2月、イタリア大使館でDUCATI Team KAGAYAMAが参戦発表を行った。「黒船襲来」として、使用するバイクをSUZUKIからドゥカティに、ライダーは水野 涼。全日本ロードレースと「鈴鹿8耐」に参戦を表明した( https://mr-bike.jp/mb/archives/45256 )。鈴鹿8耐のラインナップは、水野 涼、ジョシュ・ウォータース、ハフィス・シャーリン。ドゥカティ・パニガーレV4Rファクトリーとしては世界初の耐久レースに挑む。挑戦者・加賀山就臣監督に訊いた。
「昨年、ドゥカティ・コルセに、チームカガヤマとしてドゥカティでレースをしたい、鈴鹿8耐に参戦したいという思いを伝えました。イタリア本社も、“それなら鈴鹿8耐も最高スペックで出てこい”と。8耐の提案に対して大きく動いてくれました。それは24時間耐久ではなく『鈴鹿8耐』であって、EWC選手権というよりも“鈴鹿8耐を獲りに行け”と、8耐をリスペクトしてくれていたことが自分としても凄く嬉しかった。鈴鹿8耐は、我々が長年かけて作り上げてきた伝統のあるレース、チームとしても参戦を続けてきた鈴鹿8耐を、特別視してくれたことに鼻が高かった」
日本のメーカーに真っ向勝負すると決め、その覚悟をもって準備にとりかかっていたという。
ドゥカティは、スプリントでは間違いなくチャンピオンマシン。性能もポテンシャルも最高スペックだが、ドゥカティ・コルセには耐久のためのパーツはなく、耐久マシンとして走り出すことすら出来ないのである。「チームカガヤマの経験値を活かして、作れるものは作ってほしい」ということで、イタリアのファクトリー内で、耐久に使えそうなパーツリストなど洗い出しの作業が行われた。
「耐久を見据えてパーツをチョイスしていく中、実際は8時間走り続けるテストというものができないので、シーズン開幕から全日本で使い続け、8時間の走行距離を走破してテストしていました。その中では、我々の経験値として、これは耐久にふさわしくないからチェンジしないといけないだろうと思ったパーツにやはり不具合が出たものもありました。ブレーキ周りも、耐久を見越して、ヨーロッパとは違うセットを使用し、問題が出ないかテストしていた」
そして一つひとつを吟味し、足らないものをチームカガヤマで作り直し、鈴鹿8耐テストに向かった。
「1回目(6月4〜5日)のテストはまだスプリント仕様の要素が大きかったが、2回目(6月19〜20日)のテストでは耐久パーツを投入して本番に近い状態、それでも水野はタイムを出してくれたので感触は良かった。問題点を本番までにアジャストし、戦略を練り直しています。あとはチーム側の仕事。8耐に向けて戦略をどう組むか、パーツの信頼性をどう保つか、燃費、ピットワーク、タイヤ交換のシステムがちゃんと機能していくかが我々の仕事」
2回目のテストで初お披露目となった、ピットワーク時のタイヤスタンドも、これまでのノウハウを活かした
チームオリジナルだ。
「イメージだけでいうと片持ちのスイングアームの方が楽にタイヤ交換できると思われそうだが、今の時代は両持ちスイングアームの方が速い。ドゥカティは、スプリントしかやっていないから、タイヤを速く交換するシステムが何もないの! だからメチャクチャ大変! 例えばホイールのセンターナットにしてもRピンを抜き差ししないといけない。そんなこと8耐のピットワークでできないでしょ!?」
リアタイヤ交換一つにしても、着脱の作業工程が耐久向けではないのだ。ピットストップを短時間で済ませるための様々なパーツの製作がチーム側で進められ、ナットひとつから、必ず平行に入るようなオリジナルの形状に作り直したという。リア周りも、アクスルシャフト、ナット、ホイールも替わっていて、実はスプリントとはかなりの変更点が加えられている。フロント周り、ヘッドライト、ワイヤーハーネス、ゼッケン、ガソリンタンクなどオリジナルで製作されて、8耐マシンの2割くらいはカガヤマパーツだという。
チームがテストを繰り返して、それを元にファクトリーでもパーツが試作されていった。
「ドゥカティ・コルセは耐久をやっていないから造るしかない。これで来年に向けてファクトリー製の耐久パーツが出来てくる。ドゥカティが耐久で勝つための開発テストである今回の8耐を戦って、詰められるところを洗い出していき、そしてメーカーにしか出来ないことを伝えていくのが我々の責務なんだよね」
ドゥカティ・コルセと、チームカガヤマのコラボによって今後のファクトリー耐久マシンが作り上げられる、これほど心踊ることはない。
ライダーの水野 涼は全日本で毎戦表彰台を獲得しており、鈴鹿は昨年の最終戦で2勝を上げている。ジョシュ・ウォータースはオーストラリア・スーパーバイクで3度のチャンピオンを獲得、8耐でも2014年には加賀山とともにヨシムラで2位表彰台を獲得している。ハフィス・シャーリンはアジアロードレース選手権で同じくパニガーレV4Rファクトリーを駆り、第2戦で優勝。MotoGPの経験もあり、昨年まではWSBKにも参戦。8耐はチームカガヤマでも参戦経験を持っている。
「ハフィスはMotoGPを経験して上位入賞するくらいのライダーだし、ジョシュは派手さはないがチャンピオンを獲得し実績を残しているライダーだよ」
