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レース・イベント

こんな笑顔のためなら! まだまだやるぜパラモトライダー体験走行会
■文・写真:青山義明 ■協力:一般社団法人サイドスタンドプロジェクトhttps://ssp.ne.jp/




2023年9月10日(日)に、2回目となる「やるぜ! 箱根ターンパイク」を一般社団法人SSP(サイドスタンドプロジェクト)が開催した。前回と違って、初の単独開催であったが、ターンパイクを借り切って13名のパラモトライダーがその仲間たちと一緒に、大観山から小田原料金所まで降りて再び大観山まで上がるターンパイク本線往復のコースをそれぞれ2回ずつツーリングし、無事に成功裏に終わった。

 その興奮も冷めやらぬ中、早くも新たな参加者を集めてSSPが主催するパラモトライダー体験走行会が開催された。今回は会場は向ヶ丘自動車学校。会場はもちろん、この自動車学校の指導員らもボランティアスタッフとして参加して、5名のパラモトライダーのステップアップ練習が行われた。

 SSPは、バイクレース界のレジェンド『青木三兄弟』の三男・治親が代表理事を務める法人。1998年にGPマシンのテスト中の事故によって脊髄を損傷し、車いす生活を余儀なくされた元WGPライダーで、三兄弟の次男・拓磨に「もう一度バイクに乗ってもらおう」という企画を立案し、実際に拓磨がバイクに乗ることができた後、「この感動をもっと一般のライダーにも広めたい」と活動をスタート。バイク事故などによって障がいを負い、バイクを降りざるを得なくなってしまった方々をメインの対象とした『パラモトライダー体験走行会』というイベントを2020年6月から頻繁に開催している。

 その内容は、サーキットや自動車学校といったクローズのコースを使用して、バイクに再び乗ってみるという体験の機会を提供しているもの。基本的にヘルメットやグローブなどのライディングギアすべてはSSP側が用意。もちろん、使用する車両もSSPが用意するが、それぞれの障がいに合わせてバイクはカスタムすることとなる。下半身不随の参加者にはシフト操作を手元で行なえるハンドドライブユニットを搭載し、ステップは競技用自転車でも使われるビンディングのステップに変更し、足を固定。さらに太腿部をベルトで締めて下半身を固定させる。バイクの動き出しと停止のタイミングは、ボランティアスタッフが人力で支えることで、バイクの乗車体験が可能となる。視覚障がいを持つ参加者には、ヘルメットにインカムを装着し、スタッフが指示を出しながら走行の体験が可能である。そしてSSPでは、毎月のようにこの走行会を開催しているのだ。
 

それぞれの状態に合わせてバイクはカスタムされ体験できるようにしている。また、バイクに乗ることはもちろん、その乗車前に実際にバランスの取り方を確認するための補助輪付き自転車も用意している。

 
 今回は神奈川県川崎市にある向ヶ丘自動車学校に5名のパラモトライダーが集まった。月曜日は休校日となっていることから、この休校日を使っての走行会である。これまでパラモトライダー体験走行会では、参加者はレーシングスーツを着用してバイクに乗車していたが、今回、これを大きく変更し、KOMINEから提供されたプロテクターを着用することとなった。レーシングスーツの着用に対しては、身体の不随状況によっては着用が難しいといった状況もあった。また、脊椎損傷で体温調節が難しい参加者にとっては、真夏の体験走行会では身体への負担も大きく、7月の体験走行会ではツナギの上からファン付きのウエアを着用してもらうなど対策を講じてきている。そんな中で、サーキットでの本格的な走行でなく基本的な練習走行のプログラムであればプロテクターで代用が可能ではないかという検討もなされていた。そして今回KOMINEからの提供を受けたこともあって、全参加者はプロテクターを装着して体験走行を行うこととなった。

 

KOMINEからは、サイズも取りそろえた各種プロテクターが提供され、各参加者はこれを装着。これまではツナギの着用のため準備に時間がかかっていたこともあったが、その負担も大きく低減することができた。

