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試乗・解説

インディアンといえば、ハーレーに次ぐアメリカンクルーザーのイメージがある。
けれどもうひとつの顔が、ダートトラック・コンペティター!
2017年から、アメリカン・フラットトラックに復帰したインディアンが
ついに市販モデルに、そのDNAを投下してみせたのだ!
■試乗・文:中村浩史 ■撮影:島村栄二  ■協力:インディアンモーターサイクル https://www.indianmotorcycle.co.jp/

 

インディアンといえば、アメリカが誇る、ハーレーと並び立つ老舗メーカー……。

 と実は、私がインディアンについて知っているのは、ほとんどそんなところ。アメリカの古参バイクメーカーといえば、1903年創業といわれるハーレー・ダビッドソン。けれどインディアンはそれより2年だけスタートが早くて、1901年誕生なんだぜ、とかなんとか数少ないうんちくを語ったこともありました。
 けれど、そのインディアンは1950年代に生産を終了。その後は、世界中の栄枯盛衰の常で、インディアンというブランドがあちこちの手に渡ったり、OEMモデルが作られたり、アパレルが発売されたり。トライアンフがそうだよね。イギリスの名門メーカーであるトライアンフは、1970年代後半に操業を停止してしまい、現在のトライアンフは1990年にリスタートした、昔のトライアンフとは全く別の会社だものね。
 
 そのインディアン、バイクメーカーとしての復活は、2000年頃のこと。けれど、その新生インディアンも経営が破綻し、インディアンブランドをイギリス企業が取得することになります。そして、2011年にそのブランドを取得したのがポラリスインダストリー。これが現在に続く「新生」インディアンなんですね。
 新たなモデルラインアップは、チーフ・クラシックにヴィンテージ、チーフテイン。インディアンのモデルといえば、誤解を恐れずに言えば「ハーレーみたいなやつ」。いわゆるアメリカンスタイル(ってアメリカンバイクなんだから当たり前だ・笑)で、低いシート高とロングホイールベースのクルーザー。新生インディアンもまさにこのラインで、一般のバイク好き以外の認知度ってそんなものでしょうね。私の知識もそんなものです。
 けれど、インディアンにはもうひとつの顔があります。それが、レーシング・モーターサイクルとしてのブランド。アメリカの由緒あるレースのひとつである「デイトナ200マイル」の第1回大会を勝ったのが、まさにインディアン! デイトナ200の最初の10年で3度も優勝しているレーシングブランドなんです。バート・マンロウの伝記的映画も『世界最速のインディアン』だったしね。
 
 もちろん、新生インディアンもレーシングブランドを強く意識していて、2016年には、アメリカのフラットトラック選手権への参戦を発表。その時にお披露目されたのがFTR750、つまり今回のFTR1200の元となったモデルなのです。
 そのFTR750は、2017年デビューで、その初年度からシリーズチャンピオンを獲得! 18年も連覇して、フラットトラックにインディアンあり、を強烈に印象づけました。一方で、かつてスズキファクトリーチームでスーパークロスを走っていた、トラビス・パストラーナがラスベガスのシーザースパレスの噴水を大ジャンプで飛び越えたり、いろいろと話題を提供してくれるブランドなのです。トラビスの大ジャンプは動画サイトで「travis pastrana las vegas jump」とでも検索すれば出てくるはずです。
 

ライディングポジションはちょうどネイキッドモデルに乗っているような感じ

 FTR1200、日本初登場は19年春のモーターサイクルショー。もう、ひとことカッコよすぎる! フラットトラックチャンピオンマシンそっくりのスタイリングで、トラスフレームいっぱいに水冷Vツインがびっしり威張ってる! 車体のセンターでエンジンが存在を主張していて、タンク~シートの外装パーツがちょこん。もちろん、200kgを超えるビッグバイクをダートトラックで走らせることなんか、世界中でもひと握りの人しかできないだろうから、これはストリートスポーツ! フラットトラックチャンピオンマシンレプリカのストリートバイクなんです。
 エンジンは、スカウトシリーズの1133cc水冷Vツインをボアアップ、1203ccにしたもので、その中身はほとんど新設計。クルーザーのスカウトシリーズとFTRのイメージは大きく違うから、より元気なエンジン特性としているのでしょう。
 
