定番と新参。RとXR。
同じだけど異なる2台。
スペイン、アルメリアで行われたメディアローンチは充実したものだった。なぜならF900RとF900XR、この2台の製品説明、そしてテストが行われたからだ。
試乗テストの前夜、集まったジャーナリストは製品説明を受けた。バイクの各パートに分けワークショップスタイルで行われたそれはどれも興味深いものだった。そこで解ったことは、この2台がエンジン、フレーム、スイングアームなど車体の基本コンポーネントを共有すること。その上でそれぞれのキャラクターにあわせ、最適化して造られていることだ。
かたやF900R。このモデルは長い間親しまれてきたF800Rの後継機になる。一言で言えばネイキッドスポーツだ。かたやXR。このモデルでFファミリーに初めて追加された、いわばニューカマーだ。
XRをBMWのエンジニアはアドベンチャースポーツだと説明した。BMWにはGSファミリーという(おそらく世界最強の)アドベンチャーモデルがある。GSはゲレンデ/シュトラッセというドイツ語の頭文字を車名にしたバイクで、2020年に発売から40年目を迎える歴史あるブランドだ。そのGSは、オフロード/オンロードの双方をテリトリーに開発をされ、どんな場面でも素晴らしい性能を見せるが、どこかに特化したモデルではなく、モデルチェンジを重ねるごとにさらに全方位性に磨きを掛ける進化が年輪のように詰まったバイクだ。
そしてこのXR。この名前は、2015年にBMWがS1000XRをリリースしたときから使い始めた車名だ。そのキャラクターは、S1000RRに端を発した超絶インライン4エンジンをルーツに持つパワフルなスポーツアドベンチャーツアラーだ。ロードスター的身のこなしに、クロスオーバーとしてツーリングへの装備をクールなデザインで付け足した、というもの。
F900XRもそのファミリーである。その原型がお披露目されたのは2018年、イタリアのコモ湖畔でのこと。毎年5月下旬に行われる歴史あるコンクール・デ・エレガンス「コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ」で発表された。
BMWがサポートするこのイベントに登場した「ノーヴェ・チェント」がそれで、イタリア語で900を意味するそのバイクが今回のF900XRにつながるとは思わなかったが、RnineT登場前、この地でコンセプト90が発表されたし、昨年は今年登場するR18コンセプトが登場した。つまり、ここに出たということは近い将来市販車として投入されるのが暗黙の了解事項でもある。
つまり、ヴェールを脱いだF900XRは、BMWというブランドが得意とするオンロードのスポーツツアラーを現代語訳し、さらにマーケットの嗜好に合わせてパッケージしたところ、スポーツツアラーというカタチがアドベンチャースポーツというパッケージに進化したのだ、とボクは見ている。
270度クランク採用。パルシブなエンジンに。
BMWのモデルラインに実は先代のF以前、水冷単気筒を搭載したFというモデルが2世代に渡ってミドルクラスを受け持っていた。F650ファンデューロ、F650ST、そしてF650GS、F650CSなどだ。単気筒エンジン搭載のFシリーズはその後2007年にモデル名をFからGへと変え、進化したので、ここでは2006年に登場した並列2気筒エンジンを搭載したFシリーズの系譜として話を進める。
ではF900R、F900XRの詳細を見て行こう。Fシリーズのパワーユニットは並列2気筒エンジンだ。BMWの新たなミドルクラスとして2006年に登場以来、パンチがあり軽くスポーティーな800ccのFシリーズはすぐに人気モデルになった。最初はスポーツモデルのF800S、スポーツツアラーのF800STの2機種から始まり、F650GS(後にF700GSと改名)、F800GS、さらにネイキッドのF800Rと拡大する。その後、マーケットの変化もありGS系2機種とF800Rに絞ってシリーズは展開してきた。
