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レース・イベント

復活したヒルクライムレース それが“Auerberg Klassik”
グレムセックの2週間後に開催されたのが、ここで紹介する“Auerberg Klassik(アウアーベルグ・クラシック)”。これまで追いかけてきたカスタムバイク系のイベントとは雰囲気が違うのですが、どうしても見たくて、再びドイツに向かいました。そこに待っていたのは、羨ましきバイクを取り巻く環境、だったのでした。
■レポート:河野正士 ■Auerberg Klassik http://www.auerberg-klassik.de

 
 “Auerberg Klassik”は、ビンテージバイクとサイドカーによるヒルクライムレース。切り立ったオフロードを駆け上がるヤツじゃなくて、舗装された峠道を使い一定区間の走行タイムで順位を競うアレです。このアウアーベルグ・クラシックは、1967年から1987年までの間、毎年9月の第3日曜日に“Auerbergrennen(アウアーベルグレンネン)”という名前で開催されていた、アルプスの麓にあるAuerberg (アウアーベルグ)の山道を使ったヒルクライムレースの復刻版として2017年に復活。以来、2年毎の開催を目指し、今年で復活2回目の開催となります。当時は土曜日にバイク、そして日曜日に自動車のレースが行われ、近隣諸国から多くの参加ドライバーやライダー、そして観客がつめかけ、大いに盛り上がったそうです。
 

スタート地点。1台ずつ間隔を開けてスタート。ゴールまでの約2kmの走行タイムで順位を競います。1979年以前に製造されたモデルが参加でき、排気量や年代によって6つのクラスに分けられています。ファクトリーレーサーもカスタムバイクも参加可能です。

 

コースサイドの観客エリア。思い思いの場所に腰を下ろし、のんびりとタイムアタックを観戦。天気が良くて、最高でした。

 
 遡ること2年前、友人のドイツ人フォトグラファー、ヘアマン・コーフから、「ヒルクライムのイベントを始めたから見に来なよ!」というお誘いを受けていました。グレムセックの2週間後の、9月の第3土曜日と日曜日。「グレムセックの後、ミュンヘンの僕のアパートに空き部屋があるからそこに居て、イベントに来れば良いじゃん」というお誘いだったのですが、さすがに3週間近く東京を離れるのも……と思い、その時はお誘いをお断りしたのでした。
 
 そして今年、またしてもヘアマンから同様のお誘いをいただきました。なぜか今年は「行かなきゃ」と思い込み、なんとかやり繰りして、再びドイツにやってきました(というか無性に行きたくなってしまって……やり繰りできてなくてご迷惑をかけた皆さん、すみません。あ、ミスター・バイク編集部の皆様に一番謝らなきゃ……)
 

スタート地点へと向かうマシンを見送る観客たち。みんなキラキラした目でマシンを見送ります。子供たちも沢山いました。

 

 

未来のエンスージアストたちもコースサイドでレースを観戦。たぶん友達同士の話に夢中なんだろうけど、この場にいることの意味は大きいと思います。タイムアタックを終えて降りてくるマシンにも、みな手を振って熱い走りをたたえます。

 
 そう、開催場所はドイツ。南ドイツの都市ミュンヘンからクルマで約2時間、オーストリアとの国境に近い街ベルンボイレン村です。現地で再会したドイツ人の友人が“南ドイツの典型的な田舎町”と称するように、とってものんびりした雰囲気の街というか村でした。

