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試乗・解説

ちょうどイイよりちょっと上にある 人間とナナハンのいい関係 SUZUKI GSX-S750 ABS
かつては「ビッグバイク」の代名詞だった750cc。
けれど、1000ccはもちろん、1300ccも1400ccもある現在では
単なるミドルクラスになってしまったのだろうか。
度重なる規制強化でモデル数が減少している今
とうとうあのナナハンも生産終了という噂が……。
■試乗・文:中村浩史 ■撮影:富樫秀明 ■協力:SUZUKIhttps://www1.suzuki.co.jp/motor/ ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、クシタニ https://www.kushitani.co.jp/




バイクへの排出ガス規制、さらに加速

 2022年10月いっぱいを境に各メーカーの販売ラインアップ数が大幅に減ってしまう──そんなハナシを聞いたのは20年のことだったかな。それが「令和2年排出ガス規制」という国土交通省通達でした。
 ニューモデルに関しては令和2年(2020年)12月から適用されているこの新規制は、22年11月からは50ccモデルを除くすべての量産バイクに車載式故障自己診断装置(OBD2=オン・ボード・ダイアノスティクス2型)を搭載しなければならない、というものです。
 OBD2というのは、たとえばエンジンや電気系統に何らかの異常が発生した場合、異常の発生をライダーに知らせるシステムで、メーターなどにアラートランプが点灯。オーナーがディーラーに持ち込むと、スキャンツールを使用して異常の内容が簡単にわかるシステムのこと。
 でも実は、OBDというのは排出ガスのモニター機能を持たせるために開発されたもので、新規制に関しては、キャタライザーなどの「排出ガス発散防止装置」が故障や劣化した時にも監視・検知できるものとされていて、その排出ガスのセンサリングについては、新型車が2024年12月、すでに生産されているモデルに関しては2026年11月からの適用、と猶予を持たされています。

 カンタンに言うと、22年11月から、原付を除くすべてのバイクに、この故障自己診断装置の取り付けが義務になった、ということ。つまり、原付モデル以外はOBD2搭載のためのモデルチェンジが必須となり、作り直さなきゃいけない、値段も(ほとんどの場合)上がっちゃう、ということなんです。
 バイクに対する排出ガス規制って、「平成11年度二輪車排出ガス規制」という1998年から始まったものが最初で、ちょうどこの頃、たくさんの2ストロークエンジンが消滅していきましたよね。
 その後は「平成17年度二輪車・新排出ガス規制」に、次に「平成28年二輪車関係排出ガス規制」となって、国産モデルが次々と生産終了に追い込まれてしまいました。それがバイクへの排出ガス規制の歴史です。(参考文献:全国二輪車用品連合会)
 

 
 うわー、スズキがナナハンやめちゃうか――。どうやらGSX-S750 ABSが生産終了になりそうというニュースを聞いた時、それが正直な印象でした。
 これでスズキのラインアップから750ccモデルがなくなってしまいます。VストロームやSV650はあっても、750ccはナシ。カワサキはすでに650と800はあっても750はなく、ヤマハは700と900があって750はなし、ナナハンを世界に広めたといっていいホンダですら、ナナハンのラインアップはNC750XとX-ADVのみ。
 かつて、ホンダの創始者である本田宗一郎さんが、プロトタイプのCB750フォアを見て「こんなデカいの、誰が乗るんだ」と言ったとか、言わなかったとか。かつて、そういう究極の1台、憧れの対象だった「ナナハン」がなくなってしまうのです。

 スズキのナナハンといえば、初の4ストロークモデルである1976年式GS750。それまで「2ストのスズキ」と言われたメーカーの、世界へと飛び出すきっかけにもなった記念すべきモデルです。
 GS750はGSX750Eとなって、ナナハンカタナへ、そして3型カタナからE4へ。
 85年にはGSX-R750が発売されます。このモデルが世界的に大ヒット! ストリートはもちろん、世界各国の4ストロークレース人気を加速させたほどで、750ccスーパースポーツブームを創出、巻き起こしたほどでした。ちなみに私も、油冷時代のGSX-R750を3台乗り継ぎました。安くて軽くて速かったバイク!
 TT-F1世界選手権、スーパーバイク世界選手権(WSBK)と、初期の市販4ストロークマシンでのレースの主役だったGSX-R750も、徐々にライバル勢に力負けするようになり、WSBKが2003年にマシン規定を1000cc化したことでスズキの主力マシンもGSX-R1000にスイッチ。750は各メーカーとも、メインの舞台から徐々にフェードアウトしていくのでした。
 

