―お互いに、相手のことをどんなライダーだと思っていますか。
ペコ:最後の数メートルでも絶対に諦めず、時には限界を超えて攻めてくる選手。しかも、それが上手く運んで仕掛けた勝負が成功することが多い。
エネア:タフな選手。相手を徹底的に追い込んで、隙をほとんど残さない。
―コース外ではどんな関係ですか?
ペコ:知り合ったのはバイクに乗り始めた頃だから、もうかなりの時間が経った。ずっと競い合ってきた相手だけど、ずっといい関係でもあった。エネアはすごいライダーだといつも思っていたし、お互いにリスペクトしあえていると思う。
エネア:今まで何度も言ってきたとおり、いい関係だと思う。コース上では同じチームとして最初に向き合うライバルだけど、ぼくたちの関係は良好だよ。そうであってほしくない人たちがいるとしても、それはまた別のことだから。
―初めて一緒のレースを走ったときのことを憶えていますか?
ペコ:2006年のサンマウロマーレ(リミニ近郊)、ミニモト選手権のファイナルだったと思う。ふたりとも転倒したレースで、エネアが前にいてぼくがその直後につけていたから接触してしまったんだ。あの場面は今でもよく憶えているよ。
エネア:一緒に走ったレースはいっぱいある。同じカテゴリーで走ることが多かったからね。でも、最初がいつだったのかはちょっと思い出せないな。ずっと一緒に走っていたから……サンマウロだって? じゃあ、そうかもしれないね。そうそう、思い出した。あのときの転倒でケガしたんだった。
―相手のどういうところがうらやましいですか?
ペコ:性格的に人のことをあまりうらやんだりしないから、別にないかな。
エネア:一発タイムが速いところ。
―パドックで最高のチームとバイクでしょうか?
ペコ:自分たちのレベルはとても高い。それを存分に活用できれば、間違いなく最高のチームになれる。
エネア:現段階では、イエス、と答えるね。
―最大のライバルは誰ですか?
ペコ:難しい質問だね。誰だろう。私見では、バイクがとてもよく走っているアプリリア勢かな。VR46チームも強そうだ。もちろんプラマックも強敵だね。新チームマネージャー、ジーノ・ボルソイのもとでしっかりとまとまっていくだろうし。
エネア:簡単には言えないよ。グレシーニとVR46は必ず候補に入るし、ファクトリーは全メーカーが強くて、チーム同士の差はほとんどない状態だ。ファクトリーとサテライトもすごく接近している。
―今シーズン飛躍しそうな選手は?
ペコ:ベツェッキとマリーニのふたりはすでに高い能力を発揮しているから、「飛躍」といっていいのかどうか。だから、そうだね、オリベイラとフェルナンデスかな。RNFチームのふたりは要チェックだよ。
エネア:テストではマリーニの調子が良かった。今季は速さを発揮しそうだ。ベツェッキもディ・ジャンアントニオも良さそうだし、強いライダーだらけだね。
―MotoGP史上最も争いが緊密な時代にレースをする気分は?
ペコ:最高。ついこのあいだ、2、3年ほど前のレースを数戦見返していたんだけど、トップから5番手までの差はホントにすごいと思った。観ているだけでもハッピーだったよ。
エネア:とてもいいと思う。毎セッション全力でがんばろうと何より自分自身を奮起させる励みになるし、一瞬たりとも気を抜くことができない。でも、重要なのはそれを愉しむこと。緊張感が高ければ高いほど、愉しむことはとても大切だと思う。
―全21戦で42レース、この状況をどうやってマネージしていきますか。全部のレースで勝利を目指しますか?
ペコ:どこかで妥協が必要になることも多いけれども、すべてのレースで勝利を目指す、という姿勢はいつも心がけている。状況を理解して最大限に力を発揮できるように努力する。スプリントレースで1回ノーポイントになることが、チャンピオンシップで大きく響いてくるかもしれないのだから。
エネア:全レース優勝は現実問題として難しいとしても、目指すべき目標であることは間違いない。でも、現実的なことを言えば、毎戦トップファイブに入ることが目標。
―流れが悪いときはどうやって対応しますか?
