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試乗・解説

Kawasaki H2 SX SE カワサキの本気が帰ってきた
カワサキは緩急のつけ方が上手いというかなんというか……。「これはこんな人に売ろう!」というのが明確で、その想定されるライダー像に合わせた作り込みをするメーカーと感じることがある一方で、そういった意図的な商品とは関係なく「一番良いものを作ろう」となる時もある。最近ではZX-14Rがその後者だった。そして今、このスーパーチャージドニンジャである。文句のつけようがない。カワサキの本気を見る仕上がりである。
■試乗・文:ノア セレン ■撮影:赤松 孝 ■協力:Kawasaki https://www.kawasaki-motors.com/ ■協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、Alpinestars http://www.okada-corp.com/products/?category_name=alpinestars




複雑なネーミングをまず整理

 カワサキの、カウルが付いているリッタークラスのバイク群は、何だか色々あってよくわからないのは筆者だけではないと思うため少し整理したい。
 まずはWSBでジョナサン・レイが乗っている「ZX-10RR」 と「ZX-10R」、これはいわゆるスーパースポーツ。で、スポーツツアラーである通常の「ニンジャ1000SX」。スーパーチャージャーがついた凄いヤツが、公道走行できない「ニンジャH2R」で、それの公道仕様が「ニンジャH2カーボン」。この他にやはりリッタークラスでアドベンチャーツアラー的な「ヴェルシス1000SE」というのがあって、そしてさらに、スーパーチャージャー付のツアラー「ニンジャH2 SX」というのがあるのだが、その中でもさらに電子制御サスがついた「ニンジャH2 SX SE」というのが今回乗ったモデルだ。いやあ、「ニンジャ」の大盤振る舞い! また「ニンジャH2 SX SE」って、アルファベット多すぎやしないか!?
 さらにことを複雑にするのがこの「ニンジャH2 SX SE」の立ち位置。スーパーチャージャーならH2カーボンがあって、ツアラーならスーパーチャージャーが付いていない通常版のニンジャSXがある。じゃコレはナニ? スーパーチャージャー付のツアラーってこと? となってしまう人がいても全く不思議じゃない。……答えを書いておこう、これはZX-14Rの後継だと捉えて下さい! 排気量こそ1000ccではあるものの、いわゆるフラッグシップ、(価格的にはより高価なH2カーボンがあるものの)カワサキラインナップの頂点に位置するモデル、ということで間違いないはずだ。
 

 

ZZRの系譜、ZX-14Rの後継

「そんなことはないだろう、だって1000ccだしスーパーチャージャー付いてるし」との反論はあるかと思うが、乗り味はまさにZX-14Rの後継、というものだった。そもそも、ZX-14Rが国内販売をやめてしまったことを筆者はとても嘆いていた。あれは素晴らしいバイクだった。大きくて重いのは事実ではあるものの、大排気量ゆえの余裕があり、存在感・説得力といった、スペックとは直結しない凄みがあったし、アクセル開け始めでは唐突さが微塵もないままトルクの大船に乗せてくれ、誰もが怖がらずにカワサキの本当の凄さに接することができたモデルだった。レースの世界とは関係ない、公道をベースとした本当の究極の乗り物。スズキのハヤブサと切磋琢磨しながら素晴らしい高みに到達していたバイクだったのだ。
 ニンジャという名前は多くのモデルに使われるようになったが、このニンジャH2 SX SEは1000ccながらスーパーチャージャー搭載により素晴らしいトルクを手に入れ、かつ低重心で接しやすい車体と、電子制御サスも搭載したことによってZX-14R的な上質なフィールを獲得。ZZRの系譜を引き継ぎ、フラッグシップとして胸を張れる、いかにもカワサキらしいバイクとなっている。
 

 

モーターのようなエンジンとバランス型スーパーチャージャー

 H2が出た時はスーパーチャージャーというドーピングが目新しく、市販車にそんな機構が付いたことをアピールするべく、わりと激しい味付けで極端な乗り味を敢えて演出していたように思うが、このニンジャH2 SX SEでは「バランス型」スーパーチャージャーと称し、より実用的な、そして縁の下の力持ち的な役割を果たしている。メーターにはブースト計があるからどれだけのブーストがかかっているかわかるのだが、アクセル開け始めは少なくともそのブースト計に反映されるほどのブーストはかかっていないことがわかる。それなのにアクセル開け始めはあのZX-14Rのような柔らかさやトルクの厚みが感じられ、ドンツキの類はゼロ。極スムーズに車体を押し出してくれ、意図に反して飛び出してしまうようなことはないし、微開領域においても非常に従順だ。
 アクセルが開き始め、クラッチも繋ぎ切った頃から徐々にブースト計が反応し始め、しっかりと駆動がかかってからトルクの大波に包まれていく。そこから先は、まさにZX-14Rの世界。400ccも少ないとは思えないほど潤沢なトルクと上質な回転感をもち、トップギアのまま50km/hあたりからそのまま最高速まで全く労せずに加速してくれるのだ。その過程にはいい意味でドラマチックな部分が少なく、振動や音も極小。まるでモーターのような余裕のある加速感はまるで新幹線すら連想させてくれた。
 またターボ車ではブーストをかけるために意図してアクセルを大きめに開ける、などということもあるが、このスーパーチャージャーでは「ライダーが意図してスーパーチャージャーに仕事をさせるための操作」のようなものは全く求められない。普通のバイクと同じように操作し、加速し、感動してOK。スーパーチャージャーは機械として静かにキッチリと役割を果たしてくれているのだ。
 

