2019年の東京モーターショーに出品されたコンセプトモデル
全世界500台限定で、6つの国と地域で実証実験を行うモデルとして登場するのは、2019年の東京モーターショーに登場した参考出展車「E01」の製品化モデルだ。外観はほぼこの参考出展車両のままといった感じになる。といってもこのモデル、「市場投入予定はない」という一台である。
このモデルの発表会にあたり、開発陣から最初に説明があったのが、「EVの課題について」という点。つまり「航続距離と充電方法(バッテリー容量)」という相反する2点の落としどころの問題であった。これは2輪だけでなく4輪業界でも語られていることだが、航続距離を取ればバッテリーは大きくする必要があり、それは重量増につながる。しかし、日々の使用環境のミニマムサイズのバッテリー量にすれば軽量にすることができ、より効率的に車両を運用することができる。さすがに4輪ではバッテリーの持ち歩きというイメージはないが、2輪車の場合は、バッテリー量を少なくすればそれを取り外して自宅などで充電が可能となる。
これまでヤマハとしては50ccクラスのEVで、バッテリー交換の脱着式(PassolやEC-02、E-Vino)も固定式(EC-03)も実際に市場にリリースしてきた。またEVコンソーシアムのGachaco(ガチャコ)への参画で交換式バッテリーの利用についても進めている( https://mr-bike.jp/mb/archives/28984 参照)。今回は125ccクラスというスペックから、それらより大容量のバッテリー(持ち運びが難しい重量のため固定式バッテリーとなる)を搭載することとし、このEVで、原付二種クラスEVとその充電インフラといった市場受容性とニーズを探ることとし、日本以外に、ヨーロッパ圏内、台湾、タイ、マレーシア、インドネシアといった6つの地域で実証実験を行うという。
ヤマハの市販内燃機関モデルであるNMAX125とほぼ同サイズの車体は、全長1930×全幅740×全高1230mmとなり、ホイールベースは1380mm。最低地上高は140mmでシート高は755mmだ。バッテリーを装着しての車両重量は158kgで、最小回転半径は2.1mという。
車両は床下にバッテリー、その後ろにモーターが配置され、パワーユニットが一直線に並ぶレイアウト。重量も大きさもある容量4.9kWhのリチウムイオンバッテリーをまたぐように乗車する。バッテリー内部の構造や形状については一切公開されていない。ただし、日本国内で組み立てるとしている。
ヤマハモーターエレクトロニクスの交流同期モーター(高回転型空冷永久磁石埋込型同期モーター)は8.1kW/30N・mを発揮する。モーターの巻き線に平角のものを採用する等、業界最高レベルの出力やトルク密度、高効率化を実現したという。その出力をベルトドライブで駆動する。このベルトドライブについては、静粛性、そしてチェーンのようなオイル臭さのイメージを排除するというEVらしさを強調するという点もある。
今回の実証実験の125ccクラスの車両というのは、実証実験を実施する国はもちろん、全世界で需要のあるボリュームゾーンであり、使われ方も実に多様で、環境問題についてもその規模からして大きく作用するという見方がある。ただ様々な使われ方がある、ということで、目標としたのが、航続距離100km、最高速度100km/hというところであって、このE01は航続距離104km(PWRモード)、最高速度100km/hを実現した。
ただ、ヤマハ発動機としてはこれがすなわちEV化への一台というイメージでもない。カーボンニュートラルを目指すとはしているものの、イコールEV化とはしていないという。EVはあくまで選択肢のひとつであり、バイオ燃料であったり、水素であったり、内燃機関のさらなる進化もしっかり研究をしているところだという。
見たことのないバッテリーへの充電規格
そのバッテリーへの充電方法は、「急速充電器」、「普通充電器」、「ポータブル充電器」の3種の充電器に対応するとしている。急速充電は、約1時間の充電で、空の状態から90%の充電が可能(バッテリー保護のため、残量90%で充電停止となる)。普通充電は200V電源から取るタイプで、約5時間の充電で、空から100%の充電が可能。ポータブル充電器は車両に標準装備されており、シート下に収納が可能。こちらは約14時間の充電で100%の充電が可能となる。どの充電方法もDC(直流)充電で、フロントカウル中央にある充電コンセントを使用する。
この充電コンセントを見てみると、国内外で使用されている充電コンセントとは異なる形状をしていることに気が付く。充電プラグもサイズ的には国内でJ1772と呼ばれているAC普通充電のプラグによく似ており、プラグだけ見てみると、それよりも軽量に感じられた。詳しく話を聞くと、これはヤマハが提案している充電規格なのだという。日本国内では規格として採用されていないため正式な名称もないのでヤマハ独自規格としか言いようがない。
