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試乗・解説

Kawasaki VERSYS 1000 SE 最新・スカイフック×VERSYS。 いわゆる一つの究極を楽しむ。
やっとこの機会が来た。進化したヴェルシス1000 SEに乗るのだ。ショーワがスカイフックのアルゴリズムを投入して開発した新しいセミアクティブサスペンションを搭載し、エンジンの特性や持ち前のスポーティーさと相まってカワサキ・ヴェルシス1000 SEの極みとも言える存在になったにちがいない。で、結論。サスだけで買い換え動機になるの? という疑問に明解に答えよう。コレはスゴイ。スゴクいい。ヴェルシス乗りにこそ確かめて欲しいその違いなのだ。
■試乗・文:松井 勉 ■撮影:赤松 孝 ■協力:カワサキモータースジャパン https://www.kawasaki-plaza.net ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、56design https://www.56-design.com/




ヴェルシス+スカイフックの意味とは。

 ヴェルシス1000 SEはカワサキのラインナップ中でも人気のスポーツアドベンチャーツアラーだ。アドベンチャー系ながらオフロードを積極的に走るキャラクターではなく、その分舗装路での走りでオーナーを満たす方向で作り込まれている。
 しかしながらその開発コンセプトは “ANY ROAD ANY TIME”。
 フラットダートならライダーの腕前次第でツーリングルートに加えることも可能だろう。2019年に現行型にモデルチェンジを果たし2021年モデルにおけるエポックは最新の電子制御サスペンションの搭載だ。これが興味深い。

 本題に入る前にヴェルシス1000 SEのアウトラインを復習しよう。水冷DOHC4バルブ1043㏄エンジンをアルミツインチューブフレームに搭載するその成り立ちは、2012年に初代ヴェルシス1000がデビュー以来採られたレシピだ。2015年のフェイスリフトからNinjaクロスオーバーと呼びたくなるフェアリングデザインを得てスタイルも進化。カワサキのスポーツセグメントバイクに寄せたことで「アドベンチャーバイクなの?クロスオーバーなの?」という曖昧さを払拭。明解なるスポーツツアラー系クロスオーバーモデルになった。今後もそうした路線を貫くだろう。
 

 
 モデルチェンジ毎に進化したエンジンも印象的。特に最新型では吸排気系などのセットアップやマネージメントの進化によりリファインを続けてきた熟成版で、パワー特性や回転の滑らかさは、現在世界にある直列4気筒エンジン搭載モデルの中でも上位にランクされる。新たに電子制御スロットルやボッシュ製の6軸方向の加速度をモニターするIMUを得てパワーモードやトラクションコントロールなどの制御系も最新スペックを搭載している現行型はなおさら。それだけに価格が200万円に迫るものだが、その内容を見れば納得。何より4気筒クロスオーバーというジャンルはヴェルシスを他にすればBMWのS1000XRしか見当たらないという実は貴重な存在なのだ。
 

 

ハイライトはやっぱりスカイフックサスペンション。

 エメラルドブレイズドグリーンと呼ばれるカラーに包まれたヴェルシス1000 SE。新たにSHOWA製EERA電子制御サスペンションに投入されたのが、スカイフックアルゴリズムをベースに制御されるセミアクティブサスペンション。スカイフックが意味するのは、まるで宙づりのようにバネ下の動きで路面からの入力を吸収しようというもの。フロントとリアにストロークセンサーを設け、その情報は車体の状況、ライダーが操作したことから生じる車体の動きを予測。内蔵されたソレノイドバルブで適宜瞬時に最適な減衰圧に変更することでスカイフックを具現化しているサスなのだ。
 

 
 ユニット的にはフロントφ43mmのカートリッジタイプの倒立フォーク。そのストロークは150mm。リアユニットはBFRC Liteを搭載。リアのストロークは152mmとなる。また、プリロード調整もライダー一人、ライダー一人+荷物またはパッセンジャー、ライダー+パッセンジャー+荷物に大別されプリセットが組まれている。それも新たなTFTモニターから調整が可能だ。

 ポジションは幅広のテーパーバーを持つこともあり、アドベンチャーバイク風。そしてステップは適度な位置にありポジションはリラックス系だ。シートが低めの設定になっているので、相対的にハンドルバーが高く感じると同時に、やや遠く感じる場面もある。820mmのシート高にまったく問題がないライダーなら、オプションで用意されるハイシートを選べばポジションの印象を簡単に変更できるだろう。個人的にはもう少し高めの着座位置から斜め下に腕を下ろしてハンドルバーにアクセスしたいので、着座位置を上げたいところ。高さを45mmスライドさせて変えられるウインドスクリーンの「視界占有率」も高く、これも現状のシート位置から着座位置を少し上げたい要因の一つ。
 

 
 満タン状態で257㎏となる車重は軽くないが、重心位置が低く感じるためサイドスタンドから起こす時に必要な力はそれほど感じなかった。ここではワイドなハンドルバーが活きているのかもしれない。

 バイワイヤーのスロットル、アシスト&スリッパー機構を持つクラッチ、ともに操作系は軽く、イメージ通りにバイクを動かせる。また、シフトアップ、ダウン双方に作動するクイックシフターの操作感も上々。走り出す前、シート位置の関係もあり大きく感じたバイクがどんどん手の内に入るような一体感を味わえた。
 

 

スカイフックな足は?

