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試乗・解説

早朝豊洲・ショートトリップ Kawasaki NINJA e-1
■試乗・文:ノア セレン ■撮影:松川 忍 ■協力:カワサキモータース https://www.kawasaki-motors.com/ ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、Alpinestars https://www.okada-ridemoto.com/brand/Alpinestars/




カワサキがやってくれた。国産初の市販電動スポーツバイクである。電動化が騒がれて久しいが、少なくともバイクの世界ではマダマダ、といった中で、まずは125ccクラスとしてこのニンジャe-1及びネイキッド版のZ e-1が投入された。

「電動化」をどうするのか

 最近は電動のバイクを使った郵便配達を見かけることがある。裏路地をヒュイーンと走っていくその様はとてもスマート。クリーン&サイレント。まさに電動モビリティがイメージさせるものそのままで、なるほど郵便配達のように一日の走行距離がおおよそ決まっている使い方ならば十分活用できるだろう。
 しかし一方で、二輪全体の電動化は四輪のようには進んでいない(もっとも、四輪でもハイブリッドは一般化したものの完全なる電動車はまだまだ少数と言わざるを得ないが)。ホンダはコミューター/実用車としてベンリィやジャイロの電動車を出しているが、基本的には法人向けのリース。BMWはCエボリューションというスクーターに続いて、CE 04そして今年最新のCE 02も出すなど勢いがあり電動二輪マーケットでは一歩先を行っているだろう。ただ国産では「コレ!」と言える電動はなかった。
 そこへカワサキの取り組みだ。このニンジャe-1は完全に電動、そして6月にはニンジャ7ハイブリッドも投入予定。実用車ではなく、趣味のバイクとしての本格的電動車の市場投入は国産メーカー初ではないだろうか。最近何かと勢いのあるカワサキ、電動化においても面白い道筋を見せてくれそうである。
 

 

全ての概念を捨てて

 さて実車である。ルックスは125ccクラスのスポーツバイクのイメージそのままであり、電動だからといってBMWのような超個性的なスタイリングをしているわけではない。雰囲気としてはスズキのGSX-R125や、あるいはもう絶版ではあるがシングルのニンジャ250SLといった感じのスリムさ、車格もコンパクトで「誰でも乗れそう」感は高い。
 動力源は電動モーターだが駆動はチェーンドライブ。クラッチはなく無段変速……という考えがもう古い! 無段変速でも何でもなく、変速などせずモーターがヒューンと回り続けるだけだ。タンクには……ほら、タンクなど無いのである。マフラーはコッチ側に……いや、マフラーもない。アクセルを……そもそもアクセルと呼んでいいのだろうか?? などなど、これまで親しんできたエンジン車の常識を拭い去るのが容易でない。
 これまでの知識や経験をとりあえず一度置いて、何も気にせずに走り出すのがシンプルで良い。アクセルを開ければ進む。ブレーキを握れば止まる。電費も気にせずにまずは走り回って体を馴染ませるのが良いだろう。
 

 

スポーツバイクである意義

 幸いなのは跨った時のルックスが馴染みのあるものであることだ。ハンドルやスイッチ類、タンク(?)をニーグリップする感覚、ステップ類やブレーキの効き方など、動力源を除けばまさにニンジャ250SLのような感覚であり、ヘンに構えてしまったり、怖がったりすることはない。
 トップブリッヂには普通にキーが刺さっていて、エンジン始動(ではなくモーター準備?)はセルスイッチの位置。ウインカーやホーンといったスイッチ類も通常の位置に、しかも通常のデザインで配置されていて馴染みやすい。電動バイクであるならば今までのものと違った、「ならでは」のデザインや設定にするというのも一つの考え方だろうが、カワサキはライダーが接する部分においては今までのガソリン車と同じ設定としてくれたのが、電動車を素直に受け入れやすくしてくれているとも感じる。
 そしてコミューターではなくスポーツバイクとした意義も大きいと思う。ハンドリングはまさにスポーツバイク。ブレーキも良く効くし、コーナーも良く曲がる。フロントの接地感が豊富で交差点レベルでもバイクとの一体感を楽しめてしまうのだ。電動は基本的にコミューターがメインでしょう、と思っていたのは筆者だけではないはず。ちゃんとしたスポーツ電動市販車という意味では世界的にも先をいっているのではないだろうか。
 

 

怖くないバイク

 キッズモトクロスというジャンルがあり、ホンダのQR(今はCRF50)やヤマハのPW50(今も現役2スト現行車!)が主なものだろうが、最近は電動のキッズモトクロスが一般化してきた。ガソリン車に比べて電動は音や振動がなく、もちろん臭いもしない。キッズにとって怖がる要素が少なく、ガソリン車以上にスッと乗り出してくれるそうだ。なるほど、音も振動も臭いもなくススーッと走れるキッズモトクロスならば怖さは少なそうだ。がんばれー! と送るお父さんの声援も耳に届くだろう。対するガソリン車は音も大きく、振動や排出ガスなど、狂暴にすら感じるかもしれない。
 これはモトクロスに限ったことではなく、市販車でも似たことが言えると思う。ガソリン車はクラッチ操作など「難しそう」ということに加えて、音や振動、排出ガスなどが、特に初心者にとってはハードルとなっていることもあるだろう。所有する環境にも配慮が必要になることもあるかもしれない。その点、このニンジャe-1はとにかく「無害」なのだ。静かで簡単、「これなら乗れそうだな」感が非常に高い。それでいてルックスはちゃんとスポーツバイク。これは新たな層にバイク趣味の門戸を開いてくれる可能性を秘めていると感じる。
 

