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試乗・解説

優しくてチカラ持ちな オーセンティッククルーザー Royal Enfield SuperMeteor650
■試乗・文:河野正士 ■撮影:長谷川徹、ロイヤルエンフィールド ■協力:ロイヤルエンフィールド東京ショールーム https://www.royalenfield-tokyoshowroom.jp/







 ロイヤルエンフィールド(以下RE)がクルーザーを造る理由はどこにあるのか。昨年11月に開催されたEICMA2022で「スーパーメテオ650」が世界初公開されたときに、そう考えていた。2017年のEICMAでREは、それまでの単気筒エンジンを中心としたラインナップから脱却。排気量650ccの並列2気筒という新型エンジンを開発し、さらにはそのエンジンを搭載するためのダブルクレードルフレームを造り込み、大型バイクカテゴリーに打って出た。そしてカフェレーサースタイルの「コンチネンタルGT650」と、アップハンドルを採用したネイキッドスタイルの「INT650」は、メディアからも市場からも高い評価を得た。
 イギリスに起源を持ち、インドという巨大な二輪市場に成長した国で育ったバイクブランドに、なぜクルーザーが必要なのか。今回、EICMA2022の会場でRE開発者に話を聞き、またインド北西部の街/ラージャスタン近郊で開催された「スーパーメテオ650」の国際試乗会に参加して実際に走らせたことで、その理由を深く理解することができた。そのうえで「スーパーメテオ650」が、いまの日本市場に対してフィットするバイクであるという結論に至った。ここでは、そう感じた理由について説明したいと思う。

 
 まず、なぜREがクルーザーモデルをラインナップするのか。彼らの歴史を知らなかった筆者は、その歴史を紐解くと、REは、なぜ新クルーザーファミリーである“メテオ・シリーズ”を再編し、満を持して大排気量クルーザーである「スーパーメテオ650」をラインナップしたかがよく分かる。
 REが初めてツーリングモデルを造ったのは1952年。それが排気量700ccの並列2気筒エンジンを搭載した「Meteor/メテオ」だ。それはフレームマウントのサイドパニアケースやトップケースも装備する本格的ツアラーだった。そして1955年には新型フレームを採用した発展モデル「Super Meteor/スーパーメテオ」も発表している。
 

 
 そのスーパーメテオをベースに、アメリカ市場でのシェア拡大を目指して開発されたのが、1955年発表の「TRAILBLAZER700/トレイルブレーザー」だ。それは長距離走行に適したトルクフルなエンジン特性を持ち、高く、幅広のハンドルとローシートを採用。それにレイバックしたライディングポジションなど、現在クルーザーと呼ばれるバイクの要素がすでに備わっていたのである。

 またインドにおいては、1996年にインド初のクルーザーモデルである「City Bike/シティバイク」を発表。排気量500ccの単気筒エンジンを搭載した「バレット500」をベースに、フロント周りのアライメントやフォークを変更。美しいティアドロップ型燃料タンクに高く幅広なハンドル、スカロップシートと呼ばれる段付きシートを採用していた。そしてすぐに排気量535ccに拡大した「Lightning535/ライトニング」を発売。より大きな排気量のエンジンでツーリングを楽しむ、そんなクルーザーの世界を提案した。
 そのライトニングの後を継いだのが、オーストリアの自動車コンサルティング会社AVLと共同開発した、アルミシリンダー採用の350cc単気筒エンジン搭載の「Thunderbird 350AVL/サンダーバード」から始まったサンダーバード・シリーズだ。移動手段としてバイクが確立されたインドで芽生えた、ライディングを純粋に楽しむという新しいバイクとのライフスタイルにもフィット。またインドで誕生した新しいバイククラブのシーンとも、サンダーバードを中心としたクルーザーモデルは親和性が高く、新しいバイクコミュニティを造り上げていった。
 

Lightning535
UCE(ユニット・コンストラクション・エンジン)採用のThunderbird 350

 

Meteor350

 
 そして2008年に、現在REがラインナップする「クラシック350」や「メテオ350」が搭載する排気量350cc単気筒エンジンに通じる、エンジンとギアボックスを一体化し、OHVからOHCへとバルブ駆動システムもアップデートした新型UCE(ユニット・コンストラクション・エンジン)採用の「Thunderbird 350」を、そして2012年には排気量を拡大した「Thunderbird 500」を発表。両排気量モデルともに最高速が伸び、高速道路を含めた長距離走行での快適性も向上。それによってインドでのクルーザーコミュニティも成長した。

