ロイヤルエンフィールドが新型車「BULLET350」を発表した。人気の350シリーズに加わったニューモデルはいかなる存在なのか。ロイヤルエンフィールドの本拠地インド・チェンナイで行われた試乗会に参加し、「BULLET350」に試乗してきた感想を報告する
なぜいま、ロイヤルエンフィールドが「BULLET350(ブリット・サンゴーマル)」を新たにラインナップするのか。ロイヤルエンフィールド(以下RE)の本拠地であるインド・チェンナイで行われた国際試乗会の案内をもらったときは、理解できなかった。REは現在、クラシカルなスタイルの「CLASSIC350(クラシック)」、クルーザースタイルの「METEOR350(メテオ)」、そしてモダンなネイキッドスタイルの「HUNTER350(ハンター)」をラインナップしている。3モデルともに同じ排気量349cc空冷単気筒OHC2バルブエンジンとスチール製フレームを採用。外装や前後ホイール径、吸排気を変更し、スタイリングにおいてもパフォーマンスにおいても、各モデルのキャラクター分けがしっかり行われている。そしてなによりこの350シリーズは、日本はもちろんの事、世界各地で好調なセールスを記録し、現REブランドを牽引しているモデルなのだ。
「BULLET350」は、その人気モデル群に組み込まれる新型車だ。しかも「CLASSIC350」と同じクラシカルなスタイルを採用している。そもそもCLASSICは、BULLETシリーズのバリエーションモデルであったから当然だ。日本では、2020年に「METEOR350」に最初に搭載された、Jプラットフォームエンジンと呼ぶ、新型OHCエンジン搭載車両によってRE人気が高まったことから、METEOR の次ぎにJプラットフォームエンジンを搭載して人気が高まったCLASSIC350が現REのスタンダードモデルに見えてしまうが、BULLETこそがREの本流なのである。
BULLETがインドを拠点とする現REのスタンダードモデルになった理由はいくつかある。1950年代にインドで初めてREのノックダウンモデルが生産されたのがBULLETであったこと。1990年代半ばにインド・トラック大手のアイシャー・モータースの傘下となり経営立て直しに取りかかったとき、小排気量モデルを廃止しBULLETのみに生産を絞ったこと。インド北部の国境警備のためにインド軍がBULLETを採用したこと。BULLETに乗った多くのライダーが標高5000mを超える山々が連なるヒマラヤツーリングを敢行し、それによってインドにバイクカルチャーが成熟し、同時にツーリングカルチャーが広まったこと。そして日本ではBULLETシリーズが輸入されていない期間があったが、インドでは新型「BULLET350」発売直前まで、旧BULLET500がラインナップされていて、インドではいままで一度もBULLETがカタログ落ちしたことがないこと、など。発表会で、REのCEO/B・ゴビンダラヤンは、BULLETは、我々REが受け継ぐべきプライドでありレガシーである。そして新型「BULLET350」によってその新章の始まりを告げるに等しく、次世代にそのプライドやレガシーを継承するためのプロダクトである、と語った。
この新型「BULLET350」は、そんなインド人ライダーにとってのスタンダードモデルのフルモデルチェンジだったのである。試乗会参加時にインド人ジャーナリストに新型「BULLET350」について聞くと、インド人ライダーの意識の中に深く浸透しているモデルであるが故に、そのモデルチェンジは非常に危険で、REにとって大きなチャレンジだったと思う、と話していたほどだ。
そして、そのインド人ジャーナリストに新型「BULLET350」の印象を聞くと、紛れもなくBULLITだと答えた。その理由はいくつかある。
まずスタイリング。新型「BULLET350」は、プラットフォームだけでなく、多くの外装パーツも「CLASSIC350」と共有する。しかしポイントを抑えたBULLET化が効いている。REの車両開発の責任者であるマーク・ウェルズ曰く、ティアドロップ型燃料タンクと、そこにハンドペイントで描かれた大小セットの子持ちライン、ヘッドライトナセル、そしてベンチシートと呼ぶ一体型の段付きダブルシートが、BULLETの特徴的なディテールだという。新型「BULLET350」には、そのすべてが継承されていると同時に、そのベンチシートと車体を完璧にバランスさせるため、リアフェンダーの長さや形状を変更している。そのサイドシルエットを見れば、それは紛れもなくREが受け継いできたBULLETであることが分かるだろう。
次に、乗り味だ。開発責任者のマーク・ウェルズは、エンジン/FIのマッピング/エアクリーナーボックス/排気系、そのすべてはCLASSIC350と共通だと説明したが、その乗り味はCLASSIC350とは明らかに違っていた。
CLASSIC350をはじめとするRE350シリーズに搭載されるJプラットフォームエンジンは、それぞれのモデルに合わせて吸排気系に変更が加えられているが、それでも低中回転域の力強い爆発感が特徴で、その爆発に合わせて小気味よく加速していく。現在と未来の道路環境や、そこで求められる環境性能を考慮した最新の設計思想と、新しい素材や加工技術を駆使して開発されたエンジンであれば、たとえ空冷単気筒の349ccであってもこんなにも瑞々しく、力強い個性とパフォーマンスを発揮できるのかと感心させられる。
しかし新型「BULLET350」は、その瑞々しい粒々の爆発感が和らぎ、どちらかというとシットリとした低中回転域であった。ちょっと悪い言葉で書くと“ダルい”感じ。スピードが乗る中高回転域での感覚は他のJプラットフォームエンジンと変わらず、120km/h巡航も苦ではない(苦ではないがJプラットフォームエンジンは80~100km/h巡航辺りが気持ち良いが…)。そのダルイ感じだが、どこか懐かしく、それは旧車に乗っているような、そんな感覚なのだ。そのことについても、マークはこう説明した。
「我々は、重いクランクが回転することによって生まれる慣性重量をとても大切にしている。それはエンジンの個性を造り上げるとともに、アクセル操作によってバイクを操ることができる。インドでは舗装路であってもその状態が悪く、街中には走行車両の速度を低下させるためのスピードバンプが沢山ある。そのような路面ギャップも重いフライホイールを持つ単気筒エンジンの特性を活かして、アクセルオン/オフでサスペンションを伸び縮みさせて、いなすことができる。国境を警備するインド軍がBULLETを採用した理由も、標高が高く、路面コンディションも悪い場所でも操りやすい、重いクランクが造り出すそのエンジン特性にあった。だから新型BULLET350にも、その重いクランクが生み出す乗り味を引き継いだ」
BULLETがREのモデルラインナップに加わったのは1933年。以来90年近くにわたり、BULLETはREの中心モデルであり続けた。そしてその伝統は、新型「BULLET350」に受け継がれた。日本入荷のタイミングなどは未定だが、日本上陸の際には、ぜひREのヘリテイジに触れてみて欲しい。そこには、REが大切にしてきたバイクの本質的な楽しさが詰まっている。それを感じられるだろう。
(試乗・文:河野正士、撮影:長谷川 徹)
■全長×全幅×全高:2110×785×1225mm 軸距:1390mm シート高:805mm 車重:195㎏ ■空油冷4スト単気筒SOHC2バルブ 349 ㏄ ボア×ストローク:72×85.8mm 圧縮比:9.5対1 最高出力:20.2BHP(14.87Kw)/6100rpm 最大トルク:27Nm/4000rpm 変速機形式:5段リターン 燃料タンク容量13L ■ブレーキF=ディスク R=ディスク ■タイヤF=100/90-19 R=120/80-18 ■メーカー希望小売価格:未定
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