6種類あるAfrica Twinの中のトップモデルに乗る
新生Africa Twinは種類が多い。ちょっと退屈な内容になるけれど、まずはそこからはっきりさせておかないと、ここでどのモデルについて語っているのかわかりにくくなるので簡単に説明しよう。現在のカタログには全部で6タイプ。
1:CRF1100L Africa Twin=マニュアルトランスミッションの最もベーシックなモデル。1,617,000円
2:CRF1100L Africa Twin Dual Clutch Transmission=クラッチレバーとシフトペダルがなく、オートマチック変速と指ボタンでのマニュアル変速ができるDCTのモデル。1,727,000円
3:CRF1100L Africa Twin Adventure Sports=ビッグタンクになってより装備も豪華になった、Adventure Sportsのマニュアルトランスミッション版。1,804,000円
4:CRF1100L Africa Twin Adventure Sports Dual Clutch Transmission=上記のAdventure SportsをマニュアルトランスミッションじゃなくDCTにしたもの。1,914,000円
5:CRF1100L Africa Twin Adventure Sports ES=車名後ろに“ES”と付いているのがミソ。ESとはElectric Suspensionの略で、電子制御サスペンションを装備しているということ。それのマニュアルトランスミッション版。1,947,000円
6:CRF1100L Africa Twin Adventure Sports ES Dual Clutch Transmission=電子制御サスペンション付ESモデルのDCT版。2,057,000円
さらに、少し前まで受注期間を限定していた(S)タイプという海外仕様と同じサスペンションストロークを伸ばしたモデルもあった。上記日本仕様のサスペンションストロークは185/180mm。(S)は230/220mmのストローク。その分当然ながらシートが高い。これがスタンダードのMT/DCT、Adventure Sports ESのMT/DCTと4機種に用意され全部で10種類だった。
試乗したのは最も車輌価格が高いいろいろ付いた6番、CRF1100L Africa Twin Adventure Sports ES Dual Clutch Transmissionだ。燃料タンクの容量がスタンダード版の18Lから24Lになっているからボリュームが違うのは当たり前として、ぱっと見た目は気が付かないかもしれないが、実はスタンダード版にはないコーナーリングライトをビルトインしたフロントマスク、シュラウド、サイドからテールにかけてのデザインが違う。さらにより大型のスクリーンになって、ワイヤースポークホイールながらチューブ入りのスタンダード版とは違うチューブレスホイールになって、テールにアルミキャリアを標準装備。エンジンクランクケース下にあるスキッドプレートもスタンダード版より大きなものだ。
迫力のあるマシンを目の前に……
眺めて、触って、跨って、ハンドルを掴む。身長170cmにとっては、まあ大きなオートバイだ。これをちょうどいい大きさとは私には言えない。燃料タンクの存在も迫力がある。ただ、シート高をローポジションにしておけば810mm(標準ポジション830mm)だから、両足はベタつきにはならないけれど、力が入れられる母指球部分まで確実に届くので乗ってしまえば大きさに対する不安は消えた。CRF1000Lよりシートレールの幅とシート下部の幅を20mm狭めた恩恵もあって、以前より足がまっすぐ地面に伸びる印象。CRF1000L Adventure Sportsの“Type LD”と同じシートの高さで、細くなっているのだから、実質的に旧型より足着き性が良くなった。これはありがたい。身長が高い人にはわからないだろうが、これだけで積極的な気持ちになれる。
さらにこれはDCTバージョンだから、スロットル操作に対すパワーの出方に若干特有のクセみたいなのがあるけれど、すぐに慣れるので、Uターンではエンジンストールなど気にしなくていいだけイージー。ビギナーにとってもメリットがあるだろう。22.5mmアップしたというハンドルは近からず、遠からずで、同身長の一般的な人より腕が短いけれど肘の曲がりに余裕があって、それによって自然にアップライトなポジションになって周りが見渡しやすくなったこともプラスにはたらいている。大きさに対し用心する気持ちはすぐにほぐれていった。
水冷4ストローク並列2気筒 SOHC4バルブエンジンは、CRF1000Lの998ccからストロークを伸ばして84cc増やした1082cc。排気量を増やしながら細部の見直しでこのDCTでエンジン単体が2.2kgも軽くなっている(マニュアルトランスミッションだったら2.5kg)。排気量が上がって出力が上がったというだけでかんたんに話を終わらせられないほどの変化を感じた。このAdventure Sports ESと同時にスタンダード版MT車と乗り換えながら走ったが、低回転域から出てくるツキの良いトルクとダダダダと押し出すような力強さからなる加速が気持ちいい。CRF1000Lと違いは明確だ。スロットルバルブと物理的に繋がっていない電子制御スロットルながら右手と直結したようなリニア感。トルク感がありながらギクシャクする動きが抑えられている。そこから高回転域までスムーズに繋がっていく。
このDCTの場合はちょっと違い、Dモードだとそのダダダダってところを堪能する前に自動的に変速してしまうので、あまり味わえない。逆にその分、回転数を引っ張らないから燃費的なメリットがありそう。だからダダダダを楽しむならSモードでどうぞ。オートマチック変速じゃなくて、右手の人差し指と親指でギアをアップダウンできるマニュアル変速でもいいのだけれど、オートマチックモードの方がわずらわしくないし、スロットルを開けるだけで前に進んでいけるというのは楽ちんだ。35年のライダー歴でいろんなオートバイをマニュアル操作してきて考えずにできるようになっているけれど、DCTではオートマチックがいいと思える。それだけ変速も含め気にならないということ。ただ場合によってエンジンブレーキを使ったり、加速を鋭くしたいから、シフトダウンスイッチだけは使う頻度が高かった。
DCTはオートマチックモードでもマニュアルスイッチでギア変更可能で、そこからマニュアルに切り替わらず、オートマチック変速を維持してくれるからいい。最近のクルマについているオートマチック変速のパドルシフトやフロアシフトと同じ感覚で使えるとイメージしてもらえばいい。
エンジンが力強く好印象になっただけでなく、車体、足周りも旧型からかなり良い方向に変わった。高速走行や積極的なコーナーリングをしてもしっかりしながら、サスペンションは良く動いて、以前は飛ばして加重が強まるとフワフワした落ち着きの無さが顔を出してきたけれど、車体、前後サスペンションともレベルが明確に上った。こうなると減速にも良い効果をもたらし、思いっきりレバーを握る急減速をしても、ダイレクトな効きと車体の安定感で、タイヤの接地感を把握できる。舗装されたワインディングで減速、コーナーリング、加速という一連の走りがさらに面白くなった。簡単に言うと、どのシーンでももっと速く走れるようになった。スタンダードのショートタイプから5段階に高さ調節できるロングスクリーンになっているので、高速道路巡航は快適だ。
ES、すなわち電子制御サスペンションとは?
