VERSYS1100SEはエンジンの排気量拡大をして2025年に登場した。Ninja1100SXとともにツーリングワールドをさらに醸すカワサキの実力モデル、そんな言葉が試乗中に浮かんだ。スカイフック理論を用いた前後の電子制御セミアクティブサスペンションを装備し、パワー、トルクを増強したエンジンによりしっとりとした走り、ゆったりとした速度域での余裕が生まれている。さらにオプションパーツで拡張性もあり旅の準備をさらりとこなすバイクなのである。
- ■試乗・文:松井 勉 ■撮影:渕本智信
- ■協力:カワサキモータースジャパン
- ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、SPIDI https://store.56-design.com/collections/spidi、Xpd https://store.56-design.com/collections/xpd
Ninja 1100SX同様、カワサキのツアラー系として進化を続けるVERSY S1100 SE。先代ではボア×ストロークが77mm×56mmの並列4気筒エンジンは1043㏄だったが、ストロークを3mm延長した新型のエンジンは排気量を1098㏄としたことで、先代比53㏄増量された。
圧縮比は10.3:1から11.8:1へと高められ、最高出力は88kW(120PS)から99kW(135PS)へ。最大トルク値は102Nmから112Nmへとそれぞれ増強。トルク特性の最適化を狙ってNinja1100SXシリーズでは最高出力を減じてでも実を取ったが、VERSYSは逆にパワーアップを選択した。
アドベンチャーバイクといえば1人乗り、2人乗り、そしてラゲッジを乗せて遠出など様々なシーンが想定される。海外ブランドの2気筒、3気筒、4気筒勢でもVERSYSを上回るスペックを持つ車両はめずらしくない。しかし、スペックで語れないのがツーリングワールドだったりもする。低い回転領域でかつ高いギアを繋いでアクセルだけで加速するような場面で活きてくるエンジン特性が結果的に長期間、長距離での走りをサポートすることは多くのライダーが識っていることだ。
VERSYS1100SEのデザインは、Ninja1100SXの車高を高め、大型のウインドスクリーンを装着したかのような出で立ちで、カワサキブランドとしての一貫性を感じる外観デザインになっている。また、スイッチ類やUSB-Cタイプの給電ポートを備えるなど備えは充分。メーター周りに関しては大型のTFTモニターを持つSXとは異なり、アナログのタコメーターと小ぶりなTFTモニターの組合せになる。
試乗車はパニアケースキット、トップケースキットに加えLEDフォグランプなどを備えたツーリング向けオプションパーツを装着したもの。多くのユーザーがディーラーから引き取る時にこのような姿で納車されるのではないだろうか。209万円の車両価格に装着されたオプションを含めると260万円近くにまでなるが、実用的な装備が多く、ディーラーでのワンストップでこのカタチにナルのは有り難い。ユーザーもナットクだろう。
セミアクティブサスペンションの恩恵はフロントサスの動きから路面状況を計算、後輪がそのギャップを通過する前にリアショックの減衰圧を調整することで、快適な乗り心地をライダーに提供しよう、というもの。スカイフック理論とはあたかも宙づりでバネ下だけで動くかのような魔法の絨毯の如き乗り味を目指した、というもの。
とはいえ徹頭徹尾平穏な乗り心地だと、ライダーにとって前後のピッチング、左右へのロール速度など走りを直感付ける部分までフラットにならされてしまいかねない。このあたりはターゲットユーザーの走りを想定して作り込むほか、カワサキとしての味付けがあるのはいうまでもない。
国産ブランドであるショーワがスカイフック理論をもとに開発したハードやソフトをカワサキの開発陣とともに味付けをしてVERSYSワールドに当てはめたもの。今回乗って便利だったのは、ライダー一人、ライダー一人+荷物、ライダー2人、ライダー2人+荷物のように目安として荷重が増えた時のリアスプリングのイニシャルプリロード調整がボタン一つで簡単に選択できること。多くのモデルでフルアジャスタブル機能はあるものの、ぶっちゃけ走る場面で微調整をするのは面倒くさい。VERSYSのようなツアラーの場合、宿泊先の部屋までパニアケースを持ち込んだりして、翌日は連泊、周辺を身軽に走る場合など荷重変化があるだけに、スイッチ一つで変かしてくれるのはありがたい。
