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試乗・解説

より親しみやすく・より速く NEW MT-09&SP
活発な3気筒エンジン、アップライトなネイキッド風ポジション、それでいてストロークの長いサスペンションはモタード的。大排気量でとてもパワフルなのにオフ車っぽいという独自の路線を打ち出し登場したMT-09は世間を驚かせた。しかし今回初めてのフルモデルチェンジではちょっと「普通」になった。その普通さが、次なるレベルへと09を導いている。
■試乗・文:ノア セレン ■撮影:渕本智信 ■協力:YAMAHA https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、デグナーhttps://www.degner.co.jp/




これまでにないもの

 MT-09が初めて世に出た時には、非常にパワフルな3気筒エンジンをしかもスパルタンな味付けにしてあったこともあって、多くの人及びメディアが「なんという面白い乗り物!」と絶賛した。エンジンだけでなくモタード的な車体構成も新しく、これまでにないカテゴリーだったと言えるだろう。アップハンでタンクが短くオフ車のように前の方に座り、それでいてステップはやたら後ろの方で純正バックステップかのよう。かなりパワーがあるのにサスはフニャフニャ。「面白すぎるっ!」と飛びついたのはわかる。これまでに存在しなかったカテゴリーの創出だったのだから、当然だろう。

 その後09はマイナーチェンジを繰り返し少しずつ洗練されていった。特にエンジンのマネジメントは当初のスパルタンさ、言い換えればちょっと荒くにも感じた味付けは和らぎ使いやすくなっていった。またサスの動きもしっとりと落ち着き、さらによりロード寄りのセットとなった「SP」も加わり、少しずつ「普通のバイク」になっていったのだった。
 しかしそれでも独特のライディングポジションは不変で、乗れば「MT-09だな」と、ならではのキャラクターを常に感じさせられたものだった。
 

ポジションがいい意味で「普通」に

 今回は初めてのフルモデルチェンジで、エンジンは最新の環境規制に対応させると共に排気量やパワーを増強させ、フレームは新設計とするなど大幅に手が加えられた。が、何よりも印象的なのは、ポジションが一般的なネイキッド方向へと改められたことだ。ステップやハンドルの位置変更の他、タンクも長くなって着座位置が後ろに下がったのだろう。先代までのように、独特なポジションゆえの気構え感のようなものがだいぶ薄れている。ステップ位置だけはかなり下の方にあると感じ、その点ではかつてのモタードポジションの名残があるが、新型ではステップ位置が2段階で調整できるようになっているため、アップの位置へと変更すればますます一般的なネイキッドモデルと同じ親しみやすさがあることだろう。なおハンドル位置も調整が可能である。

 なあんだ、普通になっちゃったのか……と残念がる向きもあるかもしれないが、筆者はこの「普通さ」を大いに歓迎したい。120馬力ものピークパワーを持ちしかも常用域から非常に力強いトリプル、ある程度は本気で向き合わないと怖い思いだってしかねないのだから、馴染みやすいポジションや、それがもたらす接しやすさというのは大切な項目に思う。むしろこの普通さを手に入れたからこそ、これだけの進化やパワーアップをしても良きパッケージにまとまったと考えられる。
 

 

「スーパースポーツから乗り換えても不満なし」

 ポジションが自然になったとはいえ、888ccへと排気量をアップし120馬力ものパワーを獲得している新型エンジンは変わらず活発な3気筒で、ここではMT-09らしい瞬発力や直感的な楽しさが引き継がれている。コンセプトは「ロデオマスター」で、求めたのはエキサイトメント。ポジションが優しくなったかと言って引き換えに何かを失ったわけでは決してなく、得たものばかりに思える。
 技術説明会では「スーパースポーツモデルからの乗り換え需要にも応える」ということが言われていたが、これに対して最初は「別の乗り物じゃないか」という想いがあったものの、乗ってみてこの言葉に納得した。とにかく速いのである。D-MODEと呼ばれるいわゆる走行モード切り替えが4段階から選べるのだが、この①、すなわちフルパワーがもう、ものすごく速い。

