第131回 「博多のひと(り)」
このところ日本ではコロナが大人しくなってきたようでなによりです。収束なのか小休止なのか、それとも嵐の前の……先のことを心配しても来るときは来るのですから、楽しめるうちに楽しまないと。もちろん感染防止には最大に留意しつつ、日本経済を活性化するためお金(私の場合は無論小銭です)をばらまきましょう。政府も小銭をばらまきたいようですが、私の小銭とは三桁違います。もちろん私の方が三桁小さい本物の小銭で、サハラ砂漠で霧吹きを一吹きほどでありますが、小銭を握りしめ九州に行って参りました。
博多駅に出来た1000円オーバーの立喰・ソ訪問はマストとして、九州鉄道博物館に長崎新幹線の進捗具合も視察したいし、大雨の被災から復旧した久大本線にも乗りたい。熊本電鉄もいいなあとあれこれ欲張ってみても、金も時間も限られている悲しさ。結局博多駅の立喰・ソに全集中(←もう誰も言わなくなった)です。わざわざ博多まで安くはないそばを食べに行く、しかも日帰りで。なんかエリートサラリーマンみたいで(どこが?)かっこよくないですか? すっかり自分に酔いしれ、嬉々としてAB君に計画を披露したら「バカか?」と哀しそうな表情で言葉をかけてくれました。凡人には理解できないのだ、と逆哀れみの表情を送りつつ当日を迎えました。
当日の朝「ふふふ、ほんとにおばかさん♡」と原田知世ちゃんがブレンディを差し出してくれるわけもなく、なんと土砂降りの雨。とほほほほと羽田に向かいました。足下びしょびしょで乗り込んだ飛行機は満席。平日の昼過ぎだからがらがらだろうと思っていたのですが、人の動きも日常に戻っているのでしょう。昼からぷしゅ〜と開けたいところですがまだまだそんな雰囲気でもなく、不要不急の私はいかにもこれから仕事みたいな顔をしながら久々の飛行機にわくわくしてました。
福岡空港から博多駅までは地下鉄で2駅。近いです。歩けないこともないのです。歩こうかなと思うのですが、空港から徒歩で脱出するルートが解りません(ちなみに水曜どうでしょうでは断念した羽田は、現在は徒歩で脱出できるらしい)。大人しく地下鉄に乗って博多駅に到着したのは夕方。しかもどんよりした曇り空で薄暗くなってきました。日帰りにしては到着が遅いのですが、そばを食べるだけですから。
立喰・ソは博多駅5-6番線の鳥栖方先端にあります。入場券を購入して(ひさしぶりに紙のきっぷ買いました)ホームに上がると「ぴろぴろぴろぴろ〜」とJR九州独特の列車接近音が聞こえて「九州だ」とじんわり実感します(個人的な感想というか感慨です)。
「おまえの“わくわくおばかちゃんどきどき博多一人旅”ってだけでうんざりしてるのに、いちいち描写が細かくてイライラが止まらない」とおっしゃる大多数の方は、もう読むのを止めているでしょうから、かまわず先に進みます。ぐっとガマンして読んで頂いているみなさま、この先はぱっと進行しますので、いましばらくおつきあいを。
すでに帰路につく学生さんや勤め人が並ぶホームをぬって、いそいそわくわく早足で先端へ。お店(※立喰・ソではなくお店と表現しているところに注意←伏線です)はちゃんとありました。蕎麦の売り切れ次第終了ということでしたが、まだお店は開いています。杞憂に終わったと近づくと……券売機にソが見あたりません。よくよく見ればそもそも店名が違います。あっ、反対側だったか。ほんとあわてんぼうさん、てへ。と踵を返して逆方向へ……東京方先端にお店はありませんでした。
ああそうか、ホームを間違えたのか。と階段を駆け下りて隣のホームへ。しかし東京方にはやはりなにもないので、鳥栖方へと走れば、な〜んだ、ちゃんとあるじゃん! あるけれど、これは昔からある普通の(というのも変ですが)立喰・ソです。また間違えたかとその隣のホームへ。はあはあと階段を駆け上がってみても、ここも前からあるとんこつラーメン店が独特の匂いをまき散らしているのみです。どういうこと? と駅員さんに「あの〜お忙しいところすみません、狐につままれたのですが〜」と尋ねてみたら「さえ木さんですか。9月30日で終了しました」と立て板に水。ひょっとして狸が駅員に化けているのかな? と思いましたがしっぽはなくて、頭の上に葉っぱも乗っていませんでしたから、正真正銘JR九州の社員です、おそらく。しかし7月に開店したばかりなのにもう幻立喰・ソとは……やっぱり1000円の立喰・ソは無理があったのでしょう。と驚きの表情をしていたわけではないのに、すかさず「期間限定なんです」と親切に教えてくれました。狸なんて疑ってごめんなさい。JR九州の社員さんはやさしいなあ、ありがとうございました。
ほーっ、期間限定でしたか。ろくに調べないでやってきた自分の迂闊さに素直に驚きながら再び5-6番線に引き返して、さきほどの「漁師めし 来進(らいしん)」に戻ると、おねーさんが元気に迎えてくれました。帰ってからで調べてみたら、「地域と連携して九州を元気にしたい」というJR九州フードサービスとのコラボ企画で、第一弾は「淡麗らぁ麺 明鏡志水」2021年3月10日〜6月30日)、第二弾が「手打ち蕎麦さえ木」(7月9日〜9月30日)、第三弾は「漁師めし 来進(らいしん)」で10月8日から12月31日まで。福岡県福津市の漁師さんがやってる居酒屋さんで、鯛茶漬けや鯛バーガーがリーズナブルに楽しめます。初めて鯛のフライ(天然の真鯛なのになんと200円!)いただきました。生ビールにマッチしてたいへんおいしかったです。いろいろ食べたかったのですが、ここで飲んだくれて飛行機に乗り遅れると困るので一杯で引き上げました。
今回の“わくわくおばかちゃんどきどき博多一人旅”を振り返り「初期目的は達成できなかったが、1000円のソを食べに行って200円の鯛フライと生ビール500円だから結果的に300円儲かったから大成功だった」と、がらがらの機内で静かに祝杯をあげました。「結果としては成功だった」というのは、古今東西大失敗の言い訳という場合がほとんどですが、鯛フライがたいへん美味しかったからいいんです。唐突におしまい。
[幻立喰・ソバックナンバー目次へ]