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レース・イベント

●文・写真:楠堂亜希

 BSB(ブリティッシュスーパーバイク選手権)といえば、2003年に加賀山就臣が日本人初参戦、現在、オートレースで活躍している渡辺篤、そして清成龍一が3度のチャンピオンに輝いたことで話題となりました。近年では鈴鹿8耐に参戦するBSBライダーも増え、一昨年の8耐で優勝したカワサキのレオン・ハスラム選手も2018年のBSBチャンピオンです。

 全日本ロードレースにさほど馴染みのない方に、チャンピオンや往年の選手以外を説明するのは難しいのですが、この機会に水野涼という若手ライダーのことをちょこっと。2019年の鈴鹿8耐、チームハルクプロが予選でタイヤマーキングのレギュレーション違反を指摘され、90秒遅れのスタートペナルティが課されたのを覚えている方なら頭の片隅に記憶があるかもしれません。

2019年8耐
右がBSB参戦のきっかけを作ってくれたチャビ・フォレ。左はおなじみのドミニク・エガーター。
2019年8耐
90秒待たされている間「ちょっとオマケしてよ」とか冗談トークが飛び交っていたそう。

 ルマン式スタートで皆が過ぎ去った90秒後、待機していたピットエンドからスタートし、たったひとりホームストレートを駆け抜けたライダー。あの時のことを水野は、自分だけがグランドスタンドから拍手を受け「気持ちよかった~!」と言う天真爛漫な22歳です。チームはビリからの57台抜き7位。この時チームメイトでBSB選手のチャビ・フォレ選手が、水野の熱意を汲んで橋渡しをしてくれ、BSB参戦につながりました。

2019年8耐
チームペナルティを受け90秒遅れのスタートとなった2019年の8耐。「声援が気持ちよかった」。





 アジアタレントカップを経て16歳で全日本デビューし、J-GP3、J-GP2クラスとタイトルを獲得して最高峰のJSBクラス2年目。2019年の鈴鹿8耐後に開催された全日本もてぎラウンドでは、JSBクラス初表彰台を獲得し才能を開花させました。

2015年
2015年
2015年シーズン。GPへの登竜門アジアタレントカップを1年で辞め、全日本でJ-GP3タイトル獲得。

2017年
2017年
2017年には高橋巧と一緒にチャンピオン獲得。ハルクプロ全盛期。

 その2019年の鈴鹿8耐で、チャビ選手とUK監督のハビエルが来日、ウィークの食事中にBSBに誘われます。普段からBSBチャンピオンの清成龍一選手とトレーニングをしている水野、BSBの話はよくきいていたので運がイイめぐりあわせでした。すぐに現地に見学にいったところ、レースのレベルの高さやライダーのスター性、選手権の盛り上がりに大きな衝撃を受け、「ここで走りたい!」と帰国後にホンダに直訴。話はとんとん拍子に進み、2020年には参戦できる体制だったのですが、2020年はHRCライダーとして全日本のJSBクラスに参戦し、タイトルを獲るという計画が進められており、HRCで全日本タイトルを獲ってからのBSB参戦として先送りしたところ・・・なんと、そのシーズンの終わりにHRCが全日本から撤退してしまうという大番狂わせ。

JSB1000
JSB初表彰台は先輩の高橋巧と。のちに2人同時にBSB参戦になるとはこの時は全く想像していなかった!
JSB1000
2019年もてぎ、チャンピオン中須賀と肩を並べるまでに成長。

 2020年はコロナ禍での全4戦の全日本となりましたが、新型CBR1000RRRを前に水野は苦戦していました。2度の転倒ノーポイントもあり、第5戦では炎上によりメインのマシンが消失、急遽準備されたスペアのマシンはトップレベルで戦うには十分とは言えず、不完全燃焼のままランキング4位でシーズンを終えますが、既に2021年に向けての準備は進めていたようです。

2020年SUGO
2020年SUGO、野佐根との勝負の一戦。

 最終戦の全日本、これがひと区切りだと思って前向きな気持ちで取り組んだ水野。結果は出なかったけど「自分のなかでは第1章が終わったという気持ちだった」「やっと自分のやりたかった、目指したいものが見つかってそれに進んでいける嬉しさのほうが大きかった」そして「普段から仲のいい野佐根選手や濱原選手と一緒にレースするのも最後」と、レース後に手をつないだり余韻を楽しみ、最後にみんなで撮った写真はとてもハレバレとしていました。先にSBK参戦を発表した野佐根と喜びを分かち合い、濱原選手は、ちょっと泣いているように見えました。

「カテゴリーは違うけど、同じレースを戦う仲間として高めあえる仲、これからも仲良くしていきたい」

2020年最終戦後思い出の一枚
2020最終戦。たくさんの想いの詰まったいつも仲間との思い出の1枚。

 明けの2021年、BSB参戦が発表されました。
 HondaUKでの参戦は、マシンはUKオリジナルで開発が進められています。BSBはECUが共通であり、ウィリーやトラクションコントロールなどの制御関係がないので、バイクの挙動が大きくライダーの腕によるコントロールが大きくものをいうレースになります。制御がない1000ccでの走行は初めてという水野、各地のテストを重ね「ここで制御のないものに乗ることによってこの先のSBKのベースになる」と考えています。

2020年

2020年
2020年
1000ccを駆るようになり、色々と考えることが増えた。

 4月に渡英して、5月からは各地でテストが続きいよいよ開幕。本人も懸念していた「英語」については、喋れないことを恥じずに主張していく方法でなんとかコミニケーションができている模様。楽しそうな様子は、チームメイトのSNSからも伝わってきます。
「海外に出た22歳の日本人を面白く見せて興味を持ってもらいたいです」
「今年はともかく、インパクトを残していこうと思います」

 水野のゼッケンは88番、本人は大きな意味はないと言っていますが、全日本参戦の初年度がゼッケン88。74daijiroでレースを始めた頃ランキング8位の翌年にチャンピオン獲得したり、思い起こせば8に縁がないとも言えず、また左右対称のバランスも気に入っているとのこと。水野涼第2章のスタートとしていい番号のチョイスではないでしょうか

 現在、BSBは日本からの公式な観戦方法はありませんが、わずかなネット情報をたよりに活躍を見守ろうと思います。

水野






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2021/06/23掲載