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レース・イベント

■文・写真:西村 章

 2月に入り、MotoGP各チームは三々五々、2021年体制の発表を行っている。時節柄、すべてオンライン形式のチームローンチである。ヤマハ陣営のファクトリーチームMonster Energy Yamaha MotoGPの場合もご多分に漏れず、2月15日(月)の欧州時間午前10時半(日本時間午後6時半)から、公式YouTubeチャネル等を経由して発表会が行われた。

 その場ではまず、Yamaha Motor Racingマネージング・ダイレクターであるリン・ジャーヴィスとチームダイレクターのマッシモ・メレガリがプレゼンテーションを行い、世界のヤマハファンに向け、2021年シーズンに向けた抱負を語った。引き続き、ふたりのファクトリーライダー、マーヴェリック・ヴィニャーレスとファビオ・クアルタラロが登場し、彼らが駆る2021年型YZR-M1もお披露目された。そのときの模様については、PCやスマートフォンなどでご覧になったかたも多いだろう。

 その後、チームをマネージメントするジャーヴィス、メレガリの両氏、そしてヴィニャーレスとクアルタラロがそれぞれ、Zoomで各国メディアとの質疑応答を行った。以下で、その様子を簡単に紹介しておこう。





yamaha
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 まず、リン・ジャーヴィスとマッシモ・メレガリのオンライン〈囲み〉取材では、やはりというべきか、パフォーマンスの安定性という課題について多くの質問が出た。2020年のヤマハ陣営は、シーズン序盤のスペイン・ヘレス2連戦でクアルタラロが2連勝、ヴィニャーレスが連続2位、という圧巻のスタートダッシュを決めたものの、その後はエンジンやブレーキなどにトラブルを抱え、ライダーの不調などもあって中盤以降にタイトル争いから脱落し、気を吐いていたのはサテライトチームのフランコ・モルビデッリただひとり、という状況だった。

 この点についてジャーヴィスは、
「昨年は安定性、とくに技術面での問題があった」
 と課題山積だった状況を潔く認め、
「(成績に安定を欠いた)責任は選手の側にはなく、我々の側にある」
 と述べた。

 また、最高峰クラス3年目でファクトリーチームのライダーとなったクアルタラロが過度なプレッシャーに晒されることなく、彼本来の能力を存分に発揮してゆくためには、
「ファビオはまだまだ若い選手だが、昨年も何勝もしている。今年の彼がもっと勝てるかどうかは、ひとえに我々(のマネージメント)にかかっている」
 という見解を示した。

 一方、ヴィニャーレスは今年でヤマハファクトリー5年目のシーズンを迎えるが、成績が芳しくないウィークなどにはマシンや運営側に対して辛辣なコメントを発することも度々だった。じつはこの傾向は、彼がYAMAHA陣営へ加わった2017年当初から、たびたび見うけられたものだ。だが、先日の〈行った年来た年MotoGP YAMAHA篇〉で技術開発の陣頭指揮を執る鷲見崇宏氏に話を伺った際には、鷲見氏は「流れが悪い方向に傾きかけたときでも、以前より落ち着いた姿勢でポジティブな面を引き出せるようにがんばってくれました」と振り返り、精神面で大きく成長を遂げたことを強調していた。今回の質疑応答では、ジャーヴィス、メレガリの両ダイレクターも、基本的に鷲見氏と同様の見解であることが覗えた。

 2020年シーズンにもヴィニャーレスが何度か見せた辛辣な言葉について、ジャーヴィスは
「そのようなコメントが彼の口から出るのは、我々としてはもちろんうれしくない」
としながらも
「なぜ彼がネガティブなコメントを発しなければならなかったのか。我々はまずはそこを考えなければならない。おそらくそれは、彼が何度も何度も同じ問題に直面せざるをえなかったからだろう」
と内省的な姿勢を示した。そのうえで、さらにこう続ける。

「だからこそ、ポジティビティ(プラス思考)を持ちたい。目標を達成するためには、ネガテイビティ(マイナス思考)が利することはない。うまくいかないことを究明して解決し、ポジティブなメンタルアプローチを維持していくこと。そうやって、問題を前向きな気持ちで捉えていくことが大切なのだと思う」

