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試乗・解説





■試乗・文:ノア セレン ■撮影:渕本智信
■協力:Indian Motorcycle https://www.indianmotorcycle.co.jp/
■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、アルパインスターズhttps://www.instagram.com/alpinestarsjapan/

169万円でインディアンに

 インディアンとは何ぞや? とお思いの方もまだいるかもしれない。アメリカの会社で、クルーザー的なモデルを中心に作っているが……?? と。「アメリカ最古のモーターサイクルメーカー」とされているし、あの映画「世界最速のインディアン」でも名を聞いたことがある人が多いかと思うが、会社に紆余曲折があったため、固まったイメージがまだ浸透していない気がする。
 軽く歴史をたどると、設立当初はマン島TTなどでも活躍しつつも50年代には解散。その後何度か復活を目指してきたが、本格的に今のインディアンがスタートしたのは2000年代に入ってから。2011年に4輪のオフロードビークルで知られるポラリスと一緒になってから安定した開発、供給、世界的展開をしてきたと言えるだろう。アメリカ最古のオートバイメーカーでありながら、割とフレッシュな印象があるのはこのためだ。
 商品展開は大排気量Vツインで、空冷と水冷両方をラインナップ。特に純空冷の大排気量ツインはもはや他社ではやっていないことであり、これもアメリカンモーターサイクルのアイデンティティの一つである。対する水冷シリーズは非常にモダンでパワフル、国産車に近い付き合いやすさがありつつ、輸入車らしい個性をしっかりと放つという意味でとても魅力的なモデルが多い。トラッカーイメージのFTRといった個性的なスポーツモデルを展開したことも記憶に新しい。
 しかし、やはり大排気量車のみを展開するプレミアムモーターサイクルブランドであり、排気量、車体サイズ、パフォーマンス、そして価格もプレミアムなものがほとんど。そんな中で2025年は新たに「スカウト シックスティ ボバー」を展開してくれた。これは兄貴分のスカウトシリーズの1200ccに対して、約60キュービックインチ(999cc)と排気量を抑え、またミッションを5速とし、さらに一人乗り仕様とするなどベーシックな構成とすることで価格も抑えた、いわゆるインディアンブランドへのエントリーモデルというわけだ。その価格、なんとなく手が出しやすい169万円。さてその走りは?

シンプルバージョンだからこその親しみやすさ

「インディアンの中ではエントリーモデル」と言われても、インディアンに詳しい人でなければそんなことはあまりわからないだろう。スタイリッシュなデザイン、誇らしくINDIANと書かれたタンク、特徴的なボバースタイルなどしっかりと「目を引く」バイクである。
 排気量が兄弟車種と比べると小さ目とはいえそれでも1000ccで十分すぎるパワーを持っているし、スイッチボックスを見ると本来様々な機能のスイッチ類がついているだろう場所はカバーされていて最低限のものしかついていない。さらにメインキーは電子ではなくメカニカルと、様々な部分で簡素化されているのだが、それは言い換えればシンプルでわかりやすいという事。取扱説明書を読む必要がなく、誰でもスッと乗ってスグにインディアンの魅力に接することができるということだ。
 加えてシートの低さやポジションのコンパクトさもハードルを下げてくれており、まさに「気軽に乗れるインディアン」である。初めてのインディアンではなく、初めての大型バイク、あるいは初めての外国車、といったライダーにも薦めたい。

#Indian Motorcycle SCOUT SIXTY BOBBER
85馬力という数値以上にかなりパワフルに感じるエンジン。車体が低重心でかつライダーも路面に近いため、怖がることなくアクセルを開けられるのも面白い。のんびりクルージングもできるが、やはりちょっとぐらいは飛ばした方がインディアン・スカウトシリーズの面白さが味わえると思う。

