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試乗・解説

■試乗・文:ノア セレン ■撮影:赤松 孝 ■協力:KAWASAKIhttps://www.kawasaki-motors.com/ ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html

大排気量車のカワサキ、というイメージもどこかにあるだろう。カワサキは原付を作っていないこともあって、国内4メーカーの中でもラインナップがちょっとプレミアムかもしれない。そんなカワサキから「乗り物への入り口」が提案された。

ヤマハはピアノ、ホンダはカブ、カワサキは?

 カワサキがこの大小さまざまなATVを国内でアピールし始めた理由は何だろう。公道走行ができず、日本ではオーストラリアのような広大な牧草地が広がるような場所は北海道など一部に限られている。試乗の前にまずは「ATVをこんなにアピールして、試乗の機会まで設けて下さる理由は何ですか?」と聞かずにはいられなかった答えが興味深かった。
「ヤマハは子供の頃からピアノとか習ってたら音叉マークに馴染みがあるでしょう。ホンダなら家にカブがあるかもしれないしお父さんの車もホンダかもしれない。自然とそのブランドが日常にリンクしてるんですね。でもカワサキって、意識してアプローチしないと触れる機会が少ないブランドだと思うのです。だから乗り物に触れる入り口となるものを用意したかったんです」
 なるほどそうだ。スズキも軽自動車があるし、ヤマハは小学生になってピアニカや縦笛を買ったらそこにも音叉マークがある。PWやQRといったキッズモトクロッサーでバイクに、エンジン付きの乗り物に初めて触れた、という人も多いだろう。ではカワサキは何が提案できるか。の、答えがこのATVだというわけだ。二輪ではないが、操作はイージーで簡単には転ばない。エンジンという動力源を使い、乗り物が進む、という体験を初めてさせるには良いアプローチだろう。

Kawasaki BRUTE FORCE 300

ラインナップは50~1000まで!

 ATVと言ってもなかなかピンとくる人は少ないかと思う。どのぐらいが大きくて、どのぐらいが小さくて、操作はどうやって……。カワサキのラインナップは今回試乗できた50/90/300の他に、800cc付近のモデルが3モデル、そしてフラッグシップは1000ccのものまで7機種を展開している。300ccまでが「ATV」と呼ばれ、キムコ社のOEM、それ以上は「オフロード四輪車」と呼ばれ、カワサキオリジナルの商品だ。
 今回乗れた50/90はわりとコンペ志向でスポーティに走らせたいのに対して、300はもう少し実用的というか、移動するための機能も充実という立ち位置。オフロード四輪の方も不整地の移動や荷物の運搬を主とするMULEシリーズと、もっとコンペ的なTERYXシリーズに分かれている。
 カワサキのバイクのホームページを見てもリンクが見当たらないのが残念だが、「カワサキ ATV」で検索してみて欲しい。「ふふふ、これは楽しそうね!」という各機種が目に飛び込んでくる。

Kawasaki KFX90

「オラの羊たちはどこ行った!?」

 さて試乗である。まずは271ccシングルを搭載する「BRUTE FORCE 300」だが、これはまさに広大な牧草地などを走ったりするような設計だろう。イメージ写真はオーストラリアの牧場主である。牧羊犬と共にこれに乗って羊たちを追いかけていくというつもりで撮ったのだが、広大な土地で牧畜を行う地域ではまさにこういった乗り物が活躍しているし、国内でも北海道や九州では使われていることだろう。
 国内のそういった地域では広い私有地を移動するためにナンバーの付いていないジムニーや四駆の軽トラなどが走っているが、それの代わりと考えて良いだろう。パワーもあるため、何かを牽引することもできそうだ。ちなみに国内での使われ方としては、例えば電線の鉄塔の管理など、私有地の奥深くに機材を持って分け入らなければいけない場面で活躍しているという。われわれ一般人が想像するよりも活躍の場はあるらしい。
 乗ってみると、300ccとはいえコンパクトな車体でゆっくり走っている分には安定感があり見晴らしも良くバイクよりもちろん気楽なものだ。

