「最初にね、ナナハン見た時の驚き、それは誰がこんなバケモンみたいにでかいバイクに乗るんだ、というね……。だからBIG-1もあえて大きく感じるようなスタイルにしました。でも乗りにくかったらしょうがない。大きさを感じるが乗りやすい。このバランスは拘りました」
“PROJECT BIG-1コンセプト”に基づいて造られたCB1000SFの開発責任者を務めたホンダの名物エンジニアはそんなストーリーを語ってくれた。実際、その言葉どおり。見ても跨がっても視覚的に燃料タンクのサイズは驚くばかりだったし、水冷エンジンの存在感も空冷4発を上回る迫力だった。
23リットルも飲み込む燃料タンク、イメージするとぱっと浮かぶ白/赤2トーンの塗り分けも、カッコ良さ、存在感などどれをとっても抜群なCB1100Rの姿がちらつくように思えた。
そのイメージは現行型のCB1300SFも同一線上にあり、不変。CB750FOURを見た驚き、こんなデカイものだれが乗るんだい? という清々しいまでの憧憬がじんわり出てくるところまでも同じだ。不思議だけど、何度見てもその印象が沸いてくる。さすがに、初めてCB1000SFを見た時ほどは大きさに対しては耐性はついたが、266㎏の車重、1284㏄という排気量を持つエンジン。その4気筒が生み出す83kW(113ps)、112N.mという塊感のある力。
最高速やエンジンスペックは、いつか破られる。そんな数値ではなく、CB1300SFという普遍性をつくるこのバイクを構成する全てのパーツ、素材の一つ、DNAのようなものすら思えるのだ。
最新型は最強スペック。
と、言いつつも、スペック面を含めて振り返ると意外な事実も。進化を続けるCB1300SFだが、ザックリ現行型になったのが2003年。3代目のBIG-1として登場した時のトピックは、エンジン、車体で大幅な軽量化を図り、車体も少しコンパクト化。その点で大きさ、重さ、でも乗りやすさでビッグマシンを表現するよりも、よりストレートに乗りやすいビッグバイクを目指したと表現できる。
その基本があったからこそ、2022年まで細部を煮つめ、環境規制に適応しながらこのクラスのポピュラーアイテムとして存在し続けているのだろう。ちなみにこのクラスのライバル達は、早ければ2009年頃、その次にはユーロ4相当の環境規制が始まる前、2017シーズンで引退をしているため、CB1300シリーズとCB1100シリーズが残された唯一のトラッド系ビッグネイキッドだった。そして今ではCB1300シリーズだけが残ることになった。
そんな現行CB1300SFの進化を振り返ると……。
●2003年、デビュー。74kW(100)/7000rpm 117N.m/5500rpm
●2005年にSUPER BOL D’OR追加。駆動系のアップデート、PGM-FI、点火系の煮つめで扱いやすさを高める。これに乗った時、筆者は「煮つめとはなんぞや」を見事なまでに体験学習した。
●2014年、トランスミッションを5速から6速へ。SUPER BOL D’ ORにLEDヘッドライトやアップライトなポジションのハンドルバーを採用、10本スポークホイール採用。74kW(101)7000rpm 115N.m/5500rpm。マフラー小型化、スリム化したサイドカバー、オプションのパニアケース、トップケースを取り付けることを前提にシートフレームを強化。フレーム全体の剛性バランスを見直し。ABSは全車標準装備化、60km/h定地走行テスト値で25km/lから26.3km/lに向上。
●2017年秋、ユーロ4相当の環境規制適合に。アシスト&スリッパークラッチを装備、CB1300SFもLED丸型ヘッドライト装備、ウインカーをLED化、ETC、グリップヒーターを標準装備、シート下にアクセサリーソケット装備、ホイールのエアバルブをアルミ製L字型に。ウェーブキー採用。スペックが81kW(110)/7250rpm 118N.m/5500rpmと進捗。PROJECT BIG-1は25周年を迎える。
●2018年、前後にオーリンズ社と協同開発したサスペンション、ブレンボ製のモノブロック対向4ピストンキャリパーを備えたSPモデルが登場。この年からETC2.0を装備する。
●2021年、スロットルバイワイヤーを採用。それにより、ライディングモードの追加、HSTCの搭載、クルーズコントロールの装備、クイックシフターのオプション設定など現行型へとスイッチ。ユーロ5相当の環境規制への先行装備とも言えるもの。スペックは歴代最強の馬力となる83kW(113)7750rpm、112N.m/6250rpmとなる。それでいて、60km/h定地走行値の燃費は28km/lまで向上。
トピックの中でも大きめの仕様変更などを追いかけてもこれだけあった。バイクのキャラクターがそっち寄せではないのであまり意識していなかったが、確かにCB1300SFは時代とともにパワフルになってきているのが解った。もちろん、燃費が伸びているのにも驚いた。
走りはビッグバイク風味が強まった!?