現世代のFの変化は2017年にミラノショーから始まった。新世代モデルチェンジ版として登場したのがF750GS、F850GSの2台。数値は異なるが、排気量は同じ。チューニングが異なるエンジンと車体で別キャラのファミリーにする手法は先代同様だ。国内では2018年秋から販売がスタート。その流れからロードスターのF900R、そしてアドベンチャースポーツのF900XRへと続く。数字の表記通り、今回は排気量も拡大されている。
GSとともに発表された新型F用ユニットの形式は、従来同様パラレルツイン。今回、F900系に搭載するにあたり、F850GSより排気量を42cc拡大。出力は77kW/105PS/8500rpmと、92N.m/6250rpmを生み出す。性能的にとんがった部類ではないが、性能の公表値では0-100km/h加速が3.7秒、WMTC燃費データは、23.8km/lとなっている。
F800用ユニットより小型化されたのと同時に、360度クランクから90度位相のクランクシャフトによる不等間隔爆発ユニットとなった。鼓動感、排気音を求める声が多かった、というのがその理由だが、今や並列ツインではこの90度位相クランクが多数を占める。また、800時代、ドライブチェーンの取り出しが車体右側出しだったが、新型ユニットは左側に移動している。
足着き性抜群のシャーシ。
両車のメインフレームは、スチール製ブリッジタイプを採用。エンジンも剛体として使っている。また先代ではシート下にあった燃料タンクレイアウトからエンジン上に戻している。F900の2台に使われた燃料タンクは新しい手法を用いて成形されている。成型した樹脂を溶接して組み上げた製法を採用したとのことで、タンク単体の重量を抑えられたという。量産2輪では初採用ということだ。
また、メインフレーム後部、ライダーが座る位置に近い部分の幅を絞ることで、シート高と、足着き性に寄与するスリムな車体としている。これにシート形状と合わせ数値からは解らない部分で足着き感の良さを追求している。
サスペンションはR、XRともフロントに倒立フォーク、リアはリンクレスのサスペンションユニットを装備する。今回のテストでは、リアに電子制御セミアクティブサスペンションで、電動でイニシャルプリロード変更が可能なダイナミックESAを装備していた。両モデルのサスペンションストロークは、F900Rが前135mm、後142mm。F900XRは前170mm、後172mmとそれぞれのキャラクターに合わせたものだ。
ライディングポジションは、Rの場合、先代よりもライダーを前輪に近い位置に座らせる方向に変更されている。また、XRはRに対して、ステップ位置が前に45mm、下方に45mmとなるほか、ハンドルバー位置も手前に引かれる。ポジション構成はGSと同等だという。気になるシート高は多くの選択肢が用意されている。F900Rの標準シート高は815mm。それ以外にオプションで高い方から865mm、840mm、835mm、790mm、770mmと合計6バージョン。F900XRの標準シート高が825mm。同じく高い方から870mm、845mm、840mm、795mm、775mmが用意される。もっとも低いシート高を選ぶには、シートと同時にサスペンションストロークを20mm短縮するロワリングキットを選ぶ必要があるが、ライダーの身長、快適性など好みに合わせて選択肢が広い。これまでの経験でいうと、足着き性とシート高という数値がイコールとならないケースも多かった。例えば、輸入車で多く見る日本仕様はローシートが標準、というパターンである。海外取材でデフォルトのシートに乗ると足着き感が良いのに、シート高が低い国内仕様だと逆に足着き感が悪い。足が地面に着く、着かない、よりも、足の裏がしっかりとバイクの車重と自分を支えやすいか、という点だ。シートは低いが、サブフレームの幅が今度は気になって、太ももの付け根が開いたようになる。すると、足の裏がピタリと地面を掴みにくくなる、ということだ。
足着きは身長があれば関係ない、と思われがちだが、その点でとても重要。数値を参考に是非実際にショールームや試乗車で跨がり実際の使い勝手を確かめて欲しい。その点でいえば、今回の2台は、足着き感がとても良く、不安が無かったことをまず報告したい。車体の造りから換えないと、なかなか難しい面があるのね、と勉強になった。今回走行テストは両車とも標準シートで行った。