 
 けれどスズキはGSX-R750生産を止めませんでした。1000/750/600の三兄弟構成として、1000と600はレースベース車としての需要があったからのラインアップだったはずですが、750はストリートスポーツとして生産を続けたんです。
 フルカウルのレーシングスタイルが時勢に合わないと見るや、11年にはネイキッドスポーツのGSR750を発表。油冷エンジンを搭載したGSF750の後継という意味合いも少なからずあったはずです。
 フルカウルのレーシングスタイルが時勢に合わないと見るや、11年にはネイキッドスポーツのGSR750を発表。油冷エンジンを搭載したGSF750の後継という意味合いも少なからずあったはずです。13年には国内販売も開始し、15年にはGSX-S750も発表。このあと、18年モデルを最後にGSX-R750の生産は終了します。
 17年春に国内に登場した現行のGSX-S750 ABSは、GSR750のマイナーチェンジモデルで、1000ccバージョンとネーミングの統一を図ったものです。GSX-R750の物をルーツとする並列4気筒モデルで、スチール製フレームに倒立フォークを採用したストリートスポーツ。GSR750からスタイリングにも手直しを受けていて、スタイリッシュでボリュームよくまとまっています。
 

 
 そのGSX-S750 ABS、ベタな言い方をしてしまえば、ついつい「600ccの車体サイズに1000ccクラスのエンジンを載せた」と形容したくなるほど、小さく、力があります。サイズ的に言うとGSX-S1000に対して全長は1cm長いものの、全幅は1cmスリムで全高が2.5cm低く、ホイールベースも4.5cm短く、車両重量は2kgだけ軽い。けれど、この数字以上に軽く小さく、短い印象があるんです。
 1000ccのような重厚さではなく、軽くシャープに吹けるエンジンは2000rpmから使えるトルクが、スロットルにダイレクトに反応します。1000ccのようにドンと来るトルクではなく、シュン、と燃え始めがきれいというか、きちんと0から50まで、という段階を踏んでトルクが取り出せます。1000ccだと0じゃなく20スタート、というイメージですね。アクセルの微開からトルクがドンとくる。
 そう回転を上げなくても力のあるGSX-Sは、3000rpmあたりを使って街を流すのが気持ちいい。とんとんとんと早めにシフトアップして低回転で街を流すようなシチュエーションが平和でいいんです。ちなみにトップギア6速で50km/hくらいで流していると2000rpmちょっと。唐突なパワーもなく、回転にフリクションのない、素性のいいエンジンだってことがよくわかります。
 ただし、ここからアクセルをカパッと開けるとGSX-Sは豹変します。タンクの下あたりからゴオォォォと吸気音を響かせて、目の覚めるダッシュを見せてくれます。それでも1000ccクラスのような「うわ、目がついていかない!」って恐怖のダッシュではなく、きちんと人間がコントロールできるくらいの力強さ。600ccよりも力強く、1000ccよりも手の内にあるようなパワーです。サウンドもいいね、きれいに澄んだインラインフォアの音です。一番力があるのは9000rpm以上あたり。この上の回転域はもう、飛び込み不要ですね。
 

 
 ワインディングに持ち込むと、今度は車体サイズのコントロール性に気づくことになります。流すようなスピードで走っていると、ライダーのコントロールに忠実な、ニュートラルな動きを見せ、ペースを上げてくるとちょっとずつキレが出てくるタイプ。車体を寝かせるときれいにフロントの舵角がついてくるかんじで、たとえばそれはスーパースポーツのようなおっかないキレ方じゃないんです。ちょうどいいより、ちょっと上──それがGSX-Sのハンドリング。
 もちろん、サーキットを速く走るならGSX-R1000Rの方が速いし、気持ちがいい。けれどワインディングをハイペースで流すような、きちんと限界があるようなシチュエーションでは、GSX-Sの方がリラックスして安心に走れます。これがストリートスポーツのいいところですね。
 

 
 高速道路に踏み入ると、街乗りで流すときの延長線上にあって、トップギア6速で80km/hは3500rpm、100km/hは4400rpm、120km/hは5300rpmくらい。この時の車体の落ち着きは申し分なく、フリクションを感じないエンジンの回り方が印象的です。
 どんなシチュエーションを走っていても、600ccのコンパクトさと1000ccの力強さを感じられる750cc。本田宗一郎さんが「こんなデカいの、誰が乗るんだ」と言ったというナナハンは、その言葉から50年以上が経って、現在の車体技術、エンジンの設計のおかげがあって、コントロールしやすいパワー、扱いやすいハンドリングを持つストリートスポーツに仕上がっています。

