軽二輪スクーターは近年、皆160cc近辺になってしまってフルサイズの250ccモデルはXMAXとフォルツァの2台となってしまった。しかもけっこう高価! そんななか密かにファンを増やしているのがコチラ、X-TOWN CT250だ。フルサイズ250cc、ステップスルー、爽やかなスカイブルーカラーで56万1000円である。
- ■試乗・文:ノア セレン ■撮影:渕本智信
- ■KYMCO https://kymcojp.com/
- ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、カドヤhttps://ekadoya.com/ 、アルパインスターズ https://www.instagram.com/alpinestarsjapan/
軽二輪スクーター界の変化
あんなに盛り上がっていた「ビグスク」たちはどこへ行ってしまったのか……。00年代には各社から複数機種発売されカスタムも盛んだったカテゴリーだが、今ではそのお株は160cc付近のモデルに取って代わられた。125ccよりはパワーがあり、それでいて高速道路にも乗れて、軽量コンパクトな車体で燃費も確保しやすいなどなど、実用車としての良きバランスは160cc辺りということに落ち着いたということだろう。
そして生き残ったフルサイズの250ccスクーターは高級路線、スポーティ路線へと舵を切った。ホンダのフォルツァ、ヤマハのXMAX共に価格は70万円越え。ホンダに至っては80万円近い。そう、いつの間にか「ビグスク」情勢は大きく変わっていたのだ。
そんな中、海外勢として気を吐くのはスクーターを得意とするキムコ。過去にはG-Dinkシリーズなどを展開してきており、最近では箱やスクリーンを純正装備するターセリーや150ccのアローマなどもじわじわと人気となっているが、現在のフラッグシップはこのX-TOWN CT250である。そして何が素晴らしいって、250ccでもステップスルーとしていることと、価格が56万1000円であることだ!
ステップスルーってだけで正義
現在、軽二輪クラススクーターでステップスルーはとても少なくなってきた。160ccクラスではヤマハのXフォースや、一部海外メーカーにもほぼステップスルーというのもあるが、250ccクラスとなるとこのXタウンだけ。そんなに少なくなってしまったのならば需要がないということなのだろうが、いやいや、そんなはずはない、と思ったのは筆者だけでなくキムコも同じだったわけだ。
やはりステップスルーは圧倒的に便利。特に最近のバイクのトレンドである背の高さを考えると、足を上げて跨ることがけっこうハードルとなる場合があるのだ。その点ステップスルーならば老若男女、誰でもスッとアクセスできて気軽に走り出せる。コンビニフックも備えて原チャリ感覚で乗れるのもありがたい。せっかくスクーターというカタチをしているのならば、やはりステップスルーという便利さは確保したいというキムコの考え方に筆者は完全に同意するのである。
優しい走り
ルックスがだいぶモダンになっているXタウンだが、ホイールが13インチということもあって重心が低く、シート高は特別低いというわけではないにもかかわらず安心感が高い。サスの設定も柔らかで、00年代に流行ったかつての「ビグスク」のような気軽さがあるのだ。
走りの方も親しみやすいもの。もともと300ccとして作られたエンジンを、250ccクラスにニーズがある日本市場とギリシャ市場のためだけにボアダウンしたわけだが、2バルブということもあってか出力特性はまろやかなフィーリング。アクセルのツキも穏やかで全く構えることがなく乗れるのが魅力だろう。
キムコジャパンスタッフの方が「特別パワフルじゃないですね」「燃費は30ぐらいです」「ほんと、普通のバイクなんです」と特に何もアピールしないのがなんか可笑しかったが、しかしその通りなのだ。良い意味で本当に「普通のバイク」なのである。アクセスが良好、どこにも複雑さがなく、誰でも何のストレスもなく走り出せる。リターンライダーや、小柄なひとにもジワリと人気が広がっているのはこういった設定のおかげだろう。
あぁ、「普通」がなんと有り難いことか! スクーターってこれでいいのだ。スクーターってこれがいいのだ!