電子制御も最新版を搭載。
モデルチェンジのタイミングで最新の電子制御が搭載された。まず、ライダーの視線、日常的に使う装備として、6.5インチサイズのTFTカラーモニターのメーターパネルがある。すでにBMWの現行最新機種に採用されるものと同型のもので、ハンドルバー左側にあるマルチコーントローラーから、画面のスクロールや、表示の選択が可能なのも同様。
また、オプションでライディングモード・プロを選択したとき、より細かく画面上で機能設定が可能なので、自分仕様に仕上げることも簡単になった。また、言語選択に日本語が追加になったのもニュースだ。日本語は漢字、ひらがな、カタカナを正しいバイク用語に翻訳するのが難しく、メモリー領域を多く使った、と開発エンジニアの1人は話していた。いずれにしても日本語採用は嬉しいニュースだ。
新しいFは、灯火類がフルLEDになった。オプションのダイナミックパッケージを選択すれば、コーナリング時に曲がる先を照らすようアダプティブコーナリングライトが加わる。これは車体が傾(約7度)くと点灯するもので、ワークショップで再現された夜間のデモンストレーションから効果的に働くことが確認できた。夜間の旋回時、自然とライダーの視線が走る方向に向くだろうし、対向車からの被視認性もさらに高まることが期待できる。実際に自分で体験したい装備の一つだ。
ライディングモードは、レイン、ロードの2種類を基本として、オプションのアクティブパッケージを選択し、その上でシート下にあるソケットにエンコーディングプラグを刺せば、そこにダイナミック、ダイナミック・プロの2モードが加わる。
これは、電子制御のABS、ASC(オートマチック・スタビリティー・コントロール トラクションコントロールと過剰な姿勢変化の抑制を兼ねた制御)が、ライディングモード・プロを選択すると、ダイナミック・トラクション・コントロール(DTC)、モーター・スリップ・レギュレーション(MSR)、ABSプロ、ダイナミック・ブレーキ・コントロール(DBC)などの機能が代替、もしくは追加され、、より細かでアグレッシブなライディングをアシストする、というもの。
例えば、ライディングモード・プロを選択した場合、ASCからDTCに制御が代わり、加速時のフロントリフトをASCよりも許容する方向になる。ABSプロでは、ブレーキング時、リアのリフト制御が加わるほか、ライディングモード・プロでダイナミック・プロモードを選択すると、リアのみABSがキャンセルされるなど、クローズドエリアなどでのアグレッシブな走りを想定した設定となっている。
MSRは、アクセルオフ時、リアタイヤがエンジンのバックトルクでロックしたり、不安定になるのを防止制御するものだ。例えば、高回転でアクセルオフにしたときや、エンジンブレーキを引き出すための高回転でシフトダウンをした時、滑りやすい路面でそのような操作をしたときも効果を発揮する。
それは、スリッパークラッチの役目では? と思った人は鋭い。しかし、スリッパークラッチは、後輪がグリップしているのを前提にメカニカルにそれを減じる装置だ。許容範囲を超えたエンジンバックトルクや、後輪が滑ったら効果がなくなる。そこで、電子制御のスロットルバルブを調整することで、リアタイヤの回転を確保し安定性を保つのがMSRなのだ。
DBCは、思わぬ急ブレーキ操作時に、力いっぱいブレーキレバーを握った右手が思わずアクセルグリップを開けてしまったような場面で作動するデバイスだ。電子制御が急激な減速を優先する判断をして、アクセルグリップが回っていても、スロットルバルブが開かないようにして、減速を優先させるというもの。
すでに先行発売されているS1000RRなどと同等の電子制御技術を搭載しているだけに、その出来映えが、走りを阻害せず安全性を高めていることを体験している。すでに、ワーニングランプが点灯しても、自然な介入作動にライディングへの集中を邪魔されないに違いない。
