スタートからアゲるなぁ……!
まあ、もう細かい解説は不要だろう。昨年登場したZX-25Rは多くのライダーのハートを掴んだのは間違いない。今なおその到着を待ちわびる人もいるだろう。
80年代後期から90年代半ばまで250㏄4気筒は一世を風靡した。レーサーレプリカ系とネイキッド。ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキがそれぞれ魅力的なモデルを用意し、400クラス同様の盛り上がりを見せていた。
90年代後半から「教習所」であらゆるバイクを運転できるよう免許取得制度が変更(いや、正常化という表現が相応しいと思う)され、大型バイク時代が到来。それにより250、400クラスからユーザーの関心がそちらに移行。同時にカスタム、レトロモダンを軸にしたバイクライフスタイルの変化、嗜好の変化も合わさっていつの間にか250㏄4気筒は過去のものとなった。
たしかにあの当時、取材で走らせても250㏄4気筒モデル、中でもレーサーレプリカ系は忘れがたい刺激を持っていた。絶対速度的にはそれ以上の排気量に適わないが、軽くコンパクトな車体が見せるコーナリング性能。当時でいえば2ストエンジンか4気筒か、という選択肢まであった贅沢さだったが、4気筒エンジンが持つクランクのジャイロ効果などもあって安定感と運動性が扱いやすさを生み、サーキットではそれこそレーサー気分を堪能できた。
ああ、いいな、仕事ながら欲しくなっちゃうと思ったのは1度や2度ではない。とは言え、自分の大型バイクに戻れば「コレでいっか!」となる。250クラスの衰退に一役かった一人として今日、再びこのような悦びを味わえるとは思ってもいなかった。誰かやってくれないかな、をやってくれたカワサキにまずは感謝したい。
あらためてZX-25Rに乗ろう。このバイク、位置づけとしてはライトウエイトスポーツだ。車重という絶対値ではライバル達の後塵を拝することになる。同門、Ninja250と比べたら18㎏も重たいではないか。そのどこがライトなのか。だが、それは正しく乗り味だ。
決してヒラヒラした乗り味ではない。こうした比較が自分の中でできるのも、すでに長い期間ビッグバイクが感覚の中に染みつき重さを重さとも思わない「これくらいが普通」というモノサシが変わったからだろう。400やそれ以上の4気筒モデルと比較して重心が低く、ロール方向への動きが軽い。184㎏というZX-25Rの車重が動的な部分とほどよいバランスを持っているのだ。
テストをしたZX-25R SE KRTエディションの価格は93万5000円。Ninja250やYZF-R25 ABSの2台が65万円でオツリがくるし、CBR250RRはそれよりもグッと値は張る。もっとも高いグランプリレッドを選択しても85万4700円と、まだ8万円ほどリーズナブル。
そもそも250クラスは昔50万円でオツリがきたのに、とか言ってはいけない。1000㏄の4気筒だって250ccだって製造コストに大きな差はないだろう。もちろんアルミフレームとスチールフレームという製法や素材の価格差はあるが、ピストン、バルブ、コンロッドなんてミニカー同様、小さいほうが精密さが上がるから組み立て工程はそれ以上に熟練の技が求められるのではないだろうか。もちろん、今出すために割いたリソースの大きさ、それを決断した会議がどれほど揉めたことかを想像すると、これでも安いと思えるほど。
それに、専用のレザースーツを着ることを条件にしたワンメイクレースを開催してユーザーを夢中にさせようという仕掛けまでやっている。わざわざレザースーツを専用品とすれば手練れのレーサー達はわざわざそこに投資までしてこないだろう、と考えたのはさすが。しかし、この素材で走るコトを手練れたちが放っておく訳がない。とにかく楽しく盛り上がっているようだ。
アジア圏で上級グレードとなる250クラスに向けた開発だとも聞くから、時代の追い風があったのは事実。それでも今乗れることに改めて感謝したい。
優しさとクイックさが共存するハンドリング。
早速走りだそう。この季節、ファーストアイドルは意外に高めだ。3000rpmを切るあたりで暖機が始まる。4気筒の音、ワイヤーを介さないスロットルバイワイヤーのアクセルに無駄な遊びがない分、自分とエンジンが直結した感じがする。回転が下がったところで走り出す。ZX-25Rという名前から想像するほどポジションにスパルタンさはない。前傾姿勢だが市街地でも周囲に視線を送るゆとりがある。
ニュートラルから1速にシフトすると、その段階でアイドリング回転数が少し上がる。さらにクラッチを少し離し、クラッチプレートのフリクションゾーンを探すとさらに200回転ほどだろうか、回転が上乗せされる。まるでローンチコントロールのようだ。その理由は、250㏄4気筒、というよりわずか31.8mmしかないストロークの短かさにも起因するであろう、ボトムエンドトルクの細さを電子制御がアシストしてくれるのだ。すでにZX-25Rと自分だけの二人の世界が始まっている。
