2024年11月1日~3日、『第40回ワールドVET(ワールド・ベテランズ・モトクロス・チャンピオンシップス)』がカリフォルニア州グレン・ヘレン・レースウェイで開催された。今年も全米各州はもとより世界26か国から1200台余りがエントリー、5歳刻みの年齢別と3段階の技量別によるクラス分けで上は80歳クラスまで、元気一杯の中高年バトルだ。日本から参加の5名も各クラスで健闘、そして今年ついに、伊田“カミカゼ”井佐夫選手が、+65歳上級クラスで待望のワールドVETチャンピオンを獲得した。
■文・写真:高橋絵里
ワールドVETで念願のチャンピオンに輝いたのは、伊田 井佐夫選手、68歳。かつて1986年全日本モトクロス125ccクラスチャンピオン、2006年MTBダウンヒルの世界マスターズチャンピオンという戦歴を持つ世界の“カミカゼ130”が、19年間に渡り取り組み続けたワールドVET参戦、実に13回目の挑戦で『+65エキスパートクラス(65〜69歳対象 上級)』でタイトルを掴んだ。
「ワールドVETは、大先輩の鈴木秀明さん(70年代に活躍した世界的モトクロスレジェンド・現在76歳。1999・2000年ワールドVET+50チャンピオン)から『イダ君! アメリカで面白いレースがあるんだよ! 世界中の元チャンピオンや元A級が集まって同年代で一緒に走るんだよ!』と誘われたのが最初で、2005年、自分が49歳の時でした。行ってみるとすごく華やかで楽しかったんですが、当時まだホンダでMTBダウンヒルレースの真っ最中で、MTBで世界を獲りたくて一生懸命でしたが、翌2006年の+50歳クラスでそれが叶ったんです。そうなると、50歳でMTBの世界一になったんだから、カミカゼとしては今度はもう一度モトクロスで世界を目指したい! と」
こうして始まったワールドVET挑戦の間には、世界2位になったことは何度かあった。悔しくてますます辞められない。大ケガもあったし、コロナ渦で遠征できない数年間もあった。そのうちに年齢から来る自身の病との闘いが始まり、そのたびに治療と手術を受け、それらの合間にもせっせと練習を重ね、晴れて今年のスタートラインに並ぶことができた。
+65エキスパートクラスは土曜に2ヒート、日曜に1ヒートを走るスケジュールで、計3ヒートの順位で総合結果が決まる。土曜午前のヒート1、ホールショットからトップに出たものの、5ラップする間に2台にパスされ、3位でゴール。1位は#6ニュージーランドのT・クックスリー、2位は#86カナダのJ・ヘイノネンで、共に自国の超レジェンド達だ。伊田選手と同じく海外からのアウェー組だが、今回のライバルはこの2人になると分析、ヒート2へ向け集中する伊田選手は、いつもレース前そうするようにバイク細部をチェックしながら、黙り込む。
午後のヒート2は、クックスリーが少し出遅れた隙に、トップのヘイノネンを追いかける形になった。トップバトルの距離が開いたり縮まったりを繰り返し、ラスト1周で伊田選手がスパートをかける。パスされたヘイノネンはがっくりスピードを落として万事休す。これで伊田選手は3位/1位として、日曜のヒート3に望みを繋いだ。
決勝2日目のヒート3で、いよいよ勝負が決まる。といった緊張や不安はないようだった。前日同様、静かに招集を待ち、静かにスタートに並び、そして突然覚醒したかのようなダッシュからホールショットを奪う。その後も増す勢いでトップキープのままラップを重ね、何とかしようと食い下がる2台のライバルを後方に押さえたまま、振られたチェッカーフラッグ。ヒート3をポールtoフィニッシュで飾って、チャンピオンを手に入れた。
「嬉しい。ここまで長かったけれど、取り組んできて良かった。レースが終わって競り合った相手がピットに訪ねてきてくれたり、来年また勝負しよう、なんて戦線布告されたり。話しているとみんないいおじいちゃんで、昔のケガとか持病とか、孫が何歳かといった話は世界共通です。身体が続く限りは走って楽しみたいですね。“とことんやるさ。”というのが好きな言葉で、自分が好きなモトクロスを走って、年齢相応に楽しむことを広めて日本のVETモトクロスを盛り上げていけたら」
(文・写真:高橋絵里)