ほれぼれするパッケージ。
ヤマハにとってこのMT-07は一つのピークだと思う。MTシリーズを俯瞰してみると、MT-25、MT-03、そしてMT-07が親しみやすいキャラクターで注目であり、MT-09とMT-10はどちらかといえば濃い目のキャラクターで注目されている。何より圧倒的に扱いやすく、軽く、強烈な主張を持たないにもかかわらず、自然な振る舞いで個性強めな兄貴分たちにもひけを取らないアジリティーを持つMT-07は、ワインディング派、ツーリング派、そして街乗り派からも高く評価されているはずだ。
まずそのサイズ感。長さ、幅、高さ、重さといったスペックは400並。いや、それ以下の場合も少なくない。さすがにMT-03や250をベースにしたZ400、Ninja400の170㎏を切るモデルには敵わないが、CB400SFやCBR400Rなら勝負ができる。もちろん、ホンダの2台が重たいとも思わないが、MT-07の184㎏という車重、サイズは、例えこのクラスのバイクに初めて乗るライダーでも無駄なプレッシャーを与えない。
積まれている688㏄並列2気筒エンジンは90度位相のクランクシャフトを持ち、90度Vツインエンジン同様の不等間隔爆発をする。スズキのエンジンの爆発間隔だけで見れば、SV650がまさにそのパッケージなのだが、MT-07の強みは、クランクシャフト横置き並列2気筒としたことで車体そのものをコンパクトにまとめていること。ホイールベースを見ても、SVの1450mmに対し、1400mmで納めているのもエンジン全長の短かさのなせる技。たしかに幅で見たらVツインの方がナローかもしれないが、パッケージ全体で見たらMT-07のコンパクトさが光る。
例えばホイールベースが短ければ旋回性が機敏、車体が軽ければ加速も減速も有利だとされるが、それが全体の造り込みの中できれいにチューニングされていないと走りの良さに反映できない部分がある。その点でMT-07は丁寧に走りのチューニングを取っているな、と思う。走り出してそれはすぐに解った。
まずポジションがしっくりくる。先代のMT-07は有り体にいえばネイキッドバイクのポジションだった。新型ではハンドルバーを少し拡げ、マウント位置を上げている。この改良はMTらしさ、とでもいおうか、強烈な個性を放つ上位2台のMTと見事にクロスオーバーしたような印象を持った。ポジションにすらキャラが立つ。
走りも納得。
今回の走行テストは袖ケ浦フォレストレースウエイというサーキットで行われた。途中に一時停止を設けたり、速度が乗る部分などにシケインを設定したり、ただ攻めるだけではないコース設定で行われた。また、当日、新型のMT-09、トレーサー9 GTなどMTファミリーのテストと同時に開催されたことも知らぬまにハイペースのテストとなったことをお断りしておく。
ピットを出てほどなく設けられた一時停止ポイントへ。そこからスタンディングスタートで走り出す。その加速感は排気量なりの力感をしっかり伝えるものでありながら、トルクの強さで乗り手を驚かせることがない。その印象はYZF-R1のエンジンが持つ、どこまでも前輪が路面にへばりつかせるように猛然と加速する印象と近い。もちろん、あれほど劇的な加速ではないものの、速いのだ。たまたまシケインでMT-09と絡むことがあっても、そこからの立ち上がりで右手を捻ると遜色のない加速をする。もちろん、レースをしているワケではないので相手がどの程度の加速をしたかは推し量るしかないが、格上の排気量のバイクを平気で追い回す。それだけアクセルを開けやすいのだ。
劇的な加速をするMT-09に対して、MT-07は冷静沈着にその加速を手の内にできるようなイメージだ。また、試乗車が履いていたミシュランのロード5というスポーツツーリングラジアルとのマッチングが良かった。直線、ブレーキングからの旋回、深いバンク角でクリップに向かい、寝かせた状態から加速をする、というようなスポーツライディングの一連でサスペンションと共働して好印象を連発してくれる。グリップの確かさをしっかり伝えつつ、旋回性でも足りない部分がない。なによりタイヤが溶けるほど走ってもグリップ重視タイヤにありがちな接地面が粘ってハンドリングが重くなるような印象がない。
とにかくこのテスト日で一番早く「今日は上手く乗れているかも」という気持ちにさせてくれた。そこには前後のブレーキが持つ制動力の確かさもあり、減速に身構えることがない。また、エンジン特性も特定の回転域以上、ということを意識せずにも欲しい加速が手に入るし、どこかに明瞭なピークを設けていないから、ギア選択とアクセル開度、そしてライン取りに集中していても感覚通りにエンジンはパワーとトルクを出してくれる。このワイドなパワーバンドとも言える特性が魅力なのだ。
出来映えを楽しむうちにテスト時間が完了した。乗り出した直後から終わるまで楽しい気持ちが持続したことで、また別の機会に路上でのたのしさを味わいたい。なんて多彩な700バイクなんだ。これが僕の結論です。
(試乗・文:松井 勉)
■エンジン種類:水冷4ストローク直列2気筒DOHC4バルブ ■総排気量(ボア×ストローク):688cm3(80.0×68.5mm)■最出力:54kW(73PS)/8,750rpm ■最大トルク:67N・m(6.8kgf・m)/6,500 rpm ■全長×全幅×全高:2,085×780×1,105mm ■軸距離:1,400mm ■シート高:805mm ■車両重量:184kg ■燃料タンク容量:13L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤサイズ前・後:120/70ZR 17M/C・180/55ZR 17M/C ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク/油圧式シングルディスク ■車体色:パステルダークグレー、ディープパープリッシュブルーメタリックC、マットダークグレーメタリック6 ■メーカー希望小売価格(消費税込み):814,000円
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