ショートトリップ

 走りの方である。そもそも125cc枠の設定のため、電動になったからと言って極端に速いとか、びっくりするほどトルクフルということはない。標準のROADモードで走っていれば普通の125ccクラスと同等の動力性能といったところだ。面白いのは「eブースト」機能で、これは右手親指で押せるスイッチにより発動。グンと加速力が強まり、イメージとしては追い越し加速のためにシフトダウンしたような推進力が得られる。これはそのまま開けていれば15秒間持続するが、15秒を使い切った後に即座にまた使えるわけではなく、少しチャージ時間のようなものが必要だ。
 走行距離を伸ばすならばECOモードだ。こちらは125ccガソリン車ほどのパワーはなく、のんびりとした加速と最高速なのだが、ECOモードでもeブーストは使えるため、発進時や登り坂だけでeブーストを使うという使い方も良かった。ただこの使い方と、そもそもROADモードで走るのとどちらが電費が良いのかはわからない。
 

 
 航続距離なのだが、おおよそ55kmとされている。とはいえもう少し走るんじゃないか、などと思ってはいたが、本当にちょうど55kmほどでバッテリーを使い切ってしまった。この日の撮影ルートは編集部のある品川から、豊洲のあたりまで行って、ちょっとグルグルして写真を撮り、戻るというもの。こんなショートトリップでも55kmぐらいは走ってしまうものなのだなぁと実感させられた。そしてバッテリー残量が少なくなってきた時の心細さと言ったらない。
 趣味的な使い方をするならば、朝早くに起きて、音も臭いもしないバイクで誰に気を遣うこともなく住宅街を抜け、美味しい朝定食をやってる店にでも寄って、ぐるっと一周して帰宅。家でコーヒーを飲む……といったシチュエーションが想像できた。航続距離的に、ガソリン車で楽しむようないわゆるツーリングなどはちょっと難しいだろう。
 あるいは実用車的な使い方ならば、毎日の通勤や通学で使っても良いだろう。ガソリンスタンドに行く手間はないし、さらに言えばオイル交換やプラグ交換、冷却水チェックといった項目もない。家に帰ったら充電し、ただただ目的地を行ったり来たりを続けることができるのだ。通勤/通学先で充電させてもらえるならば、片道50kmぐらいまでは可能ということだ。
 一方で、バッテリーを完全に使い切ってしまった場合、充電には7時間ほどを要してしまうというのは難しいポイントかもしれない。バッテリーはいわゆるタンクの位置に2つが収まっているのだが、一つが11.5kgもあるため、それを二つ持って自宅に充電しに持ち帰るのはかなりハードルが高い。車体に直接充電コードを挿して充電することもできるが、駐輪スペースに電源が必要な上にタンデムシート部が開けっ放しになるため、やはりガレージ的なスペースが理想的だろう。そういう意味ではこれまでの125ccクラスのガソリンエンジン車のように共同駐輪場にでも駐輪しておける、という気軽さはない。
 

 

まずは1発目なのだ

 航続距離と充電時間を考えると、使い方はある程度限定されてしまう感覚はあるし、ガソリン車と比べずに、新たなジャンルとして捉えなければいけないと感じた今回の試乗。実用性能面では注文もあるが、一方で最初に書いたように、電動であるがゆえに新たな層の掘り起こしもできそうという可能性も感じられた。
 そして何よりも大切なのはこれがスポーツバイクであり、スポーティなマインドにはしっかりと応えてくれる車体を持っていることだ。キッズモトクロスでも言われている「電動ならば体育館など、室内でもレースができる!」がこれにも当てはまることを考えれば、ナンバーをつけて公道を走るのではなく、もっと趣味的にスポーツを楽しんでも良いのかもしれない。

 もう一点、100万円を超える価格というハードルもある。購入者が東京都民であれば各種補助金を組み合わせ半額ぐらいで購入できるのだが、それにしてもハードルの高さは否めない。ただ、忘れてはいけないのはコレが1発目の電動バイクである、ということだ。これはスタート地点であり、これを出したからこそ、進歩や進化があるのだ。まずはその1発目を歓迎し、今後のカワサキの電動への取り組みも注目していきたい。
(試乗・文:ノア セレン、撮影:松川 忍)
 