さらに、このAdventure Sports ESはSHOWA社製の電子制御サスペンションで、走行状態やサスペンションスピードなどをセンサリングして状態に合わせた減衰力にする働きが入る。より車体を安定させフラットな乗り心地にしようとしているのがわかったり、よりしなやかにしたりする効果ははっきりとあってもそれがおせっかいだと思うことはなかった。こういうデバイスはしゃかりきなロードスポーツよりデュアルパーパスツーリングモデル、いわゆるアドベンチャーモデルとの相性がいいのではないか。電動のプリロードアジャスターもあるので、ひとり乗り、ひとり+荷物、ふたり乗り、ふたり乗り+荷物と選べる。
このサスペンションは、ライディングモードと連動している。DCTにMT/AT、D/Sのモードもあるからモードだらけで微妙に紛らわしいけれど、プリセットされたモードが、TOURモード、URBANモード、GRAVELモード、OFFROADモードの4つ。それに自分の好きなようにセット可能なUSERモードが2つある。それぞれエンジン出力特性だけでなくサスペンションも制御が変わる。TOURモードにするとスタビリティが良い。乗り比べたスタンダード版MTと比べると、同じ速度と状況でも直進安定性が強く、車体を故意に寝かそうとしても復元力がよりはっきりしているような。安定感が強くなるので、その名の通り、ツーリング、それも長距離のライディングでは疲労を軽減できそうだ。URBANモードはオールマイティ。程よいパワー特性とクセのないハンドリング。
気になったのはGRAVELとOFFROADの未舗装モードの違いだった。GRAVELはスロットルに対するトルクの出方が穏やかで、どの回転域でも強くなくあくまでもフラットに出てくる感じ。小石が載った土路面だけど凸凹が小さく踏み固められところ向けで怖くなく速度制御ができる。OFFROADは本当に荒れ地など自然地形向け。ダイレクトにクラッチが繋がるGスイッチがアクティブになり、極低回転域からトルクのツキが良く、スロットル操作で前輪の荷重を抜いたりしやすい。サスペンションは柔らかくストロークする。段差や障害物のいなし方がオフロード的になる。この違いがかなりはっきりしているから、使いやすい。個人的にはTOURモードでパワー感はそのままでサスペンションの設定を一段柔らかくした動きの軽いのをUSERモードで設定するかな。
CRF1100L Africa Twin Adventure Sports ES Dual Clutch Transmissionは、ビッグタンク、オートマチックで走れるDCT、快適装備など項目から乗らなくても方向性がわかるけれど、ちゃんと乗ってみると「なるほど」と納得させる出来栄えになっていた。パワフルで高性能なサスペンションを持ったもっと高価な海外メーカーのアドベンチャーと比べても見劣りしない。同じCRF1100L Africa Twinだけど、スタンダード版MT車とは、もう別のAfrica Twinになっている。1日で1000km先に行くなら、間違いなくAdventure Sports ES Dual Clutch Transmissionを選ぶ。これはあらゆる道を走破して地平線の彼方を目指したくなる仕様である。アドベンチャーモデルの試乗文によく書かれているありふれた表現だが、これ以外にぴったりくる表し方が見当たらない。
(試乗・レポート:濱矢文夫)
全長×全幅×全高:2,310×960×1,520(1,580)mm、ホールベース:1,560mm、最低地上高:210mm、シート高:830mm、車両重量:238(240)kg、燃料消費率32.0km/L(国交省届出値 定地燃費値 60km/h 2名乗車時)、21.3km/L(WMTCモード値 クラス3-2 1名乗車時)、エンジン:水冷4ストローク直列2気筒SOHC(ユニカム)4バルブ、総排気量:1,082cm3、最高出力75kW(102PS)/7,500rpm、105N・m(10.7kgf・m)/6,250rpm、燃料タンク容量:24L、タイヤサイズ:前90/90-21M/C 54H、後150/70R18M/C 70H。メーカー希望小売価格:2,057,000円(消費税込み)。
| CRF1100L Africa Twin MTの試乗インプレッション記事はコチラ |
| CRF1100L Africa Twin の試乗インプレッション記事はコチラ |
| 新車詳報『CRF1100L Africa Twin』のページへ |
| 2016年型CRF1000L Africa Twinの試乗ページへ(旧PCサイトへ移動します) |
| 『Honda Africa Twin大全』のページへ(旧PCサイトへ移動します) |
| Africa Twinで、バハを駆ける──前編のページへ(旧PCサイトへ移動します) |
| Africa Twinで、バハを駆ける──後編のページへ(旧PCサイトへ移動します) |
| ホンダのWEBサイトへ |