軽い&速い

 軽いと言っても車重のことではなく操作系のハナシ。クラッチの軽さと繋がり感の明確さ、アクセルの軽さとツキの自然さ、取り回しの時のフリクションの少なさ、サイドスタンドを払う時の感覚まで含めて、全てが「軽い」のだ。重厚感に欠けるとかそういうことではない。ライダーの入力に対して意志通りに反応してくれるという感覚は国産車的というかスポーツバイク的というか、とにかくストレスがない。
 そして速い。速いのだ! 低回転域が力強いが高回転は物足りないとか、逆に高回転が元気だけれど常用域が不安定とか、そういったことが全くない。軽いクラッチを優しく繋いだところから大排気量Vツインらしくドカドカと出ていくし、中回転域~高回転域と右肩上がりにVツインらしい力強さを伴ってパワー感と車速が伸びていく。そこに荒々しさはなく、どこまでもスムーズで緻密。なんって素晴らしいエンジンとそのマネージメントなのだろう! とインディアンに乗るたびに思うのだが、このスカウト60ボバーは排気量が少ないがゆえにさらにそう感じさせる気もする。90~00年代に流行った国産Vツインスポーツバイクの低回転域を太らせたような感覚……といってももうわかる人が少ないかもしれないが、いい意味で国産車的な正確さとアメリカンメーカーらしい力強さを兼ね備えたようなイメージで、本当に素晴らしい仕上がりだと思う。
 車体もこれまた良いのだから困ってしまう。いや、困りはしないが、ボバースタイルで太い16インチ前後ホイールではコーナリングは望めないかと思いきやそうでもない。フォークのスムーズな作動性や自然な舵角がつくハンドリング、レイダウンされておるおかげかストロークそのものは少ないはずなのに意外とよく動くリアサス等、どこかスポーツバイク的要素もあるのだ。バンク角こそ深くはないもののストリートでのコーナリング、交差点の右左折でストレスがないのはもちろん、ツーリング先で出くわすちょっとしたワインディングも十分楽しめることだろう。
 頼りなく見えるシングルディスクのフロントブレーキも、良く効くリアブレーキとの組み合わせでしっかり減速できるし、バイクもライダーも路面に近い低重心な設計のおかげで怖いと感じさせることなく元気なエンジンを堪能できるのも魅力。スポーツバイクとは別の独自の方程式でアメリカンクルーザーの新たな世界を開いていると感じる。

フィニッシュの上質さ

 ルックスのどこがそんなに素敵なの? と聞かれるとすぐに答えらえるほどこういったアメリカンスタイルのバイクに精通しているわけではないが、個人的には各部のフィニッシュの上質さがこのまとまりを生んでいると思う。ヘンに飛び出しているパーツがないとか、妙にスカスカなパートがないというのはもちろんだが、例えばスパークプラグやプラグコードを見せないように処理しているとか、ライトの上など空いてしまうスペースにはしっかりカバーがついていてその後ろにワイヤー類が上手に処理されているとか、そういったことの積み重ねではないだろうか。エントリーモデルだからと言って「ココ惜しい!」という部分がまるでない。
 またリアサスストロークの少なさからは想像できないほど快適なのも興味深い。シートが快適なことに加え、ハイトがありエアボリュームが多いタイヤのおかげもあるだろうし、車体そのものの吸収性も高いのかもしれない。極低速域で走っていてもゴツゴツした印象はなく常に軽やかに走らせることができ、こういった上質さもまた惚れ込む要素だ。
 もう一つ演出として面白いと思ったのは、スピードメーターは200km/hまできざまれているにもかかわらず、てっぺんが60km/hという設定。かなり右の方に位置する120km/hから先で目盛りが細かくなっていく設定のため、走り出してすぐにスピードメーターが上の方まで来て、さらに高速道路に乗ればメーターがかなり右の方までふれるため気分が盛り上がってしまう。そんな演出も面白いと感じた部分だ。

