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試乗・解説

■試乗・文:中村浩史 ■撮影:松川 忍 ■協力:インディアンモーターサイクルhttps://www.indianmotorcycle.co.jp/ ■ウエア協力:アライヘルメットhttps://www.arai.co.jp/jpn/top.html 、クシタニ https://www.kushitani.co.jp/

インディアン、といえばアメリカンクルーザーがすぐ思い浮かぶけれど
実はアメリカ最古のスポーツバイクメーカーだったりする。
チーフシリーズのクルーザーとはまったく別ラインの
クールなストリートスターがFTR1200です

コレをカッコいいと思わない人がいるのか!

 忘れもしない、FTR1200を初めて見たのは2019年春のモーターサイクルショー。事前情報も知らずにショー会場で見かけたものだから、あれ? インディアンって、ハーレーみたいなクルーザーメーカーじゃなかった? と思ってしまったのだった。
 インディアンのブースに展示されていたFTR1200、いっぺんに心を打ちぬかれた。か、か、か、かっこいいい! 存在感のあるエンジンと、小さいけれど太っといトラスフレーム、最小限にちょこんと乗っかった外装パーツに右2本出しマフラー。FTR──フラットトラックレーサーか、そういえばインディアンはクルーザーだけじゃなくてアメリカのフラットトラックレースにワークスチームで参戦してるんだ、ってニュースで読んだ気がする。

Indian_FTR Sport

 インディアンっていうのは、アメリカの古参メーカーで、1903年創業のハーレー・ダビッドソンより2年早く、1901年にスタート。1940年代中盤、つまり大戦あたりまでは、アメリカ最大のメーカー、つまり世界最大のメーカーでもあった。その凋落は、4輪車、つまりクルマの普及だとも、ライバル社のハーレー・ダビッドソンの成長だとも言われているが、ともかくインディアンは1953年にすべての生産を中止。その後はセールス部門がイタルジェットやロイヤルエンフィールドを輸入してインディアンブランドで販売したり、アパレルブランドとなったり――。

 そして、ついにオートバイメーカーとして復活したのは2011年。ポラリスインダストリーズ社がインディアンブランドを完全取得し、まったく新しいモデル「チーフ」が誕生したのだ。これが冒頭に書いた「ハーレーみたいなクルーザー」です。いわゆるアメリカンクルーザースタイルで、低いシートと長いホイールベースのモデルたち。
 けれど、歴史的にインディアンというのはもうひとつの顔があって、それがレーシングマシンとしてのブランド。1906年には早くも本社製レーシングマシンを完成させているし、耐久レース、フラットトラックやロードレースにも着目。ちなみにここでいう耐久レースとは、今のようにロードコースを周回するものではなく、たとえばニューヨークからマサチューセッツまで300kmを走り切れるかとか、西海岸から東海岸までの4000kmを何日かけて走るか、という長距離耐久試験のようなものだったらしいです。
 アメリカの由緒あるレースのひとつである「デイトナ200マイル」の第1回優勝マシンが、まさにインディアン。デイトナ200マイルでは、最初の10年で3度も優勝しているし、あのバート・マンロウの伝記映画も「世界最速のインディアン」だもの。

Indian_FTR Sport

 そして、新生インディアンが再びレースに舵を切ったのが、2017年モデルのFTR750。デビュー初年度にチャンピオンを獲得するや、そのまま22年まで6連覇。完全にアメリカン・フラットトラックの盟主となっているのです。
 その市販車バージョンがFTR1200。レースレギュレーションが750ccなだけで、先行モデルのスカウトシリーズの1200ccエンジンを転用したスポーツバイクでした。あのモーターサイクルショーで見たショーモデルと同じクールなスタイリングで、初乗りの印象も強烈でした。
 水冷とはいえ、アメリカ産クルーザー系のVツインはどうかなぁ……と思ったけれど、FTR1200のエンジンは低回転からスムーズに回って、エンジンの回り方にフリクションが感じられないフィーリング。Vツインクルーザーのズドドドドド、を期待していると、物足りないかもしれないほどきれいに回るVツインだった。1200ccもあって、トルクは120Nm。クラッチミートして体をドンと押されるようなというより、回転に応じて伸びのあるトルクがあるエンジン特性だったのをよく覚えている。