 車両重量が190kgを割るのに低回転域から力強い120馬力と聞けば速さは想像できるが、その想像の上を行く速さで、走り始めてすぐはなかなか開け切れない程なのだ。今回はサーキット試乗だったこともありほどなく全開走行を始めると、本当に「これならSSから乗り換えても不満はないな!」と納得させられた。200km/h近辺のスピードでも加速力が鈍ることはなく、またその速度域でも(特にリア)サスは柔らかいものの車体はビシッとしていて不安感は皆無。そして自然な方向に改められたポジションのおかげでこういった速度帯・パワー帯でも怖さがなく、自然に操ることができるのだった。

 4つもモードがあれば、似たようなモードも出てきそうなものだが、MT-09の4モードはしっかりと違いがあった。①が素っ頓狂な速さを持っているのに対し、②はそれでも十分に速く、一般道ではこの2ぐらいが限界じゃないかと思えるほど活発。③ではいくらかリラックスして乗れ、路面の悪いトコロや雨天ならこのモードが良いだろう。④はだいぶ抑えられていて、初めてMT-09に接する人や、ビギナーに、もしくはタンデム時などに使えるような印象だが、慣れるにしたがって使わなくなりそうなモードにも感じた。なお①でも過去のモデルにあったような過敏なアクセルレスポンスはなく、単純に強パワーを意のままに引き出せる感覚は快感。おっかなびっくりすることなく性能にアクセスできるのは嬉しい洗練だ。

 スーパースポーツはもちろん魅力的だが、ポジションの厳しさや速度域の高さはどうしてもあるため、楽しめる環境が限られる側面もある。それはわかってるんだけれども、でも絶対的な「速さ」は手放したくない……そんなライダーにも確かに薦められるNEW MT-09のパワー&絶対性能である。
 

かっこいい親しみやすさ

 独特のルックスに加え、これだけ「速い速い」と書いてしまうとスパルタンな印象になってしまい「Too Muchかも」と感じる人もいるかもしれないが、しかしハードルが高くないのもMTの魅力だ。
 シートが比較的低くサスが柔らかいぶん足着きは良好だし、もともと近くにあってアップだったハンドルは、今回いくらか改められているとはいえやはり無理のないポジションを維持している。6軸IMUを活用したトラクションコントロールやスライドコントロールといった最新の電子制御を採用しているにもかかわらず、それらを複雑に感じさせないのも好感が持てる。D-MODEだけ選択し、あとはバイク任せで大丈夫。
「こんな設定ができますが、いじってみませんか? みませんか?? ねぇ!」といった具合に押しつけがましく何かの表示がメーターに浮かび上がってくることもないし、スイッチボックスもミニマム(クルコンが備わるSPではいくらかゴテゴテしているが)で通常の操作がやりやすい。

 タンデムシートと繋がったフラットなシート形状も先代から受け継ぎ、荷物の積載もしやすそうだしタンデムライダーとの密着度・安心度も高いだろう。また先代からそうだったが腹下マフラーはさらに腹下に収納されてコンパクト化しており、スリムな車体に貢献。乗り降りの時に火傷をする危険も少ないし、狭い駐車スペースに納めるのも容易だろう。これだけカッコ良くて、速くて、エキサイティングなのに日常的に接したくなるような各部の構成がとても魅力的に思う。
 

SPバージョンはクルコン付き

 先代にも設定されていたSPバージョンも引き続きラインナップされた。フロントにKYBのフルアジャスタブルフォーク、リアにオーリンズのやはりフルアジャスタブルを備えるという足周りのグレードアップに加え専用の車体色などは先代と同様だが、さらにクルーズコントロールが付いているのが今回の特徴だろう。スペック上の差異はないが、今回のようにサーキット走行だとサスの違いはかなり違った印象をもたらす。

 グレードの高いサスペンションが装着されていることでその作動感がシットリしていて……ということももちろんあるのだろうけれど、そういった細かい部分の前にリアの車高が違うことによる運動性の違いが大きい。リアサスの自由長が長いということではないのだろうが、バネの設定が違うのか走行時の姿勢は明らかにリア上がりで走っている時のリアの動きにモタード感はなく完全にロードモデルの動きをしてくれ、コーナーへのアプローチ及び旋回がビシッと決まる。フロントも併せての素晴らしいコーナリング性能なのだろうが、リアのシャキッと感が一番印象に残る部分だ。