身近に感じるインディアン

 エントリーモデルとしてラインナップされたこの60ボバーだが、まさにその術中にはまってしまった感のある試乗体験だった。構えることなく接することができ、難しいとか怖いとか感じる場面は皆無で、インディアンの楽しさにスムーズに接することができた。
 この魅力を知ればすっかり虜になるはずだ。よりインディアンに詳しくなればさらに上位モデルも気になりだすこともあるかと思う。それも良いが、しかし今回筆者はこの60ボバーがあまりに良くて、上位モデルに行かなくてもいいのではないかと思ってしまったほどだ。そんなオールマイティな、ナイスなバイクなのである。

#Indian Motorcycle SCOUT SIXTY BOBBER
シンプルにブラックアウトされたカラーと、ショートフェンダーのボバースタイルなど簡素さこそが魅力。一人乗り仕様としたのもまた潔い。シート高は649mmと低く、ステップも遠すぎない。ハンドルだけが若干遠いようなポジションとなっているが、なまじ速いためスピードがのってくると上半身はこのぐらい前傾していた方が良いとも感じられた(筆者身長185cm)。

#Indian Motorcycle SCOUT SIXTY BOBBER
999ccとしてわざわざミッションも5速に改めているのだから、エントリーモデルのハズなのにずいぶんと手がかかっているエンジン。スパークプラグを見せない処理や、水冷エンジンでもしっかりとカッコイイVツインの造形を追求しているスタンスが好きだ。
#Indian Motorcycle SCOUT SIXTY BOBBER
130/90-16という小径かつファットなフロントタイヤだが、操作性は極ナチュラルでUターンなど小回りも意外としやすい。298mmのシングルディスクのフロントブレーキもリアブレーキと併用すれば十分な減速が可能だ。

#Indian Motorcycle SCOUT SIXTY BOBBER
スッキリしたフェンダーはボバースタイルそのもの。ウインカーと一体化しているテールランプとサイドにオフセットされたナンバープレートのおかげで迫力あるタイヤが良く見える。
#Indian Motorcycle SCOUT SIXTY BOBBER
大きく寝かされたリアサスはなんと51mmしかストロークがないのだが、フレームの吸収が良いのかリアタイヤの空気量が多いからなのか、またシートの絶妙さと合わせてか乗り心地は決して悪くない。ベルトドライブというのも静かでクリーンで好印象だ。

#Indian Motorcycle SCOUT SIXTY BOBBER
唯一もう少し色気があっても良かったのかな? と感じたのがブラックアウトされたストレートなマフラー。車体全体の水平基調によく合っているし、消音効果も抜群と純正としては優秀だが、あとは好みで換えてもいいかもしれない。
#Indian Motorcycle SCOUT SIXTY BOBBER
上位モデルは電子キーとしているのに対しこちらは昔ながらのメカニカルキー。好みが分かれるところかもしれないが、筆者としてはこのシンプルで付き合いやすいモデルの性格によく合っている設定に感じた。

#Indian Motorcycle SCOUT SIXTY BOBBER
#Indian Motorcycle SCOUT SIXTY BOBBER
●Indian Motorcycle SCOUT SIXTY MOBBER主要諸元
■エンジン種類:水冷4ストロークDOHC60度V型2気筒 ■総排気量:999cc ■ボア×ストローク:93.0×73.6mm ■圧縮比:11.0 ■最高出力:85HP/–rpm ■最大トルク:87N・m/6200rpm■全長×全幅×全高:2206×855×1071mm ■軸間距離:1562mm ■シート高:649mm ■車両重量:243kg ■燃料タンク容量:13.0L ■変速機形式:5段リターン ■ブレーキ形式(前・後):シングルディスク×シングルディスク■タイヤ(前・後):Kenda K673 130/90B16 67H・Kenda K673 150/80B16 77H ■車体色:ブラックメタリック ■メーカー希望小売価格(消費税込み):1,690,000円〜


[『Indian Motorcycle 101 SCOUT試乗インプレッション記事』へ]

[Indian MotorcyclesのWEBサイトへ]

2025/06/06掲載