Indian_FTR Sport

 今回、試乗したのはその2023年モデル。大きくフルモデルチェンジしたというより、熟成を重ねてきたモデルだ。ただし、まったくのブランニューモデルからの熟成は、モデルの初期安定性能を出す大事な作業で、FTR1200はまさに今、この段階を踏んでいるのだと思う。
 全体的な構成としては、クルーザーから脱却したスポーツバイクというよりは、国産モデルでいうビッグネイキッドにかなり近い。リラックスできるポジションで、シート高も初期モデルよりいくらか低くなっています。これは、初期モデルが前19/後18インチホイールを採用していたのに対し、現行モデルでは前後17インチを採用しているのも、足つきがよくなった原因かもしれません。
 125psを発揮する1200ccの排気量を持つVツイン、となると、かなりワイルドな印象を受けますが、力の出方がスムーズな印象は変わらないまま。クラッチも軽く、ギアの入りもスムーズ。振動もきれいに消されていて、それでも鼓動はきちんと残っているエンジンフィーリングです。
 走り出すと、やはりFTR1200にジャジャ馬的なワイルドさやモンスター感はありません。きれいにスムーズに回る印象はそのままで、2000rpm以下でも前に進もうとするFTR1200。ちょっとイジワルにトップ6速に入れて回転を上げずに走ってみても、2000rpmで60km/hくらいでスムーズに走ります。
 そのままスロットルを開けていくと、低回転からトルクがあふれていて、いちばん使いやすいのは5000rpm近辺。スロットルの開け閉めできちんと車体も反応して、軽すぎないハンドリングもビッグネイキッド――ちょうどホンダCB1300SFあたりとかなり似ている感じです。

Indian_FTR Sport

 車体の動きは、軽快や俊敏というより、安定性がたっぷりある自由度の高いもの、という感じ。クセがなく前後タイヤがしっかり接地している感があって、特にフロントグリップが高い。すごく安心感のあるハンドリングです。大きさや重さはちゃんと感じられる、ビッグバイクらしい車体です。ルックスから感じる、重すぎ、大きすぎの印象はほぼありませんでした。
 少しワインディングに踏み込んでみると、やっぱりハンドリングはタイヤのグリップをしっかり感じられるニュートラルなもので、ここでFTR1200の大きな魅力がひとつ。それが「トラクションのかかり」の気持ちよさです。加速区間でスロットルを開けて、ブレーキングからコーナーを旋回。その後のコーナー脱出が気持ちいい!
 コーナリングは、車体の重心が低くて、重いものがごろんと寝るような感覚で、決してシャープではないけれど、脱出で加速すればいいや、ってくらいコーナーを頑張らなくていいキャラクターだ。きっとサーキットを走ると、タイム的にはCB1300SFやドゥカティ・モンスター、トライアンフ・スピードトリプルといったライバルたちに劣るだろうけれど、いちばん恐怖感なく安心して、ライディングが楽しいのはこれ。ちょっと昔のVMAXに似ているかな。

Indian_FTR Sport

 高速道路では、直進安定性の高さが際立って、このあたりはさすがにクルーザーの国のバイク。6速80km/hは2900rpm、100km/hが3500rpm、120km/hは4100rpmといったあたり。近ごろ120km/hまでOKな区間が増えているけれど、このスピード域でも風圧はさほどでもないから、快適にクルージングできる。どっしりと、それでいて重さは感じないちょうどいい加減。うーむ、上手いなインディアン。

 ちなみに初期モデルで感じたことがひとつ。それはFTR1200に乗ったことのある人なら全員が言うであろう、エンジン発熱のものすごさがあったんだけれど、現行モデルでは常識的なレベルでした。もちろん、このギチギチに詰まったビッグブロックのエンジンでは、排熱や冷却は難しいだろうけれど、なんと現行モデルでは、アイドリング停止時に、水温が一定のラインを越えると、自動的に気筒休止――つまり単気筒にしてしまうのだ。ここも、うーん、インディアン上手い!

 日本はもちろん、世界で見ても、ほぼ最後発に近いブランドだと言っていいインディアン。最高速度300km/h出るバイクでも、最高出力200psオーバーのモデルではないけれど、独特のキャラクターを持つストリートスター、というのがFTR1200の正体かもしれません。試乗でも、ついつい試乗時間が長くなっちゃう、そんな楽しいバイクでした。
 オープンロードに生まれ出でて数年、猛獣がきちんと調教されたかんじ。決して大人しくなったわけじゃない、ド迫力のストリートスターです。
(試乗・文:中村浩史、撮影:松川 忍)

