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試乗・解説

YAMAHA YZF-R7 戦闘的ポジションの快適エンジン これが新時代スーパースポーツかも
エンジン、フレームをMT-07と共用し
決して着せ替えだけでなく、細かい仕様を専用設定。
戦闘力と快適性を高次元でバランスさせたYZF-R7は
これから先の「新しい」スーパースポーツの姿を
ハッキリと示してくれているのかもしれない。
■試乗・文:中村浩史 ■撮影:折原弘之 ■協力:YAMAHAhttps://www.yamaha-motor.co.jp/mc/ ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、クシタニ https://www.kushitani.co.jp/




スーパースポーツのヤセガマン

 今までにない、まったく新しい方法論のスーパースポーツが出現したな、って感じだ。
 YZF-R7、MT-07系の水冷並列2気筒を積んだフルカウルモデル。さっそく新しもの好きのアメリカなんかでは、アプリリアRS660なんかと「ミドルクラスツイン」的なクラスを作ってバチバチとレースやってる。
 これまでスーパースポーツといえば、ビッグバイクなら4ストローク並列4気筒エンジン搭載車。もちろん、2ストロークエンジンがあった時代にはこの限りじゃなかったし、一時期VTR1000FやSP2、TL1000Sや1000Rなんてモデルが出現したことがあったけれど、継続していない時点で、もう一過性の流行、ってこと。そうそう、GOOSE350なんて変わりダネもあったっけ。
 

 
「スーパースポーツ」ってカテゴリー自体もあいまいで、まぁレースレギュレーションに合致した車両、みたいなことになるんだろう。メーカーにしてみれば、市販車をレーシングマシンに仕立て上げたとき、べースモデルのパフォーマンスが成績を左右するから、レーシングスペックにしたいけれど、そうすると街乗りの快適性をスポイルしちゃうからどうしよう――って悩みと常に戦っているクラスだ。
 そんな意味で、YZF-R7は新しい。ルックスはフルカウルのスーパースポーツで、その実エンジン+フレームはMT-07をベースにしたもので「素」の性能は大きくパフォーマンスアップしているわけではない、って構成。悪い言い方をすると「カッコだけスーパースポーツ」だし、ヤマハの狙いで言えば「ひと目でスーパースポーツとわかるスタイリング」ってこと。実はそれこそが、新しい方法論のスーパースポーツの世界なのだ。
 

 
 まず跨っただけで「おぉ」と思う。今やすっかり少なくなった前傾ポジションで、YZF-RシリーズのR1やR6とそっくり。ベースとなったMT-07と比べると、ハンドルは17cm低くグリップポジションが15cm遠くなり、ステップは5cm後退して6cm高くなった。シート高も3cmアップで、スポーティっていうよりは、さらに結構ガチな前傾姿勢だ。
 コレハ手強イカモシレナイ――そうびくびく走り出すと、心配無用、ってことがすぐにわかる。よかった、エンジンのパワーフィーリングはMT-07ほぼそのままだ。フリクションなくスロットルレスポンスがいい270度クランクの並列ツインは、本当に名機だ。動力性能で言えば、スロットルグリップにあるプーリーをハイスロ化して、ファイナルをドリブン1丁ロングにしてある。ちょっとだけ出足が鋭い変更だろうか。
 

 
 ハンドリングは、フロントの手応えがちょっとMT-07から変わっている。これはトレールをそのままに、キャスターをわずかに立ててオフセットを減らすことで、しっかりと手応えを感じさせて軽快さを失わないような変更のためで、剛性が高くなってタイヤ銘柄が変わった、と思ったけれど、実はフロント周りのジオメトリ変更が効いていたのだ。ダラーッと流すとそれなり、フロントブレーキをしっかりかけてコーナーに入って行くと、軽快にクルッと回る、そんな感じだった。ハンドルポジションが低くなっただけでもフロント荷重が増えて、よりコーナリング向きの車体になるから、その効果も大きいのかもしれない。
 全体のハンドリングは、フロント周りの変更の印象が大きく、ハンドル位置が変わっていることでかなりイメージが違う。もちろん、常にスロットルの開け閉めのメリハリがないとバイクが動かないような神経質さはなく、スーパースポーツとうたう割りには乗り心地も良く、特にリアがよく動いてくれる印象だった。
 このバランスに、きっとヤマハは苦心したんだろう。スーパースポーツ色を強めるなら、スパスパッと斬れるようなコーナリングが欲しいし、それを強めちゃうと街乗りで楽しくなくなっちゃう。ちなみにパワーモード選択とトラクションコントロールはなし、クイックシフターがメーカーオプションというのも、R7の性格をよく表していると思う。
 このR7は、街乗りとスポーツランのキャラクターを上手くバランスよく仕上げているな、という感じ。ライダー側から積極的に入力していくと、どんどんスポーティに動いてくれるから、街乗りではいつのまにかスピード出ちゃわないように注意が必要かも。
 

 
 もうひとつ、高速道路でのクルージングでは、トップギア100km/hで4000rpmくらい。120km/h区間を走っても4800rpmくらいで、エンジンもうなりを上げるほどじゃなく、快適に走れる。ここでも乗り心地のよさは生きていて、路面の継ぎ目を越えるのも、コツンコツンというよりフワッフワッという感じ。ただし、やっぱりちょっとガチ目の前傾が効いていて、弱前傾姿勢で頭を低く、が快適な姿勢。もう少し楽に乗りたいならMT-07には適わないよね。
 