 ちょうどいい──ちょっとパワーありすぎるな、ともちょっと小さくて安定しないな、とも感じないGSX-S750 ABSは、人間の感覚にぴったりの1台なんだと思います。ヤマハの700もこんな感じですが、やっぱり4気筒っていいよなぁ、と再確認できました。
 このナナハン、なくなっちゃうの? 本当に惜しいなぁ。
(試乗・文:中村浩史)
 

 

ライダーの身長は178cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

 

GSRからホイールデザインが一新され、ディスクローターも真円からペタルディスクになり、ニッシン製キャリパーもラジアルマウントされた。フォークはφ41mm倒立でプリロードのみの調整が可能。

 

GSX-R750をベースとした水冷並列4気筒エンジン。発進時にエンジン回転数が落ち込むと、自動でアイドリング回転を上げてくれるローRPMアシストを装備。トラクションコントロールは1~3とオフの4段階で、エンジン始動はセルボタンひと押しでエンジン始動までセルモーターが回り続けるイージースタートを採用。

 

マフラーはGSR750同等だが、インラインフォアらしいきれいな澄んだサウンドが気持ちいい。リアタイヤサイズがGSX-S1000よりもワンサイズ細く、これが走りの軽快性を生んでいる。
スイングアームはスチール製の専用設計パーツ。ドリブンスプロケットはGSR比で1丁大きく、ギア比をショートに(ダッシュ型)に振っている。チェーン引き形状も専用設計として高精度としている。

 

リアサスはリンク式のモノショック。7段階のプリロード調整が可能で、スプリングはやや硬めの印象。プリロード調整はショック本体上部のアジャスターをフックレンチで調整する。
タンク容量は16L、タンク前半部分(写真の青い部分)のシュラウド下はエアボックスで、今回の試乗では実測燃費22~25km/Lで、300kmほどで給油の必要があった。

 

キーで取り外しできるタンデムシート部分。タンデムシート下はちょうどETC車載器が入るくらいのスペースがあり、車載工具、メンテナンスノートが収納されている。

 

外部ヘルメットホルダーはなく、タンデムシート裏のフックにストラップのDリングを留めて使用する。タンデムシート後端にはドローコードを使うときフックに使えるフラップが収納されている。

 
 

センター部が太いテーパーハンドルを採用。18年モデルからはスチールからアルミバーハンドルに変更されている。トラクションコントロールの調整、メーター表示の切り替えは左ハンドルスイッチで行なう。

 

ギアポジション表示つきデジタルメーターはオド&ツイントリップ、平均&瞬間燃費、残ガス走行可能距離を切り替えられる。メーターにある表示切替ボタンが左ハンドルスイッチと連動しているのは便利。
GSX-Sとなって形状に変更を受けたビキニカウル。フューエルタンク、シュラウドとラインが統一されてスタイリッシュになった。猛獣の牙をイメージしてデザインされたというポジションランプを採用。
最小限の面積でスタイリッシュに仕上げるラジエターシュラウド。ボディカラーは写真の青×黒のみ、前後ホイールに専用のリムストライプが採用されている(下の写真参照)。

 

●GSX-S750 ABS主要諸元
■エンジン種類:水冷4ストローク直列4気筒DOHC4バルブ ■排気量:749cm3■ボア×ストローク:72.0×46.0mm ■圧縮比:12.3 ■最高出力:83kW(112PS)/10,500rpm ■最大トルク:80N・m(8.2kgf-m)/9,000rpm ■全長×全幅×全高:2,125×785×1,055mm ■ホイールベース:1,455mm ■シート高:820mm ■車両重量:212kg ■燃料タンク容量:16リットル ■変速機形式:常時噛合式6段リターン■タイヤ(前・後):120/70ZR17MC・180/55ZR17MC ■ブレーキ(前・後):油圧ダブルディスク(ABS)・油圧式シングルディスク(ABS) ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:グラススパークルブラック×トリトンブルーメタリック、オールトグレーメタリックNo.3×グラススパークルブラック、マットブラックメタリックNo.2 ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):847,000円

 



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2022/06/10掲載