 現行インディアンは以前、スカウトに試乗させてもらったことがあります。私はもともと、クルーザー系にはあまり縁がなくて、ハーレーダビッドソンにすら、ほとんど試乗経験がないんだけれど、アメリカンスタイルのクルーザーに持たれがちなイメージをことごとく裏切ってくれた──それがインディアン・スカウトでした。
 まずは1133ccの水冷Vツインのパワフルなこと! 低回転からドンとくるトルクがあって、回転が軽やかで、スロットルへのツキもシャープ。高回転まで回るようなキャラクターではなかったけれど、ハーレーVツインにはない、シャキシャキした乗り味だったのを覚えています。
 ハンドリングもシャキッとした剛性感の高いもので、実が詰まっている、つまりマスの集中化が図られた、現代風の車体構成。今では、いくぶん現代的になっているハーレーのおおらかさ、いい意味でのダルさがない、ハーレーと違う位置にいるアメリカンブランドということはハッキリ体感できました。
 ロー&ロングなスタイルなのはクルーザーの定番、それでもスカウトは新しさがあってクラシックさとは違うメカメカしさもあって、これはこれでハーレーと対局にあるクルーザーなんだな。と。もちろん、インディアンにもクラシックラインやキングツアラー系もあるんだけれど、インディアンのキモはそこなんだな、と思ったわけです。
 
 そこで試乗したFTR1200。サイクルショーで見た、あのカッコいいトラッカースタイルは実物もホントにいかしてる! 「カッコいい」なんて主観的なものだから、個人によって違うものなんだけれど、これは普遍的にカッコいい! 誰に聞いたって「あの新しいインディアン、カッコいいよねぇ」と。このFTR1200で、新生インディアンのことを知ったって人、多いんじゃないかなぁ。
 車格もリッパ、エンジンがびっしり威張っているムードがぷんぷんで、シート高は840mm。それでも車体はスリムで、手に負えない感は少ない。ライディングポジションは、トラッカースタイルらしくハンドルがアップで、シート高の分ステップは高い。ちょうどネイキッドモデルに乗っているような感じ。むしろハンドル切れ角も大きいから、ちょうどドゥカティ・スクランブラーシリーズの感じでした。
 

ずっしりした安定感と軽快感が同居しているようなフィーリング

 走り出すと、スカウトに感じた低回転からのトルクが健在。ドンと押されるというより、きれいにトルクが出ていて、スムーズ&マイルド。スロットルを開けた分だけバイクが前に出る感じ。フリクションなくクラッチのつながりもきれいで、まるで国産車! もちろんこれはホメ言葉で、外国車特有のクセや主張がほとんど感じられない、すごく好ましいフィーリング!
 まるでスマホ画面のようなLEDメーターを見ながら走ると、意識せずに自然に走っている回転域は3000~4000rpm。このあたりの回転域のトルク感が気持ちよくて、ひとつのギアを引っ張っても、早めにシフトアップしても破綻がなく、回転の伸びが頭打ちしたり、振動が出たり、ノッキングでガクガクガチャガチャ回るノイズもない。すごくよくできたエンジン! ちなみに6速で2000rpmくらいまで回転を落としてみたけれど、スムーズに走ることができました。
 
 この時のハンドリングも、特にフロントフォークの動きがよくて乗り心地がいい。どんなスピード域でも、ユサユサと節度のない動きが感じられず、ピシッとした剛性感が感じられる。うわぁ、よくできてる──これが第一印象でした。
 高速道路に乗り入れても、今度は車重がうまく安定性に役立っていて、これもまた乗り心地がいい。決して軽快にレーンチェンジをこなせるハンドリングではないけれど、重すぎない安定感で、クルージングが気持ちいい。
 トップ6速での100km/hは4200rpmあたり。ガツンとスロットルを開けてみると7000rpmあたりから振動が出始めるけれど、そこまで回さなくてもじゅうぶんトルクが出ていて、パワーもある。4~5000rpmあたりでの振動はほとんど感じられず、トルクの鼓動が感じられて、一定スピードですごく楽しい! うわぁ、これはいいね!
 
 ワインディングも踏み入れてみたけれど、フロント19、リア18インチというクラシックなホイールサイズなりの、すごく素直なフィーリング。グイグイ曲がっていくわけじゃない、曲げたいだけ曲がるようなキャラクターで、これも過激すぎないビッグネイキッドによく似ている。CB1300SFというよりXJR1300のような、ずっしりした安定感と軽快感が同居しているようなフィーリングでした。細かいクネクネした峠道よりは、大らかなアールの大きいコーナーが気持ちいい。総じて、サスペンションストロークがたっぷりあって、乗り心地が破綻しない、やっぱりFTRは上質なストリートバイクなんです。
 少し気になったのは、エンジン発熱の大きさで、これは真夏だとちょっと内ももが大変かな、ってレベル。もっともこれは、試乗車のコンディションにも左右されるようで、走行距離が伸びてアタリが出てきたら収まるもののようです。もし購入するなら、納車は冬がイイね(笑)。
 
 新生インディアン初のロードスポーツは、充分に合格点があげられる完成度でした。スタイリッシュで近距離も長距離もこなせて、街によく似合う。もちろん、イッキに500~600kmを走るような用途ではスカウトやチーフといったトラディショナルなクルーザーの方が快適だろうけれど、カッコつけて街乗りしたい……そんなバイクでした!
 
