MotoGP期に初登場したMotoGPマシンの匂い
CBR600RRが発売されたのは2003年。センターアップマフラー、ユニットプロリンクサスペンションという、ホンダMotoGPマシン・RC211V(当時)直系のキーワードを持つ4気筒600ccスーパースポーツということで、一躍人気になったモデルだ――けど、あれから20年かぁ! すごい、時の流れは早いなぁ!
ホンダは、早くから600ccスポーツの良さをアピールしていて、この600RR以前にも、フルカバードスタイルのCBR600F、その後継のインジェクションモデルCBR600F4iと、ヨーロッパで評価されてはいても、日本市場には今ひとつ根づかない「ビッグバイクのパワーとミドルクラスのサイズ」という600ccモデルを、スポーツバイクのひとつの理想としてプッシュ。初代CBR900RRもそうでしたね、小さく軽くて力があるバイクは、いつの時代も理想のスポーツバイクなのです。
あれから20年。ヤマハもスズキもカワサキも市販600ccスポーツの市販をほぼ止めてしまったけれど、ホンダは継続。これももちろん、600ccを理想のスポーツバイクと考えているから。そしてCBRは、継続販売どころか2020年にはモデルチェンジも敢行。その現行モデルも、最新MotoGPのトレンドのひとつであるウィングレットを標準装備し、CBR600RR=最新スーパースポーツというイメージづくりも継続しているんですね。
その最新CBRは、クラス最高のスポーツ性能をさらに熟成する方向のモデルチェンジ。エンジン内部パーツ変更によるエンジンの高回転高出力化と、電子制御メカをアップデート。ボディデザインの一部変更と、空力特性の向上も目指している。ウィングレット装備は、その空力特性の最新技術ですね。
そのCBR、ホンダの狙い通り、理想のスポーツバイクとしてたくさんのファンに支持されてきました。実際、歴代CBRにはどのモデルにも何度となく乗って来ましたが、パッと乗ってすぐに体に馴染む、一貫してそんなモデルです。現行のウィングレット付きも初めて乗ったけれど、馴染みやすさは相変わらず。その意味では、ビギナーにはこの高性能を発揮させるのはちょっと荷が重いにしろ、どんなキャリアの誰が乗っても上手く乗れる。それがCBR600RRというバイクなんです。
現行モデルの変更点は、まずエンジンのリファイン。カム、バルブスプリング、クランクシャフトの材質を変更して高回転対応とすることで、最高出力発生回転を500rpm上げて約1.5psアップ。ただし、この出力特性の変更やパワーアップに関しては、サーキットで限界走行をしない限りわからないはず。500回転あがった、1PS増えたなんて、選手権のライダーが感じ取ることです。
それよりも、街中で使う回転数から扱いやすいトルクの方が印象的。そうだ、CBRはスーパースポーツとはいえ、街中で優しいバイクでもあるんです。それが幅広い層からの人気につながっているんですね。
タコメーターのバーグラフがいちばん左端にあるようなアイドリングすぐ上の回転域からでも、車体を押し出すトルクが心強い。低くセットされたクリップオンハンドルによる戦闘的なポジションじゃなければ、実にフレンドリーなストリートバイクなんでしょう、きっと。
エンジンは、そのまま「ド」がつくほどフラットにトルクが立ち上がって行って、街中を走るならば3000~4000rpmも回していれば充分。ちなみに6速4300rpmでスピードは80km/hに達するので、街中を流すならばヴォー、ヴォー、と3000rpm付近を多用することになります。もちろん、それでも良く言うことを聞く、思い通りに動くバイクです。
その従順なCBRがもうひとつの顔を見せるのが7000rpmあたりから。明らかにトルクが盛り上がってきて、スピードの乗りも二次曲線的になって、そろそろ目が追い付かなくなってきてしまうレベル。この加速が14000rpmまで続くんですが、この回転域を味わいたいならサーキットへ、ってことですよね。公道で制限速度内にこの回転域を味わうのは不可能です。ものすごい力が出てくるところの、ほんの一端を垣間見るというか、そんなレベルですね。
現行モデルからは、この恐るべきパワーをライディングモードで制御することができるようになりました。P=パワーセレクター(=ライディングモード)は5段階で、MODE1/2/3と3つのプリセット値と、2つのマニュアル設定値が選択でき、MODE1が「速く走る」、MODE2が「楽しく走る」、そしてMODE3が「安心して走る」イメージだとホンダが説明しています。
