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試乗・解説

どうやって走っているのかを わかりやすく「見える化」 ヤマハの“YRFS(ヤマハ・ライディング・フィードバック・システム)”を体験。
ビギナーやリターンライダーなど運転になれない人は、どこで加速して、どこでどう減速して、どうコーナリングするかを迷ってしまう。そういったライダーに向けてヤマハが展開しているYRA(ヤマハ・ライディング・アカデミー)「大人のバイクレッスン」に、データに基づいた走りの可視化によってアドバイスできる新しいシステムが導入された。
■レポート:濱矢文夫 ■写真協力:YAMAHA ■協力:YAMAHAhttps://www.yamaha-motor.co.jp/mc/






 ヤマハは2015年からYRA(ヤマハ・ライディング・アカデミー)「大人のバイクレッスン」という、二輪免許を取得したばかりのビギナーや、免許は持っているけれど乗らない時間が長かったリターンライダーなどを対象にした運転の基本とスキルアップを目指したレッスンを各所で展開している。年々受講者は増えており、会場によっては申込みが多く10倍をこえる倍率になることも珍しくないそうだ。

 昨年からのコロナ禍で、集団ではなくパーソナルで密にならない移動手段としてのバイクが見直されてきている。その一方、外出自粛などで2020年は2019年より全国の交通事故死亡者数が2割近く減少し、統計が残る1948年以来最少となった中で、二輪車の死亡事故が目立ってきている。東京都では自動二輪、原付をあわせて40人が死亡し、これは前年比3.1%増と4年ぶりの増加となった。

 ヤマハとしては安全で楽しい豊かなバイクライフを末永く続けてもらいたいとの願いがある。バイクメーカーとして一方的に商品を提供するだけではなく、一歩踏み込んで、買っていただくユーザーをサポートし、販売促進はもとより、社会的、文化的にも貢献することでバイクと共存できる環境を作ることにつながる。そこで、好評のYRA「大人のバイクレッスン」の内容をより良く、参加者に分かり伝えやすくする新たなシステムを導入した。

 YRFS(ヤマハ・ライディング・フィードバック・システム)と名付けられた新システムは、GPSロガーを車体に装着し、その位置情報を使って参加者の加速や減速、コーナリングといった走りを目に見えるようにする。具体的にどういうものなのか、どういうメリットがあるのかを知るために千葉県野田市の清水公園の広い駐車場でおこなわれたマスコミ向け体験会に参加してきた。
 

使う車両は、コンパクトな車体で扱いやすいトリッカー。
専用ではなく市販されている汎用GPSロガーを使う。セットはハンドルのこの位置。

 
 トリッカーに取り付けられたGPSユニットは専用に作られたものではなく、英国Racelogic社が発売しているVBOXsportという汎用品。Gセンサーなどはなく単純にGPS機能だけのもの。素人目には、最近の高性能モデルに使われている、縦方向に回る動きのピッチ、横方向に倒れる動きのロール、水平方向に回る動きのヨーといった3次元の車体の動き、エンジンの状態、スロットルの動き、前後輪の回転差など精密にセンサリングするIMU(イナーシャル・メジャーメント・ユニット)なども使って、もっと細かいデータを集めそれを活用した方がいいのでは、と思ってしまう。

 疑問を、その場でインストラクターやシステムの開発者に投げかけたら、そこまでの情報は必要がないとのこと。これは速さや効率のためではなく運転に自信のないライダー向けのレッスン。準天頂軌道衛星を使い、GPSを補い、より高精度な測位ができる“みちびき”にも対応していないこのGPSロガーで得られる位置情報だけで十分で、逆に細かい情報で詳しくなると、これからバイク経験を深めていこうとする人には情報が過多になってしまい混乱する可能性があるそうだ。専用ではなく汎用のこの機器なら導入コストをおさえられ、バイクへの設置も簡単だ。
 

ひょうたん型をしたコースを走りの意識を変えて2周し、その違いがグラフィック化されたデータに出てくる。
走る前にGPSロガーのスイッチをオン。

 
 そして実際に走行してみた。1回目は自由に走り、2回目は同じコースを丁寧な走りを意識して操縦。マスコミ向け体験会の私達は連続して走ったけれど、実際の一般向けレッスンでは最初の慣熟走行が終わってから1度目の周回をして、レッスンをやり、その終わり頃に2回目を走る。その違いから感覚的ではなく、GPSデータによるグラフィック化された客観的な走りの分析で上手くなった具合を知ることができるというわけ。それだけでなく走行中の動画も撮影。そこからキャプチャーされたコーナリング中の画像からライディング姿勢などをチェックし、それも合わせたより効果的なアドバイスをする。
 

