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試乗・解説






MotoGPにも参戦し、古くからハイパフォーマンススポーツバイクを展開してきたアプリリア。頂点モデルのRSV4や近年デビューした元気なミドルクラスRS660など、走りを重視するライダーに応えるラインナップを展開しているが、ベテランライダーなら覚えているだろう、RS250やRS125という元気な2ストロークが主力ラインナップだった時代を。アプリリアがかつて持っていた「切れ味鋭い小排気量」が再デビューである。
■試乗・文:ノア セレン ■撮影:渕本智信 
■協力:アプリリア https://www.aprilia.com/jp_JA/
■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、カドヤ https://ekadoya.com/ 、アルパインスターズ https://www.instagram.com/alpinestarsjapan/

待ってました! 気軽なスポーツ車!

 今年からMotoGPクラスに小椋藍選手がアプリリアで参戦を開始したこともあって、特に日本ではアプリリアというブランドを再認識している人も多いのではないかと思う。
 個人的な話で恐縮だが、筆者の年代だとアプリリアと言えばかつての2ストローク時代のGPでの活躍や、当時の市販車RS125やRS250という印象があり、心のどこかにアプリリアブランドへの憧れがずっとあった。その憧れを実現すべく、つい最近までトゥオーノ1000を所有するなど、実はアプリリアには思い入れがあるのだった。
 ところが、最近のアプリリアのラインナップは125ccのオフロード車&モタード車の次はイキナリ100馬力の660ccとなってしまっていた。さらに言えばこの660だって最近登場したばかりで、それまでは125からリッタークラスへとジャンプアップしなければならないというハードルがあったのだ。
 660がデビューしてこの問題は解決されたわけだが、とはいえこの660だってなかなか本格的である。パワーも十分、車体もサーキット走行をもハイレベルでこなす内容だし、排気量こそミドルクラスではあるものの、125ccからのステップアップとしては(価格設定含めて)けっこう大きなステップと言わざるを得ない。
 そこへこのRS457のデビューである。ルックスはRS660と非常によく似ているが、排気量は457ccでパワーは47馬力ほどと660の半分ほど。価格もちょうど660の半分ほど。あらゆるハードルが下がり、他社では多くラインナップされてきていたがアプリリアではこれまで展開していなかった400cc近辺クラスがとうとうデビューしたわけだ。
 日本市場においては400ccを少し超えてしまっているため普通自動二輪免許で乗れないという惜しさはあるものの、かつてのRS125/250を知る世代からすると切れ味鋭い小排気量のアプリリアというのはグッとくるものがあることだろう。

#aprilia_RS457
楽しみにしていたRS457の試乗がやっと叶って大喜びの筆者。やりすぎないスポーツバイクというのは本当にイイと思う。日常やツーリングシーンの中にスポーツがあると無理なく付き合い続けられると思うのです。

世界最小!? の270°クランク

 660と同じパラツイン形式のエンジンを始動してすぐに気づくのが、270°クランクを持つことだ。こういった小~中排気量モデルは180°クランクが一般的であり、比較的コスト高にも繋がる270°クランクは、これまでは同アプリリアの660系やヤマハのMT07系が最小排気量だったのではないだろうか。270°クランクだからエライとかそんな気持ちは持っていなかったのだが、しかし400ccほどの排気量で270°クランクとは、エンジンをかけただけで何だか贅沢な雰囲気があった。
 走り出してもこのエンジンが本当に気持ちがいい。低回転域からトルクフルで扱いやすく、かつ一般的な180°クランクに比べると荒々しさも潜んでいるようなキャラクターも楽しめるし排気音にも個性がある。アプリリアお得意の電子制御も流石の出来栄えで、ライドバイワイヤは全く違和感なく作動し、言われなければワイヤー式と思ってしまうほど。3つのモードを変えてみてもドン付きや意図的な間引き感といった扱いにくさは一切現れず、いわゆるエントリーモデル、あるいは気軽な中間排気量モデルとして設定されているRS457でもスポーツマインド溢れパフォーマンスを重視するアプリリアイズムはしっかりと感じられた。
 小排気量なのだから回してこそ! と意気込んで乗り始めたわりには低回転域があまりに豊かでまずはそこに感激してしまったRS457。しかしやはり本領発揮は高回転パワーだ。数値上は欧州A2ライセンスに準じた47馬力ほどとなっているが、実際のパワー感はそれを超えるモノ。排気量が400ccを超えていることもあるし、さらにアプリリアらしい味付けのおかげもあるだろう、一般的な400ccクラスに比べると「明らかに速い!」と感激する高回転域の伸びがあり、小さく軽量な車体がグングンと車速を乗せるのは本当にかつてのRS125/250を思い出させてくれる体験だった。
 一方でコーナー脱出など加速する場面では豊かな低回転域トルクと270°クランクらしいトラクション感が活きてい、この点においては2ストロークだったRS125/250よりも頼もしくかつモダンな運動性に感じられた。
 270°クランクのパラツインという基本的な形式はもちろん、3軸のレイアウトやウォーターポンプの位置など660とまるっきり兄弟車と言えるこの457だが、エンジンは完全なる新設計であり力が入ったもの。その本気度はヒシヒシと感じられ、古くからのアプリリアファンの心の焼けぼっくいに火がついてしまうのが感じられた。