 チーム運営やマシン開発側の課題として、成績が良いときと悪いときの大きな波をなくして高い水準で安定させていくことは、2021年シーズンのYAMAHAにとって喫緊の急務だろう。それを実現させるためのアプローチについてメレガリは、
「おそらくスミさんのほうがうまく答えられるのかもしれないけれども……」
と、前置きで若干の留保をしながらも
「おそらく、車体側で合わせていくことになるのだろう」
と話した。

「2020年のファクトリースペックとフランコ・モルビデッリの仕様(Aスペック)を比較しながら、今年の方向性を決めていく。過去を振り返れば、たとえば2016年はバイクのベースがとてもよく、ほとんどのコースでじつにうまく走っていた。フランキーのバイクは、(ファクトリースペックよりも)そのときの仕様に近いので、2021年の車体特性は2020年のファクトリーよりもフランキー仕様に近くなっていくのではないか」

 2016年といえば、タイトルはマルク・マルケスが獲得したものの、ホルヘ・ロレンソが4勝、バレンティーノ・ロッシが2勝を挙げて、ランキングはロッシ2位、ロレンソが3位。ふたりで計20表彰台を獲ったシーズンである。とはいえ、ハイレベルな争いの続くMotoGPの世界で、5年前のスペックが未だに有効であるとは考えにくいので、おそらく昨年のAスペックといわれる仕様のどこかに、2020年中盤以降の混迷を打破する何らかのカギがある、ということなのかもしれない。

2021年型YZR-M1

2021年型YZR-M1
2021年型YZR-M1

2021年型YZR-M1
2021年型YZR-M1
2021年型YZR-M1

 さて、ファクトリーライダー両選手に話を進めよう。

 まずはヴィニャーレス。SNSでも話題になったようだが、さきごろ結婚をした。今回の取材では結婚指輪を披露し、
「世の中は最悪の状況でも、真実のモノを見つけたんだ」
と笑顔で話した。私生活の充実は、彼の競技人生にもさらなる充実と良好な刺戟をもたらすことだろう。

「落ち着いていること。今の自分には、それが一番大切なことだ」
と、ヴィニャーレスはこれからのシーズンを戦っていくにあたり、重要な要件を挙げた。

「安定して落ち着いていること。そして、その精神状態を維持しつづける重要さについて、マヨ(・メレガリ)やリン(・ジャーヴィス)とも、何度も話しあってきた。相互理解は年々深まっていて、ぼくが速さを発揮するために必要なことは彼らもわかってくれている。今年ももちろん全力を尽くすし、いまは(精神的に)とても落ち着いている」

 ジャーヴィスが上で述べた〈ポジティビティ(プラス思考)〉について問われると、以下のように答えた。
「大切なのはユニティ(結束力)。ここ3年は皆がバラバラだった感があり、バレンティーノのチームとぼくのチーム、というふうに分かれていたけど、今はそれがひとつのヤマハとしてまとまっている。ふたりのライダーがひとつのチームとして同じ方向を見ているので、目標を達成できると思う。
 予選はいい。スピードはある。リズムがある。いいレースもできる。だから、あとは細かい部分の詰めだ。去年はホントに運がなかったので、もちろん、運も必要だね。今年は楽しみながら戦っていけると思うよ」

 3月にはカタールでのプレシーズンテストに続き、2週連続で開幕2連戦が行われる。ここでいいリザルトを残して勢いをつけ、好調の波に乗っておくのはシーズン全体を戦ううえで重要な要素だろう。だが、ヴィニャーレスは、カタールについてはさほど心配していないのだという。

「(相性の)いいコースだから、そんなに心配していないんだ。でも、あそこでは多くの選手が良さそうだね。テストが5日間で2週連続レースなので、皆がいいセットアップに仕上げてきてどのバイクも速いだろうから、予測は不可能で、常軌を逸したリザルトになるかもしれない。だからむしろ、自分としてはその先のレースのことをしっかりと考えたい。
 カタールの結果が良くても悪くても、その次のレースのポルティマオへ行く。昨年、ぼくたちは厳しいレースになったけれども、モルビデッリはとてもいい走りをしていた。シーズン最後にトップで争うためには、去年苦戦した―コースを良くすることが重要なので、カタールのテストに備えつつ、さらにその先を考えることが必要だ。(2021年は)いいプランでシーズンを戦えると思うよ」