Indian_FTR SportP

FTR Sport
FTR Sport

フロント
ブレンボ製Φ320mmローターに、同じくブレンボ製の対向4ピストンキャリパーをラジアルマウント。ABSは標準装備で、バンク角応答型ABSを採用。ホイールは17インチ、タイヤはメッツラー・スポルテック。
エンジン
エンジンは挟角60度の水冷Vツイン。アシスト&スリッパークラッチを装備。パワーモードはスポーツ/スタンダード/レインを選択でき、エンジン発熱を抑えるアイドリング中の気筒休止システムを装備。

マフラー
右2本出しのマフラーは2in1to2レイアウトで、集合部に消音とキャタライザーのチャンバーボックスを備える。サウンドは音量控えめだが、歯切れがよく、どのツインエンジン搭載車にも似ていない。
スイングアーム
フレームと同じくトレリス形状としたスイングアームと、テールエンドフェンダー。ウィンカーはオレンジレンズ+LEDバルブで、リアホイールも17インチ、タイヤ幅は180サイズと常識的なサイズだ。

ラインアップ
FTR1200はスタンダードと写真のsport、それに最上級モデルのRカーボンの3ラインアップ。フロントフォークはスタンダードとスポルトが写真のザックス製Φ43mm、Rカーボンはオーリンズ製を使用する。
リアサス
スタンダード/sportはリアサスにザックスを採用するが、日本仕様はsportもRカーボンもオーリンズ製モノショックを採用。車体右側にオフセット装着され、プリロードと伸&圧側の減衰力調整が可能。

フレーム
フレームはトレリス形状のパイプフレームにピボットプレート式の構造。フューエルタンクはタンクカバーからシート下にかけて伸び、低重心化とガソリン残量の変化による重量前後配分の変化を防いでいる。
タンクカバー
タンクカバー下前半部にはエアボックスがあり、フューエルタンク部分はシート下がメイン。給油口から車体後方に向けてタンク給油経路が伸び、給油は慎重にする必要がある。

ダブルシート
シートカウルつきのトラッカー型ダブルシート。硬めの座り心地で、その分ホールド性は高かった。タンデムステップ付きの2人乗りだが、アメリカ、ヨーロッパでは完全ひとり乗りは奥様の購入許可が下りにくい。
スポルトー
スタンダードはノンカウル、Rカーボンはヘッドライトカウルが標準装備で、写真のsportはミニスクリーンが装着される。小型丸LEDヘッドライトはロー&ハイビームが独特な形状をしている。

ステップ
ステップ位置はかなり後退したバックステップ風味。フットペグはオフロードモデルっぽいメタルペグにラバーがはめ込まれている。クラッチ操作は軽く、ミッションの入りも適切、こういったインターフェイスも良好。
メーター
メーター右にはUSBソケットのポートが標準装備される。本国仕様にはメーターにビルトインされているナビが日本仕様では使えないため、ハンドルマウントの電子ガジェットの使い勝手がよくなる装備だ。

FTR Sport
ハンドル
右ハンドルスイッチにキル&セル、画面メーター表示の切り替え、左ハンドルスイッチに画面切り替え、モード切り替えやウィンカー、ホーン、ライトディマースイッチ。ボタンの操作節度は今ひとつだった。

メーター
タッチスクリーン式のデジタルメーターの多機能さは世界最高峰のもの。走行画面が2種類、気温やライディングタイム、各種設定を呼び出すことができる。ナビモードは地図を表示せず、進行方向を方角+角度で表示。

Indian_FTR SportP
Indian_FTR SportP
●Indian FTR Sport 主要諸元
■エンジン種類:水冷4ストロークOHV V型2気筒 ■総排気量:1203cc ■ボア×ストローク:102.0×73.6mm ■圧縮比:12.5 ■最高出力:– ■最大トルク:118N・m/6000rpm■全長×全幅×全高:2223×830×1297mm ■軸間距離:1524mm ■シート高:780mm ■車両重量:223kg ■燃料タンク容量:12.9L ■変速機形式:6段リターン ■ブレーキ形式(前・後):ダブルディスク・シングルディスク■タイヤ(前・後):120/70ZR17 58W・180/55ZR17 73W ■車体色:ブラックメタリック、ホワイトライトニング×インディレッド ■メーカー希望小売価格(消費税込み):2,788.000円~

[『2020年型 Indian Motorcycle FTR1200 試乗インプレッション記事』へ]

[『2023年型 Indian Motorcycle SPORT CHEEF 試乗インプレッション記事』へ]

[インディアンモーターサイクルのウエブサイトへ]

2023/08/18掲載