ところどころ有機的なラインを用いていたり、配色もシルバーを多くするなど、どことなく電動感/未来感をイメージさせるルックスではあるものの、やはりそのベースは既存のニンジャシリーズと共通するデザインだ。サイズ感は完全に125ccのため足着きは良好だしポジションもコンパクト。それでいてフォークはφ41mmを奢るなど足周りには妥協がなく、スポーツマインドにしっかりと応えてくれる。なお同時にネイキッド版のZ e-1というのもあるが、そちらはカウルが無いため、ルックス的に「エンジン車ではない」というのがすぐにわかる。未来っぽいのはむしろZの方だろう。各種補助金については住居地によっても違うようだ。カワサキのホームページに詳しい。

 

125ccクラスの車体をしているため取り回しは楽ではあるものの、押す時に電動車ならではの抵抗感は確かにある。このため「ウォークモード」というモードが設定され、これを使うと歩行する程度の速度で進んでくれる。ただ法律的に歩道を押す時にこのモードを使って良いのかどうかは(アウト寄りの)グレーゾーン。あくまで駐車場の出し入れや私有地内での取り回しといった使い方を想定している。なおバックも可能だ。

 

 

電動車は電動アピールのために凝ったデザインになることも多いメーターだが、ニンジャe-1はなじみのあるスクエアのカラーメーター。モードは通常のROADと、航続距離を重視したECOがあり、どちらのモードでも「eブースト」は使える。ウォークモード使用時にはオレンジ色の背景となる。電量計は左右にあり2本のバッテリーの状態を示すが、バッテリーは1本ずつ使っていくわけではなく、同時に減っていく。航続距離は55キロとされており、実際にそのぐらいであった。電欠が近づくとメーターにカメさんマークが現れ、どうやら自動的にECOモードに切り替わるようだったが、その頃にはヒヤヒヤしていてはっきりとは分からなかった。

 

動力源のリチウムイオンバッテリーを車体から取り外して、屋内に持って入り充電することも可能ではあるが、バッテリーが1本11.5kgの重量があるためそれなりに大変。なお使い切ってしまったバッテリーを満充電にするには約3.7時間とされている。2本充電するならば7時間以上ということになるため、このように充電するのであれば充電器を2つ用意すると良さそうだ。なお充電器は別売りである。バッテリーを収める、いわゆるタンクに相当するスペースはバッテリーの上にカバーがあり、意外と広い小物入れスペースもある。グローブボックス的に使うこともできるし、充電ケーブルも納められるようになっている。なおメインシート下にはガソリン車に搭載されるような一般的なバッテリーも搭載。こちらは灯火類用で、リチウムイオンから自動的に充電される。このおかげで例え電欠で走行不能となっても、灯火類が消えてしまうことはなく安心だ。

 

バッテリーを外すことなくタンデムシート部下に用意された充電ポートに直接プラグイン充電することもできる。しかしこの場合駐輪する場所にコンセント(アース機能付き)が必要になるし、タンデムシート部は開けっ放しになるため防犯や耐候性が気になってしまいそう。充電器はビスで壁に設置できるような構造となっていたため、やはりこれはガレージ内での充電を想定していると思う。

 

モーターはピボットのすぐ近くに配置され、後輪はエンジン車同様にチェーンで駆動される。最高出力は12馬力(9.0PS)である一方、最大トルクは40ニュートンメーター。このトルク値は400ccクラス並みだが、しかし実際に走るとその力感はやはり125ccクラスの範疇である。モーターがこの低い位置にあること、そして重たいバッテリーもまた、車体前方の低い位置にあること、こういった電動車ならではの重量配置/配分もe-1のスポーティな運動性に寄与しているのではないかと思う。

 

シングルディスクにピンスライドキャリパーと一般的な構成のブレーキではあるもののとてもコントローラブルで良く効いた。太いフロントフォークのおかげもあってかコーナリングはとても気持ちが良く、特にフロントの接地感は豊富で安心感がある。

 

リア周りの構成も奇をてらわない一般的なもの。サスペンションはリンク式、タイヤは実績のあるIRC RX01を使うなど、スポーツマインドに溢れている。

 

スイッチ類は慣れ親しんだものであり、何の違和感もなく使うことができた。メインキーONから走行可能状態にするにも、一般的なセルスイッチの場所にあるボタンでできるため、電動とはいえ全てが直感的に操作できありがたい。電動のためクラッチは無し。完全にオートマだ。

 

KAWASAKI NINJA e-1 主要諸元
■モーター種類:交流同期電動機 ■定格出力:0.98kW ■最高出力:9.0kW(12PS)/2600-4000rpm ■最大トルク:40N・m(4.1kgf-m)/0-1600rpm ■走行モード:ROAD/ECO ■バッテリー:リチウムイオンバッテリー×2 ■全長×全幅×全高:1980×685×1105mm ■軸間距離:1730mm ■シート高:785mm ■車両重量:140kg(バッテリー2個含む)■変速機形式:オートマチック ■タイヤ(前・後):100/80-17・130/70-17 ■ブレーキ(前・後):油圧式ディスク・油圧式ディスク ■車体色:メタリックブライトシルバー × メタリックマットライムグリーン ■メーカー希望小売価格(消費税込み):1067000円 

 



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2024/04/22掲載