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レース・イベント

■インタビュー・文:パオロ・イアニエリ  ■翻訳:西村 章 ■写真:Yamaha

 

ファビオ・クアルタラロと話をした人は、きっと誰でも彼のことを好きになるはずだ。いつも笑顔を絶やさず、人生を愉しんでいることが伝わってくるから。先ごろイタリア・ミラノで開催されたEICMA(ミラノショー)でも、クアルタラロは大勢のファンに囲まれた。ヤマハブースで皆が彼の名前を大合唱する様子は、まるでロックスターのようだった。微笑をうかべる彼の前には、バレンティーノ・ロッシがヤマハで世界を制覇した4台のYZR-M1が並んでいた。

「いつか自分も、こんなふうにチャンピオンバイクをずらりと並べてみたいよ。本当にそうなったら、きっとすごいだろうね。ぼくの場合は今のところまだ1台だけど、これはまず最初の一歩だから、いつの日かバレンティーノみたいにマシンをこうやって並べるのが夢なんだ」

―それはさすがにちょっと簡単じゃないと思いますよ。でも、そうなればイタリアのファンもきっと喜ぶでしょうね。

「ヤマハのファクトリーチームと契約できたときはとてもうれしかったけど、反面、ちょっと恐くもあったんだ。バレンティーノのいたシートに自分が入ることが恐かったわけじゃない。そもそも彼の代わりが務まるライダーなんて、いるわけがないんだから。そうじゃなくて、バレとぼくがチームを入れ替わることで、イタリアのファンがはたしてぼくに対してどう反応するのか、ということがちょっと気になってたんだ。でも、皆はぼくも応援してくれているようでホッとしたよ」

―世界チャンピオンとして初めて過ごす冬はどんな気分ですか? かなりストレスが溜まるものでしょうか?

「いや、べつにストレスはそんなに溜まらないよ。だって、これはごくひと握りのライダーにしか達成できないことだから。MotoGPの世界チャンピオンになれるのはたったひとりだけで、自分がそこに到達することができたいま、プレッシャーはむしろ軽くなったといっていいくらいだ。これを繰り返し達成し続けることが難しいこともわかっているけど、大切なのは、そこに至る道をいまの自分は理解している、ということなんだ」

―休暇中はどこかに行くのですか?

「休みはほんの数日だと思うけど、どこか遠いところに行きたいな。すでに参加が決まっているイベントもいろいろとあるので、F1最終戦のアブダビに行くことにしたよ。それが、いってみれば休暇の代わりみたいなものかな」

―どの選手を応援しているのですか? ルイス・ハミルトン、それともマックス・フェルスタッペンですか?

「どちらかというとハミルトンかな。よく知っている人だから。でも、もしフェルスタッペンが勝てば、初めての世界タイトルということになる。それがどんな気分か、ぼくにはとてもよくわかる。だから、ぜひそれを実現させてほしいと思うけど、でも、本音ではルイス・ハミルトンのほうをちょっと応援してしまうね

ファビオ・クアルタラロ

―今シーズンは素晴らしい戦いが続いていますね。片方が勝てばまたもう片方が次に勝つ、といった調子で。

「一対一の決闘みたいで、とても楽しませてもらっているよ」

―あなたは少し休暇を楽しめたとしても、ヤマハの技術者たちは休んでいる暇がないでしょうね。

「そうなんだよ。技術者たちは24時間365日ずっと休む暇がない。やるべきことは常に山積しているし、ぼくから彼らにお願いしていることもある。今のうちからしっかり準備を進めておかなければいけないよね。だって、こないだの最終戦バレンシアでは、本来ならぼくたちの得意コースだけど、レース結果は表彰台が赤一色に染まってしまった。ぼくたちに課題があるのは、明白だよ」

―ドゥカティの躍進は、脅威ですか?

「もちろん。かなりのビッグステップを果たしてきたからね。それになにより、いつもドゥカティ勢のライダーたちが何人も上位を争っているのが、彼らには奏功しているのだと思う。身内同士でトップ争いをすれば、バイクはさらに磨きがかかっていくからね。バニャイアは強力なライバルだし、ドゥカティのマシンもとても速い。来シーズンは彼らを相手にどんな戦いをできるのか、いまからとても楽しみだよ」

―総勢8台ですから、強力にもほどがありますよね。

「(笑)。心配で白髪が増えるよね。冗談はともかく、ぼくはヤマハを信じている。来シーズン、さらにパワフルなバイクにしてくれれば、ドゥカティと戦うときもあまり苦労をしなくてすむはずだ」

―それは、ヤマハのライダーたちが長年ずっと言い続けてきたことでもありますよね。ロッシはずっとそこをリクエストしていました。ロレンソもそうでした。そのたびにヤマハの技術者たちは「がんばります」といつも返答するのですが、結局のところパワー向上に苦労する、という状況が続いています。あなたは、彼らにしっかりとハッパをかけていますか?

「やってるつもりだよ。来年は、きっといいバイクに仕上げてくれると思う」

ファビオ・クアルタラロ

―2022年は、多くのライダーたちの契約が満了するタイミングです。来年はきっと早い時期から、ライダーマーケットに様々な動きがあるでしょうね。

「あまり早い時期からそういうことを話したくはないな。まだ2021年なのに、2023年や24年のことを気にするのも、ちょっとね。時期尚早だよ。とはいっても、待ち続けるということじゃなくて、一歩ずつ着実に進んでいきたいんだ。まだわからないことを、いまのうちからあれこれいってもしようがない」

―とはいえ、ホンダがすでに動き出している、といったような噂もいろいろとあるようです。マルク・マルケス選手の体調がよくわからないことや、戦闘力の高い選手を求めている等々の事情がそういう噂を生むのでしょうが、ジョアン・ミル選手やあなたの名前も挙がっているようです。

「選択肢は、ないよりもあるほうがいいよ。誰にも見向きもされないより、そういう噂でも名前が挙がるほうが、きっといいことなんだろうね。でも、いまも言ったとおり、ぼくはそういうことを急ぎたくはないんだ。自分のペースでしっかり時間をかけて進めたい。まずはこの2021年をちゃんと終わらせようよ」

―ということで言うなら、もうすぐクリスマスですね。プレゼントの季節です。ポールポジション賞で獲得したBMWをあげる相手は、決まりましたか?

「去年は父にあげたから、今年は母にあげる番かな」

―自分へのプレゼントは?

「それはないしょ」

―クルマですか?

「うん。イタリア車の四駆。これでわかるよね」

―なるほど、ランボルギーニ・ウルスですね。じゃ、雪原を存分に愉しんでください。

ファビオ・クアルタラロ


【パオロ・イアニエリ(Paolo Ianieri)】
国際アイスホッケー連盟(IIHF)やイタリア公共放送局RAI勤務を経て、2000年から同国の日刊スポーツ新聞La Gazzetta dello Sportのモータースポーツ担当記者。MotoGPをはじめ、ダカールラリーやF1にも造詣が深い。


[第23弾ジョアン・ミルに訊くへ]





2021/12/10掲載