#12
#12マーヴェリック・ヴィニャーレス
#20
#20ファビオ・クアルタラロ

 クアルタラロは今年からファクトリーチームの所属だが、昨年もマシンはファクトリースペックだった。開幕2連勝を挙げてチャンピオン争いに颯爽と名乗りをあげたかと思うと、シーズン中盤以降は不調に苦しみ、3勝を挙げながらランキングは8位で終えた。その経験を教訓とし、2021年シーズンは当然ながらチャンピオン争いを期待されている。

「ここ数年はプレッシャーに対処する方法を学んできたけど、ファクトリーであることは良い意味でのプレッシャーだと思う」
 そう話すクアルタラロは、昨年の中盤以降に味わった苦戦について、以下のように自己分析をした。
「(最高峰にデビューした)2019年は何もかもがうまく運んで、2020年も出だしは完璧だった。けれども、そこからアップダウンの激しいレースが続いた。
 ミザノの2連戦で苦戦したものの、その次のバルセロナではすごくフィーリングが良くてレースに勝つことができた。プレッシャーも感じなかったし、バイクもよく走ってくれた。ところがその後、うまく走れなくなってチャンピオンシップが遠ざかっていった。そうなると、もっと攻めなきゃと思ってがんばるんだけど、攻めれば攻めるほどさらに悪くなっていく、という悪循環にハマってしまった。
 タイトル獲得という大きなチャンスを逃したことは、自分自身に対して当時とても腹立たしく思ったけれども、いま思うのは、将来に向けてとても貴重な経験を重ねることができた、ということなんだ」

 つまり、昨年の苦い失敗は今シーズンの戦いに向けて大いなる糧となった、ということだろう。

「(2020年は)6位や7位、8位でレースを終えることがイヤで、その結果、無理をして転倒していた。でも、たとえうまく行かないときでも、とにかく可能なかぎりポイントを獲得しつづけていく、という姿勢がチャンピオンシップを狙うために必要なんだ」

 マルク・マルケスが数年前にこれとまったく同じことを述べていたことは、指摘しておいてもいいかもしれない。

 そのマルケスが開幕戦から復帰してくるかどうかが、2021年シーズンを戦うクアルタラロたちにとって非常に重要な焦点のひとつになる。チャンピオンのジョアン・ミルとスズキも、高水準の安定感を発揮することは間違いないだろう。また、ドゥカティ陣営はファクトリーライダー2名を一新して捲土重来を狙っており、コンセッションを脱したKTMも昨シーズンすでに3勝を挙げていることを見ればわかるとおり、けっして侮ることはできない強敵となりそうだ。

「ライバルは、全員だよ」
 そう話すクアルタラロに、警戒を怠る様子は見られない。

「たとえば、去年のブルノ(FP3)では6メーカーがトップテン圏内にいて、しかもタイム差は0.3秒だった。安定して走り、予選で少しでもペースが良ければ、タイトル争いをできる。誰がタイトル候補になりそうか、いまはまだわからないし、誰かを選ぶのは難しいけど、おそらく10~12名が争うことになるだろうね」

マーヴェリック・ヴィニャーレス ファビオ・クアルタラロ

マーヴェリック・ヴィニャーレス ファビオ・クアルタラロ

【西村 章】
web Sportivaやmotorsport.com日本版、さらにはSLICK、motomatters.comなど海外誌にもMotoGP関連記事を寄稿する他、書籍やDVD字幕などの訳も手掛けるジャーナリスト。「第17回 小学館ノンフィクション大賞優秀賞」「2011年ミズノスポーツライター賞」受賞。書き下ろしノンフィクション「再起せよースズキMotoGPの一七五二日」は絶賛発売中。


[ジョアン・ミルに訊くへ]





2021/02/22掲載