 一方で、車体姿勢がある程度ロード的にしっかりと保持されSTDモデルのようにサスが大きくストロークしない特性のため、エンジンの速さはむしろSTDの方が感じられた。STDでコーナー中にアクセルを開けていくと、不安感を伴うわけではないもののサスがかなり大きく動き車体も合わせて動く。パワーをかける、トラコンが介入、ダイナミックに加速、後ろにはスライド痕! みたいなエキサイティングさがあるが、SPの方はこういったギクリバッタリした感じがなく、ビタリと安定してパワーをしっかりと路面に伝えきる印象。ポジションに違いはないのにまるでセパハンになっているかのようなフロント荷重感も演出され、よりストイックにタイムを追求する走りには合っているだろう。
 ただ、STDのギクリバッタリも大変楽しいし、STDモデルもサスペンションに調整機能はついているのだからSPの方向にセットアップしていくこともできそうではあるため、SP的車体姿勢や特性が好みならSTDをこの方向にセットしていくこともある程度可能だろう。
 

リアサスの動きの少なさにより、かなり車体姿勢が落ち着いていて、そのぶん積極的に攻められたSP。STDよりさらに洗練されているイメージで、そのおかげでむしろ感覚的な速さはSTDの方が上だったほどだ。前後サスが違うこと、クルコンがついていること、専用のカラーリングであることがSTDとの差異。価格は16万5000円のアップである。なおシルバーとなっているスイングアームはかつてのFZRのような造形と輝きを持っていて、旧くからのヤマハファンを喜ばせてくれそうだ。

40代のちょっと「その気」な貴方へ

 別に買う人の年齢を指定する必要はないが、イメージとしては40代の活発なライダーに薦めたいかな、と試乗を終えて思った。バイクを完全に趣味だけとせず、平日でも軽い気持ちでちょっと出かけたい! といった気持ちにも応えてくれるフレンドリーな乗車姿勢や使いやすい各部の装備があり、それでいてツーリングも十分こなす懐の深さ、付き合いやすさがあり、さらに活発に走りたい時、サーキット走行会といったスポーツも楽しみたい時などには確かな実力でエキサイトメントを提供してくれるというマルチプレーヤー。そしてこれだけのパッケージなのにSTDモデルは税込110万円という現実的なプライス。これは子育てもそろそろひと段落し、「元気なうちに活発で楽しいバイクに乗っておきたいなぁ!」なんてことを思う40代のお父さんたちにヒットするような気がする。

 気軽に乗れちゃうのに、気軽だけでは済まさない確かな実力を備え、コンパクトでリーズナブル。かなり欲張りなライダーでも満足させる総合力を備えていると感じ、一時的なロマンや情熱で感情的にバイクを購入するタイプの人ではなく、全てを吟味したうえで慎重にバイクを選びたい人にも、確かに選んでもらえる車種に思う。今回はこのSTDとSP、そして別稿でレポートするアドベンチャー版であるトレーサー9 GTの3機種展開だが、さらにクラシックテイストのXSRも出たらなお多くのライダーにとって選択肢となるであろう、新型MT-09シリーズである。
(試乗・文:ノア セレン)
 

 

先代モデルはシートとハンドルが近い(タンクがオフ車的に極端に短い)ポジションだったが、新型ではハンドルやシート、ステップの位置が見直されより一般的なネイキッド的ポジションとなり、独自性は減ったかもしれないが親しみやすさは大幅に向上した。サスが良く動く分、825mmというシート高以上に足着きは良好で、コンパクトな車体は気軽な印象を与えてくれる。もっとも、その気軽さに騙されてはいけない高い実力がMTの魅力だが。ステップは低い位置に設定されていてリラックスできるが、スポーツ走行時はかなり早い段階で擦ってしまう印象があり旋回力を邪魔していると感じる場面も。幸いステップは上方14mm、後方mmへと移動できるよう設定されている。なおハンドルも前方9mm、上方4mmへと変更可能。更なる一般的なネイキッドポジションも可能というわけだ。※ライダーの身長は185cm。

 

倒立フォークは先代からの装備だが、ブレーキはマスターシリンダーにラジアルタイプのものを採用したこともあって非常に良く効き印象が良かった部分。高い速度帯からのフルブレーキングでは絶対的制動力が高く、それでいて低速域でもコントロールがとてもしやすかった。ブレーキ性能は特筆したい項目の一つだ。