#aprilia_RS457

「過ぎない」スポーツ

 車体はフロントに倒立フォーク、リアはリンクレスのモノショック、そしてアルミフレームなどこちらも基本構成は兄貴分の660を踏襲。ただ全体的に一回りコンパクトであり、エンジン性能や車体の軽さに合わせて前後ホイールもスリムなものを採用しているし、フロントはシングルディスクになるなど最適化されている。
 海外ではアップハンの457トゥオーノも存在しそれが今のところ日本市場投入の予定がないのが惜しいが、しかしRS457でもポジションは極端ではない。RS660もそうだったように、スポーツ性は犠牲にせずに、同時にある程度の快適性も確保するというのはアプリリアの得意とするとするところ。RS457でもセパハンをトップブリッヂの上に取り付けるなどユーザーフレンドリーな設定となっていて、サーキットだけを優先し過ぎないこういった姿勢がまた公道におけるアクティブなスポーツライドを上手にサポートしてくれていると感じる。
 とはいえ車体のバランスやサスペンションの作動は素晴らしく、特にフロント周りの安心感は絶大。細身のホイールが生み出す軽快さが基本としてあるのだが、ブレーキから寝かせていく工程の安心感たるや、驚くほどだ。非常に良く効くブレーキを強く握るとフロントフォークがギューッと路面を捉えてくれ、アプリリアが別注したという専用タイヤがグイグイとコーナーを切り取ってくれる。この軽さとそれを活かした確かなコーナリング性能はまさに軽量級スポーツの醍醐味。ワインディングを元気に走るのも最高に楽しいし、サーキットに持ち込んでも踏み込んだスポーツが楽しめることだろう。

分かりやすい電子制御

 アプリリアと言えば早くから電子制御技術に取り組んできたメーカーだ。この457にもライドバイワイヤを使うなど、パッケージとしてもう完成しているのが伺える。先述したようにそのフィーリングには全く違和感がなく、今では各社で一般化しているこういった電子機器の中でも一歩先を行っている印象もある。
 走行モードは3種類。見やすい5インチのカラーディスプレイに色分けされて表示され、最もスタンダードな「エコ」がグリーン、「スポーツ」が赤、「レイン」が水色っぽいカラーで文字を読まずともどのモードに入っているかが一目でわかる。素晴らしいのがそのモード切り替えのしやすさ。手元のスイッチを操作すれば3つのモードが順に切り替わっていくのだが、この反応が瞬時であり気持ちが良い。他社の中には入力に対して反応が遅れたり、あるいは基本モードの他にユーザーモードなどいくつもモードがあってなかなか目当ての設定にたどり着けないような機種も散見されるが、RS457(RS660もそうだったが)においてはそんなことはなく極シンプルでわかりやすいのが良かった。こういった電子制御系は制御の緻密さや実力に加え、扱いやすさ、操作のしやすさなどにおいてもアプリリアには一日の長があると感じる。
 そのパワーモードだが、「エコ」が何の難しさもなく気持ちよく乗れる基本モードとなっている。全回転域でストレスなく、その名の通り通常走行では燃費も伸びそうな印象だ。対する「スポーツ」は排気音も大きくなるような気がするほど、アクセルを大きめに開けたくなる設定。打てば響くという感じで、アプリリアらしい活発さを楽しみたい場面ではこのモードだろう。「レイン」についてはさらにマイルドなのだが、「エコ」の時点で十分扱いやすいためあまり使用する場面を思い浮かばなかった。ただ連動してトラクションコントロールの介入度合いが変わるため雨天コンディションを安全に走破する場面では有効だろう。

