第132回 「ビッグボソ」
ビッグボス。たいていの人はお酒の安売り店でも楽器屋さんでも競走馬でもゲームの登場人物でもなく、日本ハムファイターズの新庄監督を思い浮かべます。あっというまに浸透したのですから、実はものすごいことです。もしもあの時にビッグボスではなく、ビッグボソと言ってくれていたらと思うと、悔やんでも悔やみきれません。といいますか、悔やもうにも悔やむ理由が100%見当たらないので、悔やもうにも悔やみきれない悔しさです。何を言っているのか、何を言おうとしているかまったく本人も理解していませんから、どうぞお気になさらずに。
そのビッグボスと関係があるのかわかりませんが、ビッグボスの出身地ではない山形県の新庄。ビッグボスに縁のない私ですが、新庄駅は山形新幹線(正式には奥羽本線)の終着駅で、日本海側に向かう陸羽東線、太平洋側に向かう陸羽西線と接続する鉄道の要所であり、何度か通っています。奥羽本線はこの先秋田に向かいますが、線路はここで分断されています。新幹線電車を新庄に直通させるために、線路幅を在来線の1067mmから新幹線の1435mmに広げ……というような話は、今さら私ごときがくどくどとしなくても、非鉄のみなさんですらE5だのN700だの新幹線を型式で呼び合う今日では、もはや常識の範疇でしょう。ちなみに,秋田新幹線も山形新幹線も正式な線路名称ではありません。正式に新幹線と呼べるのは、全国新幹線鉄道整備法で定められた「主たる区間を列車が二百キロメートル毎時以上の高速度で走行できる幹線鉄道」だけ。まあ、そんなことをいいたがるのは鉄だけです。
いつものように話が逸れました。鉄道の要所なのにビッグボスのような存在感はあまり感じられない新庄駅(失礼)。要所なのに駅に立喰・ソがないのです。新幹線が出来る前は駅そばがあったようですが、その時代は知りません。私が初めて訪れた2008年には、改札外にあじさいがありました。立喰・ソファンの方々から、標準化の権化、悪の化身(そこまではいわないか)と忌み嫌われたあの、あじさいです。もがみそば街道がある新庄ですから、誰があじさいに行くんだろう? と思いました。案の定、いつのまにか普通のそば屋さんになりました。
立喰・ソがないということは魅力半減。といいますか、私の場合、立喰・ソもないし、乗り換え駅としか認識していませんでした。が、先日乗り換えのために新幹線を降りるとほのかにソの香りがただよってくるじゃありませんか。ものすごく寒い日でした。しかもこの先に目的の立喰・ソが待っているのでなにも食べていなかったこともあり、あのステキな香りがストマックを直撃。乗り換え時間もちょっとあったので、新庄に駅ソはなかったよなあ? と半信半疑ならぬ全信全疑ながら、香りに誘われてふらふらと改札を出ていくと……駅そばがあるじゃないですか! 腰を抜かさんばかりに驚きました。幸い腰を抜かすまではいかなかったので、一安心です。
心から驚いて呆然としてたら、そんな私をすり抜け次から次へお客さんが途切れることなくやってきます(話の構成上の演出)。とここで、話の構成上ではなく大きな勘違いに気づきました。駅の立喰・ソに来るのは一見の観光客よりも、通勤通学や用務でいつも使っている地元が多いんですね。地元だと当たり前すぎて考えもしませんでしたが、かつてここにあったあじさいも、地元の人が普段食べていたのかもしれません。ひっきりなしの賑わいにうっとりしつつ、人だかりが一段落したのを見計らって私もいただきました。
みぞれまじりの寒い日にふうふうしながら食べるソは格別です。五臓六腑にしっかり染み渡りました。が、ゆっくりしすぎて電車に乗り遅れました……、次の立喰・ソのために腹ごなしも必要です。次は1時間後なので駅の外に出てみました。駅前をちょっとだけ歩いたことはあるのですが、急行食堂という鉄にはたまらない食堂を見に行った程度でほぼ初体験です。急行食堂は変わらず健在でした。そこらをぐるっと一回りしていたら、あっというまにタイムアップ。さすがに次を逃すと予定がずたずたなので小走りに駅へ向かい、ショートカットできそうな市場のような施設があったので入ってみたら……うわ! こんなところにそば屋が。しかも一般店というよりも立喰・ソっぽいのです。しかし時間が迫っていたので泣く泣く素通りしてしまいました。立喰・ソ不毛地帯と思い込んでいた新庄で、突然の駅ソに次に、怪しい?立喰・ソに出会えるとは。これもビッグボス効果なのか、立喰・ソ神のお導きか(便利な常套句。みなさんも展開に困ったらぜひお使いください)。次の目標が決まりました。ちなみに、このあとの立喰・ソめぐりは、閉店に休業とみごと空振り三振でした。
この顛末を「こんな店知らなかっただろ〜」と自慢げにAB君にメールした数日後、「こんにちは 新庄駅前市場そば屋 先行致しました、申し訳ないです。かけ350円で、鶏そば500円を行きました。生ビールあり、市場と地域の社交場の雰囲気でした。追伸 素敵なママおひとりで切り盛りされてました!」と返信が。え〜!? まさか、先を越されるとは……さすがにAB君をビッグボスと呼ぶ気はしませんが、来年はどちらの新庄からも目がはなせません(何が?)。
今年もご愛読いただきありがとうございました。来年こそ、みなさまとって(もちろん私にも)いい年になりますように。最後に今年幻立喰・ソになってしまったみなさまの一部です。ほんとうにおつかれさまでした。願わくばまた再開できることを願いつつ、ありがとうございました!
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