 

スイングアームは新設計で軽量化。どこかかつてのRZ-Rシリーズを思い出させるデザイン(?)のホイールは、「スピンフォージド」という新しい技術を投入。鋳造ではあるのだが、成型後にリム部を回しながらよくしごくことで鍛造品レベルの強度を確保。このおかげで薄く作ることができ、前後合わせ700gの軽量化を果たし慣性モーメントも大幅に減少させている。

 

ストロークアップさせて888ccとなったエンジンはトルクフルでエキサイティング。同時にフレームも新設計されている力の入れように驚く。スイングアームと合わせて2.3kgも軽量化をしているのだが、さらに横剛性を50%も高めているのも注目ポイント。いかに先代がオフ車的しなやかさをもっていたかがわかる数値だ。本文中では「ポジションの変化によってより一般的なネイキッドスポーツバイクとして扱えるようになった」と書いてきたが、それだけでなくこの新フレームもその印象に大きく貢献しているだろう。なおピボット部が、先代まではスイングアームがフレームの外側についている設定だったのが、新型ではフレームが外側に。これはトレーサーでの重積載も考慮した変更という。

 

シンプルで見やすく、手元スイッチでの操作もしやすいメーターだったが、そもそものサイズはかなり小さ目の印象。それがスマートさでもあるが、最近はより大きな表示のメーターが多いように思うため、いくらか慣れを要した部分。

 

とても印象が良かったスイッチ周り。右側に、回して選択・押して決定、のダイヤルがついていて、これでメーター内の各種設定がとてもやりやすかった。左側もシンプルで使いやすい設定。なお一部ヤマハ車は一時期ウインカースイッチを下に、そしてホーンボタンを上のしかもかなり奥まったところに配置するという、個人的にはとても使いにくいと感じていたスイッチボックスを採用した時期があったが、新型では一般的な配置へと戻されていた。操作系にうるさい筆者は「これはどうしてですか?」と聞いたら「多機能化と同時にスイッチの数が多くなり、スイッチボックスをコンパクトに成立させるためにあのデザインとしたのですが、使いにくいというフィードバックが多く評判が良くなかったので、早急に是正しました」との返答。その行動力・判断力に脱帽。ヤマハ素晴らしい!

 

タンクは14Lの容量とツーリングには少し少なめの設定かもしれない。しかしホールド感はとても高く、またフレームとのつなぎ目もスムーズなおかげで乗る人の体格を限定しない。油種はハイオク。
国産モデルから一時期姿を消していたヘルメットホルダー。MT-09は常についていたかどうかはっきりとは把握していないが、新型にはしっかりと装着。やはり便利な装備であり純正でついているに越したことはない。

 

オチョボグチデザインは新型MTシリーズに共通するもののためそろそろ見慣れてきたが、ハイ・ロービームが一つのとても小さなLEDライトに収まるヘッドライトは、果たして本当に明るいのだろうか!? などと勘繰ってしまう。今回は夜間走行ができなかったが、しかし明るさを感じにくい純正LEDヘッドライトもある中で、ヤマハのLEDはいつも期待に応える明るさを確保してくれるためきっと大丈夫だろう。改めてレポートしたい。
先代ではナンバーホルダーがスイングアームに接続されるという、最近のトレンドを取り入れたデザインだったが、剛性を確保するのが難しく重量がかさんでいたそう。新型ではシンプルで一般的なテール付けになり軽量化を果たしている。

 

YAMAHA MT-09/09 SP Specification
■エンジン種類:水冷4ストローク直列3気筒DOHC4バルブ ■総排気量(ボア×ストローク):888cm3(78.0×62.0mm)■最出力:88kW(120PS)/10,000rpm ■最大トルク:93N・m(9.5kgf・m)/7,000 rpm ■全長×全幅×全高:2,090×795×1,190mm ■軸距離:1,430mm ■シート髙:825mm ■車両重量:189kg[190kg] ■燃料タンク容量:14L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤサイズ前・後:120/70ZR 17M/C・180/55ZR 17M/C ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク/油圧式シングルディスク ■メーカー希望小売価格(消費税込み):1,100,000円[1,265,000円] ※[ ]内はMT-09 SP


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2021/08/06掲載