KTMは2003年にロードレース世界選手権125クラスに参戦し始めると、2005年には250クラスへも参戦。日本人ライダー、小山知良や青山博一がKTMファクトリーチームに在籍したことからご存じの方も多いのではないだろうか。また、それぞれのクラスが4ストエンジン化されてからも、Moto2、Moto3クラスに継続参戦。現在も、Moto3クラスとMotoGPクラスに参戦している。また、未来のライダーを育てるルーキーズカップでKTMのワンメイクのレースをしたり、積極的にロードレースというモータースポーツカルチャーを下支えしている。メーカーとしてこうした活動をビジネス展開する戦略は、得意分野でもあるエンデューロ、ラリー、モトクロスと同じ図式だ。“READY TO RACE”をスローガンとするKTMの面目躍如といったところだろう。
そんなKTMが2011年、若手ライダーに向けたラインナップとして、インド生産のロードスポーツ、125 DUKEを発売した。アジア戦略を含むグローバルな建て付けで、良い物を安く、というスタンスは10年を経てすっかり認知された。125 DUKEはバリエーションを増やし、200、250、390へと発展。同じ車体にこれだけの排気量バリエーションを搭載することが前提だったので、125 DUKEを走らせると異常なまでにハイクオリティーに感じられたのだ。
そのDUKEと同じコンセプトで造られたのがスーパースポーツ、RC125、250、390シリーズ。今回紹介するのは、その最新版、フルモデルチェンジを受けたRC 390である。国内では125と390で新しいRCシリーズを展開する。
新型はGPシーンに着想を得た設計が各所に施された点が特徴だ。スタイルは、MotoGPシーンからインスパイアされたものだという。レイヤードされたサイドフェアリング、フロントマスク。なかでもLEDライトを採用しつつ、フロント面をスクリーンと一体になった一枚のパーツで覆うことで、不思議なクリスタル感を出し、レーシーかつ新しいスタイルへのトライもされている。横幅の面積が大きく、スクリーンの中央が戦闘機のキャノピー風に盛り上がるスタイルも、Moto3マシン的にも見える。カッコイイ。
サブフレームを別体式としたほか、フレームボディで1.5㎏の軽量化を図っている骨格。また、燃料タンクを大型化。エアクリーナーボックスも先代比40%拡大。重量バランスを整えるために、電装系の搭載位置も前方にして、重量バランスを最適化。ライダーエルゴノミクスも合わせて改良された。
トップブリッジから生えていたハンドルバーは、純粋なるセパレートタイプとなり、ステップの位置も改良されポジションも改善。また、ブレーキ、シフトともペダルの踏面は可倒式。これは転倒時の損傷防止もありつつ、フルバンク時に路面と接触してもギア抜け、曲がりが起こらないようにする配慮のようだ。
足周りでは、前後にWP APEXを採用。フロントは圧側、伸び側減衰を左右のフォークで機能を分けたものを採用。オープンカートリッジ方式とすることで、激しい動きでもユニットの温度上昇を抑えるような高い質感を持たせているのが特徴。また、リアは伸び側減衰とイニシャルプリロード調整が可能となっている。
新型RC 390のホイールは従来のY字スポークスタイルから細身な5本スポークの軽量ホイールに進化。前後で3.4㎏を軽減。また、フロントブレーキディスクはインナー部分をなくし、ホイールのスポークに直接マウント。これによりハブ部にかかる応力を減らすことができ、大胆なまでに肉抜きがされている。
ブレンボのBRIC、ASEAN市場向け600㏄以下モデル用ブランド、バイブレ製のキャリパーも前後のシステム全体で960gの軽量化がされている。
エンジンは踏襲して使われるものの、DLCコーティングを施したバルブトレーン周りなど、信頼性も身につけている。
これは乗りやすい!