実際、ライダーチョイスに関しては、噂通りGPライダーをも視野に入れていたのだが……。
「MotoGPライダーを呼ぶ計画もあったが、相手のスケジュール、MotoGP、WSBKのスケジュールの兼ね合いで、招聘することは出来なかった。現状の状況で、ドゥカティに乗っていて、一番良いチョイスなのがこの二人。人間性、スピード、それに2人ともオレがパートナーとして一緒に走ったことがあるからね。人間性も良く分かってる。ジョシュには長男をやってもらおうと思ってる。経験値も長く、成績もひととおり残してきている人間なので変な欲がなく、全体を見渡すことができるライダー。次男はハフィスだね。海外経験をして、スピードでは全く問題ない、暑さに対する体力が半端ないし、どんなバイクでも乗りこなしてくれる、それに人間性、ユーモアがあってチームを盛り上げてくれる。そしてやんちゃな三男が水野 涼だ。イケイケドンドンでやってもらおうかな、と。三兄弟で上手く背中を押し合ってくれるメンツを揃えたのが今年のラインナップだね」
ここでやんちゃな三男、水野 涼に、水野から見た2人と、初のドゥカティでの8耐参戦について思うところを訊いてみた。
「ハフィスは昨年のワールドスーパーバイクのミサノラウンドに代役参戦(MIEレーシング)したときのチームメイトだったのでお互い知る仲。キャラがいいのでチームの雰囲気を良くしてくれます。ジョシュは、エイドリアン(チームエンジニア)と昨年組んでいることもあり、チームスタッフとの信頼関係がありました。ジョシュとは初対面でしたが、経験豊富で加賀山さんと8耐を組んでいるし、ハフィスもチームカガヤマで走っているので、8耐にもチームにも慣れている2人、ソワソワしている感じもなくお互いチームカガヤマのメンバーという意識で最初から落ち着いて取り組めたのは良かったです」(水野)
なんなら、チームとしては水野 涼が一番ド新規である。
「1回目のテストでパウロ(チャバッティ。ドゥカティ・コルセのディレクター)さんが来てくれたことで、チームの士気的にも、ライダー的にも、この2年計画のプロジェクトの実感が湧き、気持ちが引き締まりました。テストは1回目も2回目も走り込みに専念ができ、タンクやライトが付いて車重が増しているなかで、5秒前半はけして悪くないタイム。このバイク走れば走るほどタイムが出るのだなと、良い手応えでした」(水野)
そして、走れば走るほどにドゥカティに対する理解が深まっていく様子。
「また、2台で走れたことにより、自分のバイクの動きをチームメイトから学ぶところがありました。自分が好んでなかったポジションでもアベレージが上がって、自分がネガティブに感じていたことがネガじゃなくなったことや、ライン取りに関しても新しい発見があった。チームメイトと走らないと分からなかったことです」(水野)
ジョシュも鈴鹿の自己ベストを更新していて、「涼と一緒に走ったことで新しい発見もあって良かった! ハッピーだ!」ととても上機嫌だった。
「決勝は、絶対勝ちにいきます! 狙います! というよりは、8耐はチームワークを築き上げたもの勝ちと思っています。今回のテストも、色々と手探りの中でチームが意気揚々とトライをしている雰囲気がとても良かったので、ライダー3人でさらに良いものにしていきたい。ですが、今年に関しては過去の経験が通じる部分が少なく、ドゥカティとしても走りきれるかという不安材料もあります。まずは日曜までバイクを壊したくない、転びたくないというのが一番にありますが、あとはなるようにしかならない。国内に限らず海外からも注目されている1戦なので、結果を求めつつ、ライダーとして強い部分を魅せられることができればと思っています」(水野)
水野はチーム全体を良い方向に進めつつ、そして8耐を通して世界に自らをアピールしたいという、当たり前に強い目的意識をもって挑んでいる。
そして本番を迎える直前、表向きと本心の両方をそのまま語る加賀山。
「我々はチャンピオン経験のある車両を持ってきた! 表彰台、優勝争いをするべく準備をしてきた。ライダー、マシンがちゃんと機能すればそのレベルで戦えると思っている。そのために準備をしてきた。ここまでは表向きのコメントだ」
「がしかし……35年間もトップカテゴリーで活動してきた人間としては、鈴鹿8耐はそんなに甘くない、耐久1年目の車両、チームワークとしてもそんな簡単に勝てるとは思っていない。不安50パー! イケる気持ち50パー! ライダー側の能力は分かっている。だからこそ、今はオートバイ、チーム側での不安を取り除くために一生懸命努力している。戦う相手はHRCやEWCの歴代のチャンピオン達。真っ向勝負するということは、コース上の戦いだけではない。
ドゥカティという看板を背負ってるプレッシャー、ファクトリー車を借りているというプレッシャーはある。だがドゥカティでは1年生、チャレンジャーという立場だ、スピード重視でチャレンジしていく。何位であろうと我々が初リザルトなのだから」
プレッシャーを楽しんでいる余裕はないというが、チーム力に裏付けされた自信と抜群のチームワークとチャレンジ精神で、加賀山は黒船の舵をとる。
鈴鹿8時間耐久レースの決勝は7月21日。
(文・写真:楠堂亜希)