第115回 「驚の日々」
まずはお詫びと訂正です。前回の佐貫駅から変更になった龍ケ崎駅は龍ケ崎市駅の間違いでした。こっそり市だけ足して、すっとぼけようと思いましたが、話のつじつまが合わなくなってしまうので告白して訂正してお詫びいたします。すみませんでした!
ですが、抗議も指摘もいただけなかったということは、誰も読んでいないということでしょう。それとも「まあ、いつものことだし、ツッコむのもめんどうだし」という優しさでしょうか。こんなご時世に申し訳ない。…と反省しつつ、今回もやらせていただきます(と、おもったら、担当さんが「あ〜、すまんすまん、フェイスブックに『市民は何で駅名変えたの!?的な感じです』ってご指摘いただいてたの伝えるの忘れてた」とのこと。まったくもう。ご指摘いただいたKさん、どうもありがとうございました!)
と、いつものように唐突ですが、「マジで恋する5秒前」という歌は知ってますよね。広末涼子バージョンもいいですが、味わい深い竹内まりあバージョンが好きです。達郎さんと腕を絡めて公園通りを歩いたり、プリクラ撮ったりしていたんでしょうか。私の人生には全く縁のない世界観ですが、聴いてもバチは当たらないでしょうし、さして驚くことでもありません。
ところで、10時の「マジで恋する5秒前」は9時59分55秒です。そして「マジで5秒後に恋します」も9時59分55秒。5秒前と5秒後が同じ時間なのはおかしくないですか? 10時の5秒前は9時59分55秒だけど、5秒後は10時00分5秒ですから。どこか考え方が間違っているのでしょうが、考えれば考えるほど迷宮のアンドローラ。……そもそも基本的な学力レベルの問題ですが。
5年ほど前の話になりますが、某もつ焼き屋さんでひとり静かに(寂しくともいいます)90円のもつ焼きをちまちまつまんで、焼酎ハイボールの2コ割をちびちび飲んでいましたら、右隣のおっちゃんに話しかけられました。競馬帰りのおっちゃんも多いので、競馬新聞を持っていると話しかけられることがあります。だいたいが1着3着で大穴を逃したとか、買おうと思ったけど買わなかったという、逃した馬券は大きい系の自慢にならない自慢話ですから、「なるほど〜」と適当に聞き流せばいいのですが……
「前と後は分かりますね?」
先行馬と差し馬のこと? かと思いましたが、あまりに唐突だったので「え?」と聞き返してしまいました。が、意に介すことなくおっちゃんは続けました。
「前に進むことは前進。後進は後ろに戻ることです」ふたたび「えっ」と聞き返すも、私の存在を無視するようにおっちゃんは続けました。
「言い換えると前は未来、後は過去を表しています」ひょっとして私の隣の人に話しかけているのかなと左を見れば、写真立てをカウンターに置き、マイマグカップを持参するサングラス&山岳帽の近寄りがたい常連さんが静かに呑んでいました。あきらめておっちゃんに向き直ると満足げにうなずき言いました。
「10時の5分前は何時何分ですか」かなり怪しい感じになってきましたがもう手遅れ。「9時55分です」素直に答えるしかありません。「一般的にはそうです。でもおかしいと思いませんか」どうやらおっちゃんにも神様が降りてしまったようで、ある意味で神様のサンドイッチ状態。おかしいのは、おっちゃんだよと、露骨に顔に出してしまいましたが、激高することなく静かに話を続けました。
「10時を基準に考えてください。10時の時点で9時55分は5分前と言いますが、実際は過去の出来事なのに、なぜ前なのですか」
「??」
「5分前ということは10時より5分前進する、つまり未来に進むのですから、9時55分ではなく10時5分ではないですか」
「???」言いたいことはなんとなくわかるのですが、ちゃんと理解できません。するとおっちゃん満足そうに大きくうなずき「まあまあ、今日の所はこのへんにしておきましょう。世の中わからないことがたくさんあります。幸せを掴むために修行しませんか。時空のゆがみを正すのです。全財産を寄贈して出家しましょう」
明らかに困惑している私を見て、スーパーにこやかにこんなことを言い出すのが王道ですが、おっちゃんは「では、お先に失礼します」とさっと席を立ちました。