ちなみに今回はトップケース、パニアとも空だったが、1人乗り+荷物を選択すると車体姿勢が変化する分、ハンドリングもキリっとした印象になった。そう、荷物だけではなく、ワインディングなどを走る場面でも応用が利くのだ。
排気量が増えた恩恵はやはり低い回転数を使って市街地を走る時の、発進時や左折や細い道、しかも登りでタイトターンというような場面で4気筒エンジンのスムーズさだけではない頼もしさを感じられた。
またクイックシフターの設定もあり、ライダーにとってクラッチレバーを操作する場面が減ることでロングライドでの疲労低減にも一役買っている。パワーモードやライディングモードの選択など走行状況に合わせて好みに乗り味を選択できるのも嬉しいところ。例えばこの夏。気温38度という猛暑は特別でもなんでもない日常になった。灼熱の高速道路を走り、軽井沢から有料道路で志賀草津方面を目指せば気温にして標高をあげれば、気温は10度は下がるし、雨、キリが峠の向こうで待ち構えることもある。わずか数時間のウチに季節感、天候までがらチェンするのがツーリングの醍醐味。そんな場面でライダーを支えるのがアドベンチャーバイクの挟持というもの。電子制御はそうした不安をとりのぞき、安心感を高めるための装備だ。
短時間の試乗ながら、ワインディングではプリロードを変えるだけで走りのシャープさは変化してくれたし、前後に150mmほど与えられたホイールストロークによるやや大きめなピッチングも捉えやすくなった。
エンジンがパワフルさをましたことよりも4気筒らしいスムーズさを後ろ盾にしてギアチェンジすらあまりせず「大排気量」車的に意識せずに走れるのが魅力だった。前後17インチということで軽めのダート路までは守備範囲だろうが、車体がもたらす低重心感、扱いやすい低回転での出力特性などを考えれば、以外やどこでもつれていってくれそうだ。VERSYS1100SEはパッケージとして熟成されたのが確認できた。
(試乗・文:松井 勉、撮影:渕本智信)
価格税込み:56,650円
カワサキ純正ウエアを見ると多くのブランドとのコラボがされているのが解る。この商品はクシタニとのコラボで作られた製品。2季節的には3シーズン向け。ポリエステルの中綿を持つダウンジャケットのような軽さを持つ着脱可能なインナーを装備。そのインナーの裏地はナイロン系の滑りが良い生地を使い、例えばレイヤリングにフリースを着用した場合でもライディング時に腕回り、肩周りなどが絡みつくことがなさそう。アウターシェルはナイロン×ポリエステルの混紡でこちらも薄く軽い。春、秋、あるいは夏でも冷涼なエリアを走る場合はかつやくしてくれるだろう。フードを装備し、ポケットには止水を考慮したファスナーも装備。背中にはベンチレーションアウトレットも備える。肘、方、背中にシルエットにひびかないよう控えめなプロテクターも装備する。インナーとアウターのフロントジッパーの位置をオフセットすることで全閉時にライダーの喉元がファスナーで突き上げられる不快感も低減させている。オフロード走行を意識したアドベンチャーバイク用ジャケット、パンツの価格が上昇傾向にあるなか、コストパフォーマンスに納得の一着ではないだろうか。
■エンジン種類:水冷4ストローク並列4気筒DOHC 4バルブ ■総排気量:1,098cm3■ボア×ストローク:77.0×59.0mm ■最高出力:99kW(135PS)/9,000rpm ■最大トルク:112N・m(11.4kgf・m)/7,600 rpm ■全長×全幅×全高:2,270×950×1,490mm(1,530mm ※ハイポジション時)■軸距離:1,520mm ■シート高:820mm ■車両重量:260kg ■燃料タンク容量:21L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤサイズ前・後:120/70ZR17M/C (58W)・180/55ZR17M/C (73W) ■ブレーキ(前/後):ダブルディスク/シングルディスク ■車体色:メタリックグラファイトグレー × メタリック、ディアブロブラック ■メーカー希望小売価格(消費税込み):2,090,000円
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