思わず静岡まで

 660や1100と共通するヘッドライト周りや本格的な装備からやはりスポーティなイメージが強いであろうRS457だが、コンパクトなサイズ感や適度なエンジンパワーとしなやかな車体設計といったフレンドリーさが良いバランスを作り出している。その気になればもちろん高いスポーツ性を発揮することだろうし、今回の短い試乗でも少なくとも公道環境においては実力不足を感じることはないと実感できた。
そんなナイスバランスだからこそツーリングなどにも使える汎用性も備えている。現場でお話しできた馴染みのアプリリアスタッフは普段からガンガン飛ばすといったライダーではないのだが「ナラシのつもりで出かけたら、あんまり気持ちがいいから静岡まで足を延ばしちゃいましたよ(笑)」と言っていた。その気持ちがよくわかる。スポーティでありながらもテイスティで汎用性も高く快適、それでいてアプリリアらしい本気度も随所から感じられるのだ。
125ccの次は660ccというアプリリアラインナップにおける大き目なジャンプアップを解消してくれたRS457。アプリリアに興味はあるが……と今まで躊躇していたライダーにとって、パフォーマンス的にも価格的にも魅力的なパッケージとなっている。これはそうとう楽しめる選択肢だ。
(試乗・文:ノア セレン、撮影:渕本智信)

#aprilia_RS457
ルックスはまさに兄貴分のRS660と瓜二つである。カウルの造形も、アルミフレームも、そしてアプリリアらしい紫の差し色が入ったカラーリングも、全てにおいて「アプリリアのRS!」を体現している。しかし跨ると660よりも格段にコンパクトで、かつサスペンションの初期作動も優しく親しみを感じられる。ポジションもそれなりに前傾だがツーリングや街乗りも許容するもの。オールマイティに使えることだろう。生産はインドでありBYBREキャリパーやタイヤ銘柄からそれを感じられるが、少なくともコクピットビューにおいてはイタリア生産モデルと同様のクオリティを感じさせてくれるのが嬉しい。

#aprilia_RS457
クランクケースのカタチなどどう見ても660とそっくりすぎるが、しかしこの457エンジンは新設計のユニットとなっている。この排気量で270°クランクを採用するのは世界最小ではないだろうか。フレームはアルミ製で、スイングアームが直接エンジンに締結されているのも660同様だ。なおクイックシフターはオプション設定となっている。
#aprilia_RS457
φ41mmの倒立フォークにはプリロード調整機能が備わる。ブレーキはシングルディスクだがラジアルマウントのキャリパーが効いているのかパッドが良いのか、それともタイヤとの相性がいいのか強烈なブレーキ能力を持っている。またフロントの接地感が非常に高いのも好印象。スポーツライドをするにも、そしてビギナーにとってもありがたい設定である。

#aprilia_RS457
スイングアームはスチール製で、リンクレスのモノショックが採用されているのは660と同様。タイヤは150/60-17サイズであり、この細さがまた軽快な運動性を生んでいる。マフラーはエンジン下で完結しているためスリムさやマスの集中に貢献しており、さらには狭い駐輪場などでも重宝する設定。スイングアームにヒールガードがつくなど細かな配慮も。
#aprilia_RS457
とても快適かつ前後に広く長身ライダーでも腰を引いてカウルに潜り込めるシートの設定は大歓迎。シングルシートカバーもまた非常にレーシーだ。サスの初期沈み込みが大きいため足着きは数値以上に良いと感じたが、オプションでローシートも用意されている。

#aprilia_RS457
大きな文字と色分けされた走行モードなど、アプリリアのメーターは一目で直感的に情報が得やすく好印象。走行モードは写真の「スポーツ」の他、「エコ」と「レイン」の3種類。操作は手元のスイッチでこれまた簡単にできる。
#aprilia_RS457
インドや中国で生産されるバイクにはなじみのないタイヤブランドがついていたりするが、走りにこだわったRS457は別注で専用タイヤを作って装着。サイドウォールにしっかりと「aprilia」と入っているのだ。その甲斐あって少なくとも公道においてはハンドリング、グリップに不満は一切なかった。

#aprilia_RS457
#aprilia_RS457
aprilia RS457 主要諸元
■エンジン種類:水冷4ストローク並列2気筒DOHC4バルブ ■総排気量:456.9cm3 ■ボア×ストローク:69.0×61.1mm ■圧縮比:13.5 ■最高出力:35kW(47.6PS)/9,400rpm ■最大トルク:43.5N・m/6,700rpm ■全長×全幅×全高:1,982×760×-mm ■軸間距離:1,350mm ■シート高:800mm ■車両重量:175kg(乾燥:159kg) ■燃料タンク容量:13L ■変速機形式:6段リターン ■タイヤ(前・後):110/70ZR 17・150/60ZR 17 ■ブレーキ(前・後):シングルディスク・シングルディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック式(倒立)・スイングアーム式 ■車体色:レーシングストライプ ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):858,000円


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2025/04/30掲載