走行中の動画を撮影。そこからキャプチャーした画像から旋回時のリーンやライディングフォームなどのアドバイスも加える。

 
 走行を終えて気になるその違いをチェック。我々はすぐにデータを見られたが、本来、このデータシートはレッスンが終わり約2週間後に、アップローダーに上げられた写真のお知らせと一緒にPDFデータとして参加者へメールで送られる。レッスン中にこのデータを使ってあれこれアドバイスをするものではない。運転に自信のない経験が浅いライダーにとって、あれもこれもと教えることが増えると混乱してしまうから、これはレッスンカリキュラムをこなして、その成果を確認するものとして使う。上達したことを感覚だけにとどまらず、視覚化されたデータによっても実感できる。当然、すべてが上手くいくわけでなく、まだまだなところが残るけれど、データシートにはインストラクターからのそれについてのアドバイスが入るから、運転向上の目標をつかみやすい。
 

走行後にモニターで可視化された自分の走りをチェック。YRAインストラクターの南雲修一さんの説明を受ける。
これが筆者濱矢のデータ。違いがあまりわかからないかもしれないが、実は走りの違いが「見える化」されているのだ。

 
 違いがわかりやすいように1回目をもっとわざと乱暴に走ればよかっと後悔。それでもここから伝わることは多い。「加速/減速」と書かれた上の段を見てほしい。赤いところが減速で、青いところが加速。色が濃いほどそれぞれの度合いが強いことを表す。右隣にあるインストラクターの走りには濃い青と赤が出て減速、加速する場所が的確でメリハリがある。一方私は借りてきた猫のように波風立てずに走ったことが分かる。実際、1回目はほとんどブレーキを使わず、スロットルを閉じてのエンジンブレーキだけで速度調整をした。赤い色の濃さで、エンジンブレーキかブレーキを使った減速かが出てくる。インストラクターほどではないけれど、丁寧に走ることに気を配った2回目は、赤と青の領域が別れており、スロットルを閉じて、開けてという私なりのメリハリをつけている。

 運転に不慣れな人ほど、コーナリングしている途中で急な赤色(ブレーキを使っての減速)が出たり、薄くなったり濃くなったりするのが一定でなくなる。2段目はコーナリングの遠心力を車速から示したもの。濃い青は遠心力が高まっている部分。単純なオーバルではなくひょうたん型だから、くびれた部分も車体を倒して(リーンして)遠心力が高まっている。1回目と2回目にほとんど差がないのが残念だが、旋回中の青の濃さが一定だから速度を保ってしっかりリーンさせて曲がったことが知れる。これは曲がりと速度によって導き出された遠心力となり、リーンさせるのが怖くてコーナリング中に起こしたりすると速度に差がうまれ薄い青と濃い青が断続的に出てくる。

●YRAインストラクターの南雲修一さんのコメント。
「ブレーキしていない範疇でエンジンブレーキで減速しているのが出ています。ところどころ旋回中にブレーキを使っているのがこうやってちょんちょんと出ますね。加速のところも激しくせずにやっていたので薄い青ですね。旋回のところ、全体的にきれいなブルーが出ているので、車速が速かろうが遅かろうが、速度が高くなくてもしっかりリーニングされていてきれいなブルーです。そうならないと薄くなったり濃くなったり、一定にならず色ムラが出るんです。ビギナーの方の場合は、減速の赤をずーっと引きずったりとか、加速が旋回初期からはじまっているとか、旋回中もムラになるんです。自分がちゃんとリーニングできていなくて、置いてあるパイロン見てスロットルを開け閉めして速度調節をしてしまい、そこで加減速が出たりするんです」

 動画からキャプチャーされた写真を使ったコーナリング姿勢では、車両の傾き(リーン)、車両が傾いても頭はできるだけ路面に対して垂直にして、視線はコーナーの出口を見るようになどチェックされる。先ほど乗って、どう運転したか覚えている走りが見事に見えているからおもしろい。これはとても有意義だ。理解しやすく、よりスキルアップにつながりやすいシステムである。(レポート:濱矢文夫)
 
※2021年 YRFS導入のYRA「大人のバイクレッスン」のスケジュールと場所は
YRAのWEBサイトから確認

2021/06/02掲載