F900Rで走る。
F900Rのデザインコンセプトは、「ピュアリスト、アグレッシブ。新しいダイナミック ロードスター」なのだそうだ。左右2本のフロントフォークから生えた仮面のようなヘッドライト。燃料タンクから斜め前にせりだすラジエタートリム。新しいカタチをしっかりと届けている。
そして今風なテールエンドは、シートそのものがリアホイールの中心の上あたりですっぱり終わり、その先にはナンバープレートを支える細いフェンダーが突き出すスタイルだ。今回テストしたF900Rはスタイル・スポーツというモデルで、レーシングレッドの主色とシルバーストーンシルバーメタリックを使ったパネル周りで2トーン配色を採る。ブラックのホイールとゴールドのフォークアウターを合わせているのも特徴だ。
塗色はほかには、主色がブラックストームメタリック×タンクセンターカバーとラジエタートリムがグラナイグレーメタリックマット、フェンダーがミッドナイトブラックマット、シルバーのホイールを合わせた仕様、そして主色がサンマリノブルーメタリック×タンクセンターカバー、ラジエタートリムがグラナイトグレーメタリックマット、フロントフェンダーはミッドナイトブラックマット、ホイールがブラック、の3タイプが用意されている。
またがると、フレーム形状やシートシェイプで作られた足着き性が良いのが解る。太ももの部分を外に開かれるようなことがなく、地面に下ろした足の裏全体でバイクを支えられる。まるで普通に立っているような感覚で支えられる。F900Rの足着き性は◎だ。
ライディングポジションを摂ると、小ぶりなタブレットほどに見えるTFTモニターがハンドルバーの奥に見える。メインスイッチを入れれば、オープニング動画の後に最新BMWモデルと共通して、自車を描いたアニメーションが流れる。速度、エンジン回転、気温、時計などを中心に必要な項目が見やすい文字サイズで並ぶ。特に、老眼鏡を必要とする私でも裸眼で問題無く見えるのはありがたい。なにより、6.5インチだからこその表現力だ。
また、ヘッドセット、BMWモトラッドのスマホ用アプリConnectedをインストールしておけば、Bluetoothでバイクと繋ぎ、スマホからの通話、音楽など様々な操作をマルチコントローラーを通じて行うこともできる。また、バイクの情報もアプリに記憶されるので、コーヒーブレークの際、あと何キロ走れる、オドメーター距離、次回点検までの距離なども知ることができる。日本ではまだ使えないが、簡易ナビとしてメーター上に矢印表示する機能も実は隠されているのだ。
試乗車はダイナミックプロモードを選択できるオプション装着車なので、標準のメーターパネルのほかに、S1000Rでも採用される、アナログタコメーターを中心に、左右へのバンク角表示、DTCの介入度グラフ、ブレーキング圧力表示グラフなどスポーツライディングを彩る表示も選択可能になる。
質感の上がったエンジン。
スターターを回し始動した瞬間、その変化に気が付いた。F750/850GSでは始動した瞬間、ヘッド周りの油圧が上がるまでのわずかな時間、カチャカチャとノイズが出るのだが、900のユニットからはそれが消えている。当たり前なのだが、やっぱり音は出なくていい。
発進の時、ボトムエンドのトルク感は上々。クラッチレバーの操作力も軽い。これは先代F800オーナーが一番羨ましがる部分かもしれない。
不等間隔爆発のエンジンは、振動で鼓動感を伝えるようなタイプではなく、音と加速に現れる体感でそれを実感させてくる。スムーズでエンジン回転はBMWらしいし、市街地レベルの速度でも6速まで使えるフレキシビリティーがありギクシャクしないのはさすがだ。
市街地レベルからハンドリングがいい。持ち前の軽快感で切り取るように市街地を抜けて行く。交差点が平面交差ではなく、ランナバウトになっているこちらでは、タイミングを見計らってその輪の中に突入、加速して脱出方向に頭を向ける。基本、右折で入り、左旋回のため切り返す。ランナバウトから放射状に伸びる目的の道に向け再び右に切り返し、そこから離脱する…、そんな動きになる。その動きが適切な軽快感と安心感で決まるのだ。出だしから好印象二連発なのだ。