 
 ライディングモードも3つ用意されるが、どのモードでもこの潤沢なトルクを十分楽しめる。嬉しいのは最も激しいスポーツモードでもライダーを包み込んでくれる包容力が失われず、操作がシビアになるようなことがないこと。きっちり200馬力を発するモードでも常用域では腫れ物に触るような感覚はなく、素直に操作できるのは素晴らしい。以下、ロードモード、レインモードとあるが、いずれもサスペンションを含めた各種電子制御をリンクしており各シチュエーションに合わせた車体の特性としてくれる。ただロードとレインは最高出力も抑えられているため、のんびり走っていて「さぁ行くぞ!」と路面状況や気持ちのスイッチが変わった時、そのままでは「あれれ?」となることがあり、その時はちゃんとスポーツモードに切り替える必要があった。
 クルマの世界ではダウンサイジングターボなどという言葉が使われて久しいが、このエンジンはまさにZX-14Rからのダウンサイジングスーパーチャージャーだろう。とても上質でありつつ、唐突さはなく、とてもフレキシブルで、かつ燃費など実用面・環境面でも優秀。さすがフラッグシップである。
 

 

ロー&ロング車体は公道向け

 最初にまたがった時は、無意識的にスーパーチャージャーが付いていないニンジャ1000SXと比較していたためずいぶんとシートが(実際のシート高はニンジャ1000SXと同じなのだが)低く全体的に重心も低く、かつハンドルも低いな、という感覚を持ったが、それはニンジャSXよりも実重量で約30kg重いということもあるだろう。ただこの重量感もまたZX-14R的であり、必ずしもマイナスには働かない。むしろこの重量感が高級感や安定感を提供することもあるだろう。

 ポジションはクルージング時にはタンクに左の肘をついてしまうような、ちょっときつめのもの。この重量級バイクを生き生きと走らせるため、また怒涛の加速を楽しむにも必要なポジションでもあるのだが、ツアラーとして考えるともう少しアップハンでも……と思わなくもない。低いシートはライダーの重心とバイクの重心を近づけてくれるため安心感が高く、走り出せば人車一体感が強く自信を持てる。高い重心位置からパタリと寝かせて一気に旋回力を引き出すスーパースポーツモデルとは異なる運動性ではあるものの、バンクさせていくと路面が近く感じて路面を這って行っている感じがまた安心感もあるしダイナミズムもあるのだ。
 スポーツバイクはついついサーキット由来のスポーツ性能を追求してしまう部分があるが、サーキットにおける運動性の追求はタイヤの進化やその時々の考え方の違いで変わったりすることがある。対してZZRの歴史は、そういったサーキットの考え方とは切り離した、公道でのスポーツというものを純粋に追求してきた歴史がある。ニンジャH2 SX SEもまた、そういった特性と感じられ非常に好感が持てた。
 

 

最先端の電子制御満載

 筆者は電子制御技術に特別こだわりはなく、こちらがしたいライディングスタイルを邪魔することなく、静かに仕事をしてくれていれば良い、という考え方である。よって細かな電子制御については松井勉さんの記事を参考にしていただきたいが( https://mr-bike.jp/mb/archives/30226 )、普通に走らせて恩恵にあやかれた電子制御について少しだけ触れておこう。
 まずはクイックシフター。これはとても優秀。今まで筆者があまりクイックシフターを使わないタイプだったのは、クイックシフターは全般に回転数が高まっていれば良く機能するが、大排気量車で使うことの多い低回転域では思いのほかうまくシフトできないことが多かったためだ。ところが最近はシフトアップ・シフトダウン双方向は当たり前、極低回転域でもきれいにシフトしてくれ、さらにはアクセルを開けたままのシフトダウンにも対応する、進化したクイックシフターが増えた。ニンジャH2 SX SEもまたこの賢いクイックシフターを備えていて、ヘンに裏切られることなく確実なシフトをしてくれるため安心して使うことができた。
 