 2020年に「Meteor350/メテオ」が登場し、REクルーザーファミリーのバトンは、メテオ・シリーズに引き継がれた。メテオが目指したのは、技術的にもデザイン的にも、完成度が高く洗練されたバイク。そして初心者からベテランまで、市街地から高速道路やワインディングまでも楽しめる、ロードスターのようなハンドリングを持つクルーザーだった。またメテオ350の開発がスタートしたときから、サンダーバードが350と500をラインナップしたように、より排気量の大きなクルーザーモデルの開発は必須だと考えていた。それが「スーパーメテオ650」だったというわけだ。

 その「スーパーメテオ650」の開発にあたってREが目指したのは、REのデザインマネージャー/車両設計の責任者であるマーク・ウェルズの言葉を借りると、「クルーザーのエッセンスを凝縮したようなオーセンティックなクルーザーだ」ということだ。街や山や海辺には、温度や湿度やニオイが違う空気の層が幾重にも重りあっていて、そんな彩り豊かな景色と空気を感じられるのはバイクだけだ。そして長距離を走るクルーザーでの走りは、そんな体験に溢れている。その景色と一体になる感覚こそが、クルージングの醍醐味だ。だから「スーパーメテオ650」の開発のコンセプトは簡単。典型的なクルーザーを造ること。しかしREのバイクである以上、アクセシブル(気軽にアプローチできて手軽であること)でなければならない。乗りやすく、コーナリングが楽しく、ブレーキもコントロール性に優れ、Uターンも容易。それにスタイリッシュでなくてはならない。そうやって完成したのが「スーパーメテオ650」だ、と。
 

デザインマネージャー/車両設計の責任者であるマーク・ウェルズ

 
 その“クルーザーらしさ”は、大きくなった車体とライディングポジションにある。エンジンは、コンチネンタルGT650やINT650と同じ、排気量648ccの空冷並列2気筒OHCながら、そのツインエンジンを搭載した先の2モデルに比べホイールベースは約10cm長くなり、車重も30kgほど重くなっている。「スーパーメテオ650」用に開発したバックボーンタイプの新型フレームによって、車体はロー&ロングに設計されているが、REの主要マーケットであるインドではクルーザー人気が高く、しかしクルーザー=大きくて重いバイクを実現するために、そのような車体構成になっているのだという。要するにクルーザーにとって、大きいことは良いこと、なのだ。

 それでいて、マーク・ウェルズが語ったように、「スーパーメテオ650」はアクセシビリティに優れている。見慣れた2気筒エンジンながら、新型フレームに合わせて吸排気系を変更したこと、またECUのプログラムを変更して中低回転域でのトルク特性を見直し、より低いエンジン回転域からでも車体を前に押し出すトルク特性が与えられている。「スーパーメテオ650」を走らせると、その力強さに“ほんとにコンチネンタルGT650やINT650と同じエンジンなの!?”と思うほどだ。そして大きくて重くなった「スーパーメテオ650」の車体は、それを感じることなく、街中でも高速道路でも、キビキビと走る。さらには、270度クランクを採用していながら、並列2気筒エンジン特有の滑らかなエンジンの回転上昇が合わさって、アクセルを開けやすい。
 

 
 そのアクセシビリティには、新しいフレームによって実現した、低重心化とマスの集中も大きく影響を及ぼしている。「スーパーメテオ650」はスチールチューブラー・スパインフレームと呼ばれるバックボーンフレームを採用している。それは背骨のように前後に伸びるメインレームがエンジンを吊り下げるようにマウントする。それによって、コンチネンタルGT650やINT650が採用するダブルクレードルフレームのようにエンジン下側にフレームが通らず、そのぶんだけエンジンを低く搭載できるのだ。同時にシート高を低い位置に設定することもできる。それによって低重心化が実現しているのだ。
 

 
 低回転から力強く、滑らかな回転上昇が特徴のエンジンと低重心な車体を組み合わせた「スーパーメテオ650」を走らせると、大きく重くなった車体のことを忘れてしまうほどキビキビ走る。その反応こそが、車体を軽く感じさせる要因だ。そして650ccという排気量は、クルーザーとしては大排気量にカテゴリーされるエンジンではないが、街中でも高速道路でも、そんなことを一切感じない。「スーパーメテオ650」は、フューエルインジェクションとABS以外の電子制御技術を採用しておらず、それは主にエンジンや車体の基本設計を突き詰めることで、この走りのパフォーマンスを作り上げている。
 

