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試乗・解説

Massive Attack BMW F900GS
■試乗・文:Klaus Nennewitz ■写真:BMW Motorrad https://www.bmw-motorrad.jp ■翻訳:ノア セレン




ミドルクラスモデルをますます充実させているBMWが、新たにオフロード性能を追求したF900GSをラインナップに加えた。先代に対して出力を向上させ、スタイリングも大きく変更。先代との共通点を見つけにくいほどの進化のおかげで、長距離走行だけでなくアドベンチャーシーンにおいても大きく飛躍している。※試乗は欧州仕様車

 
「1台でより多くのシチュエーションへの対応を目指す」というのが近年の各社の目指すところのようだが、しかしそれでもBMWのパラツインエンジンを搭載するFシリーズにとっては使用目的別に3機種をラインナップしている。その3機種のうちスペイン南部のマラガでプレス試乗会が行われたのはこのF900GSだけということは、そこに何かしらの意図やメッセージがあることだろう。だからこそその前に、兄弟車2機種についても説明しておこう。
 

■兄弟車F800GSとF900GSアドベンチャー

 兄弟車のF800GSは引き続きエントリーレベルのモデルとしてラインナップされている。シート高815mm、ガソリンを含めない装備重量約217kgというスペックは多くのライダーにとって接しやすく、それでいてエンジンは、先代の853ccから894ccへとチェンジしておりそこに妥協はない。
 ただスペックは兄弟車と違い6750rpmで64kW(87PS)のパワーと91N・mのトルクという数値。若干ローパワー仕様となるわけだが、これは欧州のA2ライセンスの枠に収まるための措置。兄弟車の中でF800GSだけがA2ライセンス対応となっている。
 シャシーや外装類にはほとんど変更がない一方で、メーターには6.5インチのTFTディスプレイを新採用したほか、グリップヒーターとハンドプロテクターは標準装備された。ヨーロッパにおける価格は、キャストホイール仕様で10650ユーロ~(約180万円)となっている。
 一方でF900GSアドベンチャーは同系エンジンを搭載しながらも8500rpmで77kW(105PS)を、そしてトルクも6750rpmで93N・mを発揮。タンク容量は14.5Lを確保し、大きなウインドスクリーンも備えるなど長距離ツーリング向けの設定だ。足周りはφ43mmのショーワ製倒立フォーク(ストローク量230mm)と、ZF製リアショック(ストローク量215mm)とし、870mmというシート高と併せて快適な長距離走行を約束する。
 新たにプラスチック製のサイドパネルやグリップヒーターが加えられたほか、アルミ製のエンジンスライダーも標準装備した。
 ヨーロッパでの価格は14750ユーロ~(日本価格:2,095,000円)という設定だ。
 

 

オフロードパフォーマンスは、どう変わったのか?

 さて、本題のF900GSだが、今回のモデルチェンジで最も重視されたのはオフロードパフォーマンスの向上だった。これを達成するためにエンジニアたちが最初に取り組んだのは軽量化であり、あらゆるコンポーネントの見直しにより14kgものシェイプアップを達成している。これには容量を0.5L削りつつ素材をスチールからプラスチックへと変更した燃料タンク(-4kg)、ボルトオンとした丸パイプ製のスリムなシートレール(-2.4kg)、アクラポヴィッチ製チタンマフラー(-1.7kg)、アルミ鍛造スタンド(-0.4kg)、900GSのみに採用された新LEDヘッドライト(-0.6kg)とアルミスイングアーム(-0.25kg)といった各部の見直しによって実現している。
 先代の95PS仕様のエンジンも決して悪くはなかったのだが、活発さに欠ける部分は否めなかった。新型のエンジンは2mmのボアアップにより853ccを894ccへとスケールアップ。270°クランクのパラツインは先代の鋳造ピストンから新たに鍛造ピストンを採用したことも手伝い10馬力のパワーアップ。トルク値は93Nmと1Nmの向上で、発生回転数は6750rpmと先代よりも500rpm高回転な仕様となっている。
 

 

 
 試乗車はGSトロフィーカラーである「ライトホワイト×レーシングメタリック×レーシングレッド」、これにBMWモータースポーツのグラフィックが入ったものでとても洒落ている。ホイールリムの色がゴールドに輝いているのも、これから始まるスペイン・マラガ近郊のオフロードツアーに向けて期待を高めてくれた。
 