 
 今回参加した5名のうち3名はパラモトライダー体験走行会初参加。いずれもバイクにまたがると自然と笑顔がこぼれてくる。特に昔ライダーだった、バイクを経験を持ちながら現在バイクに乗ることができない参加者ならその感動もひとしおであろう。その笑顔を見ているだけでこちらも幸せになるというもの。WEBミスター・バイクの読者の皆さんならわかるだろう。一度はあきらめたその世界を再び自分のものにできるかもしれない、という緊張と喜びが詰まった空間に、我々も一緒に居られることに素直に感動してしまう。
 

SSPでは常にボランティアスタッフも募集している(日当や交通費の支給はないが昼食は用意される)。朝イチにベテランスタッフからのレクチャーもあるので未経験でも問題はない。またボランティア活動証明書の発行もされる。

 
 今回KTM125デュークでの走行体験を行うのだが、最初はエンジンを掛けずにボランティアスタッフがバイクを押してくれるので、そこでバランスをとっていき、その後実際にエンジンを掛けて、自らの操作で教習所の直線部分を使って走行する。何かあった際にすぐにカバーできるよう、バイクが走行をするたびにボランティアスタッフが並走する。そして何度か直線を行ったり来たりしてそれぞれ50分ほどの走行を行っていく。この日も無事に転倒などのトラブルもなく、一日が終了した。走行を終えた参加者たちは口々に「早くステップアップしたい」とすでに次の参加を希望している。
(文・写真:青山義明)
 

今回3回目の参加となった松﨑 勇さん。脳性麻痺による下半身不随で足首が曲がってしまっていたりしていたが、今回はレーシングスーツからプロテクターに装備が変わったことでかなり動きやすくなった様子。「足は自分の靴で操作するよりもライディングブーツのほうが良いこともわかったり収穫が多かったです。その装備ひとつとってもボランティアスタッフの方がすぐにいろいろ対応してくれてうれしかった」と。

 

今回初参加の野島 弘さんは、44年前のバイク事故で脊椎損傷で完全な下肢麻痺の状態。現在は30年ほどチェアスキーを楽しんでいるという。昨年の「やるぜ!箱根ターンパイク」で知人も走っていたということで、自分も、と手を上げ、今回が初参加となった。「もっと普通に走れるつもりでいたけど、できなかった。バイクを走らせるのに慣れが必要ですね。でもこれからこの走行会に通って大型に乗ってコースを周回することを目標にしていきたい。やはり新しいことをやるのはうれしいです」という。

 

今回初参加となる赤澤賢一郎さんは、2000年にスノーボードの事故で脊椎を損傷。今回23年ぶりのバイク体験となった。「以前から知っていたんだけど、バイクで転倒したら怖いし、ということでなかなか参加に踏み切れなかったですが、聞くのとやるのとでは全然違いました。皆さんがサポートしてくれている、そのために自分のできることをやりたいという思いにもなりました」ということで、ライダーとして参加するだけでなく、このボランティアスタッフとしても参加したいということも明かしていた。

 

網膜色素変性症による視覚障害を持つ渡辺美知子さんも今回初参加。バイクについては若いころに一度タンデムで後ろに乗ったことがあったという。「怖かった」と語っていたが、今回、これを視覚障がい者ネットワークのメールで知り、参加することとなった。この直前には近畿日本ツーリストが主催する「視覚障がい者向け自動車運転体験」にも参加するなどアクティブに活動をしている。「今度は(直線ではなくて)カーブを走ってみたいですし、もっとスムーズにアクセル操作ができるようにライディングテクニックを習得したいです」という渡辺さんは「ヘルメットに入ってくる風を顔で受けてスピードを感じることができて本当に楽しかったです」と語ってくれた。

 

右半身麻痺の山辺 学さんは、今年1月のパラモトライダー体験走行会に参加。寒い中での走行だったので、もう少し暖かくなって身体が緩んだタイミングで走りたいということだったが、今回がその2回目の参加となった。前回は「乗れてよかった」というところだったが、今回は「疲れました」と。治親曰く、前回よりずいぶんと上達している、と。

 



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2023/11/10掲載