市街地を抜け、高速道路に入る。アクセルをひねり一気に速度を上げた。パワーは105hpだが、その加速感は充分。回転を上げると急に伸びるというタイプではなく、フラットなトルク特性だからドラマ的演出はないが、むしろそれが扱いやすい。120km/hの制限速度に一気に到達したころ、走行風の嵐になるのはネイキッドの辛いところだが、比較的前傾したF900Rならこの速度でも我慢ができる。乗り心地は快適で、無駄な突き上げは少ない。たまにコツンとシート、ハンドルグリップに衝撃が入ることもあったが、許容範囲だと思う。
高速を降りてアルメリアの風景の中に続くファンルートへと進む。市街地同様ハンドリングは軽快で、気持ちよく走っている。流す感じで高めのギアで加速すれば路面を蹴る印象の加速感に不等間隔爆発エンジンらしい排気音が加わる。
低いギアを多用してスポーツライディングをしてみる。ライディングモードはROAD。アクセルレスポンスは開け始めがマイルドだが、低めのギアでも開けやすく、右手を探って開けなくても車体にギクシャクやドンツキがこない。この辺、スロットルバルブの制御や旋回特性とのマッチング、サスペンションの設定や、ブレーキタッチなどフィーリング面をしっかり合わせ込まれている。
ライディングモードをDYNAMICにしてみる。スロットルレスポンスはダイレクトさを増し、電子制御サスも協調して制御されリアショックの減衰が高まる。車体全体がカッチリした印象になった。
旋回性にも軽快さというより鋭さが増し、ペースが上がっても狙ったラインをトレースするのがより簡単になった。ピッチング方向の動きが穏やかになりタイヤの接地点をより意識できることから、ブレーキがさらにコントロール性が高まった印象にもなった。こんな細かな変化をスイッチ一つで楽しめるのが電子制御の面白いところ。なにより、巧く乗れている感が上がるのがメンタル的になにより嬉しい。
DBCやウイリー制御など試すチャンスは無かったが、これまでFシリーズのロードスターが持っていたアジリティーを上回る走りは間違い無くアップグレードされている。フロント周りの安定感がバーハンドルのネイキッドというより、レーサーレプリカからカウルを外したストリートファイター系に近い印象もある。ダイレクトでスポーティーなのだ。それでいて市街地から走りが軽快だから嬉しい。
結論として、F900Rはスタイル通り、ちょっとアグレッシブな走りを楽しめるし、市街地でも存在感がある。また、BMWが用意するオプションパーツなどで着脱可能なソフトケースや、ウインドシールドを選べば、全体のスタイルを保ったままロングツアラーにもなる。そんな拡張性も含めこのバイクの守備範囲は広いく、その分楽しめることが確認できた。
XRはロード専門と知りながらも、
予感に満ちた多用途性こそ最大の魅力。
F900Rと同じ車体だと解っていても、F900XRを目の前にすると、そのボリューム感やデザインにまったく異なる魅力を感じる。外観からは見えないが、樹脂成形したパネルを溶接した燃料タンクは、Rの13リットルより大きな15.5リットルの容量が与えられている。フェアリングとウインドスクリーン、そしてサイドの造形を印象付けるパネル(こちらもラジエタートリムと呼ばれる)は、実際にライダーに当たる風を整流する役目も持つ。なにより、全体がもたらすボリューム感はなるほど、アドベンチャースポーツだ。また、肉厚に見える前後のシートは、Rと同じ長さだし、同じ位置でテールエンドを纏めているにもかかわらず、タップリとしたサイズ見えるから不思議だ。
跨がると、GSのポジション的で、アップライト。Rとは違うのがすぐに解る。ハンドルはワイドだが、手前に引かれていて、グリップエンドにも手が伸ばしやすい。シート高が900Rより10mm高いにもかかわらず、上体がスクっと立っているような姿勢なだけに、足着き感はいい。ちなみにこのF900XRの車重は223㎏。F900Rは215㎏。