(試乗・文:中村浩史)
 

 

ライダーの身長は178cm。(※写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます)

 

スカウトの挟角60度の水冷Vツインをベースに、ボアを3mm拡大した1203ccの水冷Vツイン。スカウトから圧縮比を高め、軽量クランクを採用、フューエルインジェクションはデュアルインジェクターとなっている。ほぼ新設計のエンジンだが、特に振動のなさ、クラッチつながりのスムーズさや吹け上がりのシャープさはまるで国産車なみの完成度の高さ。それでいてビッグトルクの押し出しやドコドコ感も感じられるエンジン特性で、手に負えない感のないパワフルさだった。

 

倒立フォークとブレンボφ320mmローター+ブレンボラジアルマウントキャリパーというスーパースポーツなみのフロントまわり。タイヤはダンロップとの共同開発の専用タイヤDT-3。ブロックパターンだが、舗装路でもグリップ力は高い。
リアブレーキはφ260mmローター+ブレンボ対向2ピストンキャリパー。タイヤサイズは前19/後18インチで、リアブレーキを積極的に使うとコーナリングもブレーキングも安定していた。ABSは標準装備で、1200sはキャンセル可能。

 

スイングアームは鋼管トラス構造のスチール製。ナンバーステーはスイングアームマウントで、1200sは赤スプリングとゴールドのリザーバータンクを持つフルアジャスタブルリアショックを右サイドマウントにリンクなしレイダウンマウント。

 

上面にオーナメントプレートを装着したフューエルタンクは13L容量。ただしタンク本体はシート下にレイアウトされていて、この位置の給油口では流入通路が細く、給油口からシート方向へ斜めになっていて、ガソリン入れるのがひと苦労。
フューエルキャップはキー開閉の取り外し式。給油の時は、この給油口から写真右ナナメ下方向に向かってノズルを入れなければならず、しかも通路も狭いため、給油しづらさが大問題。カッコいいからいいや、とあきらめが肝心ですね。

 

シートはトラッカー風のテールカウルなし段付きシート。フラットトラッカーレプリカといえば、ゼッケンプレートなしでもこんなにトラッカーテイストを表現できている。シートは硬めで前後への着座位置の自由度はそう高くない。
試乗した1200sはアクラポビッチ製サイレンサーを装備。マフラーは右2本出しで、スタンダードの1200は異形4角断面のブラックサイレンサー。ハネ上がった角度もレーシングマシンっぽい。サウンドは大きすぎない音量の歯切れいいタイプ。

 

ヘッドライトはご覧の丸ケースの異形インナーランプ。ロービームで上のタテ3列ランプが、ハイビームで下の3つ目ともども全点灯する。ヘッドライト、ウィンカーやテールランプなど、灯火類はすべてLEDを採用。これも新しい。

 

センター部の太いアルミパイプハンドルは、絶妙な高さと形状。センターの液晶はナビではなくメーターで、右ボタンはワンプッシュセルモーター、左スイッチに各種制御スイッチが配置される。グリップラバーすらデザイン性が高い。

 

1200はアナログ、写真の1200sは4.3インチのタッチパネル式液晶メーターを採用。スポーツ/STD/レインの3種ライディングモードに、クルーズコントロール、トラクションコントロールにアンチウィリー、オフ可能なABSを標準装備する。

 

●Indian FTR1200 主要諸元
■水冷V型2気筒エンジン、排気量:1,203cc、ボア×ストローク:102×73.6mm、圧縮比:12.5、燃料供給:クローズドループ燃料注入、60mmボア、最大トルク:120Nm/6,000rpm 、ミッション:6速 ■長さ×幅×高さ:2287×850×1297mm、シート高:805/840mm、ホイールベース:1,524mm、車両重量:225㎏、燃料容量:13.0リットル ■サスペンション:前・反転式テレスコピックカートリッジフォーク、後・モノチューブIFP、ブレーキ:前・φ320mmデュアルローター、4ピストンキャリパー、後・φ265mmシングルローター、2ピストンキャリパー、タイヤ:前・120/70R19 60V、後・150/70R18 70V ■メーカー希望小売価格:1,899,000円~


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2020/01/15掲載