Kawasaki BRUTE FORCE 300

 自動遠心クラッチのトルクコンバーター2速のため、ギアは始めにハイの方に入れておけばあとは親指で操作するアクセルレバーだけで自由自在に速度がのせられる。まっすぐ走っているうちは路面からのダイレクトさを楽しんだり、タイヤの空気圧を抜けばかなりの登坂能力もありそうだな、なんて想像が膨らむ。まさに牧草地を走り回るのに最適だろうし、このトルクフルなエンジンなら純正装着のキャリアに様々な道具類などを満載しても頼もしく走ってくれるだろう。
 ところがコーナーを攻めるとなると確かなスポーツ性が顔を出す。より排気量が少ないモデルと違ってデフがあるため即座にテールが流れていくということはないが、それでもスピードをのせて曲がっていこうとすれば、バイクと違ってバンクしないのだから遠心力が強烈だ。ひっくり返らないように大げさなぐらいハングオンをして、かつこれまたダイレクトなステアリングに適宜逆ハンを当てつつグリップを探りながらアクセルを開けるのだ。これがもう、最高に楽しい!! 北海道のような広大な牧草地を持っていなくても、畑や田んぼを持っている農家さんや酪農家さんには是非ともお薦めしたい、バイクとは違った楽しみが確かにある。
 なお走行写真ではそんなに大きくスライドしているようには見えないが、ダイレクトゆえに乗り手は写真以上にエキサイトしていることを付け加えておく。常に遠心力との戦いのため、翌日は全身筋肉痛というオマケつき。確かなスポーツである。

Kawasaki BRUTE FORCE 300
300になるとサスがしっかりしていたり、デフがついていたりと乗り物としてワンランク上。ギアも低速側を備えるため、荷物満載で急斜面を登っていくような実用的な使い方にも対応するし、灯火類もあるため早朝/夜間の走行も可能だ。もちろん、写真のように積極的に/趣味的に走らせても楽しい乗り物である。価格は88万円だ。

エントリーの50、もう一歩先の90

 もう2台乗ることができたのはKFXの50と90だ。50の方はまさに子供向けのエントリーモデルであり、バギーパークなどに納入されているそうだ。二輪のQRやPWと共に、初めてのエンジン付き乗り物、としての役割を果たしている。購入時にはアクセルが全開にならないようになっており、またトルクコンバーターは一定以上変速していかないようカラーが入っているため、本当に「初めて」のお子さんでも怖がらずに乗ることができるだろう。もちろん、これらのリストリクターは慣れたらば適宜外していって本来のパワーを楽しめるようになっている。
 試乗できたのは当然フルパワーだが、とはいえ4.8馬力の50ccエンジンで113kgの車体を走らせるのだから大人が乗れば速いとは言えない。とにかく常にアクセル全開、コーナーにも全開で入っていけるため、速く走ろうと思うと「どこを削っていったらいいかな?」という、フルサイズコースでミニバイクを走らせるような気持ちになる。ということは、もっともっと入り組んだような低速コースならばより楽しめそうだし、そしてフラットな広場ならまさにお子さんの「エンジン付き乗り物とのファーストコンタクト」にうってつけだろう。

Kawasaki KFX90
50はさすがにパワーが少なく、キッズ向けというイメージだが、90になるとデフがないということもあって開けて滑る/閉じて滑る、と途端にスポーツ心を刺激される。ひっくり返らないように積極的な入力が必要で、筋肉痛必至である。50が46万2000円、90は50万6000円。

 エンジンブレーキも強めに効くため、ブレーキを操作する必要もほぼないし、なんと言ってもバイクと違って怖くてアクセルを開けられずに止まってしまっても「転ばない」というのが魅力だ。QRやPWをせっかく買ったのに怖がって乗ってくれない、なんていうお父さんの話は良く聞くが、これなら乗ってくれそうな気もする。
 もう一台は同じ車体に90ccエンジンが載ったもの。こちらは大人が乗ってもエキサイトできるパワーを備えていた。300ccのBRUTE FORCEと違ってデフがないので、アクセルを開けたままコーナーに入っていくとしっかりとリアが滑り出す。「おおおっ」っとちゃんとアクセルを閉じて入っても……今度はエンブレでリアが滑り出す。これが滅法楽しいのだ! 開けても閉じても滑るのだから、コーナーは常にドリフト状態。しかも50と違ってスピードものるため、ブレーキも操作する必要があった。ははは、これは楽しい。一台欲しい。