 本題のセミアクティブサスペンションだ。まず、発進。フロントフォークの伸び側を抑えてくれているのだろう。姿勢が路面と平行なまま加速をする印象だ。また、これは電子制御あり、なしで直接比較をしなければ解らない部分だが、ヴェルシス1000 SEで走り出した瞬間から乗り心地がよく、すり減ったタイヤを交換した直後にも似たふんわりとした乗り味だ。しかもそれがソフトだとか、よく動くとかの表現ではなくあくまでも車体をフラットな姿勢に保ったままキレイな路面を走っているような印象なのだ。
 

 
 細かな段差ではフロントがそれを通過すると瞬時にリアにその情報が伝達されるため、グリップに届いたコンというキックバックは後輪が通過する時点ではトンというマイルドに角が丸められたものに変換されている。例えば幹線道路でトラックが多い道、あえてそのボコボコした轍をトレースしても、ピッチングを抑え入力をソフトに変換してくれるのだ。

 ソフトな印象だ、といってもピッチングが大きくなったりするのではなく、タイヤが通過する瞬間に減衰を調整するため、あたかもタイヤがマシュマロで、路面のアンジュレーションをムニュっと包み込むかのような……。なるほどスカイフックアルゴリズム! 特に高速道路での移動ではその快適性がウインドプロテクション、スムーズかつパワフルなエンジンも相まって、ワインディング区間が続く場面でもタイヤの接地感をしっかり伝えつつ、意のままに走れるハンドリングを楽しんだ。

 

 
 このモデルと比較すればこれまでのヴェルシスは、乗り心地方向にサスセットを振ればワインディングでややピッチングが気になる、硬めにしてスポーティーネスを上げると、移動時のコツコツ感が気になる、という気にしなければ気にならないレベルながら、サスセットの領域から外れた時に、ああ、電子制御セミアクティブなら、と思ったことがあったから、新型はまさに完璧なるヴェルシスとなった。

 ワンディングではスポーツツーリングタイヤのうま味をしっかりと引き出せるパッケージであり、鼻歌交じりでアプローチできた。特にブレーキング時のノーズダイブがしっかり抑えられ、同時にタイヤの接地点からのグリップ感が際立つので、安心感が高い。そこからリーンする時の動きも穏やかな中にキレを持ったもの。この移行の瞬間にやや「間」を感じた従来モデルの部分を新型のサスは消してくれている。嬉しい。
 

 
 RAIN/ROAD/SPORT/RIDER と4つに設定変更が可能なライディングモードを持つヴェルシス。ワインディングロードで試した。例えばROADで慣れたあとRAINにシフトしても、スロットルの開け口(グリップをわずかに捻ったところ)のレスポンスがマッタリすぎたり、とろかったりするような違和感がない。同様にSPORTでも車体にギクシャク感が出るほど過剰なパワフルさの演出もない。つまり常に扱いやすく走りに集中できる丁寧なマップが作り込まれている。モードに併せてサス、ABS、トラコンなどのマップも変更されるから、車体の動きを常にベターな方向にしてくれるのが解る。上質だ。

 また、車体姿勢を少し変えたい場合、イニシャルプリロードを変更したりすることもできる。姿勢を少し変えるだけで明確にハンドリングのキビキビ感が引き出せたり、ロール速度やハンドリングが弱アンダー気味からニュートラル方向に変化するので、これも◎。
 ライダー+荷物、二人乗り、二人乗り+荷物というようなプリセットされたプリロードを選択するだけでもこの辺は簡単に味わえるからライダーのライディングスタイルに合わせて是非お試しだ。
 

 

さらなる優位となる可能性。

 セミアクティブサスを得たヴェルシス1000 SE。今回はライダー一人、空荷という状況でのテストをしたが、電動でプロリードを簡単に調整できるため、二人乗り、あるいは積載時などでも簡単に理想の姿勢を引き出せる。個人的にも何度か「フルアジャスタブル」なサスを持つバイクに乗ってきた。が、イチイチ伸び側、圧側(中には高速、低速側を調整できるものもあった)、荷重に併せてプリロードを調整したか、というと自分の場合ほぼ触らずじまい。2013年以降、ヴェルシス同様の機能をもつサスペンションのバイクに乗り続けているので、正直、セミアクティブになれた体には「マニュアル調整」が必要な足には戻りたくない気分だ。一言で表現すれば機能を享受するための手数が多すぎる。