ペコ:悪い流れの対応は、去年ずいぶん学んだ。大切なのは落ち着きを失わないこと。この点では、チームがとてもよく支えてくれる。
エネア:あまり考えすぎないようにする。雑念を払って、慌てずにそこから抜け出る方法を探す。去年は失敗した後に取り戻していくことが難しかったので、とてもいい勉強をできた。経験を積んでいくことも、重要なんだと思う。
―スプリントレースにはどんなふうに取り組んでいきますか。
ペコ:100パーセント全力走行。とはいっても、まだどうなるかはわからない。ポルティマオでわかってくるだろうけど、それまでは具体的な予想が難しい。でも、ぼくたちのパッケージは土曜と日曜の両レースで力を発揮できるよ。。
エネア:一筋縄ではいかないだろう。とくに初回は全選手にとって未知の領域だし。なにより甘く見てはいけないもののひとつがタイヤ。決勝レースでは異なる選択になることもあるわけだから。もちろんアプローチもそれぞれ異なるだろうけれども、スタートから攻めなければならないと思う。そして、いつも確実にポイントを取ることも重要だね。
―自分自身がMotoGPへ初めて来たときと比べると、バイクは乗りやすくなったと思いますか、あるいは難しくなったでしょうか?
ペコ:良い面での大きな変化は2020年から導入されたタイヤで、これでレースがだいぶ変わってきた。でも、今は最初から最後まで終始攻め続けなければならないので、レースは厳しくなった。以前はマネージメントの戦いだったから、本当に全力で攻めるのは最後の5周くらいだった。
エネア:ぼくはMotoGPをそれほど長年走ってないけれども、アヴィンティアで走った最初のシーズンと比較すれば、ドゥカティはだいぶ乗りやすくなっている。
―電子制御やセンサー、データ獲得のフィードバックという点で、ライダーにはどれくらいのスキルが要求されるものなのでしょうか。
ペコ:とても多いと思う。個人的には、制御は少なければ少ないほどいいと思っているんだ。その方が自分の乗りたいように乗れるし、チームもいろんな違いをよりよく理解できるようになる。近年では、ライダーが制御のスキルを身につけるのは必須事項だね。
エネア:とても多い。正直なところ、しばらく前までそこをかなり甘く見ていた。でも、そのフィードバックがとても重要だということに、あるとき気づいたんだ。的確にものを伝えるのは簡単ではないし、ときにはテレメトリーを使ってデータを見てしっかりと検証しなければならない。テレメトリーを見ることができない場合もある。そんなときは自分のフィーリングで見極めていかなければならない。だから、そこのバランスや手法を見つけていかなければならない、ということなんだ。
―クルーチーフの役割は、以前にも増して重要になっているのでしょうか。
ペコ:以前もいまも相変わらず重要だよ。それはテレメトリー担当者やメカニックたち全員についても同じ。ひとりひとりが力を合わせることで、大きな違いを作り出していくんだ。
エネア:もちろん。でも、ライダーのフィ-リングもやはり同様に重要だ。
―スピードの凄さを最も強く感じる瞬間は?
ペコ:一般的には、冬休みが明けて走る最初の数周が、いつにも増してすごくスピードを感じる。でも、ひとつだけ選ぶなら、2021年のオースティンでポールポジションを取ったときのタイムアタックだ。あれは、今までの自分の中で絶対的な速さを発揮できた最高の瞬間のひとつだったと思う。
エネア:2021年のカタール、ドゥカティのMotoGPマシンで最初に走ったとき。正気の沙汰じゃないと思った。
―子供時代に片思いしていた相手は?
ペコ:今の彼女、ドミツィア。ずっと彼女が好きだった。
エネア:心の底から大好きだったのは、バイク。女の子については、誰かひとりを特に追いかけていたことはなかったな。
―ディナーに誘うなら、誰?
