スズキが提案する新しい電動モビリティ「e-PO(イーポ)」の報道機関向け試乗会が開催された。昨年秋のジャパンモビリティショー2023に参考出品された「e-PO」は、その後にスズキが原付一種の折りたたみ電動バイクとしてナンバーを取得して、静岡県浜松市や大阪府などの公道を走行した公道走行調査を実施。実際に公道を走行することで課題を浮き彫りにし、今後の製品化に向けた様々なデータを収集している。今回は、この公道走行調査に使用した「e-PO」プロトタイプに試乗することができた。
■試乗・文:河野正士 ■撮影:松川忍 ■協力:スズキ
スズキの原付一種折り畳み電動モペッドのコンセプトモデル「e-PO(イーポ)」は、スズキが提案する新しい小型モビリティである。「小・少・軽・短・美」を企業の行動理念とするスズキは、これまでも小さくて、軽くて、ユニークなモビリティを数多く開発。それらを市場投入することで、人々の生活を支えてきた。「e-PO」はそんなスズキが導き出した、カーボンニュートラル社会における、小型モビリティのひとつのカタチだ。
それは、電動アシスト自転車と電動バイクをかけ合わせた 新ジャンルの原付一種のモビリティだ。電動アシスト自転車大手/パナソニックサイクルテックとの共同開発によって誕生した「e-PO」は、パナソニックサイクルテックの電動アシスト自転車「OFF TIME(オフタイム)」をベースに、アクセル操作だけで進むフル電動モード、ペダル操作に対して力強いアシストが得られるアシストモード、そして自身のペダル操作のみで走行するペダルモードの、3つの走行モードを採用。フル電動モードとアシストモードには切替スイッチはなく、スタート時や上り坂など、フル電動モードでの走行中でも、必要なときにペダル操作による人力でモーターの出力をアシストすることができる。
またアシストモードでは人力1の入力に対し、モーターはその3倍の出力でアシストする3倍アシストを設定。おおよそ40km/hまでそのアシスト力を継続する。一般的な電動アシスト自転車は、10km/hまでは人力1に対してモーター2の2倍アシストが可能。10km/h以降は徐々にアシスト力を弱め、25km/hでアシスト力が0になるよう法律で定められている。「e-PO」は原付一種車両として、クルマやバイクが入り乱れる一般公道での走行を考慮し、フル電動での性能や快適さ、アシスト力の強さが設定されている。
モーターを使用しないペダルモードは、バッテリーを温存したいときやバッテリー切れ時での使用を考慮。フル電動や電動アシストに使用する電気が尽きてしまっても、ヘッドライトやウインカーなど消費電力が小さな灯火器類の使用は可能だ。
ただし注意すべき点は、フル電動モード/アシストモード/ペダルモード、いずれのモードで走行中も「e-PO」は原付一種車両である。そのため走行中は免許証の携帯やヘルメットの着用など道路交通法を遵守する必要がある。原付一種車両であるために、たとえペダルモード使用時でも、歩道は走行できない。
パナソニックサイクルとの共同開発について、スズキ(株)二輪パワートレイン技術部の神谷洋三氏に話を聞くと、長く自転車とともに電動アシスト自転車を開発し、製造し続けてきたメーカーとの協業は非常に心強かったという。さまざまなテストや検証によって、自転車および電動アシスト自転車は走行環境が多彩で、歩道への段差の乗越や、立ち漕ぎを含めたペダル操作によって掛かるフレームへの負担などは、原付一種車両よりも高い強度や剛性を求められる部分があること。また想定する最高速度は、自転車および電動アシスト自転車、それに原付一種車両に大きな差は無いことが明らかになったからだ。したがって多くの部分で、ベースとなる電動アシスト自転車のディテールを「e-PO」にそのまま使うことができたのだという。
そしてさまざまな条件下で、原付一種と電動アシスト自転車の違いを見極め、その違いを造り込んだという。その違いは、モーターの制御。フル電動走行時のモーターの制御だという。
「スズキらしい乗り味とか安心感、それにコーナリングしながら駆動力を加えていくときのフィーリングの造り込みは、長くモーターサイクルを開発してきた我々スズキの領域です。ですから我々のテストライダーも加わり、モーターの制御によって、そこを造り込んでいきました。またアシストモードでのアシスト力が強いので、漕ぎ出しフィーリングにも気を使っています。ライダーに恐怖感を与えない自然なアシスト力をどのように設定するか。いまも継続して開発しています」と神谷氏は言う。
今回の試乗は、駐車場のようなクローズドコースで行った。すこし砂利が浮いているとは言え、対向車も障害物も段差も少なく、一般公道よりも走行条件は良い。そこで「e-PO」を走らせると、それはまさに自転車と電動バイクの中間のようなフィーリング。いや感覚的には、フル電動による爽快感、軽く小さな車体を走らせる爽快感などは、東京のいくつかの繁華街では使用率が高まっているシェア電動キックボードに近く、それと電動アシスト自転車の中間のような存在だと感じた。
ボタン操作だけで、車道を約25km/hで走ることができるシェア電動キックボードは、使い方を割り切れば非常に便利で、筆者自身は頻繁に利用している。それよりもホイール径も車格も大きく最高速が高い「e-PO」のほうが使いやすいのではないか、と感じた。
フル電動モードでの最高速は35km/hあたり、そこで死ぬ気でペダルを漕げば42〜45km/hまで最高速を伸ばすことができたが、よくよく考えたら最高速を高めることにさほど意味は無いだろう。なにより体力消耗と、そこから得られる速度を掛け合わせたコスパが非常に悪い。なにより公道における原付一種の最高速は30km/hだ。慣れてしまえばシェア電動キックボードの25km/hでも、さほどデメリットを感じないことから、使い方を割り切れば「e-PO」のパフォーマンスは、公道走行でも十分であると感じた。
また航続距離はおおよそ20km。スズキが想定するユーザーの使用用途では、片道約4kmの通勤であることから、行き帰りに多少寄り道しても十分余裕がある。
試乗会場には、フレームとハンドルポストを折り畳んだ「e-PO」が、スズキの軽自動車スペーシアのリアスペースに搭載して展示されていた。スズキは、ほとんどすべての自動車のトランクやリアスペースに搭載できるとしている。これにより出先での移動が可能になり、レジャー用途での使用も広がるだろう。駐輪スペース確保に悩む集合住宅においても、玄関先や室内での保管などのソリューションを提案できる。
欧州のEV推進の延期や後退によって、モビリティの電化のスピードは急激に失速している。しかし電化のメリットを活かして新しい価値を提供できれば、電動モビリティは市場を広げるだろう。そのなかでスズキが提案する「e-PO」が、二輪市場にどのような変化をもたらすのか、注意深く観察したい。
(試乗・文:河野正士、撮影:松川 忍)
●e-PO主要諸元
■モーター形式:直流ブラシレスモーター ■定格出力:0.25kW ■全長×全幅×全高:1531×550×990mm ■軸間距離:1144mm ■最低地上高:173mm ■シート高:780-955mm ■装備重量:23kg ■変速機方式:外装7段シフト ■タイヤサイズ(前、後):18-2.125、20-2.125 ■ブレーキ(前、後):ディスクブレーキ(ワイヤー式)、ローラーブレーキ ■バッテリー:NKY594B02・リチウムイオンバッテリー(容量:25.2V-16Ah) ■バッテリー質量:2.5kg ■充電時間:約5.0時間