 
 電子制御サスペンション、これは縁の下の力持ち的役割だろう。車体がそもそも包容力のある味付けのため、今回の試乗で「電サスすげぇ!」と思った場面は特になかった。この優しい車体や口当たりまろやかなエンジンならば電子制御サス未搭載の「ニンジャH2 SX」でも十分なのではないか、とも思える。もっとも、直接比較したわけではないため断言はできないが。
 凄いな、と感じたのは追走式のクルーズコントロール。前の車についていくクルーズコントロールは四輪では当たり前だがバイクではまだまだ普及していない。セットすれば前の車に一定の距離を保ってついていってくれるのは確かに便利。ただあまりに楽チンのため気が抜けてしまい、前走車が車線変更した時に次の前の車に追いつこうと勝手に加速するのに体の反応が追い付かず、少しのけぞってしまうような場面もあり、便利だからと言って気を抜いてはいけないと肝に銘じることになった。ただこれは確実に次世代を感じさせてくれる技術であり歓迎したい。
 一番便利だったのは、ミラーに表示される「死角に車両がいますよ」サイン。BSDと呼ばれる機構で、視界とミラー像の間の死角に何かしらがいるとミラー内にライトが点灯し、さらにそれが近いと点滅してくれるというもの。これも四輪では当たり前だが、大変便利かつ安全に感じた。
 他の機能については、良い意味で気づかずに走ることができた。知らずうちにサポートしてくれているのだろうけれど、同時にそれが煙たく感じさせないのは優秀だ。
 

 

このコンセプトでヴェルシスが欲しい!

 かなりの距離を乗り、本当に素晴らしいバイクだと改めて感じ入った。300万円するフラッグシップモデルなのだから素晴らしくて当たり前ではあるのだろうが、素晴らしいべきバイクが本当に素晴らしいことに何だか感動する。重箱の隅をつついても何も出てこないのだ。敢えて、敢えて言うなら、ウインカーのオートキャンセルが欲しかった……ぐらいだろうか。それ以外では尻も痛くならない、ETCやヘルメットホルダーも付いている等々、とにかく細部の使い勝手に至るまで徹底的に抜かりがないのである。ZX-14Rが絶版となって寂しがっている公道ライダーの皆さん、安心してこれを購入してほしい。
 ただ、そもそものコンセプトをひっくり返すようだが、この作り込みと充実の電子制御ならもっとツアラーに振ってこそ活きるパッケージかもしれない、とも思った。最初は「もう少しアップハンでも……」なんてことも思ったが、そういうことをするぐらいだったらこのパッケージのまま思い切ってヴェルシスH2 SXを作ってしまった方がいいだろう。そうすれば最強のツーリングマシンが完成するのではないだろうか。
 最初に書いたが、カワサキのラインナップはちょっと似たようなものが多く、また「ニンジャ」のネーミングも乱立しているため、自分には何が合っているのか探るのに良く良く調べなければいけない感じがあるように思う。ツーリングするならニンジャSX、スーパーチャージャーを全身で感じたいならニンジャH2、そして「そうじゃないんだ、全方位に抜かりない、真っ当な、フラッグシップ・ロードゴーイングスポーツバイクが欲しいんだ」もしくは「カワサキの技術力を感じられる頂点モデルが欲しいんだ」という人には、このニンジャH2 SX SE(及び電サスの付いていないニンジャH2 SXでも良いと思うが)なのである。
 実際に購入まで至らずとも、レンタルバイクなどで是非とも経験してほしい。そして「うわぁ、カワサキ、すげぇなあ!」と感動してほしいバイクである。
(試乗・文:ノア セレン)
 

 

ライダーの身長は185cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

 

●Ninja H2 SX SE / Ninja H2 SX
■型式: 8BL-ZXT02P ■エンジン種類:水冷4ストローク直列4気筒DOHC 4バルブ ■総排気量:998cm3 ■ボア×ストローク:76.0mm×55.0mm ■圧縮比:11.2 ■最高出力:147kW(200PS)/11,000rpm [ラムエア加圧時:154kW(210PS)/11,000rpm] ■最大トルク:137N・m(14.0kgf・m)/8,500rpm ■全長×全幅×全高:2,175mm×790mm×1,260mm ■ホイールベース:1,480mm ■最低地上高:130mm ■シート高:820mm ■車両重量:267kg[266kg] ■燃料タンク容量:19L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70ZR17M/C・190/55ZR17M/C ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク/油圧式ディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:エメラルドブレイズドグリーン×メタリックディアブロブラック[エメラルドブレイズドグリーン×メタリックディアブロブラック] ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):2,970,000円[2,651,000円] ※[ ] はNinja H2 SX

 



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2022/06/08掲載