過去と同じなのは名前だけ。W800やZ900RSの成功例に照らせば、だれもがその名に反応したはずだ。しかしカワサキはこの新しい400クルーザーを名前こそ拝借したが、かつてのエリミネーターが持っていた2気筒クルーザーに対するアンチテーゼ的強烈スポーティキャラではなく、誰もが楽しく安心してバイクの世界に飛び込めるようなパッケージとして投入したのだ。標準モデルとも言えるエリミネーターと、濃い目にカスタムしたエリミネーターSE。ETC2.0標準装備化やSEに標準装備されたドライブレコーダーも話題だ。親しみやすいエンジン、735mmという低いシート高。
復活ではない新生エリミネーターをちょい乗りした印象は、なるほど、カワサキの狙いがストレートに刺さるのだった。
カワサキが展開するエリミネーターの特設サイトを見ても「さあ走りだそう」「両足べったりの安心感」「堂々としたLow&Longボディ」「パワフルなのに優しい398㏄パラレルツイン」等々、誘い文句に感じる柔らかさ。ドラッグマシンをデザインソースにし、ニンジャと同系のパワフルな4気筒エンジンを搭載した初代が持つイメージとは異なるのが解る。その点では250のエリミネーターが持っていたフレンドリーさを現在の環境対応、パワーよりもガジェット、というような視点からユーザーが求めるものをしっかりと封入したとも考えられるのがこの新型なのだ。
初めてのバイク、誰でも乗りやすいバイク、楽しいバイクを目指したコトを伝えたいという意図が伝わる。モーターサイクルショーで展示されたそのスタイルも、そうした部分を融合させたパッケージだったことが解る。それに、Ninja、Zにも搭載される同系のエンジンから想像しても考えただけで乗りやすさが頭に浮かぶ。
Ninja400、Z400でも体験したカワサキのこのエンジンは素晴らしく扱いやすい。180度クランクを持つパラレルツイン(並列2気筒)は低回転域から過不足のないトルクを乗り手に提供する。なによりアクセルワークに寄り添うように紡ぎ出す印象はビギナーからエキスパートまで誰でも扱いやすさを体験できるものだった。
エリミネーターのスタイルは低く長い。ことさらコンパクトさを主張しないが、12リットルと細身の燃料タンクをバイクの上部に据えているので、全体像のスリムさが伝わるのと同時に、トップの軽さで走りの親近感も伝えてくる。タイヤサイズもフロントに130、リアに150をチョイスするなど、ファットでマッシブ、パワフルというワードは飛び込んで来ない。でも、しっかりクールさは伝わってくる。
開発をしたエンジニアもその点では明解で、「安心して楽しめるバイクライフをだれもが楽しめるような一台にまとめ上げた」と言う。名前もカワサキの歴史の中から、バルカン、エリミネーターなどいくつか候補が上がったなかで、イメージとしてはエリミネーター、しかし尖った性能の部分ではなく、クールなスタイルの部分をカワサキDNAとして盛り込んだようだ。
プレーンな味?
いや、しっかり磨かれた完成度。
メタリックフラットスパークブラックのエリミネーターが目の前にある。キラっとしたラメを適量散りばめたつや消しブラックの外装は引き締まって見える。軽ぅ!サイドスタンドから引き起こしたときその言葉が口をついた。176㎏の車重、低くまとまった車体だけにハンドルバーを持って起こした動作が、あたかも誰かが手を貸してくれたように感じたのだ。
シートに腰を据え、手を伸ばすと左右のハンドルグリップは自然な位置にある。ステップも同様。ラバーで覆われた丸いステップはクラシカルでもあり乗り心地がよさそうな印象でもある。クルーザーという印象よりもプレーンな乗り味のバイクを予感させた。
エンジンは振動成分が少ない印象で、軽い操作力のクラッチレバーをそろりと繋ぐと車体はフワッと押し出された。アイドリング程度の回転からアクセルを開けていくと、グルルルルとおしとやかに加速が始まる。40km/hから45km/hあたりで5速、50km/hでは6速にシフトできるトルクとしなやかさを持っている。
すぐに自動車専用道路にアクセス。ランプのカーブを回って行く時も自然なハンドリングで130サイズのフロントに重さ、だるさという部分がない。リアとのバランスもよく切れ込むような仕草もない。バンク角は適度で浅くないようだ。本線に向けて加速する。5速のままアクセルを開くと吸気音がスパイスとなり心地よい力強さを体感できる。巡航速度に達して6速へシフト。走行風圧をそれほど感じないで済むのは、上体が気持ち前に傾けられるハンドルポジションだからだろうか。少しペースを上げても風にあおられることもなく日帰りツーリングに高速道路を多用してもいけそうだ。
この点で400という排気量はゆとりをもたらす。追い越し加速を瞬殺でするほどではないが、必要にして充分なパワーがある。ちなみに高い回転まで加速感がたるまないこのエンジン、その気になれば3速までシフトダウンして加速を楽しめる。そんなことをしたくなるタイプのバイクではないが、実力はしっかり持っている、という報告だ。
一般道のツーリングでもゆとりのあるエンジンはライダーに楽をさせてくれる。左右に切り返すカーブでもハンドリングは安定感と自由度を上手く併せ持つ。減速をするブレーキも操作感と減速力のバランスがよく、安心して前後とも使いこなせた。今回、短い時間での試乗の中でエリミネーターの完成度はしっかり味わえた。唯一、Uターンしたときにハンドル切れ角があと少しあれば、という場面があった。ソコだけが大柄なバイクに感じてしまう。それぐらいだろうか。スマホのアプリを使ったコネクティビティの検証も出来なかったが、RIDELOGY for Kawasaki SPINとBluetooth接続することでメール、電話の着信通知等の他、メンテナンスまでの距離などバイクからの情報をスマホで見ることもできる。むしろ必須項目とも言えるパートもしっかり装備されている。
これからバイク、気軽に乗りたい、リターン、もう一台等々、400がもたらす軽さ、気軽さが魅力のエリミネーターだったのだ。
(試乗・文:松井 勉、撮影:富樫秀明)
●エリミネーターSE オプション装着車
■エンジン型式:8BL-El400A ■エンジン種類:水冷4ストローク並列2気筒DOHC4バルブ ■総排気量:398? ■ボア× ストローク:70.0×51.8mm ■圧縮比:11.5 ■最高出力:35kW(48PS)/ 10,000rpm ■最大トルク:37N・m〔3.8kg-m〕/8,000rpm ■変速機:6段リターン ■全長× 全幅× 全高:2,250×785×1,100[1,140]mm ■ホイールベース:1,520mm ■シート高:735mm ■タイヤ(前・後):130/70-18M/C 63H・150/80-16M/C 71H ■車両重量:176[178]㎏ ■ブレーキ(前・後):油圧式シングルディスク・油圧式シングルディスク ■燃料タンク容量:12L ■車体色:メタリックフラットスパークブラック、パールロボティックホワイト [メタリックマットカーボングレー×フラットエボニー] ■メーカー希望小売価格(消費税10% 込み):690,000 [858,000]円 ※[ ]はELIMINATOR SE
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