ペコ:ルイス・ハミルトン、ロジャー・フェデラー。話したいことがたくさんある。
エネア:マイケル・ジョーダンのドキュメンタリー『ラストダンス』を観たんだ。彼を是非誘いたいね。
―モータースポーツ以外で最も尊敬するアスリートは?
ペコ:フェデラー。すべてがクリーンでフェアな人物だから。コート外での言動も素晴らしいよ。
エネア:経歴と偉業を考えると、やっぱり彼(ジョーダン)かな。ほとんど完璧な人物、といってもいいと思う。苦しい時期もあったけれども、最後はすべてをうまく収めていったところがなによりすごい。彼が成し遂げたことは誰にも真似できない偉業だから、本当に素晴らしいと思う。
―もしも二輪レーサーになっていなければ、どんなスポーツで才能を発揮していたと思いますか?
ペコ:フォーミュラワン。
エネア:釣り。
―トリノとリミニ(ふたりの出身地)、どちらの街が優れているでしょう?
ペコ:いま住んでいるペザロかな。とても住みやすい街だし。トリノは友達もたくさんいるのでとても懐かしいけど、ペザロは海もあって生活がとても充実しているんだ。
エネア:リミニ。
―得意料理は?
ペコ:ミートソースのタリアテッレ。
エネア:料理と言っていいかどうかわからないけど、パンケーキ作りは上手だよ。シーフードのカルボナーラも得意だ。
―ジェラートで好きな味は?
ペコ:ヘーゼルナッツ。
エネア:クリーム。
―泣ける映画をひとつ挙げるなら?
ペコ:たくさんあるけど、『グラディエーター』は観るたびに泣いてしまう。とてもいい映画だよね。
エネア:『HACHI 約束の犬』。もう泣けて泣けて。
―絶対にイヤなことをひとつ。
ペコ:郵便局に行くこと。
エネア:ゴミのポイ捨て。
―いままで読んだ中で最高の本は?
ペコ:アンドレ・アガシの自伝『OPEN』かな。
エネア:本はあまり読まないんだ。カルロ・ペルナート(マネージャー)の本は、面白かったよ。
―お気に入りのスーパーヒーローは?
ペコ:んー、難しいね。キャプテンアメリカかスパイダーマン。
エネア:スパイダーマン。
―自分の体で好きなところは?
ペコ:難しいことを聞くね。敢えて言えば、顔かな。でも、わからない。ぼくは自己評価が低いから。
エネア:面白い質問だね。脚じゃないのは間違いない。髪かな。うん、自分の髪は好きだね。
―ベンチプレスは何キロ上げることができますか?
ペコ:それはナイショ。あなたが思っているよりも大きな数字だけどね。
エネア:マックスで82kgだったかな。
―どれくらい走ることができますか?
ペコ:これもナイショ。
エネア:ほとんど走れない。走るのは好きじゃないんだ。
―いままで殴り合いのケンカをしたことがありますか?
ペコ:生まれてこのかた一度もない。じっさい、考えるだけでぞっとする。乱暴なことは嫌いだし、自分の周りで起こってほしくもない。
エネア:ないよ。子供の頃から、たぶん一度もない。
―自分の電話に入っている電話番号で最も有名な人は?
ペコ:バレンティーノ・ロッシ。
エネア:誰だろう。たぶんバレかな。
―いつか行ってみたい場所は?
ペコ:日本をスタートしてポリネシアを経てアメリカへ渡る、という長い旅をいつかしてみたいと思ってるんだ。
エネア:ハワイに行ってみたいな。
【パオロ・イアニエリ(Paolo Ianieri)】
国際アイスホッケー連盟(IIHF)やイタリア公共放送局RAI勤務を経て、2000年から同国の日刊スポーツ新聞La Gazzetta dello Sportのモータースポーツ担当記者。MotoGPをはじめ、ダカールラリーやF1にも造詣が深い。