何が起きたのかよくわからず、かといって飲み続けるような気分でもなくなって会計しようとしたら、なんとまあ驚いたことにおっちゃんが私の勘定も済ましたとのこと。えー! と思わず声を出してしまいそうになりましたが、ホントに驚くと声が出ないということを初体験しました。恥ずかしながら私は、罠にかかった鶴やいじめられている亀を助けたことも、雪まみれのお地蔵さんに笠をかけたこともありません。といいますか、罠にかかった鶴も、いじめられている亀も見たことがありません。雪まみれのお地蔵さんを見たことはありそうですが、残念ながら笠を持っていません。百歩譲って傘ならあったかもしれませんが、下手に傘をかけると不法投棄と間違えられてバチが当たるかもしれません。それよりなにより、人様に助けられてなんとか生きているのはこっちのほうです。という、きつねにつままれたことはないのに狐につままれたような気分というよりも、薄気味が悪くなりました。その後しばらくは、へんな電話や手紙が来るんじゃないかとおびえていましたが、たぶん個人情報は提示していないのでそんなこともなく、いつの間にか忘れてしまいました。
今改めて思い起こせば、きっと私の日頃の信心に立喰・ソ神様が降臨して一杯おごってくれたのではないかと。ありがたいことですが、ならば980円(税込)ではなく、もっと飲み喰いしておけばよかった……(私の信心換算金額は980円ということでしょう)。冒頭の5秒前話のベースはこのおっちゃん、ではなく立喰・ソ神のお話がベースなのですが、ひょっとしたら私の脳内での出来事だったような気もします。
今回は盛岡駅の立喰・ソです(前半の話はいったいなんだったのかと思ってください。そうなんです、世の中は不条理で満ちているのです)。盛岡といえば盛岡県の県庁所在地……と思っていた方は驚いてください。
盛岡駅に私がよく行くようになった2008年頃の話ですが、駅には立喰・ソが2つありました。人通りのあまり多くない2階コンコース南改札口の先にある「はやて南口店」と、賑わっている駅ビル1階北口直近の「そば処はやて」です。それが2020年新年早々、一店が幻立喰・ソになってしまったという噂(誰がどこでこんな噂をしているのか……驚くほどでもない都合主義)を聞いて、思い浮かんだのは人通りのまばらな南口店です。「盛岡駅とはいえ、あそこはいつもがらーんとしてたもんな」と何の疑問もなく思ったのです。特に驚くこともない、ごく一般的な思考だと思います。
今年の1月末に行ってみたら(盛岡までわざわざ確認に行ったわけではありません。大休パスのついでです)、なんと南口店はやっているじゃないですか。「なんだガセネタか」と安堵しながら一階に降りてみたら「蕎麦にはち」の様子が。近づいてみたら例の不吉な貼り紙が。「そば処はやて改め蕎麦にはちは2018年7月21日東北初のニハそばとして〜」「NRE130店以上の駅そばのうちわずか3店しかない本格ニハそば〜」とにぎにぎしく船出した新ブランドなのに……
世の中は私ごときが思うほど単純ではなく複雑怪奇。思い入れや先入観にとらわれず、しっかりと確認してその上で考えて行動することが求められると悟りました(まっとうな正論で、今さらえらそうに言うことでもない)。
これも980円おごってくれた立喰・ソ神のありがたいお導き。などと、いつものようにがら〜んとした南口店でソをすすりながらつらつら思ったりしたようなしなかったような(あいまいな表現)。と、今回の話はここで終わりません。
なんと駅そば業界の巨人であるNREが消滅してしまいました。
「株式会社日本レストランエンタプライズとジェイアール東日本フードビジネス株式会社は、競争力と総合力の強化により持続的成長および顧客価値の創造を実現し、地域の発展に貢献することを目的に、2020年4月1日をもって合併し、新会社名を株式会社JR東日本フーズとすることとしました〜」(プレスリリースより)ということです。会社自体がなくなったわけではありませんが、これも驚きました。
コロナ騒動に埋もれてそれほど話題にもならなかったようで、こんな大事を知らないままだった思うとぞっとします。まあ、知らなくても私に問題が起こるとは思えませんが、知っている方がいいでしょう。駄コラムを書くために調べたから知ったわけで、幸運の巡り合わせ(なのか?)に驚きます。これぞ立喰・ソ神からの「おまえしっかりせえ!」という叱咤激励でしょうか。ということで、のほほ〜んと立喰・ソ巡りができるなんでもない日常が一刻も早く戻りますように、所轄違いかと思いますが立喰・ソ神様、どうかよろしくお願いいたします。