Indian_FTR SportP

国内唯一のATVメーカーとして

 かつては他の二輪メーカーも三輪や四輪のこういったATVを国内にラインナップしていた時期があった。同様に公道走行はできなかったものの、当時は今以上にこういった乗り物を走らせやすい環境があったのかもしれない。今でも中古でこれらのモデルが出てくると意外と高値で取引されていることを見ると、われわれ一般のライダーが思うよりも需要はあるのだろう。
 そんな、既に過去の乗り物かと思っていたジャンルにカワサキが参入してくれたのは素直に喜びたい。キッズのエンジン付き乗り物への導入はもちろん、90や300なら大人だって十分エキサイトできる乗り物である。ソコソコ高価でもあるが、まずは発売に踏み切ったカワサキを称えると共に、機会があれば是非とも乗ってみて欲しいと思う。そのためにはカワサキには試乗会、走行会などのイベント開催と共に、こういったモデルをキッズが走らせられる環境整備にも期待したい。

BRUTE FORCE 300
公道走行ができないわけだが、全国のモトクロスコースなどで走らせられるところも多いという。OEM元のキムコでは「ファンライドバギー」https://funridebuggy.jp/ というサイトで、全国のATV走行可能な施設を紹介してくれているため併せてチェックしたい。

●BRUTE FORCE 300 主要諸元
■エンジン種類:水冷4ストローク単気筒SOHC2バルブ ■総排気量:271cm3 ■ボア×ストローク:72.7×65.2mm ■圧縮比:11.0 ■最高出力:16kW(22PS)/7,500rpm ■最大トルク:22N・m(2.3kgf・m)/6,500rpm ■全長×全幅×全高:1,915×1,080×1,170mm ■軸間距離:1,165mm ■シート高:845mm ■車両重量:243kg ■燃料タンク容量:12L ■変速機形式:ベルトドライブトルクコンバーター2段(後進1段) ■タイヤ(前・後):AT22×7-10(チューブレス)・AT22×10-10(チューブレス) ■ブレーキ(前・後):油圧式シングルディスク・油圧式シングルディスク ■車体色:グレイッシュブルー ■メーカー希望小売価格:880,000円

●KFX50 主要諸元
■エンジン種類:空冷4ストローク単気筒SOHC2バルブ ■総排気量:50cm3 ■ボア×ストローク:39.0×41.4mm ■圧縮比:10.8 ■最高出力:3.5kW(4.8PS)/7,500rpm ■最大トルク:3.3N・m(0.34kgf・m)/6,500rpm ■全長×全幅×全高:1,400×865×885mm ■軸間距離:965mm ■シート高:635mm ■車両重量:113kg ■燃料タンク容量:5.3L ■変速機形式:ベルトドライブトルクコンバーター1段■タイヤ(前・後):AT16×8-7(チューブレス)・AT16×8-7(チューブレス) ■ブレーキ(前・後):機械式ドラム・油圧式シングルディスク ■車体色:ライムグリーン ■メーカー希望小売価格:462,000円

●KFX90 主要諸元
■エンジン種類:空冷4ストローク単気筒SOHC2バルブ ■総排気量:90cm3 ■ボア×ストローク:47.0×51.8mm ■圧縮比:10.0 ■最高出力:4.8kW(6.5PS)/7,500rpm ■最大トルク:6.6N・m(0.67kgf・m)/5,500rpm ■全長×全幅×全高:1,425×905×925mm ■軸間距離:965mm ■シート高:650mm ■車両重量:122kg ■燃料タンク容量:5.3L ■変速機形式:ベルトドライブトルクコンバーター1段■タイヤ(前・後):AT18×7-8(チューブレス)・AT18×9-8(チューブレス) ■ブレーキ(前・後):機械式ドラム・油圧式シングルディスク ■車体色:ライムグリーン ■メーカー希望小売価格:506,000円

[カワサキのウエブサイトへ]

2023/08/16掲載