僕ももちろん、最初はMODE1で走ってみて、うはぁぁ……と手に負えない感を持ち始めてMODE2、MODE3を試してみましたが、1~3速にパワー制御がかかるMODE3だとちょっとモヤッとしたので、MODE2がいちばんしっくりきました。もちろん、ここから上級者になったり、サーキットでスポーツ走行をするようなときは、マニュアル設定モードにして、セレクタブルトルクコントロール(=一般的にはトラクションコントロール)、ウィリー挙動緩和(=同:アンチウィリー)、セレクタブルエンジンブレーキを設定して行けばいいんです。ただし、今回試乗したワインディングのようなルートでは、MODE2がいちばん具合がよく、MODE1やMODE3との違いもハッキリわかりました。
そしてCBRの美点は、このエンジン特性だけでなく、むしろ誰でも不安なく乗れるハンドリングです。街乗りのスピード域では、ひとつ前の型よりもややしっとりした印象も感じましたが、こういったモデルは先代モデルとの違いよりもファーストライドのつもりで説明、紹介した方がいいと思うので、モデルの全体的なイメージよりもずっとスタビリティがあって、クイックすぎない、という説明がいいかな。
けれど、これがスポーツランなスピード域になってくると、ぐっと軽快性が増してきます。たとえば、同じコーナーでもダラーッと流すときと、しっかりスピードを上げて、ブレーキングしてサスを縮めてタイヤをツブしてあげて、という手順を踏むと、ぐんぐん曲がってくる。特に分かりやすいのが切り返しのシーンで、のんびりスピード域ではしっかりタイヤがグリップしてバンク→直立→バンクという一連の動きが分かりやすいのに、スポーツランをすると、これが1モーションで済んじゃうような、そんな感覚です。
注目のウィングレットですが、これは走行風をダウンフォースに変えて、特にフロントタイヤを路面に押し付ける効果があるんですが、これは同じ個体でウィングレットの有無の状態を乗り比べてみないと分からないレベルだと考えます。確かに、そう言われてみればそうかな、とも思うし、これはサーキットランをすると、もっとハッキリするのかもしれませんね。
とはいえ、実は高速道路をクルージングするようなシチュエーションだと、このウィングレットの効果(だと思えるような)手応えがあって、それは80km/hくらい以上で走っていると、たしかにフロントがスーッと押し付けられているような気がするんです。これは、ワインディングのコーナー進入時よりも、もう少しハッキリ「効果あり」と言えるくらいの感覚。これは、割と多くのライダーに感じられる効果だと思います。
MotoGP直結の最新レーシングテクノロジーを持ちながら、街乗りを苦もなくこなすし、むしろ思い通りに動かせるスポーツバイク。そして、こういうバイクを持っているなら、たまにはサーキットを走ってみたいな、と思わせることが、このカテゴリーのスーパースポーツモデルの役割や存在意義だと思うんです。
もちろん、全日本ロードレース選手権のST600クラスや、世界選手権スーパースポーツ600での戦闘力も上げなきゃいけないから、そこもきちんと追及しておいて、そのうえで高回転高出力ばっかり狙って普通のライダーが乗りづらくなっちゃう、ってことも、数々の電子制御技術でクリア。数少ない問題は、ABS付きグランプリレッドカラーと先代モデルのトリコロールのロスホワイトカラーで比較した時、30万円も価格が上昇してしまったことくらいでしょうか。うーむ、なかなかスゴいプライシング。600ccスーパースポーツとなると、もう160万円しちゃうんですねぇ……。
いろんな意味で、まさにCBRは600ccスーパースポーツのリーディングモデル。こういうスーパースポーツって、今どうなってるの?と聞かれたら、見た目ほど激しくないですよ、それでも性能をフルに発揮させるのは手強いし、そんな領域まで扱えるようになったらすんごい楽しいバイクですよ、って答えますね、うん。
(試乗・文:中村浩史)
■エンジン種類:水冷4ストローク直列4気筒DOHC4バルブ ■総排気量:599cm3 ■ボア×ストローク:67.0×42.5mm ■圧縮比:12.2 ■最高出力:89kW(121PS)/14,000rpm ■最大トルク:64N・m(6.5kgf・m)/11,500rpm ■ 全長×全幅×全高:2,030×685×1,140mm ■軸距離:1,375mm ■シート高:820mm ■車両重量:194kg ■燃料タンク容量:18L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤ( 前・後):120/70ZR17M/C・180/55ZR17M/C ■ブレーキ(前・後):油圧式ダブルディスク・油圧式ディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:グランプリレッド ■メーカー希望小売価格(消費税込み):1,606,000円
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