 
 このスタンダードの仕様でヨーロッパでの価格は13750ユーロ(約233万円)なのだが、試乗車にはこれにチタンコーティングされたフロントフォークとサブタンク付きかつ各種調整機能も備えたリアサスを加えた「エンデューロプロ・パッケージ」、そして「ライディングモードPRO」と「シフトアシスタントPRO」も加えた「ダイナミックパッケージ」も搭載。30mm高められたハンドルやMエンデュランスチェーンといったオプション品と併せて、試乗車と同仕様では18028ユーロ(約306万円)のプライスタグとなる。
 エンジンを始動すると、始動後すぐはアイドリング回転数が高めで、大きすぎない排気音ながら元気な唸り声をあげる。ダイナミックモードで走り始めると伸びやかなパワーデリバリーに驚かされ、アクセルを大きめに開ければマラガの滑りやすい路面でスムーズにトラクションコントロールが介入してくるのがわかった。メッツラーのカルー4は舗装路でもとても素直なハンドリングを見せ、まっさら新品にもかかわらず積極的な走りをサポートしてくれた。
 

 

■ゲレンデを走るように

 田舎道でウォーミングアップ走行をしていると、適度な減衰を持つ長いストロークのサスペンションとスリムな車体、細身のシート(870mm)の組み合わせは良好で、気持ち良く走ることができた。その先のオフロード路は渓谷の奥へと、不整地や深い砂利の中を進んでいく。そんな路面をスタンディングで走っていくと、高められたハンドルと低められたステップ(-20mm)の位置関係が絶妙で、タイヤのグリップの限界を超えるようなシチュエーションでもとてもコントローラブルだった。
 唯一気になったことは燃料タンクのカバーの左右への張り出しが大きいため、スタンディングしている時にそれが太ももに当たってしまう事。特に登坂時などはスタンディングしているライダーが前輪側に体重移動するため、このタンクカバーを避けるためにガニ股になってしまうことがあった。これは残念に思った部分ではあるが、しかし新型のR1300GSでも同様の設定であることも書き加えておこう。
 逆に良い点として挙げておきたいのはハンドルガードの補強が効いていること、そしてブレーキペダルの高さ調整機構がスタンディング時の操作をしやすくしてくれていることだ。
 

 
 オフロードを走ると新型のF900GSは素晴らしい走りを見せてくれ、モデルチェンジではなくまるで新規モデルかのように錯覚する程である。軽量化された車体が良いことや十分なストローク量を誇るサスペンションに加え、エンジンの良さも光っている。ダイナミックモードにおけるスロットルレスポンスはとてもダイレクトで、アグレッシブとすらいえるほど活発だ。また動力が後輪まで伝わるのに一切のタイムラグがないため、経験豊富なライダーにとっては不整地をハイスピードで、しかも横滑りしながらでも、アクセルワークで緻密にコントロールできる喜びが味わえる。
 2速ギアがショート化されたこともオフロードでのコントロール性やダイレクト感に寄与しているが、同時にスロットルグリップの遊びが極小のため、ほんのわずかな入力でも車体が敏感に反応してしまうこともあるため、モードによってはアクセル操作に気をつけたい。
 

 
 車体は意思通りのハンドリングを提供してくれつつ、同時に高い安定性も持っているため渓谷の底の激しいアップダウンなどでも問題なく楽しむことができた。標準装備のカルー4は空気圧2BARに設定されていたが、フロントは素直に行きたい方向に向かせることができたし、またオン/オフ問わず十分なグリップも見せてくれた。
 岩場を抜ける時にはいくらか注意が必要な場面もあった。というのも、エンジンやステップが意外や幅広であり、大きな岩にヒットしないよう気をつけておかなければいけない。なおこういった場面ではスイングアーム下側にリアスプロケットガードが標準装備されても良いのでは? と思わせられた。
 試乗の合間にオプションを搭載していない、スタンダードサスペンション仕様のF900GSに乗る機会も得た。しかし「エンデューロプロ・パッケージ」搭載のモデルに慣れた後では、もはやがっかりするレベルとすら言えた。ダンピングが20%高められている「エンデューロプロ・パッケージ」の足周りは別次元に素晴らしく、オフロードでもオンロードでもその恩恵は非常に高い。F900GSを購入する際には1500ユーロ(約25万円)を上乗せし、迷わずこの「エンデューロプロ・パッケージ」を搭載することを強くお薦めする。
 

 