RC 390のスペックを見ると、燃料なしの状態で重量は155㎏。それに13.7Lの燃料を満たせば車重はおおよそ165.5㎏。同等クラスではBMWのG310Rの164㎏が近いだろうか。ネイキッドモデルと同等というのはその点でも凄い。同じ400クラスならCBR400Rが192㎏、250クラスではCBR250RRが169㎏だから、正真正銘、250並の車重ということができる。
89mm×60mmのボア×ストロークを持つエンジンは、振動も少なく吹け上がりも軽快。スポーツバイク用のそれだ。
見やすいTFTカラーメーターの採用もあり、ライダービューの良い物感があちこちにある。スリッパークラッチを装備し、レバー操作力が軽さもあって発進に神経を使うことはない。2000rpmほどからしっかりとトルクがあり、4000rpm目処でシフトアップをしてもスムーズかつしっかりと加速をしてくれるRC 390。
コンチネンタル製のコンチロードというタイヤを履くRC 390。マイレージとグリップを高いレベルで融合したスポーツツーリングタイヤとのことで、第一印象として尖ったスポーティさは感じないものの、安定感の中にある車体の軽さ、バネ下の軽さから来る機動性の良さはこのバイクのキャラクターにピッタリ。過度な動きがない分、安心感があり、多くのスキルレベルのライダーを納得させるだろう。
また、乗り心地面でもWPサスと調和が取れていて、一般道での試乗では安心感を醸成してくれた。峠を登る場合、エンジンの出力が盛り上がり始める4000rpmから7000rpmあたりをキープすると、走りの一体感、バイクの切れ味のような部分がさらに増してきた。ハンドルバーが意外にワイドで絞り少なめな角度のため、ツーリング気分からスポーツライディングへの導入部分のような場面でも自分自身のスイッチを切り替えやすい。完璧攻めポジションだと最初からやる気モードとなるので、筆者の場合、峠に着くまでに疲れてしまうが、このポジションはコンパクトな車体の中に自由度が含まれる印象だ(筆者の体格の場合)。
ちょっと攻めてみる。試乗車にはオプションのクイックシフター+というアップ、ダウンともにクラッチレスでシフト可能なクイックシフターが装備される。加速は9000rpmまではパワーが明確に伸びてきて、その先レブリミッターにあたるまでは伸びやかな回転上昇に変化。単気筒だけに2気筒スポーツマシンのような14000rpmまで引っ張って、という技は使えない。パワーとトルクを体感できる領域でシフトをしながら単気筒パワーを享受するように走らせる。これがなかなか知的なライディングで奥深い。伸ばすよりシフトアップした方が速いこともある……。
ブレーキは充分なコントロール性がある。例えば、フロントブレーキにラジアルポンプマスターがあればなお良いが、価格とのバランスを考えたら必要ならカスタムをすれば良い部分だろう。それより開発のリソースをホイール周りやサスペンションに割り当てたのは妥当だと思う。減速からの旋回への動きが軽く、コーナリングスピードによって動きのムラのような部分が少ない。素直に曲がるし、起こすのも軽い。
32kW(44PS)と37N.mと、充分なスペックを持つものの、パワー特性に尖ったものを持たせていないので、むしろRC 390が持つコーナリング性能をじっくり楽しめた。正真正銘、スポーツライディングが、楽しさが詰まっていた。走りやバイクそのものの質感が上がっただけに、よりそのパートで自問自答しながら走れるのが嬉しい。スポーツバイクではとても大切な部分だ。
サーキットで全開を楽しむと……
富士スピードウエイにあるショートサーキットでの試乗もできた。傾斜地にある900メートルに満たないこのコースで、実際に走っても平坦な場所がない。メインストレートは下り、そこから入るS字は途中でカントが変わり、その先のヘアピンは上りとなり、ライン次第でその斜度も大きく変わる。さらに先には加速しながら右に曲がり、クレスト上で切り返すライン取りと速度の調整が難しいS字がある。
短い直線の後、最終コーナーは左に下りながら曲がる。どこをとっても、視覚的にも体感的にもイヤラシイキャラのカーブばかり。下り導線のメインストレートから、最初のSにツッコむときのラインと速度調整が毎度ドキドキする。それに、どこを走っていても、素直にバイクへの荷重の載せ方ができる時間が短く、スキル、メンタルともに試されるコースだ。
ユーロ5対応となった新型はスロットルバイワイヤーとなり、その恩恵もあってクイックシフター+もオプションで選択できるようになった。また、3軸IMUを搭載し、バイクのロールとピッチを見ることでABSやトラクションコントロールの精度も高い。
ちなみに、ABSはスーパーモトモードを搭載。これはリアのみABSをキャンセルすることができ、進入スライドもご自由に、というもの。このモードではフロントのABSの介入度も抑えられ、姿勢作りのブレーキングを行いやすくなるという。これもMotoGPからのフィードバックだとすれば、RC 390はかなりのもの、と言えるのだろう。