日常領域に特化
車重は決して軽くはなく、パワーはホンダやヤマハの250スクーターに比べるとおとなしい。しかもフラットフロアということはアンダーボーンフレーム。そうなると走りはどうなのかと気になるが、さすが250ccだけだって交通の流れに乗るのには十分すぎる力もあり、かつ日常領域では振動も音も少なく極スムーズ。加えてフロント周りにはボリュームがあるのにUターンもスイスイ。ステップスルーだからと言ってコーナリング中にヨレたりしないのはスクーターに強いキムコならではの技術だろう。これならばその名の通りタウンユースではもちろん、片道100kmほどの通勤などに使っても疲れずに移動できそうである。ルックスこそモダンだし特にこのカラーはお洒落でもあるのに、実用車として超優秀なのである。
ちなみにその背景にはキムコのスポーツマインドを全部詰め込んだKRV180TCSの存在もあるかもしれない。こちらは完全にスポーツに振った設定で、180ccクラスなのに価格はXタウンと同じ56万1000円。このラインナップだからこそ「スポーツの方はKRVへ、実用の方はXタウンへ」と割り切った商品づくりをできているのではないだろうか。
使える性能
実用スクーターとしてさらに唸らせられるのは各種の便利な設定だ。とにかくシートが快適なのがまずはポイントが高い。125ccクラスをベースとしている160ccクラスに比べるとそもそも車格が大きいわけで、そのおかげでシートは幅も広いし背もたれも立派。加えてタンデムシートも十分な広さを持っておりタンデムグリップ含めてタンデムをしっかり考慮しているのが嬉しい。これはタンデムライドも多い欧州モデルをベースにしているおかげだろう。
ライディングポジションも自由度があって好印象だ。長身の筆者でも窮屈に感じることはないし、ステップボード前方は斜めになっている部分の面積が大きく、足を投げ出せて快適なだけではなく、ブレーキング時にはしっかり踏ん張ることもできる。
ハンドル中央はカバーになっていて、その下にはUSB電源がある。そこに挿したケーブルもしっかりと取り出し口が考えられていていかにも便利そうだ。こういった点も実用車として抜かりないと感じた。
なおオプションではリアのボックスをつけるための台座やロングスクリーンも用意されているため、さらに快適仕様に仕立て上げることも可能である。
「乗り続けられる」キムコ
近年ではだいぶ浸透した感のあるキムコだが、販売店の少なさや絶対的流通量の少なさなどからまだ乗ったことがない人も多いかと思う。実は2スト100ccの「キムコ トップボーイ」を所有していた筆者なのだが、そんな古いモデルにもかかわらず「スピードメーターケーブルがちゃんとまだ出たんですよ」とキムコスタッフの方に申し上げたら、キムコはパーツ供給には特別力を入れていると教えてくれた。
現行車に関しては日本国内に大量にパーツを持っているため、注文が入れば即日発送が基本だそう。そうとう珍しい部品だとしても、航空便が月に3便入ってくるため2週間以内の納品率は限りなく100%に近いとか。またトップボーイの例でもそうだが、かなり旧いモデルでもしつこくパーツを作り続けるのもまたキムコの社風だとか。「だから長く乗り続けられるんです」と、これまた控えめにアピールしてくれたのだった。
バイクを趣味としてだけでなく実用として使うことも多い筆者は、キムコのバイクに触れるたびに「これだよな! キムコ、好きだぜ」とそのモノづくりスタンスに共感する。筆者と同じように、スペックやエキサイティングさはそこまで重視せず、むしろ毎日のようにストレスなく付き合えるような性能を重視する方には特にお薦めしたい。
(試乗・文:ノア セレン、撮影:渕本智信)
■エンジン種類:水冷4ストローク単気筒SOHC2バルブ ■総排気量:249cm3 ■ボア×ストローク:72.7×60.0mm ■圧縮比:10.08 ■最高出力:14.94kW/7,500rpm ■最大トルク:21.1N・m/6,500rpm ■全長×全幅×全高:2,200×810×1,320mm ■ホイールベース:1,500mm ■シート高:790mm ■車両重量:194kg ■燃料タンク容量:10.5L■変速機形式:CVT ■タイヤ(前・後):120/70-13・150/70-13 ■ブレーキ(前・後):油圧式シングルディスク・油圧式シングルディスク ■車体色:ブルー、パーリーホワイト、マットブラック ■メーカー希望小売価格(消費税込み):561,000円
[KYMCOのWEBサイトへ]