見慣れた、とはいえその体躯はビッグバイクというのに相応しい。大きな燃料タンク、ダブルクレードルフレームに囲まれたエンジンも、そこにあるだけで大排気量を主張する。
跨がって車体を起こすだけでその重厚感に思わずニンマリする。重いけどそこまで重たくない。絶妙な位置にエンジンがあるからだろう。そのエンジンを掛けると、歴代CB1300SFで文句なしに一番4気筒集合マフラーらしい音と排気を放出する圧まで伝えてくる。
整っていながらどこかワイルド。迷わずローにいれて発進する。クラッチが軽い。軽いのは嬉しい。もともと神経質なところはないし、低速トルクの王者のようにモリモリした力があるエンジンだ。重たい車体と体重85㎏のライダーをあっさりと動かす力量にまずは心が満たされる。これこれ、大排気量並列4気筒、いや、CB1300SFだ、これが。
2000rpm程度でシフトアップしても加速感がしっかりある。4気筒らしい滑らかさ、それにスパイスをまぶすような排気音。たまらない。むしろ高いギア、低い回転からアクセルを捻り、後輪が路面を蹴り出しながら増速する様を楽しむ、これが最高に気持ちが良いのだ。
走りの中で感じることが一つ。ここ最近のモデルは以前のCB1300SFが持っていたライダーとバイクが一体となって走るスタイルはネイキッドだけどスポーツバイクらしい所作という点の味わいが変化したと思っている。
例えば交差点を曲がる時。バイクを寝かすとそれに呼応してスっとフロントがレスポンスして曲がり出す。前輪の描く線がまるでコンパスで描いたような切り取った円であれ、雲形定規で描いた小さな曲率から大きな曲率へ、その逆も自由自在だった。
その曲がる瞬間にギュっと身の詰まった旋回感が大好きだった。
そして、現行型はその曲がり方をあえて重厚かつマイルドな曲がり様になったように感じる。手応えを増やした味わい系ビッグバイク的乗り味とでも言おうか。
長い歴史を持つバイクだけに乗り味がトレンドに合わせて変化、進化するのは当たり前。だから前から長く乗っている人が現行型のCB1300SFに乗り換えたらきっと発見があると思う。
高速道路はクルーズコントロールが加わって快適さが大きくアップ。ネイキッドだけに120km/hあたりが快適クルージングの上限だろう。もちろん、腹筋を駆使すればその限りではないだろうが、6速80km/hから120km/hまで追い越し加速をするのが個人的には楽しい。まるで周囲が一斉に減速したように自分だけがワープする快感がある。
ワインディングでもちょっとタメのある旋回感は同じだが、重厚さをより楽しみながら走るのはCB1300SFならではの世界。エンジン、シャーシ、そしてそのパッケージの結論でもある266㎏の車重。そしてライダーが操ることで始まるハーモニーのようだ。しかもバランスが取りやすい。
嬉しいのは前後のサスペンションが持つ吸収性の良さで、その重みを乗り味に変換している。ここは一貫して不変の部分。ブレーキのパフォーマンスも同様。
前後にオーリンズのサスペンション、フロントブレーキキャリパーにブレンボのモノブロックを採用したSPモデルもあるが、あちらもチューニングとタッチ、感触の上質感の中にコントロール性の良さが拡大しているが、スタンダードモデルが持つチューニングもまったくの同一線上。クオリティーは高い。
排出ガス規制のうねり、嗜好の変化等々を乗り越えて進化・熟成されてきたCB1300SF。電動モビリティの世代がすでに始まり、Moto Eだってドゥカティがサプライヤーになり、テスト映像を見てもその本気度がうかがえる。またもや時代の波が遠くから確実に大きくやってくる。このバイクがどんなふうになるのか。トラッドなスタイルでありながら今なお魅力的なバイク。今後もしっかりと期待したい。
(試乗・文:松井 勉)
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