 じつはイベントに誘ってくれたヘアマンは、ここベルンボイレンが地元。子供の頃、毎年9月に開催されていた当時のヒルクライムレースをとても楽しみにしていたそうです。ということで宿泊もヘアマンの実家。ここにはメディア関係者やスタッフ、友人など15人ほどが滞在していて、夕食や朝食をともにしながらいろんなことを聞くことができしました。
 なかでもヘアマンの妹のマリアの言葉がとても印象的でした。子供の時に楽しみにしていて、しかし時代の流れとともに消えてしまったイベントを、自分たちの手で再び復活させられたこと。そしてその復活に、地元の自治体や企業、警察や住民などの手厚い協力を得られたことが、とても光栄だ、と。彼女はいまベルリン在住ですが、ノートン・コマンドに乗っていて、今回もタイムアタックに出場するほどのバイクフリークです。
 また僕を誘ってくれたヘアマンも、二輪車メーカーのオフィシャル・フォトグラファーを務めたり、世界各国のイベントに出かけそのレポートを雑誌やWEB媒体に提供したり、またバイクカルチャーを中心とした不定期発行のフォトブック“BRUMMM(ブルーム)日本語題名:ブゥオオー”の発行人であり編集長。そしてパンタ系ドゥカティのエンスージアストであり、イベントを主催しながらレースにもちゃっかり出場しています。
 

こんな風にマシンを目の前に頭を抱えたりビールを飲んだり。羨ましい時間です。

 

 

イベントのメイン会場は街の中心。広場にテーブルが出て、食事やスイーツ、ビールが販売されます。そのメイン会場とピットを行き来する参加者の移動車両も、ちょっとしたビンテージバイクだったりして。

 

 

BMWのクラシック部門は、グッドウッドなどにも参戦したスーパーチャージャー付きのR57 Kompressorを持ち込みました。その速さ、作り込み、そして排気音は圧巻でした。

 
 イベントの雰囲気も最高でした。ビンテージバイクの世界はあまり明るくなく、会場やパドックも雰囲気も分からず少し不安でしたが、バイク好きという根っこは同じ。カスタムバイク系の人たちより見た目は少しカタブツに見えましたが、マシンのことを丁寧に教えてくれるし、カメラを向けると「このバイクのビューティポイントはこっちだから反対側から撮ってよ」とマシンを動かしてくれたり、ビールをご馳走してくれたり(ここでも!自分がビール飲みたいオーラを出してるのかな、と心配になるくらい)、いつもと変わらない雰囲気で会場散策を楽しむことができました。
 

日本からは熊本県の天草で“スイッチ・スタンス・ライディング”を営む小坂俊之さんが参戦。昨年彼はスプリントレース選手権にも、この車両で参戦しました。またビンテージバイクのWEBサイト「The Vintagent」を運営するPaul d’orleansさんもアメリカから参加しました。

 
 日本ではなじみが薄いヒルクライムレースですが、ヨーロッパではいまも、至る所で開催されています。このアウアーベルグ・クラシックも、その典型的なヒルクライムレースだ、と友人のドイツ人ジャーナリストが教えてくれました。
 街全体でイベントを支え、レースが始まると多くの人が山の斜面に敷物を敷いて観戦。子供たちはレースそっちのけで駆け回り、年頃の子たちは友達とのおしゃべりに熱中しながら、でもその場所にいる。まぁ大人たちも大体同じで、ビールを飲みながらレースを見たりおしゃべりしたり。この雰囲気、どっかで味わったような……と思ったら、夏祭りや秋祭りですね。

 一年の行事に、ごく普通にヒルクライムレースや祭りが組み込まれていて、それを積み重ねていく。それを受け継ぐ大変さはあるものの、なくなると何故か調子が狂ってしまう。こうやって文化というものが育まれていくんだろうなぁ、と抜けるような青空の元にあるアウアーベルグの峠道で、そんなことを感じたのでした。
 

 

会場にはビンテージな装いの来場者やスタッフも。ビンテージファッションのコンテストも行われているのです。

 

アウアーベルグ・クラシックを復活させた5人の男たち。中央でマイクを握るのが、友人のヘアマンです。そして土曜夜のパーティで、参加者にエントリーのお礼を述べるとともに、イベント開催に奔走する5人の奥さんにもお礼の言葉と花束を渡したのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2019/11/29掲載