●文・写真・動画:西村 章 ●写真:MotoGP.com
はいみなさんどうもこんにちは。激闘の2024年シーズンを終え、月曜にはハーレー・ダビッドソンのレース仕様マシン〈キング・オブ・ザ・バガーズ〉がヨーロッパ初御目見得。翌日の火曜には、MotoGP2025シーズンに向けた初テスト実施。いずれも興味深い見どころ満載のイベントだったので、その一部をここで少しご紹介することにいたしましょう。
まずは月曜の〈キング・オブ・ザ・バガーズ〉。MotoAmericaでは2021年から開催されているレースで、ハーレーダビッドソンのRoad GlideやインディアンのChallengerをベースとしてレース用に改造し、争われているカテゴリーだ。今年のMotoGP第3戦アメリカズGPの際に併催レースとして行われたので、ご存じの方もいるだろう。ヨーロッパへは今回が初上陸となったようだ。
アメリカのレースには、ダートトラックやドラッグレースなど独特の文化を感じさせるものが多いが、この〈キング・オブ・ザ・バガーズ〉もいかにもアメリカ人好きしそうな競技であり車両であるようだ。今回持ち込まれたハーレーのエンジンは2200ccで水冷(もう一方のインディアンは1800ccで空冷)。最低重量は620ポンド(≒281kg)なのだとか。
今回持ち込まれたハーレーのモデルを間近でじっくり眺めさせてもらったのだが、じつにユニークなチューンがあちこちに施されていることがよくわかる。
たとえばダッシュボードまわりのとってつけたような(失礼)構造や、アルミ削り出しのクランクケースからにょっきり生えた、ある種レーシーな(失礼)ステップ周り。肉抜きといっていいのであろう(失礼)スイングアーム(余談だが、これはエディ・ローソンのZ1000Rなどにも象徴される、アメリカンレーシング独特の思想を現代に継承したもの、ともいえるようにも思う)。
さらに、なぜかレギュレーション上必要とされているというパニアケース。このパニアケース、どうやら中身は空っぽながら、カーボンっぽい素材でできているように見える。そのカバーが雑に(失礼)タイラップで留められているところも素晴らしい……等々、かなり特殊なというか、いわゆる「魔改造」といってもよさそうな領域に入っている感もある。いやー、いいですねえ、すばらしいですねえ。これぞアメリカンスタイル。最上級の褒め言葉として「すっげーバカっぽい」という言葉をぜひとも献上したい。
本場MotoAmericaでは、2021年の競技開始以来、ハーレー、インディアン、ハーレー、インディアン、と交互にチャンピオンを獲得するかなり激しい争いが繰り広げられている。今回のお披露目では、ハーレーのファクトリーライダー、カイル・ワイマンとジェームズ・リスポリがデモランを披露した後、ジョン・ホプキンス、ランディ・マモラ、サイモン・クラファーの三氏が試乗。マモラ、クラファー両氏とも、エンジンのスムーズさを絶賛した。
ところで、前回の第20戦コラム末尾では、「来シーズンから数戦ほどカレンダーに組み込まれる予定」と記しましたが、うそでした。スミマセン。この日は、バイクのエンジンに火を入れる前に、DORNAのCEOカルメロ・エスペレータとチーフスポーティングオフィサーのカルロス・エスペレータ、そしてハーレー・ダビッドソンCEOのヨッヘン・ツァイツが共同記者会見を行ったのだが、この三者の言葉によると、まだ具体的なことはじつはまだなにも決まっていないようで、「2年ほどでどういう形のコラボレーションをできるか検討してきたい」とのことでした。
バガーズがMotoGPの将来的なカレンダーに組み込まれるのかどうかは本当に未知数のようで、その実現可能性はともかくとしても、二輪企業がマシン開発の粋を尽くしたカリッカリのプロトタイプマシンもそれはそれで素晴らしいけれども、こういう「よーし、じゃあレースやってみるべ。こんなふうにチューンして走らせてみるのも、面白いんじゃね?」みたいな遊び心満載の精神は、とても健全で魅力的だと思います。東南アジアのアンダーボーンレースやこのバガーズには、バイクで競うことの原点、のようなものがあると思うし、なんかね、『栄光のライダー(On Any Sunday)』の愉しさや爽快感に近いものを感じるんですが、どうでしょうかみなさん。
で、この月曜のイベントから一夜明けた火曜日。MotoGPのカレンダーでは2025年シーズンの最初の一日、いわばお正月である。2024年のチームに残留する選手、移籍する選手、そして新たに昇格してくる選手、と様々いるなかで、もっとも大きな注目を集めたひとりはもちろん、2日前の日曜にチャンピオンの座に就いたホルヘ・マルティンである。
2024年はドゥカティのトップサテライトチーム、Prima Pramac Racingに在籍していたけれども、チームはまるごとヤマハ陣営へ移ることになり、マルティン自身はアプリリアのファクトリーライダーとなった。このような場合、契約面などの問題でライダーはレース後にメディアに対してコメントをしないことが多いのは周知のとおり。事実だけを述べておくと、マルティンとチームメイトのマルコ・ベツェッキ(彼もまた、ドゥカティ陣営からの移籍になる)は、午前中にまず2024年仕様のマシンで感触を確かめたあと、2025年プロトでも走行をした。サイドカウルに〈MARTINATOR〉と記されているものが2025年プロトだが、来年のセパンでは今回ライダーから受けたフィードバックをもとに、さらに改善を施したものが持ち込まれるのだろう。
