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“未来のMotoGPライダー”の登竜門とも言える『MiniGPジャパン』の最終戦(全5戦)が埼玉県のMotoUP桶川スポーツランドで行われた。これまで4戦8レースが行われ、そのうち3戦でダブルウインを達成した#10富樫虎太郎がシリーズチャンピオンに王手をかけ、レース1で7位以内に入ればタイトルが決まる。
レース1のグリッドを決める予選1では、#10富樫が41秒875でトップ。2番手に#04国立和玖の42秒136、3番手には#15松山遥希が42秒217となった。
レース2のグリッドが決まる予選2でも、#10富樫が41秒783でトップ、2番手には#08知識隼和が42秒002で続き、3番手に#15松山が42秒110、そして#04国立は42秒258で4番手となる。
レース1決勝は、#04国立が好スタートを決め#15松山、#10富樫が続いた。3コーナーで#15松山が#04国立の前に出てトップに立つ。それを2番手に#04国立、3番手#10富樫、4番手に#08知識が追いトップグループを形成する。3周目には#10富樫が#04国立をパスして#15松山の背後に迫る。4周目、#15松山をパスした#10富樫がレースをリードしていく。#15松山は#10富樫を追う。#15松山は終盤に仕掛けて前に出るが、交わされ#10富樫がトップでチェッカーを受けシリーズチャンピオンを決めた。#15松山は2位。3位争いは#04国立が#08知識とのバトルを制した。
レース2決勝、#04国立がホールショットを奪い、#10富樫、#08知識、#15松山が続く。#10富樫 は、#04国立をかわしてトップに立ち逃げ始める。#15松山は出遅れ、2番手に上がったが時すでに遅し。#10富樫が優勝してダブルウィンを飾った。#15松山は2位。3位争いは#04国立が#08知識とは0秒079差で3位となった。
全5戦、10レースの戦いを終え、タイトルを獲得したのは#10富樫、ランキング2位に#04国立、ランキング3位に#15松山となった。ランキング1位と2位は11月にスペイン・バレンシア開催される『MiniGPワールドファイナル』に日本代表として参戦する。
チャンピオン賞金の100万円、2位50万円、3位20万円は、「渡欧資金に充ててもらえたら」という主催・運営するP-UP World代表取締役・中込正典社長からのプレゼントだ。開催当初はランキング3位までの枠だったが、開催国が増えたこともあり上位2名へと絞られた。
2022年から始まったMiniGPジャパンだが、昨年から富樫の速さは噂になっており参戦が熱望されていた。しかし元MotoGPライダーの中野真矢が率いる56レーシングに所属する富樫の参戦を中野は見送り、2年目に参戦に踏み切った。桶川スポーツランドをホームコースとする富樫にとって、5戦中2戦が桶川スポーツランドで開催されたのは有利だったのかも知れない。だが走行機会が少ないモビリティリゾートもてぎ北ショートコース、初開催の鈴鹿南コースでもダブルウィンを飾り、噂通りの速さを見せた。
最終戦には中野も駆けつけ熱戦を見守っていた。記者は中野に「おめでとうございます」と言葉をかけたが、「僕は何もしていませんよ」と微笑んだ。もちろん何もしていないことはなく、これまで何度も桶川スポーツランドの練習走行に付き添う姿が目撃されている。
富樫は「勝ってシリーズチャンピオンになれて、めちゃくちゃ嬉しいです。去年のバレンシアの映像は、毎日というくらい見ています。日本代表としてしっかり戦ってきます」と頼もしいコメントを残した。
ランキング2位に入った国立はMiniGP参戦2年目。語学堪能で、インターナショナルなキッズライダーとして注目を集めていた。昨年はタイトル争いを繰り広げる池上聖竜と松山に続くランキング3位となり、今季は2位へと浮上して世界大会への参戦権を獲得した。国立は「トップ争いが出来なかったことは悔しいけど、3位争いのバトルには勝てたこと。シリーズランキング2位になれたことは良かったと思う。ワールドシリーズに向けて、優勝出来るように頑張ります。MotoGPで世界1になる夢に近づきたい」と語った。
惜しくもランキング3位となった松山は、昨年ランキング2位になり世界大会への参戦権を得ながら、直前にケガをしてしまい参戦叶わずだった。今季に賭ける思いには強いものがあったはずだ。だが転倒ノーポイントが響いた。昨年のチャンピオン池上聖竜とのトップ争い、今季の富樫との争いと、その速さには定評があるだけに悔しいシーズンとなった。松山は「最終戦ではランキング2位になって、世界戦に参戦するために勝つことしか考えていませんでした。やれることはすべてやって、自分の力を出せたと思います」と顔を上げた。
アドバイザーの長島哲太は最終戦を戦い終えたライダーたちに「MiniGPも2年目になり、継続参戦してくれているライダーたちの成長は、タイムに表れている。ここで結果を残すことが目的ではなく、通過点でしかない。だから前を向いて、これからも頑張ってほしい」とエールを送った。
MiniGP参戦ライダーは10歳から14歳までであり、成長期の子供たちにとって、身長、体重増加はそのままハンデとなる。松山は13歳になり、昨年に比べ5~6kgは体重が増えた。小学生の富樫や国立と互角に戦い、それを言い訳としない姿勢は評価されるものだったに違いない。「来季のことは、まだ何も決まっていなが、MiniGPを卒業」とし、新たな活路を探そうとしていた。
オリジナルポケットバイク・74Daijiroの『大治郎カップ』出身の松山は、強いチャンピオンとして74ライダーたちの憧れのライダーだ。「今年は泣かない」と言っていたが、最後はあふれる涙を抑えることが出来ずにいた。「本当は毎回、泣いていたんだ」と言う。悔しいシーズンをバネに、長島氏が言うように、ここを通過点として強いライダーとなってほしいと、誰もが願っていた。
3位争いに負けてしまった知識も珍しく泣いていた。知識も急成長したライダーのひとりだ。全日本ライダーの若松怜の弟・汐は、いつも大粒の涙を流し、それにつられて隣のライダーも泣いてしまうという現象を引き起こしていた。「悔しくて、悔しくて泣いてしまうのだと言う。レース1後は11位で大泣きしていたけど、2レース目は10位で「泣いてないね。珍しいね」と声をかけると「だって、ひとつ順位が上がった」とVサインだった。参加ライダーたちは、自身の成長を課題として、それぞれのポジションで熱戦を繰り広げた。
残暑厳しく、太陽の陽射しが、ライダーたちの懸命なトライと、笑顔も泣き顔の喜怒哀楽の全てを強く照らしていた。
(レポート・写真:佐藤洋美)
※動画はコチラ
https://www.minigp.jp/(FIM MiniGPジャパン公式サイト)
FIM MiniGP
『FIM MiniGP』とは、10歳~14歳までのヤングライダーを対象に世界各地で開催され、マシンや競技規則、技術規則などを統一することで、世界中のヤングライダーたちに平等なプラットフォームを提供し、スキルアップとチャンスを与えることを目的としています。FIM MiniGP JAPAN Seriesは、5大会10戦に渡って行なわれるシリーズ戦。 年間ランキング上位の選手には、『MiniGP World Final』に参加する権利が与えられ、MiniGP World Finalの勝者には、次のステップとなる『Road to MotoGP』のプログラム選考会参加または、直接の参戦が提供されます。