国内で使用できるDC充電となると、高速道路のPAやSAに設置されているCHAdeMO(チャデモ)式の充電器となるのだが、バッテリーの容量的にチャデモ機は大きすぎ(さらにチャデモの規格はどんどん大容量化していている)、ごっついチャデモの充電プラグも含め、この小型バイクのバッテリー充電には適していないという。そのため、ヤマハはこれら小型EVに向けた充電規格を提案。それが今回搭載されたこのヤマハの規格となるのだ。ちなみに台湾ではこの規格がすでに採用されているので、急速充電で使用しているものは台湾CNS規格となる。
その車両は、ヘッドランプ、ポジションランプ、フラッシャーランプ、テール&ストップランプなど、灯火類の全てにLED灯を採用。ホワイトのボディも若干パールがかっており、アクセントとしてヤマハのEVのアクセントカラーであるシアンブルー色とも相まって、いかにも電動バイクという印象が強い。
実際に試乗をしてみた。足着き性もまたぐ感覚も違和感はない。スマートキーシステムを搭載しているので、カギを物理的に差し込む必要はない。センターにあるスイッチを押して起動、そして回転させて、右ハンドルのセルスイッチ位置にあるスタートボタンを押すと走行準備完了を表すメーター上部のグリーンのランプが点灯する。
メーターは縦型の大きなもの。視認性はよいのだろうが、せっかくなら、EVの先進性を表現することも考えてこれはフル液晶パネルとしたいところ。特に今回は実証実験ということもあって、3GのSIMとGPSを内蔵した「CCU(Communication Control Unit)」を搭載していることが発表されている。実際にデータのやり取りをできるのなら、もっと車両の情報を見たいというのが本音。ただ、それについては、EVの利用に関するデータ取りをする上で、内燃機関車にも搭載できるEVとは関係のない、つまり本質ではない部分の評価軸を増やしたくないということでの不採用だったらしい。ちなみにこのCCUにより、Webアプリケーションにアクセスすることで、走行ログ、バッテリー残量、最終駐車位置などを確認できるとしている。
走り出してやはり驚くのはその静かさ。振動もこのサイズの内燃機関車はそれなりにあるものだが、このE01に乗ったら、内燃機関車はちょっと嫌になるくらい、というイメージだ。加速が良いEVならではの走りで走行に不足はない。ちなみに車両の出力は、モーターのパワーを最大限に発揮する「PWR(パワーモード)」、そして通常使用の「STD(標準モード)」、さらに長距離を走行するためエネルギー消費を抑え最高速約60km/hに制限する「ECO(エコモード)」、3つのモードを備えている。また後退は2つのボタン同時押しにより時速1km/hで可能となっている。
車両減速時には回生ブレーキも備えている。「エンジンブレーキの感覚を再現した回生ブレーキ」ということで内燃機関車からの乗り換えを意識した回生の入れ方で、乗り方としては自然なのだが、いろいろなEVを乗ってきた身からすると、若干不満が残る、という感じだ。モード切替ボタンがハンドル横に設置されているのだから、そこで強い回生を取れる仕組みを入れ込んでもらってもよいのではないか、とも思う。
ユーティリティの部分では、シート下トランクは約23Lの容量を持つ。ポータブル充電器はこのトランクの上部側に収納ができるようになっている。トランク自体はヘルメットも収納が可能なサイズだが、ポータブル充電器を積載している場合ヘルメットは収納できない。またフロントカウル内側には2か所のフロントトランクも用意されており、右側にはDC12V電源が取れるようにもなっている。
ちなみにE01は販売されることはない。ただ、このモデルの進化型が登場する可能性はあり、である。実証実験は、7月から3カ月間日本国内で100台規模での実施となる。延長や買取はない。ユーザーはヤマハ発動機と直接契約を結び、車両は最寄りのYSPで引き取りをすることになる。月々のリース料として税込み2万円が必要となるが、その2万円の中に保険料なども含まれる。リアボックスSETは月額1000円の有償オプションとなる。
また、充電器は普通の100V家庭用コンセントから電源を取るポータブル充電器が標準装備。200Vの普通充電器は月額1000円のオプション設定となる。ちなみにこの普通充電器はEV用に設置されている平型200V電源から電源を取るタイプであるため、平型200V電源がない家庭や駐車場ではその設置及び撤去費用がユーザー負担となってしまう(設置場所の状況にもよるが工事費用は約13万円ほどとなる見込み)。急速充電器は国内に5~10基の設置を検討しているが現在のところその場所は発表されていない。
実証実験の申し込みについては5月9日から22日までの2週間が応募期間となる。国内100名のみ。全世界でも500名しか参加できないこの実証実験、試してみる価値は、あると思う。
(試乗・文:青山義明)