また、マルティンと同様に大きな注目を集めたのは、ドゥカティファクトリーへ移籍したマルク・マルケス。彼の場合は、個人スポンサーとチームのスポンサーに競合が多いため(エナジードリンクやPCなど)マルケスはひたすら真っ赤っかのカラーリングで走行する一日になった。ただ、彼の場合はマルティンと違って同じドゥカティ陣営内でのチーム移籍なので、走行後はいつものようにメディアとの質疑応答が行われ、たくさんのコメントを述べた。
「今日は9割方、GP25に乗った。ファクトリーチームの場合は、メニューがびっちりと細かく決まっていて、いわば技術者のために走行をするような状態。フィーリングはとてもよかったし、チームとの雰囲気がすごくよくて、よい方向で仕事をできたと思う」
「今日はフレームやエンジン、その他あれこれ、25年仕様のフルパッケージで走行した。(2024年はGP23だったので、GP24との)違いはあまりわからない。ペコは自分とはちょっと違ったこと(メニュー)をしていたけれども、重要なのはふたりとも問題点といい面のコメントが同じで、技術者たちも安心したと思う」
チームメイトのペコ・バニャイアも同様のコメントをしている。
「幸いにも、マルクと自分は同じ印象で、開発を進める方向性を考えても、これはとてもいいことだと思う。ハンドリングに関しては、GP24のほうがブレーキングで優っている。2024年のGP24では、そこをずいぶんがんばって改善してきたから。マルクとは、(GP25のブレーキング改善で)同じ方向を見て進んでいくと思う。GP25は高速コーナーでの安定性が高く、ユーズドタイヤでもいい感じで走れるのはいいと思う。新エンジンはとても力強い。ニューバイクではここまでよい状態でスタートしたことは過去になくて、いつもかなりの改善が必要だった。素性がよいので、ハッピーだ」
どうもこのふたりの言葉を聞く限り、2025年もドゥカティ優位の状況は変わらなさそうな雰囲気である。
KTMについても少し触れておこう。2024年シーズンにルーキーらしからぬ活躍を見せたペドロ・アコスタは、2025年からファクトリーチームへ移る。このファクトリーのチームマネージャーは来年からアキ・アヨが担当することになるため、彼のチームでMoto3/Moto2時代を戦ってきたアコスタにとっては、ある意味で古巣へ戻るようなものでもあるだろう。
「3年間一緒に戦ってきた人たちだから、やりやすい。クルーチーフとストラテジーエンジニアは、去年の自分の担当に一緒に来てもらった。Moto2時代に一緒に組んでいたメカニックもいる。信頼できるスタッフで、その人たちが自分のバイクを担当してくれるのはとてもありがたい」
今回のテストであれこれ試したモノは、安定性の改善に寄与しているとも話す。
「テレビの画面越しでもわかるとおり、自分たちのバイクはシェイキングが激しく、トラクションやタイヤに影響を与えてしまう。それが少し落ち着くようになってきた。(ビンダー側のスタッフには)他メーカーからやってきたスタッフもいて、(技術的な)発想を広げるという意味でもとても意義が大きい」
2025年から最高峰に昇格する3名、フェルミン・アルデゲル(Gresini Racing MotoGP/Ducati)、ソムキアット・チャントラ(IDEMITSU Honda LCR)、小椋藍(Trackhouse MotoGP Team/Aprilia)の3名は、ルーキーらしくそれぞれ精力的に走り込んで、MotoGPへの順応に一日を費やした。アルデゲルとチャントラは、肉体的な負荷が大きいのであそこを鍛えたいここをトレーニングしたい、と話していた一方で、小椋は
「一番長くてもワンスティント10周ちょいぐらい、という中で何か問題があったわけではないので、Moto2にいた時よりはもうちょっと(トレーニングを)やりますけど、そんななんか大きくガラッと(肉体を)変えて、とはならないと思います」
と話す一方で、今回のテストであまり肉体を酷使したように感じなかった理由について、
「まだ自分が頑張るというよりも、正しく走って(順応していく)、みたいな感じなので、今のところはMoto2のほうが疲れますけども、もちろん(MotoGPのほうがフィジカル面での要求が強くなるように)変わってくると思います」
と分析的に見ているらしき言葉の端々からは、いかにもこの人らしい冷静さや客観性も感じさせる。
というわけで、このテストを終えてMotoGPのパドックは来年2月のセパンテストまでひとまず解散、世の中よりもちょっと早い冬休みに入る。その2025年シーズンも、素晴らしい戦いが繰り広げられますように、と祈りつつ、ではまた。
(●文・写真・動画:西村 章 ●写真:MotoGP.com)
web Sportivaやmotorsport.com日本版、さらにはSLICK、motomatters.comなど海外誌にもMotoGP関連記事を寄稿する他、書籍やDVD字幕などの訳も手掛けるジャーナリスト。「第17回 小学館ノンフィクション大賞優秀賞」「2011年ミズノスポーツライター賞」優秀賞受賞。書き下ろしノンフィクション「再起せよースズキMotoGPの一七五二日」と「MotoGP 最速ライダーの肖像」、レーサーズ ノンフィクション第3巻となるインタビュー集「MotoGPでメシを喰う」、そして最新刊「スポーツウォッシング なぜ<勇気と感動>は利用されるのか」(集英社)は絶賛発売中!
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