 もう一つとっておきの可能性として、リアシートの乗り心地が素晴らしいだろうと想像する。フラットな乗り心地と、ピッチング方向の動きも緩和してくれるスカイフックアルゴリズムのバイクは、タンデムライダーにこそ大きく大切なベネフィットをもたらすと思う。その点でタンデムツーリングするのに良いバイクを、と探している向きにはオススメしたいヴェルシス1000 SEなのだ。
(試乗・文:松井 勉)
 

 

ライダーの身長は183cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

 

エンジンは1043㏄直列4気筒を採用。88kW/9000rpm、102N.m/7500rpmというスペック。アイドリング回転より少し上から扱いやすい実用的なトルクを滑らかに紡ぎ出す。

 

 

フロントブレーキはφ310mmのディスクプレートとラジアルマウントされるモノブロック対応4ピストンキャリパーを組み合わせる。フロントフォークはφ43mmのインナチューブを持つカートリッジインナーをもつ倒立。そのストロークは150mmと長く採られている。フロントフォークのトップキャップを見るとダンピングを調整するソレノイドバルブやストロークセンサーからの信号を受ける配線などが装備されている。

 

φ250 mmのディスクプレートとシングルピストンキャリパーを組み合わせるリアブレーキシステム。

 

エンジン下部に排気コレクターボックスを持ちそこから容積の大きなサイレンサーエンド部を装着している。
テールランプ、ウインカーはLED光源。輝度が高く小ぶりでスッキリしたデザインにも一役買っている。

 

メーターパネルはLEDの透過照明タイプのアナログタコメーターとTFTカラーモニターを採用する速度計+インフォメーションディスプレイを採用。バックグラウンドカラーは白、黒から手元のスイッチで選択が可能。その輝度は周囲の明るさで自動的に調光される。また、TFTモニターの表示デザインも選択が可能になっている。

 

 

ライディングンモード表示はRAIN ROAD SPORT RIDERの4つ。RIDERはライダーが好みでパワー特性やトラコン、サスペンションの設定パラメータを設定し記憶させるいわばお好みモード。他のモード選択時でもパラメータ表示をさせることも可能。

 

リアサスペンションのスプリングイニシャルプリロードを解りやすくアイコン表示。一人乗り、一人乗り+荷物、二人乗り+荷物それぞれのモードでプリロードが変化。合わせて減衰圧設定も調整される。KQSの表示はクイックシフターがアクティブ時に表示される。

 

ビークルセッティングの画面では様々な設定を好みで変更可能。現在表示されている画面では、シフトランプを光らせる回転数やサスペンションの基本設定、またはKQS(カワサキ・クイック・シフターの略)を使う、使わないといった設定へとアクセスができる。

 

右側にあるセレクトスイッチとウインカースイッチの上にあるUP/DOWNスイッチを使い様々な画面の呼び出し、決定や設定が可能。トリップなどのリセットが手元でできるのももはやフェアリングを持つツーリングバイクとしては常識的。

 

 

一見、前後セパレート風シートのデザインだが、一体式。ETC2.0を標準装備する。

 

 

スクリーンサイズは大きめ。左右にあるダイヤルを緩めればスライドさせて高さ調整が可能。写真は最上段、最下段、そしてその可動域を合成したもの。

 

フェイスデザインはNinja系と親和性をもたせたもの。
燃料タンクは21リットルの秤量を持つ。ライダーとのコンタクトエリアはスリムに仕立てられている。

 

Kawasaki VERSYS 1000 SE Specification
■エンジン種類:水冷4ストローク直列4気筒DOHC 4バルブ ■総排気量:1,043cm3■ボア×ストローク:77.0×56.0mm ■最高
出力:88kW(120PS)/9,000rpm ■最大トルク:102N・m(10.4kgf・m)/7,000 rpm ■全長×全幅×全高:2,270×950×1,490[1,530]mm ■軸距離:1,520mm ■シート高:820mm ■車両重量:257kg ■燃料タンク容量:21L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤサイズ前・後:120/70ZR 17M/C・180/55ZR 17M/C ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク/油圧式シングルディスク ■車体色エメラルドブレイズドグリーン×メタリックディアブロブラック ■メーカー希望小売価格(消費税込み):1,991,000円 ※[ ]はハイポジション

 



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2021/12/06掲載