 
 たとえば、自分のバイクでサーキットを走ってみたい、って層にはドンピシャなバイクだと思う。初めてトラックに乗り入れても決して「ヤバい、速い、コワい」ってのを感じさせないし、MT-07よりずいぶんとスポーツランがピタピタと決まるはずだ。
 じゃぁ排気量も近いYZF-R6とどう違うのか、って問われると、ラップタイムではR6に適わないだろうけれど、難しさもなく、楽しいのはR7、って答えになるんだと思う。
 先に、スーパースポーツとはレースレギュレーションに合致したモデルだ、と書いたけれど、そうなると勝てるバイク=キツいバイク=街乗りでシンドいバイクばかりになっちゃう。現代はそんな時代じゃないから、街乗りでは快適で、それをサーキットに持ち込んでも充分楽しい、そんなバイクが新時代のスーパースポーツになっていくんだと思う。
 街乗りではキツいポジションだよ、でもヤマハデザインの最先端で、フルカウルでカッコいいし、サーキットが楽しい──そんなバイクが「新しい」スーパースポーツ像なのかもね。
(試乗・文:中村浩史)
 

 

ライダーの身長は178cm。写真の上でクリックすると、両足着き時の状態が見られます。

 

R7に込められたコンセプトにある「安心してブレーキングできる」「コーナリングが楽しい」を可能にしたフロントフォークのセッティング変更。フォークスパンを広げ、トレールを同じままオフセットを減らしてキャスター角を立て、前輪分担荷重をやや増やしている。軽快性と直進安定性を両立する狙いで、アンダーブラケットの形状も変更して剛性を最適化したという。プリロードと伸/圧側減衰力調整が可能なフルアジャスタブル。ラジアルマウントされた4ピストンキャリパーとΦ298mmのダブルディスク。今回、市販車で世界初のブレンボ製ラジアルマスターシリンダーを純正採用。ストッピングパワーよりコントロール性を重視している証だ。

 
 

マフラーを含め、MT-07と共通の並列2気筒エンジン。2気筒らしいパルスを感じられ、高回転では4気筒同等の吹け上がりを味わえる。もちろん「速すぎ」と思うことがないのも狙いで、それも新しいスーパースポーツの姿。MT-07からはスロットルプーリーをハイスロ化し、ドリブンスプロケットを1丁減らしてロングレシオとして「高速走行型」にアレンジしている。プーリーは感じられなかったが、ショートレシオは体感できた。

 

スイングアームはMT-07と共通。ファイナル(二次減速比)はR7専用で、ドライブ/ドリブンが16/42丁、対してMT-07は16/43丁とリア1丁ショート。同速度ならば高速巡行ではR7の方が回転数が下がることに。

 

リアサスは、フロント周りのジオメトリ変更に合わせてバネレートを強くし、リンク比も専用に設定。車体側へのマウントはフレームではなく、クランクケースへ。これはMotoGPマシンYZR-M1譲りの構造。
センターブレースと呼ばれる、フレームのこの部分を追加することで、スイングアームピボットまわりの剛性を上げ、MT-07から比べると前後サスペンションの強化に合わせてバランスをとっている。

 
 

フルデジタルメーターは黒バック白文字の見やすいもの。ギアポジション表示つき、バーグラフ式タコメーターで、オド&ツイントリップ、瞬間&平均燃費、水温&気温表示、シフトアップライトなどが装備されている。
YZF-R1/R6なみの前傾姿勢となるセパレートハンドルポジション。ハンドルスイッチは右にキルスイッチ/ハザード/セルボタンで、左はパッシング/ライト上下切り替え/ウィンカー/ホーン/メーター表示セレクタスイッチ。

 

前後に段差のあるシートに、タンデム部はキーロックで取り外し式。タンデムシート下には写真のように六角レンチが内蔵されていて、それでロックを外し、ライダー側シートが外れる。バッテリーがこの位置。

 

シートカウル両サイドは、エアが通る形状で、これは何かの効果を狙っているというより、デザイン的なもの。荷かけフックはタンデムステップ周りやライダー用ステッププレートを使用できる。
ヤマハ車はヘルメットホルダーをきちんと別体式としてくれることが多い。シート裏共締めの方が構造はシンプルだが、使い勝手がいいのはだんぜん別体式。

 

MT-07からタンクキャップ位置を後退させ、キャップ前方は全伏せ姿勢時のライダーのアゴ乗せ部としている。タンク容量は13L、今回の試乗での実測燃費は23.6km/L。フルタンクで300km走行可、が目安だろう。
ヤマハYZF-Rシリーズ共通イメージのフロントマスクデザイン。ただしR7のみ「M字ダクト」と呼ばれるエアインテーク内にLEDヘッドランプを内蔵。ライト両側にエアダクトと2眼式のポジションランプを備える。

 

●YZF-R7主要諸元
■エンジン種類:水冷4ストローク並列2気筒DOHC4バルブ ■総排気量:688cm3 ■ボア×ストローク:80.0×68.5mm ■圧縮比:11.5 ■最高出力:54kW(73PS)/8,750rpm ■最大トルク:67N・m(6.8kgf・m)/6,500rpm ■全長×全幅×全高:2,070×705×1,160m、m ■ホイールベース:1,395mm ■シート高:835mm ■車両重量:188kg ■燃料タンク容量:13L ■変速機形式: 常時噛合式6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70ZR17M/C・180/55ZR17M/C ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク(ABS)/油圧式シングルディスク(ABS) ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:ディープパープリッシュブルーメタリックC、ヤマハブラック ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):999,900円

 



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2022/03/11掲載