのです。その時は、自費出版と商業出版のレベルの違いを実感しました。でも、小林さんが感じたことをレポートにまとめてくれたのです。そのアドバイスに基づいて、丸2年修正も含めて書き直しました。2023年12月、2年間かけて改訂版を3冊ほど作り、再び小林さんの会社を訪ねました。もう一度読んでいただきたいと」

Q:小林さんの2度目の反応は。


「年が明けまして、2024年の1月ころに再び訪問しました。小林さん自身も読んでくださり、他にも数名査読をしてくださったそうです。結論から言いますと、出版に向けてスタートしようというありがたい言葉でした。私としてはもうそれだけで念願が叶ったという感じでした」

Q:その後はとんとん拍子で進んだのでしょうか。


「いや、査読していただいた人たちから、もっと読みやすい漢字にしてほしいとか、もっと鮮明な写真にしようとか、多くの人たちが手に取ってくださるような本に向けて沢山の注文がつきました。そんな中、嬉しい出来事がありました。ヨンフォアのカタログの写真撮影をされたカメラマンの方から、三樹書房さんあてに当時の写真素材を提供いただいたのです。今回の本の表紙は、その写真の中から選んだのです。そして、ヨンフォアのデザイナー佐藤允弥(さとう まさひろ)さんが描かれたイメージスケッチを入手できました。このスケッチが世に出るのは初めてだと思います。偶然にも、この本の出版を後押ししてくれるような出来事があったのです」

Q:この本には、開発者の貴重な証言も数多く記載されています。すでにお亡くなりになった方もいらっしゃいますから、とても難しい取材だったと思います。


「そうですね。デザイナーの佐藤さんについては、奥様から貴重な資料を見せていただいたり、コロナ禍で直接お会いできない方には、お手紙や録音された証言を基に書き加えることができました。皆さん、ヨンフォアにかけた情熱は半端ないと思いました。開発者の皆さんにお聞きできたことは、私にとっては宝物です」

CB400F Interview
ホンダコレクションホールの取材で、初号機のCB400FOURと対面(2022年)。

ミスターバイクBGは貴重な資料

Q:さまざまな本も参照されたようですね。


「ヨンフォアの記事や写真が載っている本やパーツリスト、WEB記事、映画など、ありとあらゆるものを確認しました。中でも、ミスターバイクBGの特集企画号は大切に保管しています。ミスターバイクBGは、私にとってはバイブルのようなものですから、創刊号から読んでいます」

CB400F Interview
CB400F Interview
今でも大切にしているミスターバイクBGのヨンフォア特集号。

Q: 67歳で執筆者デビューとなったお気持ちをお聞かせください。


「人生には浮き沈みというのがあろうかと思いますが、退職した時には完全に沈んだ状態でした。これは個人的な話になりますが、もう全てやり尽くしたというくらい。高度経済成長時代の中で数字に追われてきた典型的な人間ですから、もういいやと。あとは健康管理しながら。ぼちぼちやっていこうかなと。そして、仕事をやりながら執筆してきた自費出版が完成して、ある程度満足を得ました。すでに話しましたが、この本が契機となりもっと高みを目指そうという気持ちが湧いてきたのです。小林さんからダメ出しされたときに諦めていたら、今日こうして本を持つことはなかったでしょう。やっぱり待つべきは待ち、耐えるべきは諦めずにいることがとても大事なことだと、改めて知った感じです。そうすると、偶然の出会いなど追い風が吹く時があるのです。CB400FOUR誕生50周年の年に出版できることは、私にとっては奇跡です。三樹書房社長でグランプリ出版会長の小林謙一さんと、グランプリ出版社長の山田国光さんには感謝しきれません。そして、取材やアドバイスでご協力いただいた方々にお礼申しあげます。一人でも多くのヨンフォアファンに読んでいただけたらこんな幸せはありません」

CB400F Interview
Honda青山ビルにて、入江一徳さんとCB400FOURの書籍。

 入江さんは執念の人である。人から聞いた話やWEBで紹介された話などは信用しない。すべては自分が確信を持てるまで調べ尽くす。そのうえで責任を持って書き尽くす。それがCB400FOURを開発し、生産から販売まで携わったすべての人たちに対する礼儀だと思っている。
 この本は、540ページという分厚い本であり、しかも税込み6,600円という高額な設定となっている。読むには相当の覚悟が必要と思うが、絶対に裏切らないと思う。本邦初公開といえる数々の内容がそれを証明してくれると思う。
 デジタルは手軽で速報性が高いが、書籍は50年後も存在してくれる。遠い話ではあるが、CB400FOURの100周年の年に再販されるかもしれない。書籍には、そんなロマンが宿っているようである。
(取材・文:高山正之)

書籍名 ホンダ ドリームCB400FOUR ──CB400Fを哲学する 魅力の根源を探る
著者 入江一徳
発行 グランプリ出版
発売日 2024年10月30日
価格 6,000円(税別)
グランプリ出版のホームページ https://grandprix-book.jp/

2024/11/11掲載