今回テストした車両はスタイル・スポーツというバージョンだ。その特徴は、レーシングレッドとマットなグレーを配置したもので、フロントフォークアウターがゴールド、スモークのショートスクリーンを装備する、という特徴がある。ほかに、スタンダードとスタイル・エクスクルーシブというモデルがある。そちらはトールスクリーン、ブラックのフォークアウターになり、外装色も異なる。
6.5インチのTFTモニターのメーターパネルなどは共通で、オープニング動画は異なるが、操作性は同じ。空気圧モニターが使えるこちらでは、タイヤの空気圧の単位、燃費の単位も好みに合わせることができるのも特徴だ。この空気圧モニターは是非日本にも導入して欲しい装備だ。もちろんXRにも日本語表記が搭載されている。
走りだしのフィーリングは900R同様。トルクフルでスムーズなエンジン、そして軽いクラッチレバー操作力の助けもあり、発進をしただけでバイクとの距離が詰まったように思える。テストの発着となったホテルから出て、同じルートで高速道路まで走るのだが、その段階でサスペンション設定の違いもあって乗り心地がとても良いことに気が付いた。F900Rよりもフロントで35mm、リアで30mmストロークが長いという部分も効果を生んでいるのだろうが、嬉しい部分だ。
高速道路に入り加速をする。ポジションがアップライトなこともあってか、同じギアリング、同じパワーにもかかわらず、XRの加速はよりダイレクトに腹筋を直撃する。速い。そして、低いスクリーンながら、2段階で高さ調整ができるので上げると、天地方向では胸からヘルメットの顎下あたりまで、左右は両肩に当たる走行風が和らぎアップライトなポジションながら長距離移動も疲労が軽減される。
20分程度の高速移動が終わり、一般道に入ってきた。大きな曲率のカーブから次第にタイトな道へと続き、同時に標高も上がってくる。ポジションはことなるが、バイクを寝かすロール方向への動きは一体感あるものだ。バイクとライダーが一体になる充実感があるRに対し、XRのそれは、もっと軽快さが加わり、なるほどアドベンチャーバイク的なムードが加わっている。ポジションの違いもあり、旋回初期にフロントタイヤの向きがスッと変わり、気持ちが良い。アップ、ダウンがあり、日本の峠道にも似たカーブが多いコチラの道でも良い、ということは、日本でも期待大である。
減速をしながら進入がしやすく、カーブでもラインの修正をしやすい。全体に安心感が大きいのだ。ダンパー設定をROADからDYNAMICにして減衰圧を高めたり、ライディングモードをROADからDYANAMICに変更してアクセルレスポンスをよりダイレクトにしても、この傾向は同じ。F900Rではこまめにスイッチングしたくなったが、XRではサスペンション設定だけ変えたら、アクセルレスポンスはどちらのモードでも許容できる印象だった。
ルートの後半、XR用に用意されたより狭くツイスティーなルートに入った。センターラインはなく、イメージとしては日本の舗装林道か、それよりも少し広いか、という道だ。時折道が狭まり、舗装はところどころ荒れている。サスペンションの良さとアジリティーの最終確認をしてもらおう、という趣向のようだ。
走り始めてすぐに荒れた舗装路を掴みしなやかに動くサスペンションの良さを再確認した。直線→減速→カーブ→加速→減速→カーブという短いリズムで訪れる変化の中、F900XRはスパスパとそうした事象を切り刻んでゆく。むしろ、今までの道が前菜なら、この道でこうして走ることこそ、XRの本領発揮、とでもいいたげだ。
アップライトなポジションから来る視線の高さ、サスペンションストロークの長さがもたらす吸収性の良さ。考えたら当たり前なのだが、このサイズのバイクが意図した通りに動き、楽しめるのはちょっとした驚きだ。
シフトアシスタント・プロがもたらすアップ、ダウンともクラッチ操作せずにシフトできる駆動の途切れが最小におさえられた恩恵も少なくない。MSRがもたらすアクセルオフ時の安定した接地感も実は大きかったのかもしれない。すくなくとも、不安と違和感を感じることなく走れた。その結果、F900XRというパッケージで素晴らしい体験をした。この記憶と体験ができたことこそ、ボクができる最大の評価だ。コイツは面白い!