クラッチをスルリと繋ぐともう普通に転がり出す。大型慣れしている感性にはクラッチを繋いでからアクセルを開ける癖がついているが、回転を上げすぎず、落とし過ぎずという美味しい音がするゾーン(個人的に4000rpmでミート、6500rpmでシフトアップ)というような軽めの集中力を動員して走らせるのが楽しい。
このグレードに標準装備されるKQS、つまりはオートシフターの出来映えも素晴らしく、大通りの制限速度、60km/hまでに気持ち良く5回シフトアップが可能だ。市街地での加減速はそれなりに忙しいし、シフトの回数が多く、アクセルコントロールも楽しめるから普通に走ってもライディングに充実度がある。250㏄単気筒エンジン車を上手く扱うのも楽しいが、4気筒エンジンだけがもつ滑らかさを存分に低回転まで楽しみ、再加速のためにシフトダウンを2つ、ないしは3つまとめてしてから再加速をする……。これらが市街地ペースで引き出せるのだ。
サスペンションは上質感があった。しっとりした減衰の出し方とサスの入り口の部分がしなやかに動く様子で、乗り心地とタイヤの接地感が分かりやすく伝わってくる。ブレーキのタッチも併せて上質かつレバーとタイヤの接地点の間に弛みがない印象がいい。
ハンドリングはゆったりとライダーが荷重移動をすると車体がもう少し大きなバイクのような反応を示し、ライダーがスっと動くとそれに対応するレスポンスに重さではなく素早さで答えてくる。AI搭載か? フレームの構成、エンジンマウントの剛性バランスなど作り込まれたに違いない。スキル、速度、場面にマッチした走りの引き出しの数に器用さを感じた。
高速道路の移動は250なりだが、80km/hで8000rpm、100km/hで10000rpmとなり、すでに6速巡航でもレスポンスがよく、あえてシフトダウンをしなくても追い越し加速程度はラクラクだ。その動きにクイックさを求めるなら14000rpmあたりになるようギアを選び右手をワイドオープンすれば、風圧で途切れていたZX-25Rの排気音が再び耳に届く。しかも官能的に。
高速道路の流れの中でそれが楽しめるのも嬉しいところ。ただし、そんなことばかりしていると、燃料ゲージは一つ、また一つとその表示ブロックが消えてゆく。250のくせに! なんて毒づいてはいけない。日常でこんなに濃厚なる非日常感を楽しめるオモチャは他にないのだから。
待ちに待ったワイディング。ツーリングレベルで走ると市街地同様、ライダーの動きをAIが感知するように、緩やかな弱アンダーにも鋭さを求めてニュートラル感のある旋回も自在に引き出せる。基本、250でバイクデビューした人に乗せても曲がりすぎて恐い、というキャラではない。あくまでもライダーの命令次第でクイックな動きをしてくれるタイプだ。タイヤが持つ旋回性、グリップ感も頼もしく、深いバンク角まで安心して倒し込んでいける。何よりそこに至るまでのブレーキング、シフトダウンという所作がいい。ビッグバイクなら2速ホールドのAT感覚で走るコトになる道も、ZX-25Rにとってはツインリンクもてぎを走るようなもの。加速、シフトアップ、全開、そして減速とシフトダウン、体を入れ替え、旋回……。時間をストレッチしたような感覚。ライディングでの楽しさは絶対速度ではなく、ワインディングでどれだけ満足のゆくマシンのコンタクトをしたかだ。KQSが奏でるダウンシフトのブリッパーなど惚れ惚れするし、だからこそもう一つ、また一つ、とシフトしたくなる。
またもや二人の世界に没頭できる時間だ。こう考えてはどうだろう。ZX-25Rは、新たにあなたの趣味の部屋を増築するようなもの。少なくとも走っている間、誰にも邪魔されずその世界を楽しめる。バイクと趣味に空間がついて100万円でオツリが来る。しかも唯一無二の存在。考えようによっては安いもの。4気筒も250㏄であらためて味わうとここまで昂ぶるのか。あの頃は全開にしてナンボだったが、まじまじと1日を共にしてそんな発見をしたのである。
(試乗・文:松井 勉)
■エンジン種類:水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ ■型式:2BK-ZX250E ■総排気量(ボア× ストローク):249cm3(50.0× 31.8mm) ■最高出力:33 kw(45 PS)/15,500rpm ■最大トルク:21N・m(2.1 kgf・m)/13,000 rpm ■変速機:6段リターン ■全長× 全幅× 全高:1,980 × 750 × 1,110mm ■軸距離:1,380mm ■シート高:785mm ■タイヤ(前・後):110/70-17M/C 54H・150/60-17M/C 66H ■燃料タンク容量:15L ■車両重量:183kg[SE 184kg] ■車体色:ライムグリーン×エボニー、メタリックマットグラフェンスチールグレー×メタリックスパークブラック、メタリックスパークブラック ■メーカー希望小売価格(消費税込み):847,000円~
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