■オンロードでは……

 オンロード走行には「Sao Paoloイエロー」のカラーリングで、ブリヂストンのバトラックスを標準装備した車両に乗り換えた。こちらにも「ダイナミックパッケージ」などのオプションが搭載され、車両価格は16682ユーロ(約283万円)となっている。試乗コースはマラガ山間部のSierra de las Nievesへと続く、何年も使われていないような非常に荒れた舗装路だ。こちらの車両は「エンデューロプロ・パッケージ」を搭載していないためペースはよりのんびりとしたものとなったが、路面が徐々に良くなってくるにつれて真価を発揮し始め、良いペースで峠道を満喫できた。90/90-21サイズのフロントホイールは狙ったラインを正確にトレースしてくれ、150/70-17サイズのリアタイヤと併せて深いバンク角も許容。特にフロントブレーキは効き、コントロール性共に良好でスポーティな走りをサポートしてくれた。
  

 

 

 
 マラガへと戻る行程はEl BurgoからYunqueraを抜けてGuaroへと至るものだったのだが、これは去年10月にR1300GSで走ったルートと全く同じものだった。30kmに渡るワインディング天国であるこのルートは、バイクで走るには世界でもトップクラスに楽しい道だと思う。そしてここを満喫している時に、ふと900と1300は同じような感覚、同じようなペースで走れていることに気付いたのだった。2台とも常に自信を持って扱うことができ、素晴らしいライディングプレジャーを提供してくれ、それでいてハイペースでも平然としていられるような包容力も持ち合わせているのだ。900はボクサーツインではないが、十分なパンチ力があるしあらゆるシチュエーションで素敵な排気音も聞かせてくれる。クラッチやクイックシフターの設定、そして各ギアのレシオとの組み合わせも絶妙で、振動も程よく抑えられていた。
 最後の高速道路のセクションでは、小さく見えるウインドスクリーンが意外にも良い仕事をしてくれることが発見できた。また130km/h・5000rpmからアクセルを開けた時の力強い加速で、この新型エンジンの活発さを改めて感じることもできたのだった。
 

 

■さて、結論は……

 新型となったF900GSは、先代との共通性はほとんどないと言って良いだろう。よりオフロードにフォーカスしたキャラクターとなったわけだが、同時にオンロード性能が犠牲になっていると感じるパートはない。
 ライバルとなるのはアプリリアのトゥアレグやドゥカティのデザートXといったモデルであり、車体やエンジンパワーなどを考慮した時、F900GSはこの2台の中間に位置するようなキャラクターにも感じられた。ただ、F900GSの本来の性能を楽しみたいと思ったら、「エンデューロプロ」及び「ダイナミック」の各パッケージの搭載は必須に思えるため、購入時は追加料金を払ってこれら機能を搭載する判断をして欲しい。ライバルに対していくらか重い車重も、これらオプション搭載により感覚的には帳消しになることだろう。なお走りのインプレが中心とはなったが、F900GSは長距離ツーリングにも十分対応し、ラゲッジシステムなど純正アクセサリーも充実している。
 BMWは新社長にモータースポーツが大好きなMarkus Flaschを迎えたばかり。F900GSのオフロード性能を実感した今、BMWがオフロード競技も始めるんじゃないか、などと期待も高まってしまう。F900GSはアフリカ・エコ・レースのツインクラスに参戦したらきっと良い走りをしてくれるだろう。
(試乗・文:Klaus Nennewitz、写真:BMW Motorrad)
 
 

 

●BMW F900GS(国内仕様) 主要諸元
■エンジン種類:水冷4ストローク直列2気筒DOHC 4バルブ ■総排気量:894cm3 ■ボア×ストローク:86.0×77.0mm ■圧縮比:13.1 ■最高出力:77kW(105PS)/8,500rpm ■最大トルク:93N・m/6,750rpm ■ 全長×全幅×全高:2,270×945×1,395mm ■軸間距離:1,590mm ■シート高:870mm ■車両重量:224kg ■燃料タンク容量:14.5L ■変速機形式:常時噛合式6 段リターン ■タイヤ( 前・後):90/90R21・150/70R17 ■ブレーキ(前・後):油圧式ダブルディスク(ABS)・油圧式ディスク(ABS) ■懸架方式(前・後):テレスコピック・スイングアーム ■車体色:ライトホワイト×レーシングメタリック×レーシングレッド ■メーカー希望小売価格(消費税込み):2,095,000円


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2024/05/29掲載