(試乗・文:松井 勉)
■F900R/F900XR
(※一部意匠は異なるが、スペックが共通な部分)
■F900R
●エンジン
型式:水冷4ストローク並列2気筒エンジン、1気筒あたり4バルブ、オーバーヘッドカムシャフト2本、ドライサンプ潤滑方式
ボア×ストローク:86mm×77mm
排気量:894cc
最高出力:77kW (105hp)/8,500rpm
最大トルク:92Nm/6,500rpm
圧縮比:13.1
●性能・燃費
最高速度216km/h
WMTCに基づく100km当たり燃料消費:4.2L/100km
WMTCに基づくCO2排出量:99g/km
クラッチ:多板湿式クラッチ(アンチホッピング)、機械式操作
ミッション:コンスタントメッシュ6速ギアボックスをクランク室に統合
駆動方式:後輪ハブにショックダンパー付きエンドレスOリングチェーン
●車体・サスペンション
フレーム:スチールシェル構造ブリッジフレーム
フロントサスペンション:倒立式テレスコーピック・フォーク、φ43mm
リアサスペンション:アルミキャストデュアルスイングアーム、センタースプリングストラット、スプリングプリロード油圧制御式、調整式リバウンドダンピング
サスペンションストローク、フロント/リア:135mm/142mm
軸距(空車時):1,520mm
キャスター:114.3mm
ステアリングヘッド角度:60.5°
タイヤ、フロント:120/70 ZR 17
タイヤ、リア:180/55 ZR 17
ブレーキ、フロント:デュアルディスクブレーキ、フローティングブレーキディスク、φ320mm、4ピストンラジアルブレーキキャリパー
ブレーキ、リア:シングルディスクブレーキ、φ265mm、1ピストンフローティングキャリパー
ABS:BMW Motorrad ABS
●寸法・重量
シート高:815mm (OEサスペンションローアリングキット: 770mm、OEローシート: 790mm, OA ハイシート: 835mm、OAコンフォートシート: 840mm、OEエクストラハイシート: 865mm)
燃料タンク容量:13L
リザーブ容量:3.5L
全長:2,140mm
全高(ミラーを除く):1,135mm
全幅(ミラーを除く):815mm
空車重量、走行可能状態、燃料満タン時:215kg
■F900XR
●エンジン
型式:水冷4ストローク並列2気筒エンジン、1気筒あたり4バルブ、オーバーヘッドカムシャフト2本、ドライサンプ潤滑方式
ボア×ストローク:86mm×77mm
排気量:894cc
最高出力:77kW (105hp)/8,500rpm
最大トルク:92Nm/6,500rpm
圧縮比:13.1
●性能・燃費
最高速度200km/h以上
WMTCに基づく100km当たり燃料消費:4.2L/100km
WMTCに基づくCO2排出量:99g/km
クラッチ:多板湿式クラッチ(アンチホッピング)、機械式操作
ミッション:コンスタントメッシュ6速ギアボックスをクランク室に統合
駆動方式:後輪ハブにショックダンパー付きエンドレスOリングチェーン
●車体・サスペンション
フレーム:スチールシェル構造ブリッジフレーム
フロントサスペンション:倒立式テレスコーピック・フォーク、φ43mm
リアサスペンション:アルミキャストデュアルスイングアーム、センタースプリングストラット、スプリングプリロード油圧制御式、調整式リバウンドダンピング
サスペンションストローク、フロント/リア:170mm/172mm
軸距(空車時):1,530mm
キャスター:105.2mm
ステアリングヘッド角度:60.5°
タイヤ、フロント:120/70 ZR 17
タイヤ、リア:180/55 ZR 17
ブレーキ、フロント:デュアルディスクブレーキ、フローティングブレーキディスク、φ320mm、4ピストンラジアルブレーキキャリパー
ブレーキ、リア:シングルディスクブレーキ、φ265mm、1ピストンフローティングキャリパー
ABS:BMW Motorrad ABS
●寸法・重量
シート高:825mm (OEサスペンションローアリングキット: 775mm、OEローシート: 795mm、OAハイシート: 840mm、OAコンフォートシート: 845mm、OAエクストラハイシート: 870mm)
燃料タンク容量:15.5L
リザーブ容量:3.5L
全長:2,150mm
全高(ミラーを除く):1,320~1,420mm
全幅(ミラーを除く):860mm
空車重量、走行可能状態、燃料満タン時:223kg