コースインして最初は様子を見るつもりだったが、気温、路面温度ともに高い7月下旬。コンチネンタルのコンチロードというタイヤはすぐに信頼感あるグリップを見せてくれた。旋回性に過度な鋭さはない。このコースをハイパワーなバイクで走ると、体力的も精神的にも追い詰められるが、このバイクのパワーはライダーに考える余裕を充分に与えてくれる。短いメインストレートの間に、次はこうしてみよう、あのカーブのアプローチをこうしたらどうだろう、というプランが練れるのだ。
全体に尖った部分はないが、メインストレートからのS字、その先の最も速度が落ちるヘアピンでの切り返しが軽い。そこから上りの立ち上がりを3速全開で左に旋回、その先で右に切り返す時の動きも同じだ。軽いのにしっかりとタイヤは接地感を保っている。軽い分、重たいライダーが余計な挙動を与えると、要らない動きが出るモノだが、このバイクはポジションが取りやすいためか、体を理想的な位置に置きやすく扱いやすい。
攻め込むうちに上りながら曲がるカーブでアンダーが出るので、ピットイン。リアのイニシャルプリロードを掛ける。結局、4段掛けて自分の体重、乗り方とバランス。戻り減衰も最強から1段戻しまでストロークスピードを合わせている。この味わい的な部分が大きく伸張した。操る操作にまで質感が増した印象だ。
こうして乗ると、イヤラシさの宝庫とも言える富士のショートサーキットですら、攻略するのが楽しくなる。ブレーキも不満なし。タイヤもグリップに問題ナシ。よりサーキットに向いたタイヤを選択すれば、リーンスピードと旋回時のグリップなどを高めるコトも出来るだろう。現状でもライディングを学ぶには上出来なパッケージだと思う。フロントの圧側減衰だって1クリック締めるごとに1コーナーへのアプローチの姿勢に余裕ができる。なにより、走りながらでもアジャスターを回せる大きなダイヤルが嬉しい。
結果的に25分2本のサーキットランを堪能。その実力の高さはワインディングや一般道で感じたものの延長線上にあった。
WP APEX PRO を装備した車両にも乗った。
正式にはフロントがWP APEX PRO 6500カートリッジキットに、体重75㎏から85㎏用のパーツを組み込んだ合計11万1767円のインナーキットと、リアはWP APEX PRO 6746ショック(こちらもフロント同様の体重に合わせたパーツを組み込み済み)で11万6513円。前後合計22万8280円のサスペンションキットを組み込んだ車両にも乗った。
前後とも減衰圧特性をより緻密に引き出すほか、フロントのカートリッジはアルミパーツを使い軽量化。さらにスプリングはノーマルのプログレッシブレートからシングルレートに変更。リアのショックユニットは、イニシャルプリロードが無段階調整式になるほか、窒素ガスを封入したサブタンクを備えることで、ストローク時に発生する熱の影響をより受けにくくしている。圧側減衰圧調整には低速、高速双方の調整が可能になる。
言わば足だけの違いなのだが、その違いは大きかった。まずフロント。シングルレートになったスプリングが常にタイヤの状況を解りやすく伝えてくれる。特にメインストレートから左に旋回する1コーナーめがけてブレーキングする時、ノーマルでは初期がソフト、ストロークが進むとドンと受け止めるプログレッシブレートなだけに、サスのドンツキ感を感じる場面があったが、こちらはそれがシームレスにストロークする印象だ。
また、荒れた路面での接地性をしっかりと保ち、同じタイヤ?というほど荒れた路面を平然と乗り切る。リアもプリロードをすぐに掛けたくなったノーマルよりもダンパーの効果か姿勢に不満がでない。
結果的にさらにサーキット走行がますます楽しくなった。83万円のRC 390に、テスト車に装着されていた前後合わせて23万円弱のサスペンションキットを投入するには勇気が要るだろう。でも、専用に仕立てられているだけに、バイクパッケージが相性は良好、それだけにセットアップの方向性も見つけやすいのではないだろうか。サスペンションはここが重要。
JP250クラスでもRC 390が参加可能になったことだし、レースバイクのチョイスとしても面白いのではないだろうか。ハイパワー、大排気量も魅惑だが、RC 390に乗って、ほど良いパワーで思考が巡りやすいバイクでスポーツするのも素敵な時間の過ごし方だ、と学んだテストだった。幅広いライダーに楽しみを与えてくれるバイクだ。
(試乗・文:松井 勉)
■エンジン種類:水冷4ストローク単気筒DOHC4バルブ ■総排気量:373.2cm3 ■ボア×ストローク:89.0×60.0mm ■圧縮比:– ■最高出力:32kW(44PS)/–rpm ■最大トルク:37N・m)/–rpm ■全長×全幅×全高:–×–×–mm ■ホイールベース:–mm ■最低地上高:158mm ■シート高:824mm ■車両重量:155kg ■燃料タンク容量:13.7L ■変速機形式: 6段リターン ■ブレーキ(前/後):油圧式シングルディスク/油圧式シングルディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):830,000円