 
 その造りの良いバイクは、世界的に販売が伸びている小排気量モデルからのステップアップを考えているライダーや、最新テクノロジー満載の大型アドベンチャーモデルやスーパースポーツモデルに疲れて乗り替えを考えているライダーに、何の注釈もなく薦められる。そしてそんな迷えるライダーたちが多数いる日本市場に、「スーパーメテオ650」はピッタリとフィットするだろう。

 もちろん自分のように“クルーザーとは◎◎だ”的な固定概念を持っているライダーは、それを捨て去ってもらわなければならないだろう。でもまぁ、「スーパーメテオ650」に乗れば、その固定概念もすぐに消え去ってしまうはずだ。
(試乗・文:河野正士、撮影:長谷川徹、ロイヤルエンフィールド)
 

 

ライダーは身長170cm、体重65kg。

 

大型スクリーンと、肉厚なダブルシート&バックレスト&グラブバーを装備した「スーパーメテオ650ツアラー」。スタンダードの「スーパーメテオ650」との相違点は、上記4点のアイテムのみで、エンジンや足周りなど、その他すべてのアイテムは共通だ。

 

大型スクリーンはライダーやパッセンジャーを走行風から守り、長距離走行での負担を軽減。スクリーン中央に、居住空間の風圧をコントロールするためのエアダクトを持つ。
肉厚なシートフォームをチョイスした一体型ダブルシートを採用。バックレストの威力は絶大で、タンデムで試乗会に同行したパッセンジャーが、その形状や効果を大絶賛していた。

 

スタンダードモデル「スーパーメテオ650」。クルーザーにカテゴリーされるが、サイドシルエットを見ると適度なリア下がりで、ネイキッドモデルのようにも見える。

 

エンジンは、排気量648ccの空冷並列2気筒OHC。専用開発されたフレームに吊り下げられるように搭載。シリンダーヘッド前側にエンジンマウントを追加し、剛性バランスを整えている。そのフレーム形状に合わせ、エアクリーナーボックスの容量や形状、排気系も専用設計されている。
RE初のLEDヘッドライトとテールライトを採用。ともに、あえてクラシカルなデザインを採用している。幅広いハンドルに、新たにデザインしたスイッチボックスや調整機構付クラッチ&ブレーキレバーをセット。クラシカルなデザインながら、高い機能性が与えられている。

 

RE初の倒立フォークを採用したフロント周り。19インチホイールを支えるのはSHOWA製SFF-BP(セルフ・ファンクション・フロントフォーク-ビッグ・ピストン)だ。ブレンボのセカンドブランド/BYBRE(バイブレ)製ブレーキキャリパーをシングルでセット。タイヤはインドのタイヤブランド/CEAT(シアット)と共同開発した専用設計タイヤを装着。
リアショックもSHOWA製。5段階のプリロード調整機能付。リアブレーキは、クルーザーモデルらしい、300mm径の大径シングルディスクを採用している。2本出しサイレンサーは可能な限り車体に近づけてセット。マスの集中化とバンク角を確保する。

 
 

スーパーメテオ650のシートは、ライダーシートとタンデムシートが分かれるセパレート式。650ツアラー同様、シート面圧を測定し、快適性と操作性に適したシートフォームのチョイスや座面デザインが行われている。
容量15.7リットルの燃料タンクは、クルーザーらしい滑らかなボディラインを強調するティアドロップ型。その両サイドには、新たにデザインしたREの立体エンブレムをセットしている。

 
●Royal Enfield Super Meteor650 SPECIFICATIONS
■エンジン形式:空冷4ストロークOHC4バルブ並列2気筒 ■総排気量:648㏄ ■ボア×ストローク:78.0mm×67.8mm ■圧縮比:9.5:1 ■最高出力:34.6kW(47PS)/7250rpm ■最大トルク:52.3Nm/5650rpm ■全長×全幅×全高:2260×890(ハンドル両端)×1155mm ■軸間距離:1500mm ■ボア×ストローク:78.0mm×67.8mm ■シート高:740㎜ ■車両重量:241㎏ ■燃料供給方式:FI ■燃料タンク容量:15.7L ■レイク角:27.6度 ■トレール:118.5mm ■フレーム:スティールチューブラースパインフレーム ■サスペンション(前・後):SHOWA製SFF-BP43mm倒立タイプ/120mmストローク・SHOWA製ツインショック/プリロード5段階調整&101mmストローク ■変速機形式:6段リターン ■ブレーキ形式(前・後):320mmシングルディスク×ツインピストンキャリパー・300mmシングルディスク×ツインピストンキャリパー ■タイヤサイズ(前・後):100/90-19M/C57H・150/80B16M/C71H ■価格:未定

 

 
 

 

 



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2023/02/10掲載